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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

南国気味

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「トロピカルサンシャイン」と男は言った。


冷え冷えとした空間に無理やり南国っぽさを醸し出そうという意図があったのか、確かにその時、『古城=ミハエル=エラベンワ』というネームプレートを胸に付けた男性は僕の方に振り向いてに笑顔でそう言ったのははっきり覚えている。暖房が故障しているらしい市の会議室で、とある『説明会』の為に数名がまばらに座って待機していている中で、この部屋に2番目に到着したらしい僕が特に理由はないがその男の後ろの列に座っただけだが、5人目が現れたあたりでの唐突な発言だった。


「あ、なにか?」


笑顔に気圧されて、なんとなくこちらも愛想笑いを浮かべるように辛うじて訊き返したのが、彼はその後何事もなかったかのように顔を正面に向け直した。こちらに向いていた時に思わずネームプレートをガン見してしまったのだが、無意識に色々と想像を巡らせていた。


「あ…」


知り合いでもないのでそこから「スルー」という方針を決め、ポケットの中のタブレットのケースから一粒取り出して口に含む。ミントの爽快な風味が口いっぱいに広がり、基本的には先ほどの事はどうでもよくなってしまった。そもそもどういう場合にどういう対応が『正解』なのかは分からないけれど、とにかく部屋の寒さが思考を奪っていってさっきのも何かのバグだと思ってやり過ごすことにしたのである。



だが『バグ』のような展開はここからが凄かった。そもそも説明会の趣旨が「〇〇地区開発計画促進戦略」を希望する住民に説明するというもので、個人的に前々からアナウンスされてきた「開発計画」の詳細を知れる機会だと思っていたのだが、そもそもこの会場の雰囲気からして重要性があまりなさそうというのが予感されてはいた。開始が平日の昼の3時からというのも嫌な予感を漂わせていたが、3時を既に過ぎたというのに一考に担当の人が現れる様子がない。


「おっかしいな…」


時計を何度も確認して3時10分になった辺りで敢えて声を出して周囲に同意を得ようとしたものの、奇妙なのが僕のその言葉に対しても他の人が反応している感じはなく、各々はただ時が過ぎるのを待っているだけという状態だった。例の『エラベンワ』もそうである。というか、あの瞬間以降一切の挙動が無いように背もたれにぴっちりと背中を付けて不動の姿勢で待ち構えているという様子。


<なんか、やばそう…>


気味が悪いので部屋を退出しようかと思った時を狙ったかのように扉が開いた音がして、誰かが慌ただしそうな様子でつかつかと部屋の中央を突っ切てきた。


「あー、お待たせしました。申し訳ありません」


おそらく担当の人なのだろう、そこからはもの凄い早口で『説明』が始まった。自分よりも若そうな男の人である。


「要するにですね、」


とんでもないことだと思うのだが、彼は「要するに」から説明を始めたのである。面食らいつつも何とか銘記していた『説明』はこのようなものであった。


「要するにですね、この戦略の肝はメディアを取り込むことなのです。…いや正確に言えば住民の生の声が『メディア』に取り上げられた、という既成事実を作ってしまって、それを議会の方に私から議題として取り上げてもらうという一連の流れなのです。ただし私からそれを直接『やれ』とは言いません。というわけなのです。以上」


後で調べると担当者は若手の議員さんだそうである。もしかして彼は証拠に残るような事を避けたかったのかも知れない、その後5ページほどに渡って入念に図式と抽象的な文句を並べた『資料』を配布され、それでお開きとなった。察しのいい人ならそれで十分と言えるのかも知れないけれど、ここに集まった5、6名の参加者の中にこの『ソースロンダリング』の指示を忠実に実行する人がいるのかどうかは甚だ疑問だった。



疑問だったのだが数日後、僕は某SNSで万が一という事もあるからという理由で『古城=ミハエル=エラベンワ』という名前を検索してみた。もちろんあの男性が実名でSNSをやっているとは思っていなかったが僕の脳裏にあの単語が浮かんだのである。



『トロピカルサンシャイン』


ご丁寧に幾つかのヒットの中にこの発言をしているアカウントの一つの最新の発言が



『〇〇地区は不便だから開発して欲しいです』



という取って付けたようなもので、それに対する『いいね』が3つほどついているのが確認できた。色々な事に対して白け始めていた僕だったが、何を思ったのかそのアカウントの主に対してこんなリプライを送っていた。


『トロピカルサンシャインって何なんですか?』


それに対して、数日後に返ってきた返事がこれである。


『わかりません』

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金物細工師的な

Posted by なんとかさん on   0  0

「バンデンラ・ゴジジウくん」


「何ですか、師匠」


「何でもない」


「そうですか」


アンチオリエンタルアートの急先鋒であるバンデンラ・ゴジジウの師匠こと、木谷武志は時々こうやってバンデンラ・ゴジジウの気を逸らすように様子を見に来つつ話しかける。殆どの場合は、マイペースに過ごしている飼い猫に意味もなく構うような感じで大した理由はないのだが、どうやら今師匠は数日前にバンデンラの製作した奇抜なアートが好事家に売れたらしいという噂を知ってその詳細を知りたがっているらしい。


「師匠」


「なんだね、バンデンラくん」


「いえ…なんでもありません」



『オリエンタルアート批判』なる論文を学会に出されて以降、微妙に師匠との折り合いに苦戦しているバンデンラだが、彼も彼でやけくそ気味に製作した作品がそこそこの値で売れたのを報告した方がいいよなと思いながら木谷に話しかけようとしていた。だが、今回のはよりによって彼の信条を曲げて脱オリエンタルアートのコンセプトで作ったものが評価されてしまったので師匠にマウントを取られそうだなと思ってしまって及び腰になっていた。



ところがどっこい、そもそも『オリエンタルアート批判』の論旨はオリエンタルアートの内容というよりはオリエンタルアートの概念自体に対する批判で、バンデンラ・ゴジジウが掲げたオリエンタルアートというコンセプト自体がはなはだ曖昧で空疎な観を呈しているという事態を憂慮したものなのだが、当のバンデンラ・ゴジジウが脱オリエンタルアートと宣言したものが殊の外評価されてしまったので否定神学のようにオリエンタルアートを否定して出来たものは一体全体何なのだという話になっている。勿論、それを知っているのはごく内輪に限られ、師匠ですら全てを見通せているわけではないという事がこの話をややこしくさせている。


「バンデンラくん」


「何ですか、師匠」


「今何を作ってるのかな?」


「今は…蝉の抜け殻のレプリカを製作中です。4つできたので、あと11個同じものを作らなきゃいけないんです」


「そうか」



木谷はバンデンラ・ゴジジウのセンスが常人とは違うと前々から思っている。だが常人と違うからといって、それが即アートになるのかというとそうではないと思っている…というか信じたい気持ちなのだ。だが、木谷にとっても世の中のアートの評価は摩訶不思議で実際それを論ずるのも野暮なのではないかと思ってしまう事もある。バンデンラのよく分からない作品が偶に売れて、それなりに取り上げられるという現状は何を意味するのだろうか、師匠は最近そんな事ばかり考えている。



そんな時、木谷の助手である『リリカル・杏子』がバンデンラのアトリエに現れる。


「おお、杏子くん。どうした?」


「はい。木谷さんにお客様がお見えになっています。それとバンデンラくんにこの封筒が届いています」


「ああ、ありがとうございます。なんだべ?」


「じゃあ私は失礼するよ」


木谷が出てゆくとそのまま部屋に残った杏子がバンデンラの作品を興味深そうに見ている。実は、彼女こそ今起こっている全てを見通せている唯一の人物でありバンデンラと木谷の微妙な関係性も、世間での評価も含めて悩まされている人なのである。


「『吉岡』くん」


杏子は二人きりの時にバンデンラの事を吉岡くんと呼ぶことにしている。別に好意があるからとかそういう理由ではなく面倒臭いからであった。


「なんでしょうか、杏子さん」


「ううん、なんでもない」


「そうですか」


バンデンラはその時封筒の中身を確認して静かに衝撃を受けていた。なんとそれはこの間脱オリエンタルアートの作品を購入した人物からの手紙で、内容を一言で言えば作品の『依頼』であった。


「…杏子さん、この手紙、『依頼』でした」


「へえ、よかったじゃない」


「まあ、そうなんですけど。困ったなぁ…」


「不安なの?」


杏子としては色々思うところはあるが喜ばしい事だと思っていたので、バンデンラの反応を意外だと感じていた。だが彼はこう言った。


「また完成が遅れちゃうよ…」


「…?」


バンデンラは机の上で製作している蝉の抜け殻のレプリカを指さした。


「これ、今月の間に完成させる予定だったのに、レプリカを造るのに時間が掛かっちゃって。前売れた作品は、これがあんまりにも時間が掛かって疲れてきたから一回厭になって作ったやつだったんだよね…」


それを聞いて絶句しかけた杏子だったが辛うじて、


「…そうなの」


と言う事ができた。オリエンタルアートにとってその蝉の抜け殻は避けて通れないという話を以前に聞いていたのだが季節はそろそろ夏に近付いていて、


『その抜け殻が全て完成する頃には本物の抜け殻が手に入るのかも知れないね』


とは流石の杏子も言えないのであった。

めらねったー(後編)

Posted by なんとかさん on   0  0

「来てしまったな」

「そうだな」


『未来創造社』なる会社の噂を真に受け、友人とわざわざ候補地に遠征してきてしまった事に感心気味に頷き合っていた某駅前。そもそも「切れ者」の友人が有力な候補地を発見したのは会社に勤めていた蓋然性が高いアカウント主「とりにとろ@駅前」の名前からの推測だった。ここで友人との新幹線の中でのやり取りを再現する。


「『駅前』っていうキーワードがあるからさ、過去の投稿で駅について述べられているものをピックアップしてみたんだ。」


「ほうほう」


友人はそこで得意げにこちらに顔を向けてこう言った。


「そしたら〇〇県の△△駅という駅がどうやらその人物が住んでいた場所に近いらしかったんだ。これ」


と言って僕にその投稿内容を見せてくれる。確かに特定はし難いものの駅が映り込んだ画像があり、今回向かっている〇〇県内の駅に絞り込めば周辺の建物の配置から駅を特定できる可能性は高い。実際友人は…ちょうどこれと言って話題がなくて暇だったらしいので、仕事が終わってからストリートビューなどを駆使して特定したらしい。


「凄いな…。というか敵に回したくないよ…」


その時思わず漏れてしまった本音に友人は苦笑していた。まあSNSをやる上で特定に至る可能性のある情報はセーブするのが基本だけれど、この人物の場合別に会社の事を伏せなければならない理由もなかったろうし、自分の投稿がこういう事に利用されているとは思いもしなかっただろう。凄く現代的な展開だなと感心しつつ、再びやって来てしまった某地方都市の様子をとりあえず観光気分で眺める。すると友人が少し遠くを話を眺めつつ切り出す。



「前に昼食を摂ったお店(『加茂屋』という)とこの駅が収まるような半径で適当に円を描いてみたらさ、隣駅寄りなんだけどそれらしいビルがあったんだ。多分営業所、事務所なんだろうけど未来創造社、思いのほか小さい会社だよ」



「そうだったのか。確かに加茂屋は隣駅だからな。頷ける」



「隣駅でも良かったんだが、まずはここに降りて駅前の様子を見て画像と見比べたかったんだ。確かにこの駅で間違いない」


「そうだよね。あそこにカラオケ店があって、反対側の様子も同じ」


「問題は…」


そこで渋い表情をする友人。どうしたのかと思って続く言葉を待っているとこんな言葉。


「休日だから会社の場合だと休みだろうという事だ」


「あ、そうだよな…考えてなかった」


割とこれは大きな失敗かも知れない。というか、焦り過ぎたのと予定が合わなかったので土日を利用しての旅行にするしかなかったが、事務所なり営業所が空いてなかったら空振り同然だろう。まあ証拠は見つかるが…。


「その場合は場所と連絡先を調べられるかどうかだろうね」


僕はそれでもよかったのだが友人はやや残念そうに、


「そうなんだよ。これもうさん臭さを増幅させている理由なんだけど、証言をしている人がアップロードしている名刺には連絡先が載ってないんだよ。配慮なのかなとも思ったんだが、どうやら元々そういう特殊な名刺らしい…」



と言った。そこは確かに僕も気になっては居たのだが、何だかそうなると敢えて隠すように存在しているんじゃないかという気さえしてきて人情としては余計気になる。好奇心の強い友人は徹底的に調べたいらしいことがこの辺りで伝わってきた。


「まあとにかく行ってみようぜ」


そう言って不案内な場所をスマホのアプリを頼りに歩き出す僕。目安としてはここから2キロほどの所らしい。タクシーを使うかどうか微妙な距離であった。



☆☆☆☆☆☆



秋で風が涼しくなってきたとは言え昼前の日が照り付ける中を歩いていたせいかうっすら汗を掻いてしまった。途中道行く人の様子から、中心街から離れてきたなと感じていたけれど、現場に到着すると普通に建物がありほとんど「特徴がない」場所で呆気に取られてしまった。


「本当にここなのかな…」


対象のビル、その3階がどうやら『未来創造社』に関係する場所らしい。歩いている途中、あの手掛かりからどうやってそれを調べたのか訊いてみたが、


「『キャッシュ』って言って昔はネットで調べ物をしている時に使った方法だけど、要するに新しい情報に更新される前の古い情報が検索エンジンに残っていて『未来創造社』の記述があったページに住所と思われるものを見つけたんだ。しかもさ、それが直接の記述じゃなくて昔この地域で何かのイベントをやった時に協賛か何かの形で協力して、その一覧に住所が載ってたんだ」



「うわ…すごい」



『凄い分かり難い』とそれを見つける『凄い執念』という二重の意味で僕はその言葉を発した。



「ただなぁ…その情報が古いから、仮に移転とかになってると…」



鋭さゆえの憂慮があるらしい友人を励ますように「先ずはビルに入れるかどうかだ。行ってみよう」と僕は率先して動き出す。実は、僕はこの時絶妙に腹が空いてきて、早くこの調査を終わらせたいという気持ちになっていたという事をここに白状する。




それはともかく二人でビルの入り口付近に来た時、どうやら一回はフロントになっているらしく少なくともそこで情報を得られそうだなという事が分かった。なるべく迷惑にならないように静かに窓口に向かい、そこに人が待機していることを確認して訊ねる。



「すみません。こちらに『未来創造社』という会社の営業所、もしくは事務所はあったりしますかね?」


するとそこに居た管理者らしい女性は、


「はい。営業所がございます。ただ本日は休日なので多分誰も来ていないと思いますけど」


と普通に対応してくれる。まあ普通なのは別に不思議でもないんだが、あっさりと見つかってしまったので拍子抜けしてしまった感がある。


「何か御用でしたか?何かの取材とか?」


「えっと仕事の事でではないんですが、会社の事で知りたい事があったので。アポとかは取ってません。というか連絡先も分からなかったので…」


僕達が完全に私服で来ていたのもあるし何か思い至る事があったのかも知れないその女性は、

「そうでしたか。私の方から後日会社の方にお伝え出来る事があれば」


と申し出てくれたがもし普通の会社だった場合全く知らない人物が訊ねてきたと言われても困惑させてしまうだろうなという常識が働いて、そこは遠慮した。ただ友人はそこでしっかりとこう切り出す。


「あのもし可能でしたら未来創造社の連絡先を教えてもらいたいのですが…」


僕はそこで「おおー!」と声を挙げそうになった。いや普通に仕事では連絡先を確認するのは僕でも思い付くけれど興味本位ゆえの及び腰だからだろうか、その時は失念しそうになっていた。


「はい。大丈夫ですよ。少々お待ち下さい」


そう言って一旦奥の方に向かった女性。数分後、何かの紙を持ってきてこちらに手渡してくれた。


「パンフレットです。小さな会社なのであるのはそれだけですが、連絡先もそこにあります」


「うわ。ありがとうございます!助かりました」


これは現状で非常に大きい収穫だった。それにしてもそのパンフレットはこれでもかという位に必要最小限の情報しか載っていない、不親切と言えば不親切な造りだった。ビルを後にして、とりあえず近くで昼食を食べれる場所を探しながら歩こうという事になったが二人でそのパンフレットをまじまじと読んでいるうちに、何だか段々と気が遠くなってくるのを感じた。それには理由があった。


「確かに『在る』って確認して証拠もこれで十分だけど、イマイチ実感が湧かないよな」


それは僕の偽らざる感想だった。もともとオカルトチックなネタとして興味を抱いて、実際に遠出してここまでの労力で手にしたものが「これ」というのも何だか疲労感のある話である。


「だからどうしたのか…って事だよな。俺も同感だ」


友人も目に見えてテンションが下がっている。


「『普通』過ぎる…」


「全くだ」


実際問題、会社名はありがちと言えばありがちだし捻くれた見方が許されるなら、小さい会社が知名度を高めるために、今時の手法でSNSの口コミ作戦を行った可能性だってトコロなのかも、と今まで高揚感を台無しにしそうなそんな気配さえその時はあった。何より勢いで遠出してきたは良いが、特に前から旅行をしようとも思ってないのにここからここで何をすればいいんだという絶望感がやってきそうである。そんな時、


「あ、あそこ。なんか美味しそうじゃね?」


友人が何やらよさそうな店を見つけたらしい。少しネットで評判を調べてみるとそのラーメン店『冥々軒』は某ログで「4.2」という素晴らしい数値。書き込みも、おススメという言葉が並ぶ。それを示すかのように、人通りのあまり多くない場所にあって今も一人の女性が入店したのを見た。



「よし。とりあえずそこで食べて作戦会議だ」



☆☆☆☆☆☆☆


ずずず、ずずず


「まあパンフレットをさ撮影してアップロードすればそれでいいんじゃないか?」


ずずず、ずずず


「現実的にはそうだよな…」


ずずず、ずずず


絶品としか言いようがない和風醤油ラーメンを啜りながら会話を続ける僕ら。正直このラーメンを食べていると他の事がどうでもよくなってきた感がある。ただ…



「そうなのよ。マスター、またね、あの人が『確率』がどうとか言うのよ。そっちの方面はあたしはちんぷんかんぷん。必要なものが必要な人に行きわたればそれで十分なのよ」


「…」


先に入店したおそらく常連の女性(おばさんというか…そういう年齢の人)がせっせとラーメンを作っている店主に話しかけている。マスターの方は無視しているわけでもなく、かと言ってしっかり相手をしているわけでもない。見るからに「押し」の強い女性で、マイペースに誰かについての文句のような話をしている。で、なるべく意識しないように努めていた僕だが、


「ねえ、そう思わない?お兄さん」


と何故か僕に突然話しかけてきたのである。


「へ?」


唖然としているけれど、友人は関わりたくないのか無反応でやり過ごしている。結果的に僕は女性の相手をする羽目に。


「お兄さんも『確率』が大事?算数が大事?そういうのロマンなの?」


「えっと…」


困惑しているのを見かねたのかそこで店主が、


「お客さん困ってるよ、小松さん」


と言ってくれた。女性が『小松』さんであるという事が分かったがそれが何なのだろう、僕はたまらず、


「あの…小松さん。話がよく分からない…というか僕らここら辺の人ではないので、ちょっと…」


と伝えると彼女が突然「はっ」とした表情になって、


「そうだったの!それなら貴方に良いものをあげる。まあ会社の商品なんだけど『手帳』」


と言ったと思ったら何故かおもむろにバッグから何かの『手帳』を取り出して僕にくれた。


「え…?何で僕にくれるんですか?」


「おばさんの相手してくれたお礼と思ってよ。カワイイ猫のキャラクターなの」


小松さんの言う通り手帳はカワイイ猫のキャラクターが表紙に描かれていて、どちらかというとこれは女性向けの商品である。


「えっと…」


「じゃあマスター。ご馳走様!お兄さん達も頑張ってね!!」


そう言って嵐のように去って行った『小松』さん。友人がその時こちらを見てクスクス笑っていたのを僕は見逃さなかった。



☆☆☆☆☆☆☆



『手帳』の事はともかくあの女性も悪い人ではなさそうだし、旅行としてはエピソードができて悪い気分ではなかった。その後はゆっくり観光という事で、あまり予定を立てず行き当たりばったりにはなったが久しぶりに友人と色々会話ができてよかったと思う。夜、あるホテルの浴場で一緒に湯船につかっている時に彼がこんな事を言った。



「メイがお前に会いたがっていたよ。新社会人になって仕事が大変なんだってさ。まあ分かるな。気持ちが折れそうになる時もある」


『メイ』とは友人の3つ年下の妹の事である。僕も自分の妹のように可愛がっていたせいか、他人事ならぬ同情の気持ちがやってくる。そして友人はこう付け加える。


「本当はこの旅行にも連れて行ってやれば良かったのかもなって思ってる。気晴らしとしてね」


「そうだよな。まあ俺だったらいつでも連絡してもらって大丈夫だよ」


「助かる」



頭の切れる友人も流石に妹の事情となると難しいようで、影ながら手伝えることがあればなと思っていたりした。そんなことがあって翌日そこを発って新幹線で移動し、流れで駅から友人宅に向かっていた時の事だ。前を見ていた友人が「あ」と何かを発見した。何かと思ったら友人宅付近に、何か見覚えのある姿が。


「メイ!!」


噂をすれば何とやら。メイちゃんが兄を訪ねてやって来たところに出くわしたらしい。


「あ、お兄ちゃん。よかった!!」


元気よく駆け出してくる。


「あ…仁さんも…!!」


途中で僕の姿を認めて気のせいか嬉しそうにしている。


「久しぶりだね。メイちゃん。あ、そうだ…」


と僕はここで『小松』さんに貰った猫の手帳をメイちゃんにあげようと思いついたのである。


「これ。プレゼント。猫のだよ」


「え…もしかして、私の誕生日覚えてくれてたんですか!?」


「…ん、ああ」


悟られまいと必死に頷いたのだが、もちろん『小松』さんに貰ったものなのでメイちゃんに誕生日の事は完全に忘れていた。咄嗟に友人の方を見た時に凄まじい表情をしているのを見て、完全に空気を読んで「誕生日プレゼント」という事にしてしまったが、それは別に悪いことではないと思う。そこで機転を利かせた友人が、


「お前『猫』がめちゃくちゃ好きだろ。丁度旅行行った時に良いのがあったんだよ」


と間髪入れずにフォローした。この機転の利き方は凄いの一言。というわけで何故か色んな事が功を奏して状況も状況だけに感極まってしまっているメイちゃん。目にはうっすらと涙が浮かんでいるのを僕は見て取った。


「ああ、メイちゃん。実はね面白い話があるから聞いてよ!!」


そして僕達は友人宅で『未来創造社』とか『パンフレット』の件とかを面白おかしく話し合ったのだった。

めらねったー(前編)

Posted by なんとかさん on   0  0

<頼りない言葉だけではダメなんだろうけど、実際…>


SNS上で少し議論になりつつある話題に自分の見識で辛うじて一言言えそうな流れになり、非常にさり気なく独り言の体で一言を添える。


「これでどうなるわけでもないんだろうけどな…」


僕はそういう時、自分のその短文がまるでパズルのピースのように問題に対して効果的に…役割と意味を果たす想像、もしくは妄想をしていたりするけれど、ただでさえ見逃されやすい事象を自分があの時見たかもしれないなんていう頼りなさではそこに何を添えているか分からない。



話はこうである。最近ある界隈では『未来創造社』という謎の会社が割と古臭い形式で様々なお宅を訪問して、怪しげな商品を売ったり配ったりしているらしいとの事。訪問するのは男性か女性らしく、しかもその辺にいそうな『おじさん』と『おばさん』だそうで、印象としては不思議と悪い感じはしないそうである。



で、何が問題というか議論になっているかというと、まずはその【実在性】である。『未来創造社』なんていうネーミング自体は実際発想としては普通…悪く言えば自信があり過ぎるだろという意味で凡庸とも言えるのだけれど、扱っている商品も半分オカルトに足を突っ込んでいるものらしく実際に購入した人などが、


『信じてもらえないかも知れないんですけど、こんな事がありました…』


と自信なさげに書き込むと余計胡散臭く思えてくるという罠があるらしい。ネットで社名を検索してみると、それらしい文字列がヒットするのだけれど規模が小さいのかページを作っていないのか、『在る』という確証が得られない(個人的には)。ある人は渡された名刺を名前にボカシを入れつつ画像にしてアップロードしたりしているが、それだって自作自演も可能である。疑っているわけではないが、やはり確証は得られない。



それが普通の会社だったら『まあよくわかんないや』で終わってしまうところなのだが、非常に魅力的な謎の商品の話を聞いていると実在するなら会ってみたい購入してみたいというリプがある投稿主に寄せられて、少しバズってしまったらしくてそれを「信憑性がないから」という理由で批判的に述べていたりする人も数日前から散見している。



悪名高き『悪魔の証明』で「ないとは言い切れない」が罷り通ると収集がつかなくなって、少し事態が硬直していたところである人から会社と人物に対する「有力な情報」が投稿された事で再び活気づいている。それは過去に『未来創造社』に勤めていたという人物のアカウントが発見されたという事らしい。



アカウント主「とりにとろ@駅前」の紹介文には特に変わったことが述べられているわけではないけれどその人物、男性と思われるその人の意味深な幾つかの発言がそのまま残っている。例えば、


「『未来を創造する会社』って、まあそうなんだけど…地味だよなぁ…」


とか


「訪問販売って今時古くないか?」



などそれらしい発言と、会社に対する愚痴が見つかる。そして『会社辞めてきた』という1年ほど前にされた最後の投稿以降、音沙汰がない。まあアカウントの放置はモチベーションが無くなれば起こり得る事だし、あまり誰ともやり取りしていないようだったので『独り言』用のアカウントだったと思われる。



意味深さに加えて謎解きミステリーの様相を呈してきた話題を僕が発見したのは4日前の事である。最初は完全に暇つぶしで見ていたのが段々とミイラ取りがミイラになったかのように気になりだして、自分で調べられるところまでは調べてみたり頭の切れる友人に手伝ってもらったりしているうちに一つだけ自分の過去の記憶、エピソードで関係のありそうなものを思い出してしまったのである。



それは僕がある地方に旅行に行った時の事だ。何気なく入った定食屋に先客で一人の男性が料理が運ばれてくるのを待っていたのだが、僕がその近くに着席したときに彼の電話が鳴って、


「はい、未来創造社の〇〇です」


と通話し始めたのを聞いたのである。その時は特に気にも留めなかったのだが、現在話題になっている投稿主が居住する場所が偶然にもその地方で、まあ何というか


<そういえばそこに旅行に行ったことあるよな>


と思い出したから、そのエピソードが蘇ってきただけの事だ。ただ、それもこういう状況では一つの情報かも知れないと思い僕はこんな書き出しで投稿した。



『未来創造社って今話題になっているようだけど、〇〇の方に旅行に行った時に…』



数年前の記憶の話だしこれで確証を持てるかどうかは分からないけれど、もしかしたらここから何かが掴めるかも知れない。




…と思って待ち続けたのだが、そこから一日経っても特に展開はなかった。それで僕も『まあ無理かな』と思うようになり諦めて読書でもしようかなと思った時、ダイレクトメッセージに頭の切れる友人の、


『場所を突き止めたかも!』


という通知が来た。そこから何故かもの凄い好奇心が湧いてしまい…というかそこで証拠を掴んで英雄になれるかもという発想があったのかも知れない、僕は友人と再びあの地方に急遽旅行することになったのである。



(続く)

安定C

Posted by なんとかさん on   0  0

ある日の事です。わたしが飼っている猫『バンブー』が何か物音に気付いたのか両耳を開き気味に音がした窓の方に向けているの見た時に、


<珍しくお客さんかな?>


と思いました。その日誰かと約束していたわけではなかったので、誰か来たとしたらさしずめ音信不通気味な愚弟かなと思っていたのです。音信不通というか面倒臭がって極端に連絡をしないだけなのですけれど、忘れたころに突然家に遊びに来たりする困った弟は来たら来たで『バンブー』を存分に愛でて満足すると帰ってしまうちょっと変わり者です。だからこの日も、


<弟がまたアポなしでやって来たかな?>


と自然と想像したのです。けれどドアを開けた人は弟ではありませんでした。少し背の低いセールスマン然とした人で、


「こんにちは。私、未来創造社から参りました角律雄と申します」


と名乗ってわたしに名刺を渡してきたのです。確かに『未来創造社』の『角律雄』とプリントされています。


「はあ」


タイミング的に虚を付かれたようなカタチになってしまったので、どうしたらいいのか分からないでいたのですがそんなわたしの様子をまるで親戚のおじさんのように親しげに見つめて彼はこう言いました。


「今、猫ちゃんがいらっしゃるお宅を探してこの辺りを歩いていたのですが、長年の経験からの勘なのですが、猫ちゃんと一緒に暮らしていたりしませんか?」


「え…?分かるんですか?」


咄嗟に答えてしまいましたが、何故かこの『角さん』はこの家に猫がいると思ったようです。それは事実なのですが『勘』で分かるものなのでしょうか。


「確かにうちには一匹、オスの猫がいます」


『角さん』の雰囲気的なものでしょうか何か悪い人のような感じはしなかったのと、ちょうどリビングからこちらをちらちらと見ている『バンブー』を見つけた角さんが、慣れた様子で優しく少し高めの声で、


「あら~かわいい。こんにちは」


とちょっとおばさんのような口調で『バンブー』に語り掛けているのを見たのと、『角さん』がそのまま彼の自宅で飼っている二匹の猫の話を嬉しそうに始めて、これは猫飼いのわたしの『直感』で「この人はかなりの猫好きだな」と確信しました。



「おっと、すみません。猫の話をしていたいのですけれど、今日はうちの商品を紹介に上がったのです。安心してください、猫グッズですよ!」


猫グッズだから安心するというわけではないのですが、少なくとも用途がはっきりしている物なのでそこで警戒は殆ど解けてしまったかも知れません。そのままわたしにある商品の紹介を始めた『角さん』。


「猫のような動物には第六感があると言われています。最新の研究では『磁覚』、磁石の磁の覚という第六感が人間にもあると証明されたそうですが、人間のそういう能力を増幅して猫の気持ちが分かるようになるんじゃないかというアイディアを商品にしたものがあるのです。自社と研究機関で実験した結果ですが、このデバイスを装着して猫の名前を呼んだ時に猫が返事の「にゃ~」と返してくれる確率が30%ほど上昇したというデータがありました。これがそのパンフレットです」



いきなり理数系の話が始まったかと思いきや、すごく堅苦しそうな商品紹介のパンフレットを手渡されました。彼は『デバイス』と言っていましたが、ケースから取り出したのはごくごく普通のイヤリングに思えます。しかも猫のカタチのイヤリングで、微妙に物欲を刺激してきます。ただ幾ら難しい資料とにらめっこしてもそんな大層な商品には見えず、わたしはこう訊ねずにはいられません。


「本当にそんな効果があるんですか?」



「…と勿論、私もそんなに簡単に信じていただけるとは思っておりません。ただ恥ずかしながら私も実際に使ってみて確かな『効果』があったので猫好きの人に使っていただきたいなと思いまして、今回はですね『モニター』というカタチで提供させていただきたいなと思っているのです。」


「え…?ってことは頂けるのですか?」



「はい。研究機関などで実験された結果を疑うわけではありませんが、私としても色々な方に試していただいて効果があると実感してから正式に販売した方が良いと思っているのです」



なんだか少し不思議な話だけれど一応筋は通っているし、色々なことを差し引くとしてもその猫のカタチのイヤリングというだけでグッズとして欲しいと思っていたのも確かです。わたしは素直に『モニター』になってもいいですよと『角さん』に伝えました。


「ありがとうございます。では一つだけお願いがありまして、そのイヤリングは差し上げるという事ですが一週間後にこのハガキの『使用感』という欄に使用した感想を書いて頂いてこちらに送付していただきたいのです。感想というか使っていただいて何かエピソードがありましたら具体的に書いて欲しいのです」


「大丈夫ですよ。えっと…」


「切手を貼らなくても大丈夫ですので」


「あ…はい」



何故かわたしが切手が必要かどうかを気にしていたことを了解していたらしい『角さん』。それはともかく『角さん』はそのまま帰ってしまって、残されたのはイヤリング。約束した事なので使わないのも変かなと思って、さっそく装着してみる事に。


「バンブー!!」


効果を確かめるために呼び掛けてみます。


「にゃ~」


返事をしました。というかわたしが呼びかければ基本的に『バンブー』はこうやって返事してくれます。


「バンブー!!」


「にゃ~」


機械的に繰り返し呼びかけると答えてくれますが、明らかに段々面倒臭そうになってゆきます。当然と言えば当然です。終いには「もう勘弁してくれ…」とでも言いたそうに尻尾を振る『バンブー』。『角さん』は「確率が上がる」と言っていましたが、正直よく分かりません。



「なんか…わたし」



<騙されたかも>と言いそうになった時です。再び玄関のベルが鳴りました。


「はい。あ…」


「よう」


絶句してしまうわたし。そこに居たのは弟でした。弟だったのですけれど…


「みゃー…みゃー…」



何という事でしょう彼は子猫を腕に抱えて、申し訳なさそうな表情でこちらを見ています。



「隆…もしかして…」


「ああ。そのもしかしてだ…さっき橋の下に段ボールがあって…」


そうです。弟、隆は仔猫を…


「思わず拾ってきちゃった…」


「えええええええええええええええええええええええええええ」



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「とにかくだ。俺の家では猫が飼えない。飼えないからこうして遊びに来てるんだよ」


とりあえず弟に家に上がってもらって、一息つくためにお茶を用意しています。立て続けの来客で頭は混乱気味ですが、結論はほぼ一つでした。


「わたしが飼うしかないじゃん…」


飼い主を探すにしても当面はわたしが保護しなければならないことは明らかでした。


「あれ…姉ちゃん、なんかオシャレなの付けてるんじゃね?」


何故かこのタイミングで弟はイヤリングに気付きます。


「ああ、これね…」


流石に騙されたっぽいという印象を抱いていたので普通に「グッズ」として最近買ったという事にしてしまって弟に説明します。


「いいよな…女子はそういうグッズがあってさ」


「別に男の子が付けても…まあ似合わないか…」



そういえば『角さん』もこれを使っていたというから、やっぱり耳に装着したのだろうか。何となく普通のおじさんが付けていると似合うとは言えないかも知れない。



「とにかく…俺も飼い主探しとか手伝うからさ…一週間、何とかお願いできないかな?」


「まったく…」



普段はしょうがない弟とはいえ善意で保護した彼を責めるわけにもいきません。


「わかったよ。何とかする」


「ありがとう!!お姉ちゃん!!」


弟はその後新しい仲間に少し警戒している『バンブー』を一通り愛でて、仔猫用のミルクやお皿などを買ってきてくれると日が暮れる前に帰ってしまいました。


「どうしよう…」


一人残されたわたしは何から始めたものか分からずとりあえず夕飯がまだだった『バンブー』のご飯を用意します。


「バンブー、どうしよっか…」


「なおん…」



『バンブー』も困ったような声を出しています。仔猫は疲れたのかリビングで眠っているのですが、その子もオスで特に見た目が酷いという事はなく捨てられて間もない状態だったようです。


「バンブー。あの子と仲良くして上げてね…」


何気なく語り掛けたのですがその時の『バンブー』は耳をピーンと立てて何か感じ入った様子にも見えました。わたしは夕飯にちょっとは気の利いた事をしてくれたつもりなのか弟が子猫用のミルクのついでに買ってきてくれたコンビニ弁当を食べて、シャワーを浴びて後の事をあれこれ考えているうちに寝落ちしてしまいました。



幸い次の日は日曜日で仔猫の世話に支障はないと思われました。朝方うっすら明るくなってきた頃に、仔猫の鳴き声で目が覚めて<じゃあ、がんばんないとな…>と思ってそちらを見遣ると『バンブー』と仔猫が接近しています。



「あ…」


わたしがそこで驚いてしまったのは、『バンブー』がどこか健気に仔猫の毛づくろいをしてあげているのを見た事です。一般的に新入りに対して警戒する猫もいる中でこの反応はとてもいい傾向で、まるで『バンブー』がわたしの気持ちを推し量ってくれているかのようです。わたしは二匹に近づいて、



「ありがとうね、バンブー。よかったね…猫ちゃん」


と話しかけました。どちらかというと二匹の世界に入ってしまっているようでしたが、こういう様子を見ると心が癒されます。


「あ…そうだ。また付けてみようかな」


わたしはその時もう一度あの猫のイヤリングを付けてみようという気紛れを起こしました。なんとなく自分も混ぜてほしいと思ったからかも知れません。耳に付けてから二匹に近づいて呼びかけてみます。


「バンブー、猫ちゃーん」


するとそれまで夢中だった二匹は明らかにこちらに関心を示して、じっと見つめてきます。もしかすると『30%』という数字がここに現れているかも知れないと思った瞬間でした。



そこから約一週間、仕事もこなしつつ猫の世話をしていたのですが思いのほか仔猫も懐いてくれましたし、何より『バンブー』が色々察してくれたらしく、日中も近くで様子を見ていてくれたようなのです。これをイヤリングの効果というのか、それとも『バンブー』が偉かったのかは結論付けられませんでしたがとにかく二匹でもなんとかなると思えたのは収穫でした。



☆☆☆☆


「姉ちゃん、あのさ…SNSとかでさ探してみたんだ」


「やっぱり見つからなかった?」


日曜日に弟が家にやってきました。浮かない表情を見て『飼い主は見つからなかったかな』と予感しましたが、案の定その通りで、わたしに対して申し訳なさそうな様子で説明してくれます。


「あともう少しだけ…」


「いいよ。少しじゃなくても」


「え…?」


驚いた表情の弟。わたしはその時近づいてきた『バンブー』に、


「いいよね、バンブー?」


と訊いてみました。気のせいなのでしょうか『バンブー』は、


「うん」


と確かに言いました。弟は慌てふためいて、


「え?今「うん」って言わなかった?」


と言いましたが今や家にいる時には習慣でイヤリングをする事にしていたわたしには思い当たる節がありました。


「実はね、今朝の夢枕に仔猫とバンブーが出てバンブーがわたしにこう言ったの。『僕、この仔と一緒に暮らしたい』って」


「あ…そうなの…?でも…」


「まあ最後まで聞いてよ」


変なものを見るような目でわたしを見ている弟を制してこう続けます。



「それでね、その後に『この仔の名前は【アトラス】にしよう』って言ったの。それで起きてから仔猫に『アトラス』って呼びかけたら…」


「呼びかけたら?」


「おいでアトラス!!」


わたしの呼びかけに反応して仔猫がこちらに勢いよく走ってきました。これには弟もさすがに驚いたらしく。


「おお…すげえな姉ちゃん。超能力者かよ!」


と興奮気味に言います。でもわたしは首を横に振って、


「ちがうよ。ちょっと勘がいいだけなの」


と何かを誤魔化すように弟に伝えました。


「そうかな…」


尚も釈然としない弟ですが、ともかくこれからは『バンブー』と『アトラス』と一緒に暮らすことになったのです。



後日、わたしは未来創造社宛てに送るハガキの『使用感』の欄にまずこんな風に書いてみました。



『このイヤリングを使ってみて、確かに勘が良くなったような気がします。それでも本当にイヤリングの効果なのかどうかは断定はできません。ですが、家に居る時には殆どこのイヤリングをしている自分がいます。商品化するときには『30%』の効果ではなくて、せめて『50%』あるといいかなって思いました』



そして『角さん』にお願いされた通り、この間にあった具体的なエピソード書き加えていきます。何となく小説のようになってしまっていますが、彼はこの感想にどう思うかなーなどと想像しながら、いつもべったりくっついている二匹の猫を眺めて少し悦に浸っているわたしでした。

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