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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

ホロスコープ越しのマイウェイ

Posted by なんとかさん on   0  0

バンデンラ・ゴジジウこと吉岡末吉はその日、祖父である吉岡為吉と居間で茶を飲んでいた。専業主婦の母と会社員の父はスーパーへ買い物に出掛けており、土曜日の午前という何かと充実させたい時間帯にちゃぶ台を囲んでのこのティータイムはわりとお馴染みの光景である。大して興味があるわけではないテレビを付けっぱなしに、時折思い出したかのように「ツッコミ」を入れる祖父の言葉がゴジジウの耳を右から左へと通り過ぎてゆく。


「この男は非常識だな。非常識な声をしている」


「あ、そだな。ちょっと男とにしては甲高いかも」


ゴジジウも惰性で相槌を打つが、祖父の独特な…というより微妙な日本語の遣い方に対して訂正する気配がないのは、彼自身の感覚によるものだろう。ちなみにこの場面に母が不在でなければ、彼女ならやんわりと指摘しているはずである。すなわち『この場面』こそ、非常識極まりない会話が続けられる異空間であり、ある意味でこの世界の奇跡の時間である。為吉は既に4杯目、出がらし気味になった日本茶を満足そうに啜ってから、


「おまえ、今何作ってんだ?」


と末吉に訊ねる。彼の認識では孫は『芸術家』という事になっていて、芸術家と言えば基本的に「わけの分からないモノ」を作る輩だという了解である。もちろん「わからない側」に居る「かつらーむき」こと為吉にとってはその認識で正しいとも言え、「わけの分からないモノ」を作ってそれが売れていて、それで生活できていればそれも一つの生き方なのだろうなという意識がある。だから今回孫が何を製作していようとも、それを否定するという事はない。が、ある種の興味本位で作っているものが何なのかを知りたいという気持ちもあるのだ。祖父のそういう微妙な心情についてはゴジジウもある程度把握していて、一応分かり易いような説明を心掛ける。


「じいちゃん、神さまって知ってるか?」


「神さま?拝む神さまか?」


「そうだ。その神さまの絵だってさ」


「ほう。そんならオレにも分かんなくはないな。実はオレは神さまにあった事がある」


「え?まじか!?」


唐突な祖父の告白だが、もちろんこれには彼特有の論理がある。


「間違いなく神さまだな。オレが神さまだと思ったから神さまだな」


「???」


ハテナマークを浮かべているゴジジウに対してそれで説明が終わったと言わんばかりに再び茶をすすり始めたかつらーむき。テレビから流れてくる化粧品のCMに一瞬眼を遣り己も茶を啜って、


「そうなのか…」


と何かを納得したらしいゴジジウ。するとゴジジウは一度席を立ち、自室から紙とペンを携えて戻ってきた。そのまま無言で何かをスケッチし始める。祖父は、心情が読めない表情のままその様子を見守っていた。10分くらい経ち、テレビ番組が終わりに差し掛かった辺りで、


「でけた!」


とゴジジウの声。どれどれ、とかつらーむきが覗き込んでみるとそこには全体的にふわっとした雲のようなフォルムで明後日の方向を見ているらしい謎の存在が描かれていた。


「これはなんだ?」


「神さまだ!」


「ほうか、おまえにとってはこれが神さまなんか」


「そうだ。まあこれはまだまだデフォルメだから、もっと細部を描かなきゃなんないけど、俺の夢の中に頻繁に現れてくるんだ。たぶん、あれが神さまだろう」


その説明に納得はしたものの、かつらーむきは訊ねざるを得ない。


「お前、これを描いて売るのか?」


「ああ。お客さんの依頼だからな」


「ほん」


かつらーむきはそこで「それで成り立ってるんだから、そういうもんなんだろうな」と殆ど思考停止に近い了解を行った。末吉の方は創作意欲に燃えだしてみるみる興奮しし始めている。


「やっぱりこの男は非常識な声をしている」


為吉は番組の最後を〆た先ほどの最近売れ始めているタレントに同じ結論を下した。

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作戦ダイナキント

Posted by なんとかさん on   0  0

最近ちょっとずつ蝉の鳴き声が聞こえてくるようになってきた。会社としては休日のその土曜日、わたしは朝からネットで『アジテーター梅』としてのネタ探しをしていた。表の仕事である『ティピカル』の事務の作業にも大分慣れてきて、自分でも様になってきたように感じるし、それならそれで休みの日くらいは自由に過ごしたい気もするけれど、実は今裏の仕事の方が佳境みたいで、社長である太郎さんからも、


『世の中が『夏休み期間』の間はSNSに入り浸りになる率が高まるという事を見越して、お願いします。この通り!!』


って、拝まれてしまったので仕方なしに…というかちょっとした使命感が出てしまってこうしてネットの話題と女子のネットワークを活用してふぁぼられそうな話題をチェックしているのだ。でもちょっとわたしに都合が良いのは『アジテーター』と言っても、あんまり露骨過ぎるアピールは逆効果だし怪しまれるという事で、わたしの基準でごくごく普通に楽しいことを見つけて投稿していいということだ。時々変な人もいるけれど


『まーさ。ほらいずん』


というこのアカウントで仲良くなったフォロワーさんと趣味を語り合ったりするのは正直楽しい。もともとゲームが好きだったわたしだけど、というかあんまりにもあるゲーム熱中しすぎていたせいで彼に振られたという経緯もあるけれど、今ではその傷も大分ふさがったような気もしなくないし、ゲーマーのアカウントをフォローしていたお陰で色んな情報が入って来て今は結構充実している。でも太郎さんが言うには、


『あんまりある層に偏り過ぎると効果は薄いからね、同性が喜びそうな話題も織り交ぜながら…』


という事らしいから、話題探しはちょっと作業の感覚が強くなる。具体的には最近デビューしたアイドルグループの話題から自分の目線で『推し』を決めて、時々応援するような投稿をしたり、話題の動画を拡散してみたり。2ヶ月くらい前に、『たらこ三昧』と繋がっている芸能人のリプでちょっとだけやり取りしたという展開があったから、わたしに興味を持ってくれる率が自然と上がったらしくて先ずは炎上に注意しながらウケがいいネタを供給し続ける事が大事。って言うのは簡単だけどやるのは結構難しい時もある。



「あー、どうもこれだと行き詰っちゃうなぁ…やっぱり自分が楽しいことをしてないと…」


色々粘ってみて改めてそう気付く。毎日研究みたいな事をしていて思ったのは、みんなそれぞれ嫌なこともあったり、嬉しいこともあったり、出会いを求めていたり、仕事を頑張っていたり、子育てに奮闘していたり、本当に色々で、全然違う環境で違う状況にある人が、同じ話題で少しでも息抜きできたり共感できたりすることは素晴らしいなって事。わたしだって幸せになりたいし、楽しいことを一杯したい。現実にはテンションが上がるような事ばかりじゃないし、嫌なニュースを見てしまって<見たくなかった>と思ってしまう事も数えきれない。



それでも、『この活動』をしていて思うのは、自分がやりたい事をやれるんだったら一生懸命やる事が大事って事。それは太郎さんを見ていても感じる。


「太郎さん今何してるんだろう…」



ふと彼の事を思い浮かべたら『そもそも謎が多過ぎて想像できない』という事に気付いて苦笑してしまっている。わたしより幾つか年上だけれど、ああ見えて中学生くらいで何かの成長が止まってると思う。と、そんなタイミングで太郎さんから貰った専用のタブレットにメッセージが届いた音が鳴る。


「どれどれ…」


組織の都合上やり取りの記録を残さないようにしたいという事で『たらこ三昧』の方針に関係のある事はこのタブレットのアプリに届くようになっている。最初に届いたメッセージ。



『アジテーター梅氏にはもう少し外出した場面の投稿が必要と感じる』


「は?」


思わず声が出てしまう。わたしはこんなに必死に話題探しをしていているのに。でも次に届いたメッセージでわたしはちょっと頷いてしまう。


『年頃の女性にとって買い物に出掛けたり、自分の好きなことをしている場面は共感を呼ぶ』


これは否定できない。確かに家でゴロゴロも好きだけど、週末なのだから出掛けたいと思うのは自然だと思う。ただそこには大きな問題がある。わたしはタブレットにこうメッセージを打ち込む。


『つまり、わたしは一人で出掛けなくてはいけないのですか?』


そう、シンプルな理由だけれどどうしたって一人では出掛ける気分じゃない時がある。友達だっていつも時間が合うとは限らない、だったらどうするの?って訊いてみたくなる。このメッセージを送信してから5分くらい時間が経ってからだろうか、こんな返信が来た。


『確かにそうだった。では今回は『T』が出張ろう。明日9 A.M.に『エリアF』に集合願う』


「え!?」


予想もしてなかったことに唖然としている。『T』はいわゆるコードネームで種明かしすれば太郎さんの事。そして『エリアF』はティカルの事務所。つまりこれは、


『明日9時に事務所に来て by 太郎』


という事なのだ。仰々しい文面で来たから驚きがあったけれど翻訳してみると凄く普通の話だったから<ああ、そうか>と思ってしまった。たぶん太郎さんが明日どこかに連れて行ってくれるという事なんだと思う。それもそれで悪くはない気がしてくる。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆



翌日、事務所にて。9時よりも少し早い時間に到着したと思ったら、太郎さんは既にドアの前で待っていた。


「やあ、早かったね」


「お早うございます」


平日の職場で交わされるような会話。


「今日どこに行くんですか?」


最初にそう訊いてみたら、


「麻沙美ちゃんが行きたいところで」


との返事。


「…」


それはそれでちょっと困る。彼はそういうわたしの気持ちを察したのか、


「ゲーム見に行ってみる?麻沙美ちゃん欲しいゲームあったんだよね?」


「あ、はい。見ててくれ…てるんですもね…そうだった」


「プライベートな事は見て欲しくない事もあるよね…でも一応これも仕事だからさ」


「『これ』も仕事ですか?」


少しだけ気になる言葉だったのでそれほど他意はなかったけれど訊いてしまった。すると太郎さんは目を大きく見開いて(普段はぼんやりしている)、


「うーん…これは『普通に』お出かけじゃないかな?」


「『普通に』ですか?」


そう訊いたときに太郎さんが困ったように微笑んでいたのが印象的だった。その辺りからわたしはなんとなく楽しいなと感じていた。


「とにかく、楽しもう。それが大事だ!」


「はい!」


こうしてわたし達は街に繰り出した。後にこのアクションは『作戦ダイナキント』の名で呼ばれることになっている。

ふくらし粉バーゲンセール

Posted by なんとかさん on   0  0

圧倒的ダルさ。説明するのも面倒で正直なんでこんな仕事をやっているのか分からない、分からなさが限界突破していて最近ではなるべく仕事の時は『無』になろうと心に決めている。今思うと迂闊だったかな。


世の中で言う所の真っ当な事を避けて生きてきたわたし、当時20歳が興味本位で怪しげなゲームをスマホにインストールした時からわたしの人生はとてつもなくへんてこりんなものに変貌した。そのアプリは個人が作ったものらしくてゲームの内容は『ミステリーを解き明かす』種類のもので、自分が『探偵』になって陰謀が行われているアジトを突き止めるというものだったんだけど、ゲームのバグか何かで途中からゲームを全く進められなくなって同じ場面を繰り返してしまうような不具合があった。当然、アプリの評価は最低で、


『クソゲー』


『こんなもの公開するな』


とかのレビューが並んでいたんだ。で、わたしはと言うと付き合う事になった人がわたしの私生活があまりにだらしがないからって愛想をつかしてしまっていた時で、なんか現実逃避気味にそのバグったゲームで同じ所を何回も何回も繰り返す『作業』を続けていたの。一週間くらい経って、アプリももうストアから姿を消していて、


<やっぱり修正されなかったかぁ>


って残念に思ってたんだけど、その日またちょっと嫌なことがあって現実逃避をしていたら思ってもみない事が起こったの。


「あれ!!続きができる!!」



そう、そのゲームが繰り返しの場面から抜け出していて、これまでに見た事が無い場面に移っていたの。知らないうちにアプリが更新されたのかなって思って確認したんだけど、履歴を見てもそうじゃないって事がすぐにわかった。だとすると、このゲームが何かの偶然で正しく動いたのかもなって思ってその時はちょっとワクワクしながら続きを進めたの。1時間くらいゲームに熱中して、ストーリーの最後に陰謀の組織のアジトを特定するシーンが出てきて、


『アジトは〇〇の〇〇だ!』


っていう探偵のセリフがあったんだけど、パッと見て実在する住所だって事にすぐに気付いたの。というのも、わたしが通っていた高校の近くにそういう住所があったからなんだけど。とにかくその時に住所を紙にメモってみて、


<一体何なんだろう?>


って思いつつもなんとなくそこに行ってみようという気持ちになったの。今思うと『誘導』されていたって事なんだけど、そんなことを知る由もないわたしは本当に不用意にその住所に経っていたビルのある一画にのこのこと出向いていったってわけ。



そこに居たのが『太郎』さん。あのゲームの開発者で…そして本当にクレイジーな事をやっていた人。ややイケメン。


「お!辿り着いた人が居たんだね。おめでとう」


わたしを見るなり、まるで来ることが予想できていたみたいににこやかに微笑みかけてきて、そのまま部屋に通されて、ゲームクリアの『ご褒美』という事でケーキとコーヒーをご馳走になったの。今考えるともう少し慎重に考えればよかったと思うんだけど、それはあの時のわたしには想像できなかっただろうと思うとちょっとやるせない気持ちになる。まあ、そこで『太郎』さんという人とゲームを作った目的について説明してもらってあの人が言うには、


『こういう風な展開になったらいいなって思って作って公開したんだ』



という事だったんだけど、実はあのゲームのバグは『意図されたもの』で、わたしが偶然していたように何度も何度も同じ場面を繰り返しプレイしてある回数…千回とかになると続きがダウンロードされるようになっていたんだそう。普通の人だったらバグだと思って繰り返したりなんかはしないから、最後まで辿り着く人は本当に限られてたって話。実際、そこで住所が表示されてもわざわざそこに来る人は稀だけど、『太郎』さんの云う『変な人』だったら来るかもって思ってたみたい。わたしは自分の事を変だと思った事はなかったけど、変なことをしていたのは確かだなってちょっと感心した。



その後ざっくばらんに世間話みたいなことが始まって、わたしがその時『バイトをしているだけで特に夢とかはない』的な事を話したら『太郎』さんは神妙な面持ちになって、こんなことを訊いてきたの。



「もし、本当にゲームみたいな事がここで行われていたとしたら、そんな仕事をしてみるつもりはある?」


「え…」


口ぶりからもしかして本当に陰謀のアジトなのかもって思ったらゾッとしてきたんだけど



「陰謀だとしても、犯罪ではないと思うよ」



という『太郎』さんの言葉に唆されたカタチになるんだろうか、結局わたしはそこからその組織『たらこ三昧』のコードネーム『アジテーター梅』として活動することになったの。でも表面上は『たらこ三昧』じゃなくて太郎さんが代表の有限会社『ティピカル』の事務として雇われているという事になっていて、実際にちょっとした雑用とかの仕事もある。それも社会上は正式な仕事だし、だからそれはそれでよかったの。



問題がその『たらこ三昧』としてのとーっても『地味』な活動なの。どういう風に地味かと言うとわたしが各種のSNSを駆使して、今では『たらこ三昧』の一員だっていう事が分かっている芸能人のファンを演じるっていうワケ。でもそれがわたしの基準でとっても面倒臭い事でいくら仕事でも心にもない事を投稿し続けなきゃいけなくて、若い女だからって事なのか時々変なのからメッセージが届いたりするのを、「ちゃんとリアリティーを持たせる」のと「評判を落としてはいけないから」って事で丁寧に、丁寧に対応しなければいけないって事。



もっと面倒臭いのは、地道な活動が一年後位に実ってきて段々とフォロワーが増えてきて、時々組織の芸能人と他の人に分かるように『やり取り』できるような所まで来たって事。



「こういうのって、マッチポンプって言うんだよね」



って笑いながら太郎さんは説明してくれたんだけど、確かにあの人が言う通り全然犯罪じゃないのが何とも言えない感じ。太郎さんの『戦略』では、わたしは『アジテーター』として一般人の中でそれなりに知られる存在になるのがベストなんだって。つまりいつまで経っても地味なまんま。それはそれでモチベーションが上がらない。で、今に至る。



あの事務所でわたしは太郎さんと向かい合って表向きの仕事をしている。


「麻沙美ちゃんって、アートについてどう思う?」


太郎さんがわたしにこんな事を訊いてきた。表向きの仕事として今あるゲームのデバッカーというのをやらされているんだけど、案外こっちの単純作業の方がわたしに合っているような気がする。それをやりつつも、裏の仕事の為に昼休みにSNSにアップロードするつもりの写真を特殊なアプリで加工したりしている。でも思い入れがないから『無』になるしかない。


「アートってよく分かりません」


正直に言ったら、


「そうなんだ。なんかね僕の友達が、今度仕事で絵を描くんだって」


「どんな絵なんですかね」


そう応えてみたけれどあんまり興味がない。


「神さまだってさ。麻沙美ちゃんは神さまって信じる?」


太郎さんの性格を考えるとどんどん話が脱線していきそうな気配。


「神さまは…居て欲しいとは思いますけどね」


そう答えると太郎さんは、


「そうだね。神さまは見てるかもねぇ…」


と遠い目をしながら言っていた。その表情をぼんやり見ていていた時、わたしは前から訊きたかった事を唐突に思い出した。


「そういえば、太郎さん」


「何?」


「『アジテーター』って何ですか?」


「え…?」


太郎さんは打って変わって『なんだこの人は!?』という目でわたしを見ていた。


「麻沙美ちゃん、調べてなかったの…扇動者だよ。煽って盛り上げる人のことだよ」


「ウェーイ、パリピ的な?」


「ん…まあ今はほとんど死語だろうからな…仕方ないね。まあそんな感じだよ」


もう一つ気になる事があった。


「じゃあ『アジテーター』は良いとして、何で『梅』なんですか?」


「あー、それね」


と太郎さんはそこでうんうん頷いてこう言った。


「僕も常々『和』の心が必要だなと思っていてね。和風な名前にしたかったの」


「そうですか」


あんまり理由はなさそう。そうこうしているうちにもう少しでお昼だ。

黄金旅程のその後で

Posted by なんとかさん on   0  0

『夏の始まり』という趣のある日の事、これまでに歩いたことのない不慣れな道を歩いている青年がいる。GPS機能で位置を確認しながら少し小高い場所にある背の高い洋館とも言える建物の門の前で立ち止まった彼の名は何を隠そうバンデンラ・ゴジジウこと吉岡末吉である。午前でも近辺とは違う妙な静けさのある場所で、門の中には番犬が居るのが分かる。敷地内に茂木々もどこか日本的ではなく、ゴジジウのような庶民感覚では気後れがしてたまらないようなシチュエーションだけれど、今回は取りも直さず館の主が直々に彼に面会したいとの事である。


「よし…」


意を決してインターフォンを押す。しばらくして、


「今遣いを向かわせますので」


という家主のものと思われる声が聞こえてくる。そこで少し気が緩み、


<立派な家だなぁ>


とか普通の感想が心の中に浮かんできた辺りで突然番犬が「ワン」と鳴いてまた気が引き締まる。


「そうだ。今日は『商談』なんだから、気合入れないと」


紙面でアート作品の依頼という話を受けてからというもの、彼の中で勝手に『ビジネス』感覚が立ち上がり彼なりに今回の件を整理した結果、本日この館で報酬も含めた会話が交わされるであろうという事が想像された。今朝祖父である「かつらーむき」にも、


『第一印象で決まるからな』


と参考になるのかならないのか微妙なアドバイスを貰って、やる気に満ち溢れてはいるが、具体的な事はあまり考えてきてはいない。



そんな彼の前に現れたのはいかにも『執事』といういでたちの男性である。その洗練された動作と風貌に圧倒されながらも家の中に案内され、おそらくは客間と思われる部屋に導かれたバンデンラ。そこも赤い絨毯に、大きなテーブルに、シャンデリアという『これでもかテンプレート』が待ち伏せていて、いよいよ己の中に「場違い感」がやってくるのをこらえ切れなくなってきた。


「すぐに旦那様がいらっしゃいますのでお待ちになっていてください」


「は…はい」


案内された席に座り、緊張しながら待っていると館の主がゆったりとした歩みで部屋に入ってきた。おそらくは高齢の男性で、非常に立派なスーツを来て現れ、朗らかな表情でバンデンラを見つめてから、


「お待たせいたしました。本日はお越し頂きありがとうございます」


と恭しく頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそこの度はご依頼いただきありがとうございます」


それに倣うように、立ち上がって一例をして主が席に着くのを見守る。そんな風にして順調に始まったかに見える商談ではあるが、ここからがまたこの物語らしい展開になってゆく。一通り自己紹介が終わり、主の名が『マイケル飯田』という事からどうやら少し珍しい生い立ちである事が想像されはしたが、とにかく温厚な人柄であるという事が了解され、ゴジジウはほっと胸をなでおろしていた。ただマイケルの特殊性…あるいは奇特性はここから発揮された。


「確か、オリエンタルアートを目指されているという事ですよね。それも過去にあったオリエンタルアートではなく、新しいスタイルのオリエンタルアートという事だそうですが、それが具体的にどういうものか少しご教授いただきたいのですが」



「つまりですね、オリエンタルなアートというものは和の心を大事にしたアートで、日本的なものは生活の中に現れますから、そういうところからアートなものを引き出してくるという事ですね。ですが、オリエンタルという事は何も日本だけにはとどまらないわけで、オリエンタルなものとして日本の中にあるものを見てゆくという事ですね」


相手は流石に芸術の分野の知識があるらしく、バンデンラの説明でも一人うんうん頷いて「なるほど…そうか、その辺りがシュルレアリスムに通じるのか…」など納得しているようす。この辺りで気を良くしたバンデンラは最近製作している蝉の抜け殻を使ったアートで具体的に説明してみる。


「蝉の抜け殻は日本的なものですよね。そこに何かを見るという事をオリエンタルな発想だとするなら、つまりはそこにストーリー性があっていいと思うのです」


「なるほど。素晴らしい。幻惑的ですな!」


この辺りで勘の良い読者は気付かれるかも知れないけれど、マイケルは『オリエンタルアート』の『オリエンタルアート』性というよりも、そこからの発想が突飛すぎて『シュール』になってゆく様態に関心があるのだ。それは少し前に脱オリエンタルアートのコンセプトで製作したものが評価されたのと大した差がない。そんな齟齬にバンデンラが気付く様子はなく、とにかく自分の作品が評価されているのだという事を前提に今回の作品の依頼の詳細が取り交わされる。



「それでですね、今回は是非『絵画』の製作を依頼したいのです」


「どういうものをご希望ですか?」


「そうですね上手くは言い表せないのですが、私は『カミ』に興味があります」


「紙?ペーパーですか?」


アクセントの関係で思わず聞き直したバンデンラに対してマイケルはこう言った。


「いえ、『カミ』、つまり西洋でいう所の『GOD』というか、オリエンタルアートの中で神がどういう位置づけになるのか知りたいのです」


「ゴッドですか…。それは『八百万の神』の発想でも構わないという事ですか?」


バンデンラは一応確認したのだが、後者だった場合にバンデンラの手に負えるかどうかはそれこそ『神のみぞ知る』である。


「かまいません。むしろ貴方が思う『カミ』を表現していただければ私は満足です」


「なるほど…大作になりそうですね」



というような話から、報酬、その渡し方など、或いはちょっと世間話的な事をして『商談』は無事(?)終了した。帰り際、バンデンラは再び門の所まで送ってくれた執事にこう訊ねる。


「執事さんのお名前は何て言うんですか?」



特に訊いた理由はなかったものの彼はこう答えた。



「古城=ミハエル=セバスチャンです」


念のためもう一回発音してもらってからバンデンラは館を後にした。

結社とたらこ

Posted by なんとかさん on   0  0

秘密結社「たらこ三昧」の断片的な情報を辿っていると、どうやら『彼ら』がこの世界で果たしてきたらしい『役割』が浮かび上がってくる。それを一言で表現するならば、ずばり


【印象操作】


のようである。組織の歴史…と言っても俄かに語られ始めたのは2000年代半ばからなのだが、少なくとも分かっている範囲で言えば「たらこ三昧」の結成にはIT産業の発展が深く関係しているという話である。というのも組織自体が今でいうインターネットのダークウェブ上での秘密裏のやり取りから生じ、現在でも実質的な運営は表には出てこないように行われている。ではなぜ今、私の手元にある資料に組織の名前や概要と言ったものが取り扱われているかというと、一つには個人のハッカーが仲間内で噂話手的に語られていたこの組織に危険を冒しながらも接触を図ったからである。その時の経緯をインターネット上の巨大掲示板に控えめに書き残していたログによって「たらこ三昧」というでたらめにしか聞こえない組織の『暗躍』の姿を伺い知ることが出来る。





【たらこ三昧】は世界を『アバンギャルド』化しようとしている。我々が平常の感覚で良いと思っているものを独自の情報操作と印象操作で一旦疑わせ、彼が良しとする価値の体系を世の中に徐々に浸透させるという目的を有している






もっとも、当時この書き込みからその存在を信じた者は皆無と言ってよかった。むしろ、その書き込みは一種の伏線であって数年後時代が世界的な株価の暴落によって混乱していた頃に突如として奇抜なスタイルでメディアに登場しまもなく時代の寵児となったあるタレントが某日ラジオにて語った「たらこ」への偏愛である。その日執拗に繰り返された「たらこ」という語の登場回数は30分の番組でおよそ50回に渡った。奇妙な事にそれ以後このタレントがバラエティーなどに登場しても「たらこ」を好んでいるという発言はなされていない。彼の中で一時的に「たらこ」ブームが訪れてその後下火になったと解釈できるものの、奇妙な事例はこれだけではない。その数年後にもこれまた奇妙なスタイルで…特にジェンダーレスの装いで奇矯な物言いをする事で人気を獲得した女性モデルもとある地上波の番組にて「たらこ」への偏愛を語った。しかも、それが先ほどのタレントと同じように単発での表明であり、その後はそんな事実はないかのように振舞っている様子が現在でも伺える。



この辺りの奇妙な一致、『符合』によって一部ではこの先述の【たらこ三昧】の書き込みと彼らを関係づけられ始めたらしい。かく言う私も当時これをネタ、都市伝説的なものとして受け取っていて、<なるほど、そういう事があったら面白いかもな>と感じていた人間の一人である。実際にはこの頃既に【たらこ三昧】の活動は第二フェーズに移っていたらしい。と言うのも彼らの計画では例のハッカーが接触してきた時から敢えて『都市伝説化』させる事で別な形で影響力を持たせようとする戦略があり、ハッカーが何らかの方法で彼らの存在を公表する事さえも方法の一つに数えられていたからである。




ある程度の冷却期間を置くことで都市伝説は都市伝説として熟成する。時代を経てソースが参照されることによって意味深な行動が意味づけられ、そういうものへの関心とそのような解釈をする傾向性ある人々によって語られたことにより、一つは嫌悪と一つは『別な何か』を人々に呼び覚ます。



『別な何か』とは一つの信仰のようなものである。即ち【たらこ三昧】というものを半信半疑ながらも意識して、「仮にそういう組織があるとすれば」という思考の形式で己の行動を決定してゆくという方法が採られるのである。彼らは暗に既に【たらこ三昧】は影響力を持っていると判断している。こうなると例えばメディアに露出するための手段として、【たらこ三昧】に接触する事が得策になると考え、彼らに媚を売るように「たらこ」と奇抜なスタイルを取り入れて活動を行う。ここで組織が戦略的に上手かったのは既に芸能界で地位を獲得しつつあった上記の二人の人物に、それらのうちの幾人かと実際に接触させた事である。今でいうフォロワー的な発想で、有名人によって取り上げられた自分の信奉者という形で実際にもその追従者がメディアに登場し始める。




こうなると集団として奇抜なスタイルというのが文化的な意味を持ち始める。この辺りが第三フェーズとされていて、実際に影響力を持っているか持っていないかを判断する情報がないままに【たらこ三昧】の存在が大きくなってくる。詳細は省くものの、こうして関心を持つ経営者の存在するある企業から秘密裏に捜査を依頼される事になっているというのが現在である。



「ふぅ…」



ここまでの内容をレポートにまとめ終わり、私はこの後の調査をどのように進めていこうか迷い始めている。仮に【たらこ三昧】の実態があるとして、彼らは秘密結社であるがゆえに簡単には尻尾を出さないという事が分かっている。おそらくは私もプロである以上、タレント『A氏』とモデル『S氏』を調査する必要がある。…或いはその二人と接触した事のある追従者の方をターゲットにするべきだろうか。そんなことを考えながら一旦家を出て私はある店で昼食を採ることにした。「たらこパスタ」の名店である。


<そう言えば「たらこパスタ」が流行りだしたのも時期が同じだよな>


果たしてこの発見は何かの役に立つのであろうか?




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




その同じ日、バンデンラ・ゴジジウの友人である『松永太郎』は自宅にてお手製の「たらこパスタ」を食していた。左手でフォークにパスタを絡ませながら、タブレットで怪しげなソフトを操作しながら呟く。


「たらこパスタは作るのが楽だからいいよな」


そのまま操作している画面上のメッセージ欄に『アバンギャルドで行こうぜ』と打ち込みタップをする太郎。どことなく既視感のある状況に彼自身満更でもないようである。

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