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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

酔え酔え

Posted by なんとかさん on   0  0

日々何かを見つけてゆく。呆れるほどにそれだけが『攻略法』というような状況は変わる事がないまま月日が過ぎてゆく。現実を模倣したのかと思われるくらい無理難題なステージを用意してくるパズルゲームに時間を奪われることさえひそやかな『達成感』を与えてくれる機構なのだと言ってしまえばそれまで、と最近はなんだか色々流され気味である。


「あ…しくじった」


軽い操作ミスによって状況が絶望的な図面と化すゲーム。もはや自分が過去にどういう操作をしてクリアしていたのかさえ記憶に残っていないのに、淡々と相対的に上達はしている『指先』が慢性的に疲れているかのようである。駅のベンチで座って電車を待っているこの時間も、特に記憶に残るようなシーンでもない。新しい季節と生活に心をときめかせているかのようなみずみずしさのある若い女性が親御さんのような人と何かを話しているらしい声が耳に入って来ているのは分かっていて、ちらりと離れて前方に立っている人を見ると想像した通りの姿で、何だかそれが妙に頼もしく見えてしまった。



おそらくはくたびれた表情になっているであろう自分の顔がそれはそれで味のあるものになってやしないかと一瞬だけカメラを起動して、正面の側にして確認してみる。


<味というか、鯵というか…>



このところ気になっている視力の低下のせいか、或いはスマホの画面を見つめ過ぎたせいか目が『疲れている』と言っているかのようである。この魚の目のようにそれ以外の情緒を感じられない。そう認識している事にもそれほど何かを感じないくらい『ヒカリ』がぼんやりしている。これでも『日々何かを見つけてゆく』事を目標にしている自分にとっては由々しき事態であるという事に気付き、やや無理やりな観はあるが、


『今日は感動したい!』



と一つの目標を立てる事にした。あとで考えると『感動しに行く』というのは映画を見るとかそういう事ならともかく、その状態からどうやって感動しに行こうと思ったのだろうか。だが、その時の自分には天啓のように思われて、一つのひらめきでもしかするとそろそろ咲いているかも知れない桜を見にゆこうと思ったのである。思い付いた時に電車がやってきて、咄嗟に立ち上がり先ほどの女性の後ろに並んだ。



☆☆☆☆☆☆☆




電車の中で桜を見に行く場合に何処に行くのかを決めようと思ったのだが、段々とテンションが萎れてゆくのを感じていた。車でちょっと遠くに行くくらいの勢いだったのが、現実的なところで駅から自宅までの帰りに寄り道をするという案に落ち着き、今こうして自宅から反対方向に歩き出している。


「こっちの方面も本当に行かないからなぁ…」



歩き出してみて、割と不案内なのに我ながら驚いてしまう。通勤のルートから逸れるとほとんどその辺りを歩かないというのは今考えてみると不思議なのだが、閑散としている場所なのでむしろ歩かせる要素はないなと気付く。



<確か、ここら辺にあったような気がするんだけどな…>



朧げな記憶を頼りに一度車で通り過ぎた場所を目指していると、日が落ちた薄暗い道は独特の情景だなという気分になってきた。どこかで犬が吠えるのが聞こえて、道には電灯がともり始める。自宅の付近と大して変わらない風景なのに確かに何かが違っていて、考えてもみれば自分が知っている『世界』の様子なんてものはごくごく限られているんだなとも思った。



ただそういう気分の高揚も自然に減衰していって、あとは淡々とゴールを目指していた。そんな時である、


「あ、ネコだ」



この辺りには少し珍しい野良ネコが道路を横切っているのが見えた。颯爽としたその姿がこの時には異様にも見えて、下に気を取られていた時、正面を向き直すと少し先の曲がり角の先が桜の木が植わってる所だという事に気付いた。そこからやや早足でスタスタと移動すると、思った通りそこを曲がった先に結構大きな桜を見つけた。詳しい種類は分からないが、ソメイヨシノではないのかも知れない。それはある会社の敷地に植えられているもので、この時間うっすらと照らされて独特の趣がある。まだ満開ではないけれどその控えめな咲き方が自分の今の心境とマッチしていて、何となく『これから』にも期待させてくれる様子があった。


パシャ


現代人的な発想で数枚スマホに収めて、何となく達成感に浸る。だが大切なのは自分の心である。



<俺は今、感動しているだろうか?>



『感動しに来た』というのも何か野暮ったい話ではあるが、そういう観点からすると自分が今、ここに来た甲斐があると思っているか、或いはいないのか。結局そんなことを考えながら帰路についていた。家に着いて、夕食を用意して晩酌の一杯で喉を潤して、気が休まった段階でもその答えは未だに出ていなかった。



自分が感動するとはどういう事か。主観的な事だからそこには明確な線は引きずらい。あの桜は綺麗だったとは思う。だが…




何かを確かめるかのように今一度スマホに残した写真を確認してみる。



「お!!」



感動したのか、どうかについて直接の答えが出たというわけではないのかも知れないだが、この時狙ったわけではないのにその写真の構図が自分の基準だと「いいね」を付けたくなるものであった事に一人でテンションが上がっていた。その勢いのままに待ち受けをその写真にしてしまう。



「感動ね…感動はね…」



酒が回ってきたのか疲れたのか思考力が段々と衰えてきて、何といったらよいのか分からない状態。



「感動はね、良いものの良さが分かった事もそうなんよ~」



そんな事を口走った記憶がある。

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キープユアマインド

Posted by なんとかさん on   0  0

たとえばSFチックな設定を思い浮かべるような事があって、


<意外とそういう事もあるんじゃないか?>


という気分になってくると何だか自分をどこかに運べそうな気がしてくる。今日はそんな風にしてでも自分を運ばなきゃと思える事があったりなんかり。言ってしまえば気持ちがへなへなと折れ曲がってしまいそうな難しい事はこの世界にあって、何が一番難しいかと言えば『そこに挑み続ける事』なのだとさえ述べる事も出来てしまえるようないかんともし難い事というのは抽象的なのに誰もが妙に納得するのではないだろうか。



そんな『壁』を前に、


『さあお前はこの現実で何をする事が出来るのだ』


と何か凄い能力を持った存在が興味深そうに見守っていて、実はその存在は時折現実に干渉する能力を有しているという、そんな具合の想像くらいならしたとしてもそれほど支障をきたさないのではないだろうか。んーでも、できればあんまり『漢』の『熱血世界』だけにはなって欲しくない。具体的に言えば、その見守っている厳つい顔のおじさんの隣に柔らかい感じの女神様的な人も立ってて、


『貴方の事をしっかり見守ってますよ』


的なメッセージを時々くれたりなんかすると色々バランスが取れているような気がする。と、そんな一瞬が挟み込まれたりするような近頃でもある。



実際問題、当面の面倒臭くて厄介な案件をどうにかできればその後の見通しも立つ気がするし、それはつまりは『仕事』という言葉の本質的な意味の仕事なのではないかとさえ思える。ただ得てしてそういう問題なり課題なりには己の能力で何とかなるかも知れないレベルだからこそ、先ずはそこに負けない気持ちが大事である。精神論にしたくはないのに、実質的には精神論になってしまうようなその仕組みは何なのだろう。いや、リソースの多くを傾けるからこそ無防備になりがちなのが心だったり的な、そういうお話なのだろう。そんな分析をしているとなんとなくデジャ・ビュに襲われる。



そのあたりで<集中力の限界だな>と思い、気晴らしが必要だなと感じて少し外の空気を吸いに行く事にする。



実際『デジャ・ビュ』である。何故かは分からないのだけれど、多分何か月か前に私は別な…でも本質的には同じ状況で似たような事を考え、ほぼ同じ結論に到達し、己を宥めすかすように、


<今を乗り切れば、後は楽だからさ>


と言い聞かせた日々があったと思う。そして今回もまた、『今回きりにしておきたい』という願望が脳裏を過りつつも、何だかんだで乗り越えてゆくのかも知れない。そう考えると幾分かは気が和らぐ。この辺りで再び、


『人とは難儀なものよのぉ。自らが課した事に苦しめられるが、課す事が無ければ途端に途方に暮れてしまう』


と厳つい方のおじさんが憐れむような声を出す。それに対して、


『そんなことを言っては非情です。そのような営みを続けて人の子はここまでやってきたのです。元はと言えばわたしたちが彼らを見守るだけになってしまった事に由来するのです』


と女神さん。するとおじさんの方はちょっと困り顔で、


『いや、そうではない。我らは人の子らの力を信じているのだ』


と言い訳じみた事を口にしながらポリポリとほほを掻いている仕草をしている。そこは何だか妙に親近感が湧くというか、例えば今みたいに気の張る場所を抜け出す口実に向かったコンビニで思わずホットのコーナーに足が向かって、ほとんど無意識にいつものコーヒーを選んでいる自分とさほど変わらない何かを感じてならない。そういう時は若さ溢れる店員さんの眩しい笑顔が自分には勿体ないような気もしてくるけれど、こういう時に限ってそういう事に気付いたり、出会ったりするのはなんなんだろうかなと思う。



さっきのおじさんの発言ではないが、本当に自分の心はややこしい。ややこしい自分の心を満たそうとするのも同じように手間が掛かる。時に自分を宥めすかすように、時に『これが最後だから』と嘯いて動くように、時に『何かが待っているから』とありもしない…かも知れないものを信じているように動いていたり。




そのずっと向こうに『希望』という名のまばゆいものが揺らめいている。



<ああ、何か見えたような気がする>



コンビニの外でコーヒーを飲み干したあたりで『希望』という大層なものではないが現在の案件に対してのちょっとしたアプローチが見えてきた。そうするとそれまで頼りにしていたおじさんと女神様のお役御免と言わんばかりに急激に現実的な検討能力が復活する。おそらくあの二人はこう言い合っているに違いない。


『ほらみたことか。人の子は苦しい時だけ頼って来るくせに、どうにかなりそうだと思うとさっさと忘れ去ってしまう』


『仕方ありませんよ。それに言ったじゃありませんか。《我らは人の子らの力を信じている》と』


『たしかに』



<まあそういうもんですよね>


そんな風に思わず可笑しさがこみ上げてきた時、リアリティーのある女神様の声が


『ちゃんと前を見て歩きなさい!!』


と頭の中に響いたように感じた。はっとして前を見るとすんでのところで電柱にぶつかるのを回避していた。


「あ…っと」


それから私は不思議な気分で空を見上げていた。なんとなくそこに浮かんでいた雲が人型にも見えなくなかったり。

この世界は

Posted by なんとかさん on   0  0

『この現実に対してどう向かってゆくのか』そんな事を時々大真面目に考える。自らがどうする事も出来ないことが確かにあって、例えばどういう風に動いていったとしてもある範囲と大きさで頭打ちになるだろうなという感覚は理不尽としか言えないニュースを見ていると妙に意識される。それは己の感覚ではなくて、明確に社会とか世の中に存在する定めにも思えてくるし、何なら『構造』という名を与えてもいいかも知れない。


つまりは『その向こう側』に進もうとすれば、どうあっても困難が付きまとうだろうという事は容易に想像できる。何も私が『決まり』や『掟』を破るわけではない。むしろそういう風に立ち向かおうとする気持ちを忘れたら何にもならない。だからと言って例えば他の国同士のパワーゲームに心が右往左往させられてしまうその現実…というか仕方なさを変えてしまえるかというとそうではない。そんな中でもきっとめいめいがもてる力と情報と人脈を駆使して出来るだけ望む方向に進めるように動いてゆくのだろう。



昼の0時から妙に進みが遅く感じられる時計の針。そこまで強く意識はしていないけれど新しい情報が出されるタイミングに注意させられている自分に気付く。リアルタイムの情報を見なければ見ないで、見たなら見たなりに不都合があるような気がしなくもないなんて、あんまりにも都合よく考えすぎているのは分かっている。ただどうあっても一方的になってしまうのなら、何かしらの悪あがきはしていたい性質(タチ)である。



先日久しぶりに会った友人も捉える『面』は違っていても確かにそこに対して抵抗していたいという意識を有しているのを確認できた事がおそらくは今のこの『モゴモゴ』とした心境になっている。きっと誰に言うわけでもないのに、吐露したい気持ちが溢れている。表現方法というのは一杯あって、あの日の私達がカラオケで熱唱できる曲の歌詞とメロディーに沿わせるが如く心の中の何かを吐き出したのだって立派な表現なのだろう。



<それでいいのか>



こんな時にやっぱりやってくる理想の高い心の声。誰かと約束したのかどうなのか或いは自分との約束なのか、だがそのニュアンスは私を否定しているものというわけではない。そうではなくて、『本当に君はそれだけなのか?』と確かめてくるかのようなトーンである。面倒臭いことに、そこを無視して行くと『感じる』という人間として基本的な事さえ怪しくなりそうな具合である。




ああ、そうだ。私がこんな事を伝えたら伝えられた誰かも困惑してしまう。或いは、少し違うニュアンスに巻き込まれそうだからややこしい。世界はそんなもんだよ、みんなそんなもんだよ、そんなもんだよ。




多分そうなんだろうなと思う。そう納得する事が正しいのかどうか。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



言うなればそんなことを考えているのだ。『彼』は。致し方がない事とはいえ、『彼』に出口を与えてあげなきゃならん。何を遣わせば良いのか。



ムムム…これも中々に難儀よの。言い方の問題かも知れんが、つまりは「何かがある」と思えればよいのじゃ。むー…悩ましい。そうじゃな…適当に近くに居る鳥とかの鳴き声を変調させてみるか。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



そんな事を考えていた時、ちょっとした違和感に襲われた。何が変なのかなと思って静かにしていて原因がその分かった。『鳥』の鳴き声である。それまで何か一定の調子で何か安定していた鳴き声だったのに、どうやら一匹『調子を外してしまった』らしく明らかに暴走気味の鳴き方をしている。



ビービービービーーーーービィーーーー



まるでその鳥自体が戸惑っているかのように必死で鳴いているので流石に私も笑ってしまった。ただ私はそこで気付いた。



「そうなんだよな。この周りにも『生活』があるんだよな」



当たり前のことだ。それが全てなのかと言うと、そうではないのかも知れない。自分を向けてゆくところはもっと豊かにしてくれるものがある所なのではないか。何かしら違う事が私の心に浮かんでくる。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



『彼』が散歩に出掛ける。それでよいのだろうと思う。鳥さんには後でいい場所を教えてやろう。それとなく。

気の早いクリスマス

Posted by なんとかさん on   0  0

静謐な空間。店によってはクリスマスソングが流れている時期だからか、意外と物思いにふけり易くなっている自分を見つける。何かが始まる事もなく過ぎ去ってしまっている時間ではあるけれど、どこかしらそういう雰囲気に対して悪くないなと思えているのは物語チックだからだろうか。行くべき道を仄めかされるように起こり続ける出来事と、こうして静かに椅子に座ったままでも何かをしている気分になってしまう心の対比が妙に現代的である。


『するべきことはある』


確認するように言葉にして捉えてみるが、敢えて必要に迫られている場面を想像してそこに付属させるような響かなさがある。少なくとも今すぐにではなく、後で振り返った時にすべきことがあったなと回想するような必要性を創造している感すらある。いつか何かしようと思ったら、今する事が出てくる。だぶんそういう感覚だろう。



何となくスマホを操作して個人的に気に入っているクリスマスソングのメロディーと雰囲気を確認する。『これだ』と思うような一瞬があって、イントロをちょっと流しただけで満足してしまう。いっそう年の瀬を意識してしまい、つまりは『師走』である。何故か意識が年越しそばを食べるシーンまで先走りして、


<あ、そうだ。そば食べたいな>


と食欲が刺激される。近いうちに食べに行こうと心に決めてからパソコンの前を後にする。その時々のニュースに気分を左右されたくないなと思うようになって意識的に気持ちを外に向けているこの頃は、パソコンでメールやら話題をチェックする段ですら一つの敷居があるように感じる。むかし読んだ社会の教科書でネットがそれほど行き渡っていなかった頃でさえ『情報化社会』がどうで『取捨選別』が必要だという論がお決まりだったけれど、当時の筆者の想定はどれ位のものかは知る由はないけれど確かにこの静謐な空間には似合わない過激な話にどの程度心を揺さぶられた方がいいのかを考えたくなる。


「ありふれてるだろうな…」


こんな思いを抱いてしまう自分の心境すら今やありふれたものなのだろう。『みんな』とは言いたくはないけれど、「もういいや」となりかけるこの心が世間と比べて変だというのなら自分はハナから共感されないだろうなとすら思ってしまう。そういう世界だとは思いたくないから共感を求めると言った方が正しいのかも知れない。少なくとも理解ができるようにあって欲しいという願いなのだ。



それに思い当たった辺りで割合分析が行き届いている事を実感して、今度こそ本当に気持ちを外に向ける。外、つまり冷たい風が吹き付けているであろう外である。昼過ぎで陽は照ってるくせにあまりその効果を感じないから、いざ外出しようとするとこれまた別の『敷居』が生じる。



幾つの域を跨げば『直接行動』という手段に出るのか。今やそんな時代である。いや、無理に外に出る必要はないのだが、散々いやいや言ってるくせに外に出ていかないというのも一貫していないから、これは一つの反逆なのである。勿論動き回る事が全て正しいというわけではない。ただ何か理由を探して出掛けるという事が少なくとも今の自分には必要なだけである。




いや…何かに出会う事が必要だと言った方が正しいだろうか。けれど考えみるとそれこそみんな引き籠っているような状況で、どうやって何かに出会うのだろう。物理的に無理じゃないだろうか。そんな『頭』である。



ブブブ



その時突然スマホが震える。SNS上でやり取りしている友人からの写真入りのメッセージである。


「ほぅ…あそこに店オープンしたのか…」


何でも友人がその店に関わっているらしく、『一度行ってみてくれ』と勧められた。今はこの辺りには珍しくなっている喫茶店だそうで、共通の趣味を持つ友人の勧めだから『何か』があるのかも知れない。『頭』がそういう事をイメージしてしまうと善は急げモードである。さっそく最近またお世話になり始めたジャンパーを羽織っている自分が居た。



☆☆☆☆☆



喫茶店は車で12、3分程度の所にある。外装がブラウンが基調で意外に地味なのだけれど「雅~MIYABI~」という屋号が映えて「いかにも」という感じを暗示している。周囲は最近妙に栄えてきたせいで各種の商業施設に加えて工事も多く、ここに新店が構えられているのは気付かなかった。とりあえず駐車場から店内に移動する。



友人の紹介とは言え『場違い感』が出ないようにと祈ったのだが、全然そうじゃない。それほど大きくはないが落ち着ける感じで、むしろ目を引いたのは…


「わあ…『本』が一杯ですね」



ちょっと大袈裟な言葉が出てしまったけれど「いらっしゃいませ」とカウンター越しに笑顔で迎えてくれる店員の女性にそう話しかけていた。店内の至る所に自由に読んで良いという風に本が所狭しと置かれている特殊な空間である。



「ええ、オーナーが『書痴』とか『ビブリオマニア』とかそういう種類の人なんです」


あっさりと言ってのける店員さんの言動に若干圧倒されながら、その言葉からまだ見ぬ店主の風貌を想像する。何故か髭もじゃで、和服…『甚平』を着ているイメージが出てきたのは自分も何かに毒されているかも知れない。圧倒されていたけれど店には既に先客が何名か居て、彼らはしっかりこの空間に溶け込んで自然体で本のページを捲っていた。妙に洗練されていてどうやらファッションについては少し自分の方が『場違い感』があったかも知れない。



とにもかくにも注文しない事には始まらないと思い、適当な所に座って(コンセプトからして座って良いみたいなので)、珈琲とケーキを注文してみる。しばらく自分の所有している本とは少し異質な本のタイトルに見惚れながら一応店員さんに訊いてみる。


「これって自由に読んでも良いって事ですよね?」



すると店員さんが「はい」と言ってから、


「でも一つ条件があります」


と付け加えた。何だろうなと思ったがそれは意外なものだった。


「読んだ本について感想文、短いレビューを書いて下さい」


「おお!」


これには思わず感心してしまった。そういうシステムは確かにあり得るのかもなと思ったからである。念のため、


「それは何かに利用されるんですか?」


とも訊ねたけれどこれにも秀逸な答えが返ってきた。それは店に来た人同士でレビューを自由に読めるようにパソコンでデータベースを作っているそうなのだ。記入方法は?とか細々とした質問をしてゆくと、どうやら専用の小さな用紙に記入したものを元にオーナーが手入力でそれぞれのレビューを付け加えてゆくそうである。ただこれには一つ問題があって…


「本を一冊全部読んでからになると中々書けないんじゃないですか?」


この質問に対して店員さんが答えようとした時、


「何でもいいんです。本の中の気になった文章だけでもいいんです」


と奥の方からオーナーらしき人が現れて答えた。オーナーと思われる人の姿は予想とは全然違っていて明らかにオシャレなタイプの人で、少し歳のいっているダンディーな人だった。


「ああ、どうも。実は〇〇の紹介でここに来てみたんですよ」


と友人の名を出すと「これはこれは…」とちょっと驚いた様子で、


「〇〇さんにはお世話になりました。開店にあたって色々アドバイスしていただきましたし、〇〇さんも本が好きだから話が合いましてね。そうですかそうですか」


と嬉しそうに語ってくれた。何だか自分も手伝ったような感覚になり、


「こういう所にこういうお店が出来ると私としても嬉しいです」


と思ったままを述べる。


「是非何度もいらしてください。あ、そうそうパソコンのデータベースについてですが」


店主そう言うとパソコンを指さしながらにっこり笑ってこんな風に言った。


「一応ネットでも公開しています。実はここの店にある本は私は一度全部読んでいます。つまりレビューは最低一つはあるという事ですね」


流石は『書痴』を名乗る(?)だけの事はあるなと思った。そこで何となく対抗心が沸き上がってきたので何か本を読んでみようと思った。むしろあり過ぎてどの棚から選んでいいのかも分からないがタイトルで「クリスマス・キャロル」を選んでみた。ディケンズの小説という知識はあって書店で見るたびに読もうかな読もうかなと思っていて読んでなかった作品である。むしろこういう状況だからこそ読みたくなる。


「お…それを選びましたか!」


「はい。ちょっと直ぐには読めないと思いますが読んでみます」


「どうぞごゆっくり」


読み始めるとある事に気付いた。この雰囲気だからだろうか異様に捗るという事である。


<これは…>


しばらく読んでおもむろに本を閉じる。そしていつの間にか運ばれていたチョコレートケーキと珈琲を頂いてしまってからカウンターに近付いて店主にこう告げる。


「あの、私完全に読書モードになってしまいました」


「あ、そうですか。それは良かった」


少し言い難そうにこう付け加える。


「なってしまって私もこの本が欲しくなってしまったんです」


「あらら…」


「それで、これを宿題にさせていただくというのはどうでしょうか?」


「宿題ですか?」


戸惑っている店主と店員さんにこう説明する。


「本好きとして私もレビューを書きたいのですが、性格上どうも中途半端なのは嫌なんですよね。というわけで、自分もこの本を買ってからレビューを仕上げてきます」


「なるほど。そういうパターンもありますね」


ちょっと意外だったという風に言う店主。そう言って少しして店を後にしてから、そのままその近くにある書店に直行し同じ本を探す。考えてみると一連の行動は「そんなことをしなくてもいい」ものなのかも知れない。けれど家に戻ってから新品の本をコタツの上で読んでいるとこんな事を思うのである。


<こういう面倒でも自分を動かしてくれる何かを求めていたんだな>



自分を動かしてくれるもの。結局インドア的でも、またアウトドアに繋がってゆくようなインドアなもの。つまりは『流れ』である。気が早いがこれは、


『クリスマスプレゼント』


なんだろうなと思う。大人のね。店主のレビューはまだ読まないでおく。

贈り物

Posted by なんとかさん on   0  0

瞼を瞑ってその上から眩しそうに両足(手)をかぶせている『ユメ』を眺めていると、なんだかこの上なく幸せな気分になる。本当に夢の世界からやって来たみたいに白い毛並みが綺麗で、見事にピンクの肉球のその猫は「天使」からの贈り物なのだ。


☆☆☆☆☆☆☆


夏の終わりが近付いてきていたその日、わたしは朝のテレビの占いが思いのほか良くなかったのを見てすぐに「見るんじゃなかった」と思った。でも見てしまったものは仕方ないので、そういう時用に見ている占いのサイトで『帳消し』にしてしまおうと決めた。


「ほら、大丈夫」


思った通りその占いでは堂々の第一位で、内容も「新しい出会いあり」というとてもポジティブなものになっている。それで気を良くしたちょっとばかりゲンキンなわたしはそのままの気持ちで玄関のドアを開けた。



っていう感じだったのに、出てすぐ隣のドアから出てきた気難しい表情の加藤さん(女性)にかち合ってしまったのは運が悪いとしか言いようがない。加藤さんはそのまま私の方を見て、


「おはよう」


と言ってくれたんだけど、そこからが大変。


「本田さん…あのね、わたしね…」


といつものように通路を渡って階段を降りながら要領を得ない漠然とした話を聞かされる。ネガティブというわけでもないし、ポジティブというわけでもないし、なんとも言えないのだけれどそれがかえって印象に残ってしまって、すこし困っているのだけれど加藤さんには入居当初にお世話になっているし邪険にしたらいけないなぁと思っていて、結果的にこういう関係が続いている。



「女哲学者!!」


解放されて会社に向かっている時にわたしの頭に浮かんだ言葉がそれだった。加藤さんはとにかく世の中の難しいことについて必死に考えているんだろうなと思う。眼鏡は掛けているけど顔がとても整っていて、柔らかな表情になれば絶対モテると思うのに、あんなにいつも眉根を寄せてたんじゃ逆に近寄りがたくなってしまう。たぶん、周りの人もそれに戸惑って余計色々気難しくなってしまってるんじゃないだろうか、なんて想像してみた。



そういう事を考えたりしていると


<世の中色々こじれてるなぁ>


って思えてくる。わたしだって理想を追い求めて都会に出てきて、欲しかったものが手に入っているかっていうと休日なんかはスマホを見ているだけとか、あまり夢のない生活になりがち。それじゃダメだって思って最近では積極的に外に出るようにしているけれど、探しているものがどこにあるのか分からなくなることがある。でも同じように感じている人も世の中にはいるみたいで、時々そういう人に出会うと意気投合できたり。



悪くはないんだけどね。でも、少なくとも週の始まりにこんな事を考えていては勿体ない。そう気付いて「いかんいかん」と頭を振って気持ちを切り替える。ただ認めたくはないけれど、テレビの方の占いは的中しかかっている感じ。



☆☆☆☆☆☆



月曜日のミーティングで10月に変わる制度についての周知とか、幾つかあったクレームについての報告などがあって、気を引き締めなきゃいけないなと思っていたけれど、基本的には通常通りに仕事が進んで職場の話題もなんとなく薄くなりがち。仕事は仕事としてきっちりしていた方がいいと思うのだけれど、合間に会話が無くなってくるとどうもやり難いと感じてしまう。


かといって自分から振っていける話はないし…まさか加藤さんの話をするわけにもいかないし、やっぱり占いにあったように『新しい出会い』が欲しいなと思いながら作業をしていた。



定刻になって帰宅する時にちょっとだけ誰かに誘われたりしないかなとか思ったりしたけれど、あまりそういう雰囲気でもなさそうだったので個人的にちょっと寄り道をして行こうと思い立った。寄り道と言っても、パッと浮かぶところがなくて気が付くと行きなれている図書館の方に足が動いていた。



辿り着いて思うのはわたしは図書館で本を借りたいという事ではなくて、図書館の雰囲気が好きなんだってこと。もともと地元には通える距離にある図書館が無くて、わたしの中で「都会」=「オシャレな図書館」というイメージが出来上がっていて、そのイメージにぴったりの図書館を見つけた時には胸が高鳴った。わたしのちょっとした妄想は、その図書館の中庭の木の下で誰かと語り合うというものだけれど、現実にはその整備の行き届いた中庭の人がいる光景を見た事が無い。


<綺麗な夕日…>


中庭はその時間紅い夕陽に照らされていて、ノスタルジックな雰囲気に彩られていた。その時、わたしは誰もいないと思っていた木の下のベンチに誰かが座っているのを見つけた。それが細身で、薄手の白い長袖のシャツを着た男性だと分かったのは、思わずその人のそばに近づいてしまった時だ。


「こんにちは」


そう清んだ声を掛けられて、わたしは不用意に接近してしまったと気付いた。しまった、と思ったけれどその人はまるでわたしがそこに来るのが分かっていたかのように優しい瞳で静かに見つめてくれている。その人は男の人だったけれどまるで加藤さんのように顔が綺麗に整っていて透けるように白く、離れてみても肌の肌理も細かいんじゃないかと思う。影と夕陽の陰影で、一層美しく見える表情にわたしは心奪われた…と言っても良かった。



ただ、何だかあんまりにも現実離れしているように思えて、呆然としていたのかも知れない。


「こんばんは…」


「あ、もうそんな時間だったか。こんばんは」


「あの、いつもこの時間に来てたりするんですか?」


「静かで目立たない所だからね。ここだったらいいかなって思って」


「そうなんですか」


今思うとこの何気ない手探り段階の会話にも色んな秘密が隠れていたのかも知れない。彼はわたしがベンチに座るのを待って、こんなことを言った。


「僕はね、信じてもらえないかもしれないけど天使なんです」


「え?」


「ただ、人間世界に現れる時には普通の人になってしまうんです」


「普通ですか…」


『普通にしてはとんでもなく美男子なんですけど…』とうっかり口にしそうになったけど、その雰囲気からしてもしかしたら本当に天使なんじゃないかなと思ってしまっていた。今思い出すけれど凄くいい匂いがしていたし、こんな人が現実に居たら街中でスカウトされてすぐに有名人になっちゃうなと、妙に現実的な事が浮かんできたからだ。


「ふふっ…」


その時、彼がいきなり吹き出してしまったのでわたしは少し戸惑ってしまった。


「ごめんね。色々戸惑わせてしまうかも知れないから、先に謝らせてね」


「え…」


「今日はね、なんていうか僕が貴女と話がしてみたかったから現れてみたんです」


「わたしとですか?」


「最近、困った事はない?」


「困った事ですか。まああると言えばありますけど」


不用意かも知れないけれどわたしは加藤さんの事を話していた。その間彼はじっとわたしの言葉に耳を澄ませるように聴いてくれていた。話し終えて少し間があって、彼はこんな風に言った。


「いい解決方法があるんですが、それには一つお願いがあります」


「お願いですか…」


お願いという言葉にさすがに身構えそうになったわたしを見て、


「でもたぶん、貴女も気に入ってくれると思います」


と謎めいた発言をした彼。それから彼の『着いてきて下さい』という言葉に従って歩いてゆく。意外にもわたしの家からそんなに遠くない場所にある2階建のアパートで立ち止まった。


「ちょっと待ってて下さい」


「はい」


ひょこひょこ着いてきてしまった事を後で反省したものの、その時はそんなことを考える間もなくすぐに彼が段ボール慎重に抱えて戻ってきていた。


「中を静かに見てみてください」


言われてのぞき込むと、そこには…白い猫が。彼はその子を「ユメ」と呼んでいた。彼の『お願い』とはその猫を飼って欲しいという事だった。幸いにもわたしは猫の飼えるアパートに住んでいた。


☆☆☆☆☆



「あなたも不用意ね…それでそのままこの子を飼うって半分騙されたみたいなものだよ」


その日の夜、わたしの部屋に加藤さんが訪れていた。


「でも…加藤さん弟さんが居たんですね…しかもイケメン」


「わたしが本田さんの事を不用意に話したのが良くなかったんだけどね…」


「お姉さん想いの良い弟さんじゃないですか」



『ユメ』を愛でながら無類の猫好きだった加藤さんと話をしているけれど、わたし達は先ほどまで「謎解き」をしていた。自分を「天使」だと名乗った彼は別れ際「加藤さん」が猫が好きな筈だから今日の事を話してみて、とわたしに告げた。『天使』という事を半分信じていたのと猫の事をあまりよく知らないので加藤さんに相談してみようと思ったのも彼の狙い通りだったらしい。



『天使』の彼は加藤さんの弟だった。じゃあ加藤さんも『天使』?そういうわけではなく、話としては学生である加藤さんの弟さんは近くのアパートに住んでいて、そこでは猫が飼えなかった。そして弟さんは加藤さんからわたしの話を聞いていた。わたし達のアパートは猫が飼えるという事が分かっていた。だったら加藤さんに頼めばいいという話なんだけど、そこから弟さんが謎の行動に出た。


「貴女とは前にこのアパートの前ですれ違っていたって言ってた。学生だからあの図書館も立ち寄って、貴女がよく来る事に気付いたんだよ」


「うまく出来てますね。それでわたしに接触したと…」


ただそれでも分からない事があった。


「どうしてわたしに頼んだんでしょうか?」


「貴女と話してみたかったからじゃないの?言ってた通り」


「どうして?」


「…」


わたしを見つめるその視線はとても複雑そうなものだったけれど、なにはともあれわたしは『天使』から譲り受けたこの『ユメ』を大事にしようと思っている。加藤さんは「なーにが『天使』よ」と呟いていた。

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