FC2ブログ

ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

気の早いクリスマス

Posted by なんとかさん on   0  0

静謐な空間。店によってはクリスマスソングが流れている時期だからか、意外と物思いにふけり易くなっている自分を見つける。何かが始まる事もなく過ぎ去ってしまっている時間ではあるけれど、どこかしらそういう雰囲気に対して悪くないなと思えているのは物語チックだからだろうか。行くべき道を仄めかされるように起こり続ける出来事と、こうして静かに椅子に座ったままでも何かをしている気分になってしまう心の対比が妙に現代的である。


『するべきことはある』


確認するように言葉にして捉えてみるが、敢えて必要に迫られている場面を想像してそこに付属させるような響かなさがある。少なくとも今すぐにではなく、後で振り返った時にすべきことがあったなと回想するような必要性を創造している感すらある。いつか何かしようと思ったら、今する事が出てくる。だぶんそういう感覚だろう。



何となくスマホを操作して個人的に気に入っているクリスマスソングのメロディーと雰囲気を確認する。『これだ』と思うような一瞬があって、イントロをちょっと流しただけで満足してしまう。いっそう年の瀬を意識してしまい、つまりは『師走』である。何故か意識が年越しそばを食べるシーンまで先走りして、


<あ、そうだ。そば食べたいな>


と食欲が刺激される。近いうちに食べに行こうと心に決めてからパソコンの前を後にする。その時々のニュースに気分を左右されたくないなと思うようになって意識的に気持ちを外に向けているこの頃は、パソコンでメールやら話題をチェックする段ですら一つの敷居があるように感じる。むかし読んだ社会の教科書でネットがそれほど行き渡っていなかった頃でさえ『情報化社会』がどうで『取捨選別』が必要だという論がお決まりだったけれど、当時の筆者の想定はどれ位のものかは知る由はないけれど確かにこの静謐な空間には似合わない過激な話にどの程度心を揺さぶられた方がいいのかを考えたくなる。


「ありふれてるだろうな…」


こんな思いを抱いてしまう自分の心境すら今やありふれたものなのだろう。『みんな』とは言いたくはないけれど、「もういいや」となりかけるこの心が世間と比べて変だというのなら自分はハナから共感されないだろうなとすら思ってしまう。そういう世界だとは思いたくないから共感を求めると言った方が正しいのかも知れない。少なくとも理解ができるようにあって欲しいという願いなのだ。



それに思い当たった辺りで割合分析が行き届いている事を実感して、今度こそ本当に気持ちを外に向ける。外、つまり冷たい風が吹き付けているであろう外である。昼過ぎで陽は照ってるくせにあまりその効果を感じないから、いざ外出しようとするとこれまた別の『敷居』が生じる。



幾つの域を跨げば『直接行動』という手段に出るのか。今やそんな時代である。いや、無理に外に出る必要はないのだが、散々いやいや言ってるくせに外に出ていかないというのも一貫していないから、これは一つの反逆なのである。勿論動き回る事が全て正しいというわけではない。ただ何か理由を探して出掛けるという事が少なくとも今の自分には必要なだけである。




いや…何かに出会う事が必要だと言った方が正しいだろうか。けれど考えみるとそれこそみんな引き籠っているような状況で、どうやって何かに出会うのだろう。物理的に無理じゃないだろうか。そんな『頭』である。



ブブブ



その時突然スマホが震える。SNS上でやり取りしている友人からの写真入りのメッセージである。


「ほぅ…あそこに店オープンしたのか…」


何でも友人がその店に関わっているらしく、『一度行ってみてくれ』と勧められた。今はこの辺りには珍しくなっている喫茶店だそうで、共通の趣味を持つ友人の勧めだから『何か』があるのかも知れない。『頭』がそういう事をイメージしてしまうと善は急げモードである。さっそく最近またお世話になり始めたジャンパーを羽織っている自分が居た。



☆☆☆☆☆



喫茶店は車で12、3分程度の所にある。外装がブラウンが基調で意外に地味なのだけれど「雅~MIYABI~」という屋号が映えて「いかにも」という感じを暗示している。周囲は最近妙に栄えてきたせいで各種の商業施設に加えて工事も多く、ここに新店が構えられているのは気付かなかった。とりあえず駐車場から店内に移動する。



友人の紹介とは言え『場違い感』が出ないようにと祈ったのだが、全然そうじゃない。それほど大きくはないが落ち着ける感じで、むしろ目を引いたのは…


「わあ…『本』が一杯ですね」



ちょっと大袈裟な言葉が出てしまったけれど「いらっしゃいませ」とカウンター越しに笑顔で迎えてくれる店員の女性にそう話しかけていた。店内の至る所に自由に読んで良いという風に本が所狭しと置かれている特殊な空間である。



「ええ、オーナーが『書痴』とか『ビブリオマニア』とかそういう種類の人なんです」


あっさりと言ってのける店員さんの言動に若干圧倒されながら、その言葉からまだ見ぬ店主の風貌を想像する。何故か髭もじゃで、和服…『甚平』を着ているイメージが出てきたのは自分も何かに毒されているかも知れない。圧倒されていたけれど店には既に先客が何名か居て、彼らはしっかりこの空間に溶け込んで自然体で本のページを捲っていた。妙に洗練されていてどうやらファッションについては少し自分の方が『場違い感』があったかも知れない。



とにもかくにも注文しない事には始まらないと思い、適当な所に座って(コンセプトからして座って良いみたいなので)、珈琲とケーキを注文してみる。しばらく自分の所有している本とは少し異質な本のタイトルに見惚れながら一応店員さんに訊いてみる。


「これって自由に読んでも良いって事ですよね?」



すると店員さんが「はい」と言ってから、


「でも一つ条件があります」


と付け加えた。何だろうなと思ったがそれは意外なものだった。


「読んだ本について感想文、短いレビューを書いて下さい」


「おお!」


これには思わず感心してしまった。そういうシステムは確かにあり得るのかもなと思ったからである。念のため、


「それは何かに利用されるんですか?」


とも訊ねたけれどこれにも秀逸な答えが返ってきた。それは店に来た人同士でレビューを自由に読めるようにパソコンでデータベースを作っているそうなのだ。記入方法は?とか細々とした質問をしてゆくと、どうやら専用の小さな用紙に記入したものを元にオーナーが手入力でそれぞれのレビューを付け加えてゆくそうである。ただこれには一つ問題があって…


「本を一冊全部読んでからになると中々書けないんじゃないですか?」


この質問に対して店員さんが答えようとした時、


「何でもいいんです。本の中の気になった文章だけでもいいんです」


と奥の方からオーナーらしき人が現れて答えた。オーナーと思われる人の姿は予想とは全然違っていて明らかにオシャレなタイプの人で、少し歳のいっているダンディーな人だった。


「ああ、どうも。実は〇〇の紹介でここに来てみたんですよ」


と友人の名を出すと「これはこれは…」とちょっと驚いた様子で、


「〇〇さんにはお世話になりました。開店にあたって色々アドバイスしていただきましたし、〇〇さんも本が好きだから話が合いましてね。そうですかそうですか」


と嬉しそうに語ってくれた。何だか自分も手伝ったような感覚になり、


「こういう所にこういうお店が出来ると私としても嬉しいです」


と思ったままを述べる。


「是非何度もいらしてください。あ、そうそうパソコンのデータベースについてですが」


店主そう言うとパソコンを指さしながらにっこり笑ってこんな風に言った。


「一応ネットでも公開しています。実はここの店にある本は私は一度全部読んでいます。つまりレビューは最低一つはあるという事ですね」


流石は『書痴』を名乗る(?)だけの事はあるなと思った。そこで何となく対抗心が沸き上がってきたので何か本を読んでみようと思った。むしろあり過ぎてどの棚から選んでいいのかも分からないがタイトルで「クリスマス・キャロル」を選んでみた。ディケンズの小説という知識はあって書店で見るたびに読もうかな読もうかなと思っていて読んでなかった作品である。むしろこういう状況だからこそ読みたくなる。


「お…それを選びましたか!」


「はい。ちょっと直ぐには読めないと思いますが読んでみます」


「どうぞごゆっくり」


読み始めるとある事に気付いた。この雰囲気だからだろうか異様に捗るという事である。


<これは…>


しばらく読んでおもむろに本を閉じる。そしていつの間にか運ばれていたチョコレートケーキと珈琲を頂いてしまってからカウンターに近付いて店主にこう告げる。


「あの、私完全に読書モードになってしまいました」


「あ、そうですか。それは良かった」


少し言い難そうにこう付け加える。


「なってしまって私もこの本が欲しくなってしまったんです」


「あらら…」


「それで、これを宿題にさせていただくというのはどうでしょうか?」


「宿題ですか?」


戸惑っている店主と店員さんにこう説明する。


「本好きとして私もレビューを書きたいのですが、性格上どうも中途半端なのは嫌なんですよね。というわけで、自分もこの本を買ってからレビューを仕上げてきます」


「なるほど。そういうパターンもありますね」


ちょっと意外だったという風に言う店主。そう言って少しして店を後にしてから、そのままその近くにある書店に直行し同じ本を探す。考えてみると一連の行動は「そんなことをしなくてもいい」ものなのかも知れない。けれど家に戻ってから新品の本をコタツの上で読んでいるとこんな事を思うのである。


<こういう面倒でも自分を動かしてくれる何かを求めていたんだな>



自分を動かしてくれるもの。結局インドア的でも、またアウトドアに繋がってゆくようなインドアなもの。つまりは『流れ』である。気が早いがこれは、


『クリスマスプレゼント』


なんだろうなと思う。大人のね。店主のレビューはまだ読まないでおく。

スポンサーサイト



贈り物

Posted by なんとかさん on   0  0

瞼を瞑ってその上から眩しそうに両足(手)をかぶせている『ユメ』を眺めていると、なんだかこの上なく幸せな気分になる。本当に夢の世界からやって来たみたいに白い毛並みが綺麗で、見事にピンクの肉球のその猫は「天使」からの贈り物なのだ。


☆☆☆☆☆☆☆


夏の終わりが近付いてきていたその日、わたしは朝のテレビの占いが思いのほか良くなかったのを見てすぐに「見るんじゃなかった」と思った。でも見てしまったものは仕方ないので、そういう時用に見ている占いのサイトで『帳消し』にしてしまおうと決めた。


「ほら、大丈夫」


思った通りその占いでは堂々の第一位で、内容も「新しい出会いあり」というとてもポジティブなものになっている。それで気を良くしたちょっとばかりゲンキンなわたしはそのままの気持ちで玄関のドアを開けた。



っていう感じだったのに、出てすぐ隣のドアから出てきた気難しい表情の加藤さん(女性)にかち合ってしまったのは運が悪いとしか言いようがない。加藤さんはそのまま私の方を見て、


「おはよう」


と言ってくれたんだけど、そこからが大変。


「本田さん…あのね、わたしね…」


といつものように通路を渡って階段を降りながら要領を得ない漠然とした話を聞かされる。ネガティブというわけでもないし、ポジティブというわけでもないし、なんとも言えないのだけれどそれがかえって印象に残ってしまって、すこし困っているのだけれど加藤さんには入居当初にお世話になっているし邪険にしたらいけないなぁと思っていて、結果的にこういう関係が続いている。



「女哲学者!!」


解放されて会社に向かっている時にわたしの頭に浮かんだ言葉がそれだった。加藤さんはとにかく世の中の難しいことについて必死に考えているんだろうなと思う。眼鏡は掛けているけど顔がとても整っていて、柔らかな表情になれば絶対モテると思うのに、あんなにいつも眉根を寄せてたんじゃ逆に近寄りがたくなってしまう。たぶん、周りの人もそれに戸惑って余計色々気難しくなってしまってるんじゃないだろうか、なんて想像してみた。



そういう事を考えたりしていると


<世の中色々こじれてるなぁ>


って思えてくる。わたしだって理想を追い求めて都会に出てきて、欲しかったものが手に入っているかっていうと休日なんかはスマホを見ているだけとか、あまり夢のない生活になりがち。それじゃダメだって思って最近では積極的に外に出るようにしているけれど、探しているものがどこにあるのか分からなくなることがある。でも同じように感じている人も世の中にはいるみたいで、時々そういう人に出会うと意気投合できたり。



悪くはないんだけどね。でも、少なくとも週の始まりにこんな事を考えていては勿体ない。そう気付いて「いかんいかん」と頭を振って気持ちを切り替える。ただ認めたくはないけれど、テレビの方の占いは的中しかかっている感じ。



☆☆☆☆☆☆



月曜日のミーティングで10月に変わる制度についての周知とか、幾つかあったクレームについての報告などがあって、気を引き締めなきゃいけないなと思っていたけれど、基本的には通常通りに仕事が進んで職場の話題もなんとなく薄くなりがち。仕事は仕事としてきっちりしていた方がいいと思うのだけれど、合間に会話が無くなってくるとどうもやり難いと感じてしまう。


かといって自分から振っていける話はないし…まさか加藤さんの話をするわけにもいかないし、やっぱり占いにあったように『新しい出会い』が欲しいなと思いながら作業をしていた。



定刻になって帰宅する時にちょっとだけ誰かに誘われたりしないかなとか思ったりしたけれど、あまりそういう雰囲気でもなさそうだったので個人的にちょっと寄り道をして行こうと思い立った。寄り道と言っても、パッと浮かぶところがなくて気が付くと行きなれている図書館の方に足が動いていた。



辿り着いて思うのはわたしは図書館で本を借りたいという事ではなくて、図書館の雰囲気が好きなんだってこと。もともと地元には通える距離にある図書館が無くて、わたしの中で「都会」=「オシャレな図書館」というイメージが出来上がっていて、そのイメージにぴったりの図書館を見つけた時には胸が高鳴った。わたしのちょっとした妄想は、その図書館の中庭の木の下で誰かと語り合うというものだけれど、現実にはその整備の行き届いた中庭の人がいる光景を見た事が無い。


<綺麗な夕日…>


中庭はその時間紅い夕陽に照らされていて、ノスタルジックな雰囲気に彩られていた。その時、わたしは誰もいないと思っていた木の下のベンチに誰かが座っているのを見つけた。それが細身で、薄手の白い長袖のシャツを着た男性だと分かったのは、思わずその人のそばに近づいてしまった時だ。


「こんにちは」


そう清んだ声を掛けられて、わたしは不用意に接近してしまったと気付いた。しまった、と思ったけれどその人はまるでわたしがそこに来るのが分かっていたかのように優しい瞳で静かに見つめてくれている。その人は男の人だったけれどまるで加藤さんのように顔が綺麗に整っていて透けるように白く、離れてみても肌の肌理も細かいんじゃないかと思う。影と夕陽の陰影で、一層美しく見える表情にわたしは心奪われた…と言っても良かった。



ただ、何だかあんまりにも現実離れしているように思えて、呆然としていたのかも知れない。


「こんばんは…」


「あ、もうそんな時間だったか。こんばんは」


「あの、いつもこの時間に来てたりするんですか?」


「静かで目立たない所だからね。ここだったらいいかなって思って」


「そうなんですか」


今思うとこの何気ない手探り段階の会話にも色んな秘密が隠れていたのかも知れない。彼はわたしがベンチに座るのを待って、こんなことを言った。


「僕はね、信じてもらえないかもしれないけど天使なんです」


「え?」


「ただ、人間世界に現れる時には普通の人になってしまうんです」


「普通ですか…」


『普通にしてはとんでもなく美男子なんですけど…』とうっかり口にしそうになったけど、その雰囲気からしてもしかしたら本当に天使なんじゃないかなと思ってしまっていた。今思い出すけれど凄くいい匂いがしていたし、こんな人が現実に居たら街中でスカウトされてすぐに有名人になっちゃうなと、妙に現実的な事が浮かんできたからだ。


「ふふっ…」


その時、彼がいきなり吹き出してしまったのでわたしは少し戸惑ってしまった。


「ごめんね。色々戸惑わせてしまうかも知れないから、先に謝らせてね」


「え…」


「今日はね、なんていうか僕が貴女と話がしてみたかったから現れてみたんです」


「わたしとですか?」


「最近、困った事はない?」


「困った事ですか。まああると言えばありますけど」


不用意かも知れないけれどわたしは加藤さんの事を話していた。その間彼はじっとわたしの言葉に耳を澄ませるように聴いてくれていた。話し終えて少し間があって、彼はこんな風に言った。


「いい解決方法があるんですが、それには一つお願いがあります」


「お願いですか…」


お願いという言葉にさすがに身構えそうになったわたしを見て、


「でもたぶん、貴女も気に入ってくれると思います」


と謎めいた発言をした彼。それから彼の『着いてきて下さい』という言葉に従って歩いてゆく。意外にもわたしの家からそんなに遠くない場所にある2階建のアパートで立ち止まった。


「ちょっと待ってて下さい」


「はい」


ひょこひょこ着いてきてしまった事を後で反省したものの、その時はそんなことを考える間もなくすぐに彼が段ボール慎重に抱えて戻ってきていた。


「中を静かに見てみてください」


言われてのぞき込むと、そこには…白い猫が。彼はその子を「ユメ」と呼んでいた。彼の『お願い』とはその猫を飼って欲しいという事だった。幸いにもわたしは猫の飼えるアパートに住んでいた。


☆☆☆☆☆



「あなたも不用意ね…それでそのままこの子を飼うって半分騙されたみたいなものだよ」


その日の夜、わたしの部屋に加藤さんが訪れていた。


「でも…加藤さん弟さんが居たんですね…しかもイケメン」


「わたしが本田さんの事を不用意に話したのが良くなかったんだけどね…」


「お姉さん想いの良い弟さんじゃないですか」



『ユメ』を愛でながら無類の猫好きだった加藤さんと話をしているけれど、わたし達は先ほどまで「謎解き」をしていた。自分を「天使」だと名乗った彼は別れ際「加藤さん」が猫が好きな筈だから今日の事を話してみて、とわたしに告げた。『天使』という事を半分信じていたのと猫の事をあまりよく知らないので加藤さんに相談してみようと思ったのも彼の狙い通りだったらしい。



『天使』の彼は加藤さんの弟だった。じゃあ加藤さんも『天使』?そういうわけではなく、話としては学生である加藤さんの弟さんは近くのアパートに住んでいて、そこでは猫が飼えなかった。そして弟さんは加藤さんからわたしの話を聞いていた。わたし達のアパートは猫が飼えるという事が分かっていた。だったら加藤さんに頼めばいいという話なんだけど、そこから弟さんが謎の行動に出た。


「貴女とは前にこのアパートの前ですれ違っていたって言ってた。学生だからあの図書館も立ち寄って、貴女がよく来る事に気付いたんだよ」


「うまく出来てますね。それでわたしに接触したと…」


ただそれでも分からない事があった。


「どうしてわたしに頼んだんでしょうか?」


「貴女と話してみたかったからじゃないの?言ってた通り」


「どうして?」


「…」


わたしを見つめるその視線はとても複雑そうなものだったけれど、なにはともあれわたしは『天使』から譲り受けたこの『ユメ』を大事にしようと思っている。加藤さんは「なーにが『天使』よ」と呟いていた。

見つめられて

Posted by なんとかさん on   0  0

地道にという方法、もしくはモットー以外に続かせる事ができないという捉え方はそれほど間違ってはいないと思う。『意気』とでもいうのだろうか、絶え間なく押し寄せてくる荒っぽさに立ち向かっているものは。煩わされるとどうにも無駄口が多くなってきそうで悩ましい限りで、できるだけ素朴な喜びに向かってゆきたいのは誰しも同じことなのかも知れない。


『どうしたの?浮かない表情で』


なんとなく猫がそんな風に僕を見つめている。見つめられているという事は、そういう自分がいるという事。その視線に対してどう応えようというのだろう。僕は自然に彼の頭を撫でていた。


「心配する事はないよ。ありがとね」



口を閉じて目を細めている彼を見て何かを紛らわせるようにおやつをあげる事にした僕。ところがどっこい、丁度切らしていた。キッチンに誘導しておいて思わせぶりな事をしてしまった為、何だか申し訳ない気持ちになった。


<そこはやっぱり買いに行くべきでしょう!>


何故だかこういう事には異様にアクティブになる心の中の熱血おじさんが急遽立ち上がる。


「ちいっと待ってな!」


そう言って車のキーをひょいと掴んでそそくさと出てゆく。既に夜の7時を過ぎていて、この時間に買い物に出かける事は珍しいけれど、そこに何かしら『爽やかさ』のようなものが感じられる。


だだっ広い駐車場のはずれに車を停めて、その上空に広がっている妨げられることのない空を見上げる。星が満天で『胸がすく』というのはこういう事を言うんじゃないかと思ったりした。それでもって店に入って、結構多めに猫のおやつを買い物かごに放り込んで、まあ自分にもちょっとくらいはいいかなと思って適当なつまみとそれを「あて」にする為の液体を少々足させてもらって、いざ会計にという具合。


<なんだか、買い物もあっという間だなぁ>


買いに来てもそれほど余計なものが欲しくなる事が無いという性質は喜ぶべきなのか、欲しいものがないという事に哀愁を漂わせるべきなのか一考しながら、今やどこもかしこも右習えでセルフ化されているレジでバーコードを読み取ってもらってお札を吸い込んでもらう。


そこに情緒がないといえば情緒がないのかも知れないけれど、


<てやんでい、情緒というものは自分で産み出すんだぜ>


なんてちょっとテンションが変になっている頭は気の利いた言葉を生み出す。それもそれでよい。



車に移動するまでまた名残惜しそうに夜空を眺めているうちに、あるメロディーが心の中に響いてきた。


「あー、あの曲か…」


世代は全然違うけれど『坂本九』さん。遅まきながらもしかしたら自分もそこに合流できたのかもな、なんて思ったりした。何故かこの気持ちは大事だなと思ったので現代っ子っぽさを発揮してスマホから即決で曲を購入して、車のBluetoothで流しながら帰ったとさ…。



というところで綺麗に終わった方が良いのか、それとも家に帰ってきて、待ちわびていたのか限界で出迎えてくれた愛猫におやつをたんとあげて、あげすぎたのかすぐさまリバースされたというなんてことのない話をそこに付け加えた方が良いのか、現代における需要を知りたいなと、考えなくもない。

このカテゴリーに該当する記事はありません。