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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

演じぇない

Posted by なんとかさん on   0  0

「君はいま、何してるの?」


夜、わたしは心の中の誰かに呼び掛けるように呟いた。それは淡い恋のようなものの名残で、まだ夢の中に時々現れる誰か。心というものは案外素直でほんのり幼いままに、訪れる筈のない時を待っている。


『強がっていても強くなっているわけじゃない』。それでも人は頼もしい言葉を待っている。幼いままの心は身体に似合わない、そういう悩みも世間の話の中では居場所がないのは分かり切った事なのかも知れない。せめて自分くらいはそれを認めてあげようと思って選んでいた薄手の淡いピンクに水玉のパジャマに身を包み、冷え性の身体には必須のふかふかした毛布に包まっているわたしの姿を見たらあの人は何て言うだろう。


『大丈夫だよ、僕はいつも君の見方だよ』


そんな素敵な言葉を投げかけてくれる人ではなかったような気がするけれど、長い間わたしの中で育まれてきた末のその心強さにほんのわずかに心が癒される。



1時を過ぎたのを知って「結構ギリギリだなぁ」と苦笑するように言ったのを合図に、弱さをしまい込むようにしっかり目を閉じた。



「あーえーとですね、誠に申し訳ございません」



その静寂の中で突然男の人の声が響いた。反射的に飛び起きて周りを確認したけれど、当然の事だけれど誰かがいるという事はない。すごく明瞭な発音だったけれど『幻聴』というものなのだろうか?それにしては明らかに自分の外から、しかもとても近くから響いたような気がする。



とにかくもう一度時間を確認してみようと思って枕もとのスマホを取り上げた時だった。


「あー、その申し訳ございません。そちらのデバイスからです」



何も設定していないはずのスマホの画面はフェイスタイムモードで起動していて、そこに誰かの顔が映り込んでいる。


「きゃーーーーー!!」


自分でもビックリするほどの大きさの悲鳴が出てきてしまって色々とドキドキしてしまう。どういう状況なのかはよく分からないけれど、反射的に通話をオフにしようと色んな所をタップし続けたのだけれど、何か特殊な通話モードらしくてそのままどんどん時間が経過してゆく。するとまた画面の方から、


「えーとですね、多分通話はオフにできないと思います。というか厳密には通話ではないので…」


とやけに冷静な言葉が発せられる。恐怖のあまりその場から逃げ出したくなったけれど、落ち着いた男性の声で悪戯をしているような声音には聴こえなかったので、いったん深呼吸をして相手の言うとおりに対応することにしてみた。


「わ、わかりました。ちょっとわたしにはよく分からないのですが、これだけは教えて下さい。わたしに何をするつもりですか?」



わたしの知識でも「凄腕のハッカー」だとか「闇のツール」だとか、「故障」とか比較的現実的な解釈はできていたし、まずは相手が何を要求してくるのか慎重に見極めないといけないと感じた。だけどその人は予想に反してこんな事を告げる。


「えっとですね、誤解がないように説明するのは非常に骨が折れるものと思われるのですが、手っ取り早く私が『天使』で最小限の接触方法であるこのデバイス経由で貴女をサポートしようという心づもりなんですよ」


「はい?天使ですか?」



「はい。信じてもらえないかもしれないですけど、現代的なモラルに照らし合わせて『天使』と言えども女性の一人暮らし宅に突然現れるのは色々躊躇われてですね、それでも貴女の心の許容量を考えると、今日あたりに何かしてあげたいなと思ったんです。と言っても自分天使の中では不器用な方で、野暮ったい事しか思いつかないんですよね、ははは」


なんだかとても明るい声で説明してくれて、実を言うとそれだけでも少し気が紛れたりはしていたのだけれど、それでも相手の言う事をそのまま信じる事はまだできない。


「よく分からないのですがたとえそれが本当だとしても、わたしがそれを信じる事はできないと思います。証拠がなければ」


「証拠ですか…。じゃあ、私の羽を一つそちらに転送しますよ」


と言うや否や、わたしの枕もとに白い羽が一つ立ち現れた。


「これ…本当に羽だ…」


確かにそこには何もなかった筈で、わたしは今や証拠を突き付けられてじわじわと何かを実感し始めていた。


「じゃあ、あなたは本物なのですか?」


「ええ、『本物』です。しょぼいですけど」


漠然とした天使のイメージからは程遠いいかにも普通の人という『天使』が実在することを了解したわたしは、


「分かりました。ちょっと頭を整理したいので待っててください」


と時間稼ぎをする事にした。スマホをそこに置いたまま、一度洗面所までやってきて自分の表情を確認する。思いのほか嬉しそうだと思った。頭の中で、


<じゃあ、そういう天使がいるとして何をしてもらえるんだろう?>


とあれこれ想像してみたりしてもし頼めるなら何かを頼んでみようと心に決めて、部屋に戻る。


「おかえりなさい」


「すいません。大丈夫です。話を続けてください」


「え?話ですか?何を話せばいいんですか?」


「はい?」


わたしは相手が思いがけない事を口走ったのでまた混乱してしまった。


「え、でも『天使』さんは何かをしてくれるって事ですよね。」


「まあ電話口でのサポートですから、出来る事は限られてますけど」


「それってどうなんですか?わたしは明日も仕事なんですよ…」


「先ほど申し上げましたが、私は『天使』の中でも不器用で多分人間に置き換えると冴えない人ですよ」


「自分で『冴えない』っていう人にサポートされる事もないっていうか…」


「でも、『天使』の実在性についてはこれで伝える事ができましたし、そういう存在が見守ってくれていると思えれば心強いでしょ?」


「な…」


言っている事には一理あると思ったけれど、あんまりにも発言が野暮ったすぎて絶句してしまう。


「その発言はひどいですよ…何ていうか貴方には愛を感じません」


「あー、ごめんなさい。確かにそうでした。でも『愛がない』って事ではないんです。愛はあるんですよね。それを示すのはとても難しい事で、色々悩んでるという。実際問題、貴方を見守る事にして長い時間が経ちましたけれど先ず『現れるか』、『現れないか』の逡巡があって『現れる』としたら本当に大事な時にしようと決めて、現れ方もなるべく驚かさないようにしてこういう風に現れたんですけど…なんていうか中途半端になってしまいましたよね…ほんとアカンなぁ…」


こんな風に目に見えてしょげ返っている天使さんを見て少しだけ感じるものがあった。それが何なのかが分かったわたしはちょっとだけ心が軽くなるような気がした。


「ふふ、天使さん、本当に『不器用』なんですね」


今更ながら画面を良く見つめてみると、確かに『天使』と言ってもいい整った顔立ちなのが分かった。


「困りますよねぇ…やっぱりあれですよね、優しくて包容力のある方に現れてもらった方が良いですよね…。」


その時わたしの脳裏に「あの人」のイメージが浮かぶ。


「否定はできないですね…わたしも本当は弱いから…」


もしかしたら自分で「弱い」と誰かに言ったのはこれが初めてかも知れなかった。それが少し意外だったけれど、彼はこう続けた。


「あの、お勧めの曲があります」


「曲ですか?」


「えっとですね、天使達の中で実用的に『ヒーリング』の研究をしている部門があるんですが、現世において最近特に『ヒーリング』力に秀でた作品を生み出す天性の才能を持ったアーティストが出てきたともっぱらの評判なのです。僕もそれを聴いてですね思わず号泣してしまってですね、これはサービスという事でこの端末にダウンロードしておきました」



「ダウンロードしたんですか?」


「大丈夫です。僕のポケットマネーでダウンロードしたので…それでは今日のところはこれで失礼します」


と言うとそれを最後に天使さんの姿が画面から消えた。そして彼の言う通り、わたしのスマホの中には知らないアーティストのある曲がダウンロードされていた。



☆☆☆☆☆☆



数日後、わたしは職場の休憩室でスマホで『ココロ』という曲を再生していた。そこに通りがかった同僚の子が、


「その曲、いいね。なんていう人の?」


と訊ねてきた。


「『アンジェロ』、イタリア語で天使だって」


「へぇ~素敵…」


「ねえ、もしこれが『天使の羽』って言ったら信じる?」


そう言ってわたしはあの時の白い羽を彼女に見せた。彼女はしばらくそれをじっと見つめて、


「天使ってどんな人なんだろう?」


と言った。


「天使も色んな人がいるのかもね」


わたしのその答えが意外だったのか、彼女はちょっとだけ笑っていた。

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演じ得る

Posted by なんとかさん on   0  0

「助けてくれー!!」


とてつもなく『どうにもならない』という感情が襲ってきたある夜の事。どんな風に考えても自分がどうにかするしかないという結論が変わりそうになく、たとえ今回凌いだとしても多分同じようにまた乗り越えなければいけない山がやってくるのだと思ってしまった時、心は悲鳴を上げた。独り暮らしの部屋で「助けてくれ」と叫んでしまうような事はもしかしたらそんなに珍しいことではないご時世なのかも知れないが、一番どうにもならないのは『どうにもならない』という事を受け入れ切れていない自分自身だという事もうっすら理解している。


「分かってんだよ…わかってんの…うう」


「何が分かってるんですか?」



「ひぇっ」


頭がおかしくなったのかも知れない。いつの間にか僕の隣に明らかに『天使』と思われる存在が座っていた。全身白のコーデで背中から異様にでかい羽飛び出しているからそう判断するしかない。ただ、こういう状況で相手が『普通』にしてるからそういう存在なのだと分かっていても逆に『怖い』。



「あなた何なん…なんで…」



突然の事に過呼吸気味になっていると、


「落ち着いてください。はい。すーはー、すーはー」


と的確にアドバイスをしてくれた。


「すーはー、すーは…」


人間はとりあえずこういう時に助言に従うものなのだろう。とにかく気を落ち着かせて周囲を確認し、間違いなく自宅に居るという事を確かめてからもう一度その相手に向き合う。


「あ…落ち着きました。ありがとうございます」


「いえいえ、これくらいの対処は基本ですから」


失礼かと思ったがそう述べた相手の顔をまじまじと見つめると、非常に整っていてCGみたいでちょっと怖い。しかも何かで読んだ事があるが『天使』は男性でも女性でもない存在らしいので、非常に美形なのだが通俗の言葉で言えば「かっこかわいい」的に見える。これ以上の情報は相手から訊きださないと分からないので色々考えながら話してみた。


「あの…そのやっぱりあなたは、『天使』さんですよね」


「ざっつらいと」


そう言ってサムズアップする天使さん。なぜ英語?まあ英語圏といえばそうなんだけど。


「それで、やっぱり助けに来てくれたんですか?」


「おーるもすとりーとぅるー…って日本語だと「ほぼ正解」ってことですね」


英語の部分は何かバイリンガルっぽい人だと思うようにして気にしないことにする。


「ほぼ正解ですか?」


「そう。わたしは貴方を直接助ける事はできないんです」


「直接?じゃあ間接的に?」


「そうです。わたしはどちらかというとコンサルタント部門なので、まず状況、問題点を把握してですね、現状を打開する知恵をお貸しするという助け方になります」


「うわ…めんどくさ」


偽らざる本音が出てしまった。なんか妙に現代の思想にそまった『天使』はうちの小さな会社に時々やってくる「出来る人」っぽい雰囲気で滔々と持論を述べてゆく。


「貴方にはまず何よりも『対話』が必要だと判断されます。しかも客観的な意見を言ってくれる、要するに『外部』の方ですね。ただ昨今ですと、それには金銭が絡むような話になっているのは必然ですので、ぶっちゃけ若いおねーちゃんが居るようなお店で少し愚痴を聞いてもらったりするだけでも違うと思います」



「おねーちゃん?」


何か違和感のある単語が出てきたので思わず聴き直す。


「神様もですね、割合適切に管理されてあまり下世話な欲でなければ大目に見てくれることもあります。要するにですね、現代日本のコミュニケーションの疎遠さとか草食系の生態とか、過去の時代に想定されたものから大きく逸脱しすぎていてですね、なんか我々もよく分からなくなってるんですよ。そもそも仕事のクオリティーも求められすぎなんですよ…」


何だかこの『人』、あんまり我々と価値観変わらないんじゃないだろうか。


「で、話を戻すと天使さんとしては、適度に気晴らしをしてこいという事なんですね」


「そういう事になりますね」


「…」


なんかイメージしてたのと違う。職務放棄ではないけれど、こうなんか優しい温かい言葉を投げかけてくれて甘えさせてくれると思ってたのに。いや、なんかこういう事を考えている自分はちょいキモイ。天使さんはそんな部分を読み取ったのか、


「まあ今までのは『男性的』な愛ですね。もちろん『女性的』な愛もあるわけですが」


と謎の発言。


「え…つまりどういうことですか?」


そして待ち構えていたように言う。


「ここからはですねやや女性的なジェンダーの方にシフトさせてすね、わたしが『お姉ちゃん』になったげる」


ここで一応補足しなければならないけれど、実は天使さんの声が後半の「わたし」から少し高い声に切り替わって口調も科も、女性と言われれば女性に思われるものに変貌していた。


「うわ…すごい…変わった」


「あのね、ちょっと最近はこういうの面倒臭いの。いまはさ男性女性とか、括るのって良くない風潮があるでしょ?でもね、ずっとその曖昧なところを漂っていた先輩からすると…」


「先輩からすると?」


「『愛』は大事なの」


「『愛』ですか…」


「つまり貴方が何を求めているかなの。『助けて』って言ったのはどういう意味でなの?人恋しさ?それとも問題解決?」


「そ…それは…」


「『天使』として助けてあげられるのはね、あまり多くないの。現実逃避ではダメだし『愛』は現実に立ち向かわせてくれる。そういうものだとわたしは思っていて、そして今回貴方に残してあげられるものはこの記憶と…羽だけよ」


「え…?」


天使さんが言葉を告げた後、空間が激しく輝きだした。それに目を奪われている間に、いつの間にかその人は居なくなっていた。



☆☆☆☆☆



確かにあの記憶は残っているし、後で思うともしかしたら夢を見ていただけかもと思うようになった。部屋にはそれこそ『羽』さえ残っていなくて、幻想というのは儚いものなんだなと。それでもあの時それを経験したお陰で僕は何となくこうして温かい気持ちになれているし、希望をもって過ごしたからなのか状況は次第に好転していると感じられる。



「そういうことなんだろうな」




そう思って外を散歩していた日曜日の事だった。何気なく立ち寄った公園、ベンチの上に白い羽が一つ落ちて…置いてあるのを見た僕はこの頃にはない様なとても純真な気持ちでそれを拾い上げ、胸ポケットの中にそれを差し込んだ。




と…話を濁すようで躊躇われるのだが実はあの日以来夜に何度か『おねえちゃん』が居る店に行ってみようかななどという発想が頭を過るようになっている。ただそういう時に限って別の健全な良いことがあったりるするから…そういう意味でも見守られてるんじゃないかなと思ったり。

花火を見に

Posted by なんとかさん on   0  0

できるだけ、「そう」ありたいなと思う。



夏の終わりを待っているようで、どこか夏らしさに夢を見ているここ数日の心境。どことなく溜息をついてしまいそうな三時過ぎに、アイスを一つ頬張る。今年の花火を見るか見ないかで知り合いとちょっとしたやり取りがあって、『結局は当日の天気次第だね』なんてまとめたところ。そこまで望んでいないけれど、心の何処かでそれを見なきゃ後で残念だと思う日が来るんじゃないかと考えている部分があって。



で、行くとしたら出店で「焼きそば」と「唐揚げ」は食べたいよなとか考えていたところに別な人から連絡があってどうしても地区の催しを手伝ってほしいとの事。花火の会場とは反対方向の催しなのでもし手伝うとしたら花火の時間に間に合うか甚だ微妙になる。別な人…とは言ったけれどつまりは親戚で、少し断りにくい間柄であった。惜しい気もするが、知人には「頼まれごとがあって、当日いけるかどうかわからなくなった」と連絡する。もともと酒の席で『暇だったら行ってみようという』ノリの発案だったので、具体的な用事がデキてしまうと優先順位が低くなってしまうのが何とも言えない。



そして当日。


「今日はごめんね、どうしても人手が欲しくってさ」と手を合わす親戚の姿を見ていると本当に人手が欲しかったんだろうなと思えてきて、それはそれで手伝えて良かったなと思える。やはりここでも夏祭りで、昼頃に開催の合図の小さな花火が上がって天候としては恵まれていた。


<音だけの花火も悪くないよな>


と自分に言い聞かせて半分仕事と割り切って、やれる事を探して運営を手伝う。時折小さな子供が自分の方を興味深そうに見ているのを発見して、ちょっとお道化たりしてみながらぼんやりと自分がそれくらいの年齢だった頃の事を思い出していたりした。


「どう。楽しい?」


わたあめの袋を片手に静かに立ち尽くしているその少年に保護者のような感覚で思わず声を掛けている。少年は、


「今日、花火も見に行くの」


とだけ言った。もしかしてと思い、


「花火って、〇〇市の方の?」


と訊いてみると小さく頷いた。どうやら行こうとしていた花火会場の事だった。


「そっか。楽しみだね!」


うらやましいなぁという偽らざる気持ちが表情に出てこないように注意しながら言うと、


「うん」


と言って少し笑った少年。その時親戚から呼ばれ、「今度は屋台の方を少し手伝ってくれ、焼きそばも食べていいから」と告げられる。そうこうしているうちに先ほどの少年もいつの間にか見えなくなっていた。



☆☆☆☆☆



夕方が近付いてきて、あと一時間くらいで花火大会が始まるなと思っていたところで親戚がゆっくり近づいてきて、


「今日はありがとね。もうそろそろ人も足りてきたから好きな時に上がってもらっていいよ」



と言われた。好意なのだけれど、それもそれで何となく微妙な心境になってしまいそうなのは不思議な話である。ただ、今から移動すれば花火大会に間に合う計算なのに思い至って急遽知人に連絡をしてみようとスマホを取り出した。生憎、連絡が繋がらず行く場合には一人でぶらぶらする事になるなと一考する。



「どうしようかな…」


迷う自分の脳裏に浮かんだのはあの少年の「花火を見に行く」という言葉。何も誰かと見に行かなくても花火というものは良いものだと、ちょっとした気持ちが沸き起こってくる。決め手はその時親戚がお礼にと手渡してくれた「焼きそば」と「唐揚げ」とスポーツドリンクだった。



<これを飲み食いしながら花火を見たらさぞ気持ちいいだろうな>



本質的にその欲求に負けたからなのかどうかは分からないけれど、いそいそと花火会場に車を走らせていた。会場までの道で雰囲気が出そうだなと思って、最近良さが分かり始めたフジファブリックの某曲をカーステレオで流してみると何だろうか、夕陽も相まって妙にノスタルジックな気分になった。



そのノスタルジックな気分も会場の混雑に一瞬消えかかってしまうのも現金な性格ゆえだろうか。がっしりした見かけほどごちゃごちゃしているところが好きではない自分にとって、若人が練り歩く歩行者天国には少し参ってしまいそうな雰囲気である。ただ、そう言いつつも適当に川沿いの空いている場所を探して座り込んでみると段々と情感あふれる光景に見えてきて、少しぬるくなっていたスポドリを口に含んで見た時には始まっても居ない花火の音が聞こえてきそうな気がしてくる。




「まあ、悪くないよな。こういうの」



最近はなるべく「そう」あろうとしている。つまりいつでも何かに「良さ」を見つけて『悪くないよな』と言ってみせる気概を持つというか。言葉で説明すると妙に理屈めいてくるけれど、心掛けているのはそういう事である。昔はそんな事自然にできていたのに、頼みもしないのにどしどしと入ってくる世知辛い話題が世の中に多くの希望を見出さなくさせていて、本当に心が若いままだったらと思ってしまう事も多い。一方でそんな中でも何かを思い出し気を取り直して再開することの大切さを実感している。



<なるべくこうあれればな…そうすりゃきっと…>



総括に近い事を思いかけたところで遠くからマイク越しにアナウンスが流れてくる。どうやら開会式らしい。テンションが2つほど違う女性の声が夜空に響き、辺りは少しにぎにぎしくなる。待ちきれないのか男性の「おー」という声が聴こえてきたり、子供たちの声も段々と目立ってくる。気温もそれほど高くない絶好のコンディションだけあって、みな心待ちにしているようである。




ひゅるるるる~ドン


ドン ドン ドン



最初の一発を合図にするかのように、夜空に花火がどんどん打ちあがって開いてゆく。この頃になると妙な一体感に包まれて、来た甲斐があったなと思ってうれしくなる。



ひゅるるるるるるる  ドン ドン ぱららら  ドン



時折花火の音に歓声が混ざる。すでに大分暗くなっている夜空だが花火が上がった時に一瞬周りの全てがはっきりと見えるくらいの明るさになる。それが子供の頃は無性に不思議というか、分かっていても凄いなと感じていたりした。今思えばこの日本の風土によく合う光景を誰もがずっと見てきたのだ。あまりロマンチックでもない自分でさえ自然に『これはもうDNAに刻み込まれているんだろうな』と感じている。そうして自分ももしかしたら誰かにこの光景を引き継いでいきたいのかもなと思ったりする。



<そういうのって、本質なんだろうな…>




サビ付きそうになりながらも、時々こうやって浸って呼び覚ます。魂を揺さぶるこの情景は毎回新しくてもどこか懐かしい。一度に見てしまうのは勿体ないと思いつつも、花火は順調に、次々と打ちあがってゆく。そして。



『いよいよ今年の最後の花火となりました。そして皆さんもご存知のあの曲に合わせて花火を見ましょう!』



元気のよい女性の声で「もしかしたら」と思う。思った通り、たんたんたんたん、という心地よいリズムの曲がスピーカーから流れ始めて『真夏のピークが去った』という歌が始まった。車の中でも聴いていたのに、このタイミングで始まってしまうと途方もなくじーんとしてきてしまって、眼がしらが熱くなっている。



ドン ドン ドン ドン




歌われる歌詞の情景を思い浮かべ、上を眺めているとまるで知らない場所に来たかのよう。サビの部分で華やかに彩られる夜空に、近くにいた誰かが曲を口ずさんでいるのが聞こえ、そういう何かを目の当たりにすると胸いっぱいに何かを感じる。それは何と言えば良いのだろう。



「やっぱり『何年経っても』…」



本当に半端ない曲を作ってしまわれたんだよ。なんだこの気持ち、やべーべ。くそ、なんだこれ、と心の中の語彙が乏しくなってしまうほど気持ちが溢れてゆく。そしてそれを妨げるものは何もない。何度となく叫んできた大サビで気付くと立ち上がっている。







…今思うとあの瞬間の自分の空白は全てを言い表しているような気がする。『あの瞬間』、自分にもあった何かの瞬間、そういうものが一体になって迫って来たあの時。そして本当に最後の花火が終わって、演奏もエンディングを迎え、余韻だけが残る。何かが実際に起こったというわけではないのに、確かに何かの『存在』、何かの『真実』そう言ったものを余すところなく実感しているその余韻。




周りの事も気にせず立ち尽くしている自分に気付いて、ふと我に返ってしまう。そして何だか苦笑いしているというか、変な感じなっているそんなことも含めて、凄く良い夜だったなと思う。最後に紙コップの底に残っていた唐揚げをつまんで口に放り込み、花火会場が混雑しないうちに帰宅を選択した自分。そこで知人からの『ごめん、今気付いた』というメッセージ。何となく申し訳なく思いつつも顛末を説明すると、実は知人も違うところから花火を見ていたらしい。


<なんだかなぁ…>



いかにも自分らしい展開だから引き戻される感じで笑ってしまいそうになっている。そう言いつつも、車の中でまたあの余韻を取り戻したくて再びあの曲を再生している自分。ふと空を見ると空に星が輝いている。


「これは悪くないな」


今年はそんな夏だった。

だけど、それは

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時折浮かんでくる想い。驚くほどシンプルで、驚くほど具体性のない理想論に毛が生えた程度の。でもそれさえ戸惑いの多い世界にあっては心強いもののように思われてくる不思議に、僕は人知れず浮かれそうになっている。


久々に欲しいと思える新譜が見つかって、ネット配信に押されこの頃ではめっきり少なくなったCDショップに出向いている道すがら、青春時代に感じていたような高揚感がほんの少しだけ蘇っている。考えてみると用事がなければ街中に出掛ける事もないし、その辺りの様子も記憶の中のそれとどこかしら違って感じる。前に来たのはいつだったろうか、もしかしたら年単位で来てないかも知れない。



今時CDを買い求める人も多くはない。世代的には自分より幾らか年下の世代の人ならダウンロードで済ませてしまう習慣があるのだろう。CDというか半分は音楽から遠ざかっているような傾向さえあって、それと連動するかのように世の中が見慣れたものだらけになるような気配さえある。なのに世の中はまるで僕の理解を拒むように唖然としたものを提供する。それについて誰かに共感を求めようとすると愚痴のようになってゆくのが何となく躊躇われて、段々と静かな心の安らぎを求めようとしている自分に気が付く。そんな折、以前から注目はしていたバンドの新譜の発表である。



「何でなんだろうな…」



自分でも理由がよく分からないまま、ショップで新譜のアルバムを手に取って眺めている。「欲しい」という感情は一般的には『物欲』なのだけれど、厳密に言えば物ではなくその中のデータ…音楽を求めているという意味で、物欲とは違うのかも知れない。以前は当たり前にそれを求めていたのに、いざ改まって求める理由を理屈で捉えようとしている事に感性の減衰を感じざるを得ない。けれど、そんな自分をハッとさせるような何かが「ここ」に詰まっている。そう思うと意味もなくワクワクしてきてしまう自分がいた。



「カードはお作りしますか?」



会計時、店員にこんな言葉と供にポイントカードを勧められて若干戸惑った。昔使っていたものを持っているのかも知れないけれど、自然とそこまで必要がないと思ってしまう事に苦笑いしそうになる。



「いや、大丈夫です」



会計後、改めて店内を眺めまわしてみる。



<何となくだけれどここはまだ僕を受け入れてくれそうだな>



なんて意味のないことを思う。目的を済ませてしまうと妙な脱力感があるようで、外に出た瞬間途方に暮れてしまったかのように感じている僕。考えてみればただシンプルに新譜を買いに行こうと思って出てきただけなので、他にこれと言った予定がない。そこに突っ立っているだけなのも変なのでとりあえず適当な方向に向かって歩き出す。



<まあ散歩という事でいいのかな…>



数十メートルほど歩いてみたところで信号に行き当たる。その時予期せず心地よい風が吹き抜けて、またもや不思議な情緒に捉われる。言うなればそれはこの世界に求めてる何かがふとやって来たかのような趣だろうか。それ自体具体性のないものなのに、『そういう世界があるんだよ』って教えてくれているかのような証とでも言うのか。



「『躊躇わず行けばいい 君を待っている』」



それは新譜のリード曲のフレーズだった。<僕も『君』なのだろうか>、あまりにも自然に浮かんできてしまう己の言葉。直後に何だかすべてが作り物にすら思えたらしく少し笑ってしまう。




好きなんだろうなと思う、言ってしまえば。でも、それは…。




だけど、それは。そんな事を思いつつ、今にも青に切り替わりそうな信号を見つめている。

こんなコーヒーのCMがあったら

Posted by なんとかさん on   0  0

「こりゃあどうにもなりませんな」と言いかけてしまう、それも仕方ないような時はある。上手くゆくならお道化てしまう己であれと、誰に言うわけでもなく笑う感じでちらっと外を眺める。止んではいるがいつ降り出してもヘンじゃない色。


ヘビーな時間さえ避けて通れないもののように訪れる、そんな日々かも知れない。慣れるようで慣れないというか「あ、心折れそうだな」と実況している妙に冷静で淡々しているへんてこりんな『部署』が、


<とりあえずコーヒー飲んどけ>


と指令を出している。最近発売したペットボトルの微糖コーヒーがここまで頼もしく感じられる、程に、実はピンチじゃないかという、それはそれでまた一つの分析がやってくるのだが、その辺りは保留しつつキャップを回して一気に口に含む。


「うまい…」


思わず独り言が出てしまったけれど、同僚には聞かれていないだろう。メンタルボコボコに殴ってくる『出来事』が連絡で入ってきて、内容的には「アホか」と思うような部分もあるのだが事実は覆らないもので受け入れるしかなく、まあプライベートな事なので自分でやって行くしかないという事も分かっている。



「うまい…」


気付くと無意識にコーヒーを飲み干していた。すると向かいのデスクの同期の女性が、


「そんなに美味しかったの…」


とドン引き気味にこちらを見ていた。考えてみれば、あんまりにも平静を装い過ぎてコーヒーを一気飲みして「うまい」を連呼していただけだから、そこだけが強調されてしまっている。同期には何となく変な所を見せたくない気もするから誤解を解くつもりで、


「いや、そうじゃなくて…いや、まあ美味いんだけれどもさ」


と言うと、



「ふーん…。まあ美味しいならわたしも飲んでみよっと」


と先ほどの表情に比べると幾分マイルドな返答。誤解はさせていないが、何かしら不十分なんじゃないかと思ったが、けれどこれでいいんだよなという認識がやってくる。あんまりこういう事を考えすぎると疲れてしまうし少し気が紛れたから、段々と作業に戻ってゆく。丁度お昼が近いのも幸いした。




そして30分後くらいに皆が昼食に出掛けてゆくのを確認して、ちらっと確認するに留まっていた『連絡』の詳細を見返す。


『公演中止』


一言で言えばその表現である。前から楽しみにしていた舞台があって、念願のチケットを手に入れた舞台が演出と演者のトラブルで…というありがちと言えばありがちな理由でおじゃんになったという知らせ、とそれに伴う返金の手続きについての連絡。それだけであったら「まあ仕方ないか」で切り替えられるところが、自分にとってはタイミングが非常に宜しくなかった。実は今度友人と遊ぶ約束をしていたのが、どうしても都合が悪いらしくお流れになりそうなのと、細々としているところでは好きな野球選手が怪我をして戦線離脱というニュースを知ったばかりというのも大きい。



「さすがに3連発はなぁ…」



連絡を確認してみてどうにもならそうだなと思い至って、とにかく今日を乗り切る事だけに専念しようと応急の目標を立てる。食欲も湧かないし、とりあえずコンビニのおにぎりとかでお昼を済ませようと思い立ち上がった時だった。


「あれ?まだ居たの?」


先程の同期である。よく見ると手にコンビニの袋を下げている。


「ああ、ちょっとね」


「ふーん。あ、わたし『これ』買ってきたよ!」



なんだ、と思ったら微糖のペットボトル…さっき飲んでいたものと同じ物を買ってきていたらしい。


「はや…そんなに飲みたかったのか?」


「だって、凄く美味しそうに飲んでいたから。飲んでみよっと。あ、本当だすっごく美味しい!!」


「まあ美味いのは事実だな。個人的に画期的な商品なんじゃないかって思ってるよ」



「こういうのあるといいね。いやーな事とかちょっと、こう何ていうか楽になる感じ」



彼女の口から気になる表現が出てきたのでこう訊いてみる。


「いやーな事って、例えば…?」


すると彼女は「うん、それは」と言ってからコーヒーを口に含んでから一呼吸おいて、


「元カレが結婚しましたとか白々しいメール送ってきた時とかね!!」


「うわ…」


こちらも思わずドン引きしてしまうようなヘビィな内容。妙に大きい声で言った彼女はただその後、


「例えばの話。例えばそういう事があった時とか…」


と少し殊勝なとでもいう様子でゆっくり椅子に座った。何か色んな想いがありそうだけれどこういう時、何となく自分の事がぼんやりしてきてしまう。


「ま、これ飲んでお互いに頑張りましょう!」


私はその時の彼女の言葉に何か救われたような気がする。気の利いたことは言えないタチだが、


「何か良いことあると思うよ、たぶん」


と言うと、


「それっていつ?」


と尋ねられたので、


「いつか。晴れてきたらじゃないかな」


と適当に答えておいた。そんな感じ。

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