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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

TO YOU

Posted by なんとかさん on   0  0

土曜日、開店に間に合うように準備をしながら少しソワソワしている。なるべくその『理由』を意識しないように、普段通りを心掛けているけれどやっぱり何かが違う気がしてしまう事を自分でも微笑ましく思っている。自分の店を持つという長年の夢を叶えてから仕事がそのまま生き甲斐になっていて、だから何かそれ以上の事を求めない方がいいんじゃないかという気持ちがどこかにあったのかも知れない。その気持ちとは裏腹に、月日が経つに連れて惹かれてゆく心はわたしを飛び越えてしまうように動き出している、そんな風に感じている。


「これで大丈夫…かな…」


奥のテーブルの位置がちょっとだけ気になって多分わたしにしか分からない微妙さで動かしてみた。お客さんの中にもそこがお気に入りで、タブレットを広げて黙々と何かを読んで過ごしている人もいる。カフェではない、ハーブティーを提供するこの『オアシス』という店も段々と受け入れられてきたのかもと感じられる事の一つ。見るからに優しそうな男性で、もしかしたら50代にはなっているのかも知れない。その人は決まってチョコレートケーキも一緒に注文するけれど、なんとなく可愛らしいなと思ってしまったり。



そんなことを浮かべていた時、開店の10分程前なのに店の前に誰かがやってきているという事をガラス越しに気付いたわたしは慌てて扉を開けに行った。来ていたのはなんというかわたしがよく知る人物だった。


「お姉ちゃん、おはよー」


「結花…どうしたの?」


歳が3つ程離れている妹だ。こちらの困惑とは対照的に、妹は生来のマイペースを発揮していかにも楽しげだ。妹はこんな風に説明する。


「いやー、近くで用事があるから丁度いいなーって思って寄っちゃった」


「今準備中なんだけど…ってまあその方が都合が良いか…でも連絡してくれれば良かったのに」


「お姉ちゃんを驚かせたかったから」


「驚いたというか、困惑しているというか…」


「まあまあ」


そう言って押し切られる様に店の中に入ってきた妹をとりあえずお客としてもてなそうかという考えになったわたし。そこは以心伝心なのだろうか、そのままカウンターの席に座ってきょろきょろと店の中を見回している。


「ちょっと内装変えた?」


「変えてない。飾りを変えただけ」


姉妹らしく特に意識することなくあまり内容のないやり取りが始まる。丁度いいから新しく作ったハーブティーの『ノエル』を試飲してもらおうと思って準備しているわたしに妹が色々質問して一方的に答えるだけになっているけれど、やや答えずらい質問も飛んでくる。


「最近どうなの?」


「店はまあぼちぼち」


「そうじゃなくて」


「そうじゃないなら何の事なの?」


「いやー、『出会い』とかさ…そういった浮ついた話だよ」


わたしは頭を抱えながら、


「自分の話を『浮ついた話』っていうのはちょっと変じゃないの?」


ただ妹が毎回会うたびにわたしについてのそういう話を期待しているという事は聞かなくても分かっている。


「だってお姉ちゃん、こういう風にはっぱかけないと全然興味無さそうにしてるんだもん」


「お姉ちゃんの事は大丈夫です。結花は自分の心配をしなさい」


何気なく言ったこの一言でちょっとした窮地に立たされることになった。


「『大丈夫』っていう事は、何かあったんだね?」


「え…?」


妹はあてずっぽうで言ったのかも知れないけれど、一瞬動揺してしまったわたしの様子を妹は見逃さなかった。


「あー!図星!!ねえ、どんな人?どんな人?」


「いいから、このハーブティー飲みなさい」


そんな騒がしいやり取りはこの店の雰囲気には馴染まないし、こんな様子を見られたら困るという一心で妹をなんとかしなきゃと思っていたその時。


「すいませーん」


「あ、お客さん!そうだもうオープンの時間だ…」


扉を開けに行ってそこに待っていた人を見た時、わたしの心臓は止まるかと思った。


「あ…二宮さん…」


「どうも、今週は早いですけどお邪魔します…もしかして一番乗りですか?」


その人は二ヶ月程前からよく『オアシス』に通ってくれている『二宮さん』という人。このところ毎週土曜日に来てくれている。


「あ…その中に一人います」


「え、あ。そうだったんですか」


二宮さんを店に通した時わたしは彼がいつも座るカウンター席の一つに既に妹が陣取っているという事に思い至って再び動揺してしまう。


「あ…お客さんだ。えっと…」


妹も二宮さんを見て少し迷ってから、


「隣どうぞ!わたし店の関係者ですから」


と声を掛けた。この提案に二宮さんも当惑していたようだけれど店の関係者という部分が気になったのか、


「もしかして店員さんですか?」


と妹に声を掛けながらそのまま妹の隣に座った。


「いえいえ、この人の妹です」


「結花!」


わたしが制止する前に妹は早々に教えてしまった事に思わず声が大きくなってしまう。それを聞いて、


「へぇ…」

と感心するようにわたしたち姉妹を見比べている二宮さん。


「あ…失礼しました。なんか意外だなって思って。でも似てますね」


「似てますか?」


その声がどこか不安げなものになってしまっている事にわたしは気付いた。少し間があって、


「あ…雰囲気とかは違うかなって思いますけど、お顔立ちとか声とか似てると思います」


「そうですね、声は似てるねってよく言われます」


何故か妹が元気よく答える。


「あ…ちょっとバタバタしちゃいましたけど、ご注文を…」


「そうだった。じゃあ『ノエル』でお願いします」


「かしこまりました」


「…」


その後、さっきまで騒がしかった妹も空気を読んだのか静かに『ノエル』を飲んで、時々わたしの方を見て嬉しそうな顔を向けていた。二宮さんはいつも通り、このお店の名前の由来であるロックバンドの『オアシス』の曲についての話とか、この前ボーカルの『ノエル』のインタビューと思われる最新の動画を見つけたという話とか、色んな事を話してくれた。



「そうそう…最近ギターを買ったんです」


「え…そうなんですか!」


「何か目標が必要だなって前々から思ってたんです。難しいですけど、上手くなったら嬉しいかもなって」


この話は特に嬉しかった。ただその辺りから妹がニヤニヤとした笑みを浮かべているのが気になり始めていて、でもそれはしょうがないのかもと思うようになった。




しばらくして二宮さんが店を出て妹も、


「じゃあ、わたしも時間だから行くね」


と席を立った時またニヤニヤした表情で、


「お姉ちゃん、『色々』頑張ってね。わたしは陰ながら応援しているよ!」


と『色々』の部分を強調してわたしに告げた。そして、


「あと…」


「あと?」


「『ノエル』美味しかった」


と嬉しそうに感想を言ってくれた。

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休憩地点

Posted by なんとかさん on   0  0

『何を思うのだろう』


まるで自分を遠くで見ているような、どことなく他人事のような趣のある言葉を声にしそうになる。希望が揺らめいているような、いやもしかしたら見えているかも知れないような『今』、心の中で思っていることが何でか分からないけれど頼りないのかもなと感じてしまう。


自信のなさだけではないと思うのだ。今日も今日の生活があり、スーパーにちょっとした買出しに出掛けて、欲しいと思うものを選ぶ。心模様を反映するように唐突に恋しくなってしまった味噌ラーメンとその具材が詰まったエコバッグを見て「ふっ」と何となく笑ってしまいそうになっている自分が居る。歩きながら周りを見ると、自分とそんなに変わらないような様子でやりたいようにやっているというか、或いはやるべき事をやっていると、そんな人がそれぞれのペースで進んでゆく。


何となく季節に似合わないひんやりした風と天気と同調しているかのように見えてしまうのはあまり良くない傾向だなと、少し強引に気持ちが盛り上がるような事を浮かべてみる。楽しみにしているネット動画の新作の配信とかその他諸々。


<それで、、、どう、、いや…>


一瞬、その自分の心を否定するかのような冷め切った何かがやってきそうになるのをすんでのところで断ち切る。誰に言われたわけではないけれど、この何とか保たれている『温度』を失ってはならないのだと『何か』が言っている。そしておそらくそれは正しい。



気を取り直すようにやや強引に首を左右に振って、その勢いでそこにある何かに視線を移してみる。その何かは飲食店らしい店先に置いてあったチョークボードであった。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


こんな世の中です、『心が求めている』一杯いかがですか?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




『心が求めている』という文言は今の自分にとってはどうしても見逃すことが出来ないらしい。何を売っているのか分からないままに店の中に誘われる。中に入ると何処か異国の情緒が漂っている空間で店の至る所に不思議な模様が散りばめられている、どうやら何かの飲み物を提供する店らしかった。時間帯の関係だろうか店には客の姿はない。


「いらっしゃいませ~」


妙に陽気な声が響いてきたと思ったら、まるで占い師のような出で立ちの女性がカウンター越しに声を掛けていた。


「あ…私何の店なのか分からないまま入ってきちゃったんですけど…」


「あら~。そうですか~、まあお掛けになってくださ~い」


何か独特のゆったりしたテンポでカウンターの椅子に座るように案内され、荷物を適当な所に置いて腰掛ける。するとその比較的若く見える女性は、


「ここはですね、私が独自に開発した飲み物を提供する店でございます。それは温かい飲み物でして、疲れた心と身体を癒すような塩梅に色んな薬草を調合して…つまりはハーブティーでございます」


「ハーブティーですか…」


油断していたのもあるが、完全に女性のペースに飲み込まれてしまって完全にそのハーブティーを注文する流れになっていた。その一因としてその女性の澄んだ癒しボイスが耳朶を心地よく撫でていったからという事もあったと白状しておこう。ゆったりとはしているが滑らかで淀みのない動きでハーブティーを作っている姿がなんだか現実離れしているように感じられたのは何だったんだろうかと思うが、それも心地よかったのは確かである。その途中で彼女は世間話的なトーンでこんなことを話し始めた。



「ここに来るお客さまは不思議と皆さん一生懸命な人でね、知らず知らずに休息を求めているんです。この店はそんな人の為の『休憩地点』になったらいいなぁとこの頃では思っています」


「なるほど…」


妙に説得力のある話で、確かに一見すると奇妙な模様もそれが醸し出す雰囲気が一瞬世界の事を忘れさせてくれているみたいだし、店主の独特のスタイルも喋り方も所作も、言われていると意味があるもののように思えてくる。ただ、この時の自分の脳裏に少し奇妙な事が浮かんできた。


「そしたら貴女にも休憩地点が必要じゃないんですか?」


それを口にした瞬間「まずったな…」と思ったが言ってしまったから取り返しがつかない。


「…、…、」


店主はこちらの方を不思議そうに見て何かを言おうとして、やめた、後に少し意味深なほほえみの表情でそのまま作業を続けている。気まずさで少し下を向いて苦笑いをしていると、


「お客様、お待たせしました。こちらが特製ハーブティーでございます」


どうやら完成したようである。透明なグラスに注がれたその淡い青みがかった緑色のハーブティーからは湯気が立ち上っていて、ほのかにこれまで嗅いだことのない匂いが漂っている。少し息を吹きかけつつ一口目を味わうと、これまた何か異国の情緒を感じるような味だった。すっきりしていて美味しいのは確かである。


「これは何というハーブティーなんですか?」


その何気ない問いに、彼女はまた世間話をするようなトーンで話し始めた。


「わたしね、こう見えて英国の『Oasis』っていうバンドのファンで学生の頃は趣味でギターなんかもやってたんです。大人になって社会人になって、会社勤めをしていた時になんとなくだけれど、『Oasis』の曲がそのまま心のオアシスだなって思うようになったんです。その時ね、いつか出す店の名前を『オアシス』にしようと思ったの」


「オアシス。そっか…なるほど休憩地点ですね」


「貴方の先ほどの質問の答えも『オアシス』です。そのハーブティーも『オアシス』なんです」


「おお…」


この時、『コンセプトが良く考えられているな』という理由で感心してしまった。バンドの名前と曲が一致する位にはそのバンドは有名だし、自分も数曲再生リストに入っていたりするから、


「『Oasis』良いですよね…」


と言うと、店主は嬉しそうに目を細めていた。『オアシス』を飲み終わって、何か心が回復してきた感じがする。会計を済ませ、カウンターに置いてあった店の名刺を一枚いただき、外に出ようとした時、


「お客様」


と再び声を掛けられた。


「はい?」


「買い物袋をお忘れですよ」


「あ…しまった…」


少し離れた場所に置かせてもらっていたからか失念していた荷物を回収して、再び店を出ようとすると、店主がこんなことを言った。


「これは独り言なんですけど、わたしに『休憩地点』があるとしたら…」


「あるとしたら?」


「…、ふふふ」



何故かその先は微笑んで教えてくれなかった店主。その微笑みが妙に気になってしまったからなのか週一くらいで店に通うようになったが、まだ休憩地点が何なのか教えてもらっていない。

演じぇない

Posted by なんとかさん on   0  0

「君はいま、何してるの?」


夜、わたしは心の中の誰かに呼び掛けるように呟いた。それは淡い恋のようなものの名残で、まだ夢の中に時々現れる誰か。心というものは案外素直でほんのり幼いままに、訪れる筈のない時を待っている。


『強がっていても強くなっているわけじゃない』。それでも人は頼もしい言葉を待っている。幼いままの心は身体に似合わない、そういう悩みも世間の話の中では居場所がないのは分かり切った事なのかも知れない。せめて自分くらいはそれを認めてあげようと思って選んでいた薄手の淡いピンクに水玉のパジャマに身を包み、冷え性の身体には必須のふかふかした毛布に包まっているわたしの姿を見たらあの人は何て言うだろう。


『大丈夫だよ、僕はいつも君の見方だよ』


そんな素敵な言葉を投げかけてくれる人ではなかったような気がするけれど、長い間わたしの中で育まれてきた末のその心強さにほんのわずかに心が癒される。



1時を過ぎたのを知って「結構ギリギリだなぁ」と苦笑するように言ったのを合図に、弱さをしまい込むようにしっかり目を閉じた。



「あーえーとですね、誠に申し訳ございません」



その静寂の中で突然男の人の声が響いた。反射的に飛び起きて周りを確認したけれど、当然の事だけれど誰かがいるという事はない。すごく明瞭な発音だったけれど『幻聴』というものなのだろうか?それにしては明らかに自分の外から、しかもとても近くから響いたような気がする。



とにかくもう一度時間を確認してみようと思って枕もとのスマホを取り上げた時だった。


「あー、その申し訳ございません。そちらのデバイスからです」



何も設定していないはずのスマホの画面はフェイスタイムモードで起動していて、そこに誰かの顔が映り込んでいる。


「きゃーーーーー!!」


自分でもビックリするほどの大きさの悲鳴が出てきてしまって色々とドキドキしてしまう。どういう状況なのかはよく分からないけれど、反射的に通話をオフにしようと色んな所をタップし続けたのだけれど、何か特殊な通話モードらしくてそのままどんどん時間が経過してゆく。するとまた画面の方から、


「えーとですね、多分通話はオフにできないと思います。というか厳密には通話ではないので…」


とやけに冷静な言葉が発せられる。恐怖のあまりその場から逃げ出したくなったけれど、落ち着いた男性の声で悪戯をしているような声音には聴こえなかったので、いったん深呼吸をして相手の言うとおりに対応することにしてみた。


「わ、わかりました。ちょっとわたしにはよく分からないのですが、これだけは教えて下さい。わたしに何をするつもりですか?」



わたしの知識でも「凄腕のハッカー」だとか「闇のツール」だとか、「故障」とか比較的現実的な解釈はできていたし、まずは相手が何を要求してくるのか慎重に見極めないといけないと感じた。だけどその人は予想に反してこんな事を告げる。


「えっとですね、誤解がないように説明するのは非常に骨が折れるものと思われるのですが、手っ取り早く私が『天使』で最小限の接触方法であるこのデバイス経由で貴女をサポートしようという心づもりなんですよ」


「はい?天使ですか?」



「はい。信じてもらえないかもしれないですけど、現代的なモラルに照らし合わせて『天使』と言えども女性の一人暮らし宅に突然現れるのは色々躊躇われてですね、それでも貴女の心の許容量を考えると、今日あたりに何かしてあげたいなと思ったんです。と言っても自分天使の中では不器用な方で、野暮ったい事しか思いつかないんですよね、ははは」


なんだかとても明るい声で説明してくれて、実を言うとそれだけでも少し気が紛れたりはしていたのだけれど、それでも相手の言う事をそのまま信じる事はまだできない。


「よく分からないのですがたとえそれが本当だとしても、わたしがそれを信じる事はできないと思います。証拠がなければ」


「証拠ですか…。じゃあ、私の羽を一つそちらに転送しますよ」


と言うや否や、わたしの枕もとに白い羽が一つ立ち現れた。


「これ…本当に羽だ…」


確かにそこには何もなかった筈で、わたしは今や証拠を突き付けられてじわじわと何かを実感し始めていた。


「じゃあ、あなたは本物なのですか?」


「ええ、『本物』です。しょぼいですけど」


漠然とした天使のイメージからは程遠いいかにも普通の人という『天使』が実在することを了解したわたしは、


「分かりました。ちょっと頭を整理したいので待っててください」


と時間稼ぎをする事にした。スマホをそこに置いたまま、一度洗面所までやってきて自分の表情を確認する。思いのほか嬉しそうだと思った。頭の中で、


<じゃあ、そういう天使がいるとして何をしてもらえるんだろう?>


とあれこれ想像してみたりしてもし頼めるなら何かを頼んでみようと心に決めて、部屋に戻る。


「おかえりなさい」


「すいません。大丈夫です。話を続けてください」


「え?話ですか?何を話せばいいんですか?」


「はい?」


わたしは相手が思いがけない事を口走ったのでまた混乱してしまった。


「え、でも『天使』さんは何かをしてくれるって事ですよね。」


「まあ電話口でのサポートですから、出来る事は限られてますけど」


「それってどうなんですか?わたしは明日も仕事なんですよ…」


「先ほど申し上げましたが、私は『天使』の中でも不器用で多分人間に置き換えると冴えない人ですよ」


「自分で『冴えない』っていう人にサポートされる事もないっていうか…」


「でも、『天使』の実在性についてはこれで伝える事ができましたし、そういう存在が見守ってくれていると思えれば心強いでしょ?」


「な…」


言っている事には一理あると思ったけれど、あんまりにも発言が野暮ったすぎて絶句してしまう。


「その発言はひどいですよ…何ていうか貴方には愛を感じません」


「あー、ごめんなさい。確かにそうでした。でも『愛がない』って事ではないんです。愛はあるんですよね。それを示すのはとても難しい事で、色々悩んでるという。実際問題、貴方を見守る事にして長い時間が経ちましたけれど先ず『現れるか』、『現れないか』の逡巡があって『現れる』としたら本当に大事な時にしようと決めて、現れ方もなるべく驚かさないようにしてこういう風に現れたんですけど…なんていうか中途半端になってしまいましたよね…ほんとアカンなぁ…」


こんな風に目に見えてしょげ返っている天使さんを見て少しだけ感じるものがあった。それが何なのかが分かったわたしはちょっとだけ心が軽くなるような気がした。


「ふふ、天使さん、本当に『不器用』なんですね」


今更ながら画面を良く見つめてみると、確かに『天使』と言ってもいい整った顔立ちなのが分かった。


「困りますよねぇ…やっぱりあれですよね、優しくて包容力のある方に現れてもらった方が良いですよね…。」


その時わたしの脳裏に「あの人」のイメージが浮かぶ。


「否定はできないですね…わたしも本当は弱いから…」


もしかしたら自分で「弱い」と誰かに言ったのはこれが初めてかも知れなかった。それが少し意外だったけれど、彼はこう続けた。


「あの、お勧めの曲があります」


「曲ですか?」


「えっとですね、天使達の中で実用的に『ヒーリング』の研究をしている部門があるんですが、現世において最近特に『ヒーリング』力に秀でた作品を生み出す天性の才能を持ったアーティストが出てきたともっぱらの評判なのです。僕もそれを聴いてですね思わず号泣してしまってですね、これはサービスという事でこの端末にダウンロードしておきました」



「ダウンロードしたんですか?」


「大丈夫です。僕のポケットマネーでダウンロードしたので…それでは今日のところはこれで失礼します」


と言うとそれを最後に天使さんの姿が画面から消えた。そして彼の言う通り、わたしのスマホの中には知らないアーティストのある曲がダウンロードされていた。



☆☆☆☆☆☆



数日後、わたしは職場の休憩室でスマホで『ココロ』という曲を再生していた。そこに通りがかった同僚の子が、


「その曲、いいね。なんていう人の?」


と訊ねてきた。


「『アンジェロ』、イタリア語で天使だって」


「へぇ~素敵…」


「ねえ、もしこれが『天使の羽』って言ったら信じる?」


そう言ってわたしはあの時の白い羽を彼女に見せた。彼女はしばらくそれをじっと見つめて、


「天使ってどんな人なんだろう?」


と言った。


「天使も色んな人がいるのかもね」


わたしのその答えが意外だったのか、彼女はちょっとだけ笑っていた。

演じ得る

Posted by なんとかさん on   0  0

「助けてくれー!!」


とてつもなく『どうにもならない』という感情が襲ってきたある夜の事。どんな風に考えても自分がどうにかするしかないという結論が変わりそうになく、たとえ今回凌いだとしても多分同じようにまた乗り越えなければいけない山がやってくるのだと思ってしまった時、心は悲鳴を上げた。独り暮らしの部屋で「助けてくれ」と叫んでしまうような事はもしかしたらそんなに珍しいことではないご時世なのかも知れないが、一番どうにもならないのは『どうにもならない』という事を受け入れ切れていない自分自身だという事もうっすら理解している。


「分かってんだよ…わかってんの…うう」


「何が分かってるんですか?」



「ひぇっ」


頭がおかしくなったのかも知れない。いつの間にか僕の隣に明らかに『天使』と思われる存在が座っていた。全身白のコーデで背中から異様にでかい羽飛び出しているからそう判断するしかない。ただ、こういう状況で相手が『普通』にしてるからそういう存在なのだと分かっていても逆に『怖い』。



「あなた何なん…なんで…」



突然の事に過呼吸気味になっていると、


「落ち着いてください。はい。すーはー、すーはー」


と的確にアドバイスをしてくれた。


「すーはー、すーは…」


人間はとりあえずこういう時に助言に従うものなのだろう。とにかく気を落ち着かせて周囲を確認し、間違いなく自宅に居るという事を確かめてからもう一度その相手に向き合う。


「あ…落ち着きました。ありがとうございます」


「いえいえ、これくらいの対処は基本ですから」


失礼かと思ったがそう述べた相手の顔をまじまじと見つめると、非常に整っていてCGみたいでちょっと怖い。しかも何かで読んだ事があるが『天使』は男性でも女性でもない存在らしいので、非常に美形なのだが通俗の言葉で言えば「かっこかわいい」的に見える。これ以上の情報は相手から訊きださないと分からないので色々考えながら話してみた。


「あの…そのやっぱりあなたは、『天使』さんですよね」


「ざっつらいと」


そう言ってサムズアップする天使さん。なぜ英語?まあ英語圏といえばそうなんだけど。


「それで、やっぱり助けに来てくれたんですか?」


「おーるもすとりーとぅるー…って日本語だと「ほぼ正解」ってことですね」


英語の部分は何かバイリンガルっぽい人だと思うようにして気にしないことにする。


「ほぼ正解ですか?」


「そう。わたしは貴方を直接助ける事はできないんです」


「直接?じゃあ間接的に?」


「そうです。わたしはどちらかというとコンサルタント部門なので、まず状況、問題点を把握してですね、現状を打開する知恵をお貸しするという助け方になります」


「うわ…めんどくさ」


偽らざる本音が出てしまった。なんか妙に現代の思想にそまった『天使』はうちの小さな会社に時々やってくる「出来る人」っぽい雰囲気で滔々と持論を述べてゆく。


「貴方にはまず何よりも『対話』が必要だと判断されます。しかも客観的な意見を言ってくれる、要するに『外部』の方ですね。ただ昨今ですと、それには金銭が絡むような話になっているのは必然ですので、ぶっちゃけ若いおねーちゃんが居るようなお店で少し愚痴を聞いてもらったりするだけでも違うと思います」



「おねーちゃん?」


何か違和感のある単語が出てきたので思わず聴き直す。


「神様もですね、割合適切に管理されてあまり下世話な欲でなければ大目に見てくれることもあります。要するにですね、現代日本のコミュニケーションの疎遠さとか草食系の生態とか、過去の時代に想定されたものから大きく逸脱しすぎていてですね、なんか我々もよく分からなくなってるんですよ。そもそも仕事のクオリティーも求められすぎなんですよ…」


何だかこの『人』、あんまり我々と価値観変わらないんじゃないだろうか。


「で、話を戻すと天使さんとしては、適度に気晴らしをしてこいという事なんですね」


「そういう事になりますね」


「…」


なんかイメージしてたのと違う。職務放棄ではないけれど、こうなんか優しい温かい言葉を投げかけてくれて甘えさせてくれると思ってたのに。いや、なんかこういう事を考えている自分はちょいキモイ。天使さんはそんな部分を読み取ったのか、


「まあ今までのは『男性的』な愛ですね。もちろん『女性的』な愛もあるわけですが」


と謎の発言。


「え…つまりどういうことですか?」


そして待ち構えていたように言う。


「ここからはですねやや女性的なジェンダーの方にシフトさせてすね、わたしが『お姉ちゃん』になったげる」


ここで一応補足しなければならないけれど、実は天使さんの声が後半の「わたし」から少し高い声に切り替わって口調も科も、女性と言われれば女性に思われるものに変貌していた。


「うわ…すごい…変わった」


「あのね、ちょっと最近はこういうの面倒臭いの。いまはさ男性女性とか、括るのって良くない風潮があるでしょ?でもね、ずっとその曖昧なところを漂っていた先輩からすると…」


「先輩からすると?」


「『愛』は大事なの」


「『愛』ですか…」


「つまり貴方が何を求めているかなの。『助けて』って言ったのはどういう意味でなの?人恋しさ?それとも問題解決?」


「そ…それは…」


「『天使』として助けてあげられるのはね、あまり多くないの。現実逃避ではダメだし『愛』は現実に立ち向かわせてくれる。そういうものだとわたしは思っていて、そして今回貴方に残してあげられるものはこの記憶と…羽だけよ」


「え…?」


天使さんが言葉を告げた後、空間が激しく輝きだした。それに目を奪われている間に、いつの間にかその人は居なくなっていた。



☆☆☆☆☆



確かにあの記憶は残っているし、後で思うともしかしたら夢を見ていただけかもと思うようになった。部屋にはそれこそ『羽』さえ残っていなくて、幻想というのは儚いものなんだなと。それでもあの時それを経験したお陰で僕は何となくこうして温かい気持ちになれているし、希望をもって過ごしたからなのか状況は次第に好転していると感じられる。



「そういうことなんだろうな」




そう思って外を散歩していた日曜日の事だった。何気なく立ち寄った公園、ベンチの上に白い羽が一つ落ちて…置いてあるのを見た僕はこの頃にはない様なとても純真な気持ちでそれを拾い上げ、胸ポケットの中にそれを差し込んだ。




と…話を濁すようで躊躇われるのだが実はあの日以来夜に何度か『おねえちゃん』が居る店に行ってみようかななどという発想が頭を過るようになっている。ただそういう時に限って別の健全な良いことがあったりるするから…そういう意味でも見守られてるんじゃないかなと思ったり。

花火を見に

Posted by なんとかさん on   0  0

できるだけ、「そう」ありたいなと思う。



夏の終わりを待っているようで、どこか夏らしさに夢を見ているここ数日の心境。どことなく溜息をついてしまいそうな三時過ぎに、アイスを一つ頬張る。今年の花火を見るか見ないかで知り合いとちょっとしたやり取りがあって、『結局は当日の天気次第だね』なんてまとめたところ。そこまで望んでいないけれど、心の何処かでそれを見なきゃ後で残念だと思う日が来るんじゃないかと考えている部分があって。



で、行くとしたら出店で「焼きそば」と「唐揚げ」は食べたいよなとか考えていたところに別な人から連絡があってどうしても地区の催しを手伝ってほしいとの事。花火の会場とは反対方向の催しなのでもし手伝うとしたら花火の時間に間に合うか甚だ微妙になる。別な人…とは言ったけれどつまりは親戚で、少し断りにくい間柄であった。惜しい気もするが、知人には「頼まれごとがあって、当日いけるかどうかわからなくなった」と連絡する。もともと酒の席で『暇だったら行ってみようという』ノリの発案だったので、具体的な用事がデキてしまうと優先順位が低くなってしまうのが何とも言えない。



そして当日。


「今日はごめんね、どうしても人手が欲しくってさ」と手を合わす親戚の姿を見ていると本当に人手が欲しかったんだろうなと思えてきて、それはそれで手伝えて良かったなと思える。やはりここでも夏祭りで、昼頃に開催の合図の小さな花火が上がって天候としては恵まれていた。


<音だけの花火も悪くないよな>


と自分に言い聞かせて半分仕事と割り切って、やれる事を探して運営を手伝う。時折小さな子供が自分の方を興味深そうに見ているのを発見して、ちょっとお道化たりしてみながらぼんやりと自分がそれくらいの年齢だった頃の事を思い出していたりした。


「どう。楽しい?」


わたあめの袋を片手に静かに立ち尽くしているその少年に保護者のような感覚で思わず声を掛けている。少年は、


「今日、花火も見に行くの」


とだけ言った。もしかしてと思い、


「花火って、〇〇市の方の?」


と訊いてみると小さく頷いた。どうやら行こうとしていた花火会場の事だった。


「そっか。楽しみだね!」


うらやましいなぁという偽らざる気持ちが表情に出てこないように注意しながら言うと、


「うん」


と言って少し笑った少年。その時親戚から呼ばれ、「今度は屋台の方を少し手伝ってくれ、焼きそばも食べていいから」と告げられる。そうこうしているうちに先ほどの少年もいつの間にか見えなくなっていた。



☆☆☆☆☆



夕方が近付いてきて、あと一時間くらいで花火大会が始まるなと思っていたところで親戚がゆっくり近づいてきて、


「今日はありがとね。もうそろそろ人も足りてきたから好きな時に上がってもらっていいよ」



と言われた。好意なのだけれど、それもそれで何となく微妙な心境になってしまいそうなのは不思議な話である。ただ、今から移動すれば花火大会に間に合う計算なのに思い至って急遽知人に連絡をしてみようとスマホを取り出した。生憎、連絡が繋がらず行く場合には一人でぶらぶらする事になるなと一考する。



「どうしようかな…」


迷う自分の脳裏に浮かんだのはあの少年の「花火を見に行く」という言葉。何も誰かと見に行かなくても花火というものは良いものだと、ちょっとした気持ちが沸き起こってくる。決め手はその時親戚がお礼にと手渡してくれた「焼きそば」と「唐揚げ」とスポーツドリンクだった。



<これを飲み食いしながら花火を見たらさぞ気持ちいいだろうな>



本質的にその欲求に負けたからなのかどうかは分からないけれど、いそいそと花火会場に車を走らせていた。会場までの道で雰囲気が出そうだなと思って、最近良さが分かり始めたフジファブリックの某曲をカーステレオで流してみると何だろうか、夕陽も相まって妙にノスタルジックな気分になった。



そのノスタルジックな気分も会場の混雑に一瞬消えかかってしまうのも現金な性格ゆえだろうか。がっしりした見かけほどごちゃごちゃしているところが好きではない自分にとって、若人が練り歩く歩行者天国には少し参ってしまいそうな雰囲気である。ただ、そう言いつつも適当に川沿いの空いている場所を探して座り込んでみると段々と情感あふれる光景に見えてきて、少しぬるくなっていたスポドリを口に含んで見た時には始まっても居ない花火の音が聞こえてきそうな気がしてくる。




「まあ、悪くないよな。こういうの」



最近はなるべく「そう」あろうとしている。つまりいつでも何かに「良さ」を見つけて『悪くないよな』と言ってみせる気概を持つというか。言葉で説明すると妙に理屈めいてくるけれど、心掛けているのはそういう事である。昔はそんな事自然にできていたのに、頼みもしないのにどしどしと入ってくる世知辛い話題が世の中に多くの希望を見出さなくさせていて、本当に心が若いままだったらと思ってしまう事も多い。一方でそんな中でも何かを思い出し気を取り直して再開することの大切さを実感している。



<なるべくこうあれればな…そうすりゃきっと…>



総括に近い事を思いかけたところで遠くからマイク越しにアナウンスが流れてくる。どうやら開会式らしい。テンションが2つほど違う女性の声が夜空に響き、辺りは少しにぎにぎしくなる。待ちきれないのか男性の「おー」という声が聴こえてきたり、子供たちの声も段々と目立ってくる。気温もそれほど高くない絶好のコンディションだけあって、みな心待ちにしているようである。




ひゅるるるる~ドン


ドン ドン ドン



最初の一発を合図にするかのように、夜空に花火がどんどん打ちあがって開いてゆく。この頃になると妙な一体感に包まれて、来た甲斐があったなと思ってうれしくなる。



ひゅるるるるるるる  ドン ドン ぱららら  ドン



時折花火の音に歓声が混ざる。すでに大分暗くなっている夜空だが花火が上がった時に一瞬周りの全てがはっきりと見えるくらいの明るさになる。それが子供の頃は無性に不思議というか、分かっていても凄いなと感じていたりした。今思えばこの日本の風土によく合う光景を誰もがずっと見てきたのだ。あまりロマンチックでもない自分でさえ自然に『これはもうDNAに刻み込まれているんだろうな』と感じている。そうして自分ももしかしたら誰かにこの光景を引き継いでいきたいのかもなと思ったりする。



<そういうのって、本質なんだろうな…>




サビ付きそうになりながらも、時々こうやって浸って呼び覚ます。魂を揺さぶるこの情景は毎回新しくてもどこか懐かしい。一度に見てしまうのは勿体ないと思いつつも、花火は順調に、次々と打ちあがってゆく。そして。



『いよいよ今年の最後の花火となりました。そして皆さんもご存知のあの曲に合わせて花火を見ましょう!』



元気のよい女性の声で「もしかしたら」と思う。思った通り、たんたんたんたん、という心地よいリズムの曲がスピーカーから流れ始めて『真夏のピークが去った』という歌が始まった。車の中でも聴いていたのに、このタイミングで始まってしまうと途方もなくじーんとしてきてしまって、眼がしらが熱くなっている。



ドン ドン ドン ドン




歌われる歌詞の情景を思い浮かべ、上を眺めているとまるで知らない場所に来たかのよう。サビの部分で華やかに彩られる夜空に、近くにいた誰かが曲を口ずさんでいるのが聞こえ、そういう何かを目の当たりにすると胸いっぱいに何かを感じる。それは何と言えば良いのだろう。



「やっぱり『何年経っても』…」



本当に半端ない曲を作ってしまわれたんだよ。なんだこの気持ち、やべーべ。くそ、なんだこれ、と心の中の語彙が乏しくなってしまうほど気持ちが溢れてゆく。そしてそれを妨げるものは何もない。何度となく叫んできた大サビで気付くと立ち上がっている。







…今思うとあの瞬間の自分の空白は全てを言い表しているような気がする。『あの瞬間』、自分にもあった何かの瞬間、そういうものが一体になって迫って来たあの時。そして本当に最後の花火が終わって、演奏もエンディングを迎え、余韻だけが残る。何かが実際に起こったというわけではないのに、確かに何かの『存在』、何かの『真実』そう言ったものを余すところなく実感しているその余韻。




周りの事も気にせず立ち尽くしている自分に気付いて、ふと我に返ってしまう。そして何だか苦笑いしているというか、変な感じなっているそんなことも含めて、凄く良い夜だったなと思う。最後に紙コップの底に残っていた唐揚げをつまんで口に放り込み、花火会場が混雑しないうちに帰宅を選択した自分。そこで知人からの『ごめん、今気付いた』というメッセージ。何となく申し訳なく思いつつも顛末を説明すると、実は知人も違うところから花火を見ていたらしい。


<なんだかなぁ…>



いかにも自分らしい展開だから引き戻される感じで笑ってしまいそうになっている。そう言いつつも、車の中でまたあの余韻を取り戻したくて再びあの曲を再生している自分。ふと空を見ると空に星が輝いている。


「これは悪くないな」


今年はそんな夏だった。

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