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もっと前に

マイケル3世:「私の馬鹿丁寧な説明なぞ、誰の役にも立たないでありまして。だからして私は自前の仮説に乗っかって、不親切に漂っていれば良いわけでして。そうなった私はきっと、この世の冬を謳歌しているようにしか見えないわけでして。」


その時伯父は、風鈴を弄りながら背丈が今の2分の3程度しかない僕に微笑みかけた。彼の面白しさは、一切後ろを振向かないところにあった。その理由を訊ねると、優しさに満ちた眼差しで『我が美徳として、そうしているのであ~る。』と答えてくれたが、これは彼の常套句であった。いまでも、この口癖が耳の奥に残っている。



Mr.ケロッグ:「話を、聞いてマスか?ユー!!」


「はっ!!え…。あ、いや…。その。」


Mr.ケロッグ:「困りマスねぇ。ユーはこの支店を任されているのだから、本部の通信にはしっかり応じてもらわないと。50店を同時にモニタリングしている私の身にもなってくだサイよ!」


「はっ…はぁ。すいません。」


Mr.ケロッグ:「監視が厳しいというけれどもさ、これには客の防犯の意味もアルのだよ。そこんところもお忘れなく。じゃ。」


最近チェーン展開し始めた「元祖リベラル屋」。ジェンダー大陸店、支店長に就任した僕でさえ『何か良く分からないもの』ばかりが売られている店だ。ジェンダー大陸とは、数百年も昔から深刻化し始めた地球温暖化現象の為に、ユーラシア大陸が分断されてしまって、ここ数十年のうちに新たな大陸として認められた大陸の一つである。


元祖リベラル屋については「アンティークショップ」に当たるものと思われるが、今となっては利用する手段がなく完全に非実用的となった商品を主に扱っているため、時々歴史マニアか学者が大量の資料と供に現れては、バーチャルな世界の『仮想対象』を購入するか、『実物』を買い取ったりする。もっとも、断っておいたように実用価値の無い商品だからして、基本的に客は実物を買い取って持ち帰る為にこの店を訪れ、僕も商売の原点に立ち返り、その人に手渡すという面倒な動作を行わなければならない。このご時世、仮想対象でない実物は、精々緊急時のバックアップの役割くらいしか果たして居ない。



ただ、仮想空間も普通の空間と同様に、そこに詰め込めるものには容量による限界があり、扱いにくい対象は初めから読み込まれもしないので、こうして実物を保管している『店』にも意義があるのだ。


基本的に全ての実物は仮想対象にして本物同様、時には本物以上に扱えるが、食料やエネルギーについてはそうも行かない。どんな人間も、サイボーグ化を選ぶか、僕のようにジェンダー大陸に移って生身の生を選ぶしかない。要するにエネルギーと効率の問題で、腹が減ったり、トイレに行きたくなったりするたびに仮想空間から抜け出すという行為が馬鹿馬鹿しく思えてくると、いっその事、肉体についての心配をする必要の無い状態にしたくなる。一時期、それなら脳だけを残せばよいという話にもなったようだが仮想空間も案外脆いものなので、点検の為、物理的に移動しなければ困る事もあり、サイボーグ化で落ち着いている。




先程通信があった本部は、ジェンダー大陸には無い。ところが、データを集めて仮想空間としてこの店を再現すれば、サイボーグとして生まれ変わったMr.ケロッグのように、そこから僕を監視する事も可能なのである。ただ僕は未だに、この世界に注意を向けながら仮想世界の通信を受けるという事に不慣れである。やはり、どちらかに集中していたい。



僕達現代人にとって、20~21世紀辺りの歴史には余り興味が無いのが本音である。それはまだ古き人類の歴史であり、生命観、倫理観からして今と非常に喰い違っている為である。それよりは、およそ千年も昔に人体の機械論を唱えたとされるデカルトの方が馴染み深いように思われる。ところで、ここにある奇妙な商品の殆どが、20~21世紀頃のものなのである。


「その頃の人間は、きっと血迷ってたんだろうな。なんだ、これ?」


僕は独りごちた。
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トリック

一軒目。


「トリック・オア・トリ…」

「はい、キャンデー」


「…」


二軒目。


「トリック・オア…」

「はい、キャンデー」

「…」


三軒目。


「トリック…」

「はい、キャンデー」

「…」



四軒目。

「トックリ…」

「はい、はちみつ」


「…え?」

「『とっくり』ときたら『はちみつ』でしょうが!!」


「…お酒じゃないの?」

「未成年でしょ?」




ぼくはどんなに疑問を感じても、素直が一番と思った。キャンディーうまい。

理性の悲鳴

僕の理性が悲鳴を上げる。先生が、出来もしないのに歌舞伎役者の物真似を始めたからだ。

<先生、そこはブラックホールだよ。>

僕の心の声は、後に引けなくなった四十二歳には届かなかった。そんなことより甘いものを御馳走してくれと思った。ちょうどその頃、何処もかしこも苺キャンペーン真っ盛りで、僕の潜在意識は、苺チョコレートに向かっていたのだ。


授業が終わり、帰り道。



今日の空は驚くほど、平面的だ。ふっくらとした雲の下を、クラゲの様に薄い雲が漂っているような日、僕は物体で占められることのない空間がその辺りに存在している事を認識する。でも今日みたいな日は、カラーコピーによる模写が糊付された平板がただ乗っかっているだけなのに、あいも変わらず「空」がありますよ、なんて僕を欺いているのではないかと一度疑ってみる。もしかしたら、しっかり糊付されなかった紙が空を舞っているかも知れない。


「炭酸飲み放題って、むかし学校で流行ったよな?」


僕が太陽の位置を探していると、一緒に下校している友人が唐突に言った。友人は、意味のない発言をする。ガソリンスタンドでバイトしていた頃など、延々と無駄口を叩き続けながら仕事をしている彼に呆れ帰ってしまった事もある。


「流行ったって、一体いつの話だよ?」


と僕。


「おい見ろよ!!木馬に跨って、誇らしげだぜ。」


と彼。こんな調子で、会話として成立する方が実際珍しいのだ。そういう種類のボケは、近年ある程度認められるようにはなってきているけれども、この脈略のなさは異常を極めていて、僕は彼が半分…いや九分の八は狂人ではないのかと思える。


「怪我をすると、医療保障が受けられる。残念だけど、減額だ。もっとよい勤め先があっただろうに。約束が違いすぎるよ。ごますったって何も出ないよ。腹ペコで待っているんだ、子猫が。闇金融に手を出すな。」



「微妙に意味ありそうな事抜かしてんじゃねぇよ…。」

でたらめフレーム


「実はいい事を思い付いたんだ」

というデタラメを少し余所余所しくなった友人達にばら撒いていたら、急に前からやってきた自転車が警告の鈴を鳴らしたのを最後に聞いて僕は気を失った。気を失ったつもりだった、という方が正解だろうか。実は気を失っていなかった。僕は自転車なぞには全く、これっぽちも興味はなくて、むしろ自転車のフレームに使われる材料が何かの方が気になるくらい材料フェチで、とりわけチタンに惚れ込んでしまうのはきっと前世からの因果があるに違いないとさえ思えるほどチタン狂信者なのだが、どうしてくれよう、その自転車はアルミだった。なぜあれほど、自転車屋さんのおじさんと、近所の親切なおじさんと、いやもしかすると世界の7分の2くらいのおじさんは丈夫なものが良いと言っているのに、アルミなのだろうか?

そういう事を考えて気絶した、心の中で気絶したのである。

僕も数年来、若者言葉には参って、滅入っているけれど、それでもこの時の滅入り方ほどではない。手軽さが好まれる時代、恋愛も小説もゲームも、合せて恋愛ノベルゲームも手軽なものが多く、ヒトは時間も奪われないが何らかの強度も手にする事がない。だからあれほどハードにしておけって言ったのに、ハードモードでやることは楽しくないのでやりたくないそうだ。友人曰く。でも僕は、特に僕の僕らしいところといえばそうなるが、ハードなものほど挑戦したくなるような性格で、そういうところさえも天邪鬼とか貶められるけれども、でも僕はハードこそ「かたく」する方法なのだと、少数の人に向けて言いたい。何故少数に向けてなのかというと、みんなハードに挑戦するとそれはそれで疲れそうだからである。疲れは当然ある。だから立ち直れなくなるくらいまで疲れさせては目的を見失ってしまう。「かたさ」を手に入れるなら、ハードを超えないハードさを見極める必要がある。


という観点からすると、やはりアルミ、リアルなアルミを見た時の衝撃は、僕にとってハードだったかも知れないが、気絶まではゆかなかったとするなら、それなりに強度が上がっているのか、ハードさが足りなかったからなのかも知れない。そりゃあそうだ。日常の中で、気絶するくらいハードなものは遠ざけられているに違いない。僕が見ることの出来るハードなものは、既に日常というフィルタリングされた情報の中でハードというだけで、本当に気絶してしまいそうな情報は、最初から目にする可能性から遠ざけられているのだ。


だから僕も強度が上がらない。だから僕はチタンに惹きつけられる。そういう心理学を展開して何が面白いのだろうと思う、もう一人の僕が居る。そして、色褪せないチタンが色褪せるような錯覚を覚える。でも、僕はそのチタンを信奉する僕を自分だと思うし、馬鹿馬鹿しく思いながらもやはり僕は、ついふとした瞬間は僕なのだ。

「実はいい事を思い付いたんだ」


僕はあいかわらずデタラメを言う。もしかしたら、何にもでてこなくても、僕はいいことを思い付いているのかも知れない。デタラメといういい事を。

ATJ あなざー③

何故か知らないが、私は『ケロ子ちゃん』の生みの親であり、自身もそれに扮している(と言うべきなのか?)乙女に招かれて、他の見栄えのしないキャラクターの吹き溜まりというか異界と化している空間、商店街が用意したと思われる待機室で聞きたくもない愚痴を聞いている。


「どうせ、こんなこったろうと思いました。何がキャラクター祭りだ、ただの見せしめじゃないか」

「アンタの方はマシだよ。俺なんて、自治体の予算がなくて、遠くからわざわざ鈍行でやって来てこの仕打ちだぜ」

「ボクなんて、子供にキモチワルイって言われちゃいましたよ」


待機室と言ったけれど、キャラクターの体積で圧迫されていて、まるでサウナ室である。各々折り畳みの椅子にあしたのジョーが燃え尽きた後のような体勢で座っているのは、燃え尽きたというより、ずっと相手にされなくていじけてしまっているところが多いだろう。私が入ってきても、彼等の様子は変わらなかった。何でもいいけど、全員生首をその辺に転がして、頭だけ小さくなっている姿で会話するのは異様な感じがするから、半人半獣は辞めてもらいたい…。だが同じく半人半獣の乙女は、とても満足そうに語る。


「わたし、このお祭りに相当気合入れてきたんです。でもキャラクターの細かい設定を考えてこなかったから、動き方が中途半端になっちゃうんですよ」

「え、、、ええ」

「だからとりあえず、他のキャラクターの真似をしていたんですけど、それだと『愛』がありません!!」

「『愛』ですか…」

「はい!『愛』です!!」


私はこの人がキャラクターに対する熱意のようなものが、『愛』であることに気付いた。そうか、『愛』ってそういうものなのかぁ、と若干引き気味に感心していると、隣からかなり渋い声で、


「お嬢ちゃん。『愛』だけじゃ、キャラクターは『生きて』こないぜ」


とキメ台詞を言うのが聞こえた。何この人、格好いいとか少し思っていると、


「キャラクターがもっとも活き活きするのは、我々が活き活きすること、すなわちギャ…」

「ギャ?」

乙女のキラキラした目に見つめられて、半分だけタヌキの普通のおじさんは

「ギャ…ラ…いや、お嬢ちゃん、やっぱり『愛』だ。『愛』がなきゃだめさ。」


とヘタれた。勿論、ギャランティーと言い切るのもどうかと思うが、ヘタれてしまうのはこの後の展開にあまり良い影響を与えないなと想像された。友人だったら、「ギャラ」と即答しているところだが…。


「ですよね!!やっぱり『愛』なんだ!!」


案の定、彼女は自説を強化し始めた。そしてまたどういう事なのかよく分からないけど、私はとんでもない質問を受けてしまう。


「あの、『愛』って何だと思いますか?」

「あ、『愛』っていうのは…」


遠くで『ためらわないこと』という言葉が聞こえたので、その辺の年代の人が多いのかと思ってしまった。因みに、私は少し外れていて、『ジバン』の方だった。分る人には分る。しかし私は真面目に考え出してしまった。『愛』と言ってもこの場合はキャラクターに対する『愛』だから、子供を見守る親の心境に近く、その心境とは、つまり「その対象がその対象が元気であって欲しいなと願う気持ちとか」。しかしそれでは、十分でないようにも感じられる。彼女が『愛』と呼ぶものは、命を吹き込み、活き活きさせてあげたい、ただそれだけではなく、そのキャラクターが彼女の全てであるように全てを与えたいと、(たとえ一瞬でも)思える事ではないだろうか?それを拙い言葉で説明すると彼女は。


「そうかー!今ので確信しました、わたしには『愛』が足りない。いえ、『愛』を十分に知っていません」

「え?そうかな。十分情熱的だと思うけど…」

「違います。わたしにはまだ恥じらいがありました。それはこの子を『愛』する妨げになっているんです」



恥じらい、というか実際恥ずかしいでしょ…と思ったが口には出さない事にした。彼女はそれを『愛』で乗り越えようとしている。悪気はないのだが考えている私の方が何だか、恥ずかしくなってきた。それと共に、嫌な予感が。

僕の春休みは、実家から送られて来た豊富なバリエーションの缶詰で始まった。日に二缶ほど開けて皿に落としていったとしても、一か月は冷蔵庫脇の箱が空になったりはしないだろう。

そんな幸福が詰まった箱を送り届けてくれた実家の人々と、緑の服来た宅急便のオジサンには大感謝である。

一人暮らしの身には、米も有り難いが、缶切り不要タイプの缶詰は、炊かなくても食べられるところに更なる魅力がある。自炊すら面倒になった僕の心理を予め読んでいたかのような配給である。

ところで、これがどういうルートで確保されたのか、僕は少し気になっている。まさか小規模なスーパーで買い占めるような非常識はしてないだろうと思うけれども、箱が送られて来て中身を確認した僕には地元にいる姉が、手当たり次第に缶詰を掴んで買物カゴに高々と積んでゆく姿が思い浮かんでしまったのである。


この想像には、幼い頃からの記憶が関係していると個人的に思う。それというのも僕は幼い頃から、姉がいろんなものを積み木のように積み上げてゆく光景を見せつけられて来たからである。姉は、何かを高く積んでバランスを保たせる事が異常に得意だった。指先が器用なのか、ただ積む事にだけ長けているのかは不明なのだが、とにかく彼女が自分の身長を超える高さまでいつの間にか積んでしまった場面に立ち会えば、誰でもその才能を認めるに違いない。


無駄かもしらない、才能の発露は、オーソドックスだが幼少期の積み木に始まった。そして僕は、この快挙の目撃者である。

姉と僕は、その日も子供部屋で仲良く遊んでいた。確か僕が、赤や黄色という色とりどりの大き目の積み木を、使い方が良く分からないまま、あーでもないこーでもないと、床に並べていた時に姉が、

「あっくん、そうじゃないよ。見ててね。」


といってそれを僕から取り上げて、彼女は積み始めたのである。その動作はまるで、赤、緑、黄色、という順序が予め定まっているかのような規則正しさで進められた。僕が目の前で起きている事態が理解できずにパチクリさせているのを余所に、あっという間に玩具箱にあった全ての木を積み終えてしまったのである。しかも、それは普通の積み方ではなく、建築物の高さが一番高くなるように置き方を工夫してあり、それでいて絶妙なバランスが取られていたのである。

当時の姉の身長が100cm未満だったにしても、その姉の頭の上に木が置いてあるという事だけで、僕の目は真ん丸くなった筈である。そして次の瞬間、姉は何の愛着も示さずその建築物にチョップを食らわせて総崩れさせ、僕に向かってこう言ったのである。

「ねっ?あっくん、簡単でしょ。こうやって遊ぶんだよ。」

僕はもちろん、次の日から姉の真似を始めたのだが、到底真似できるわけも無く、この身近な人に挫折させられながらも尊敬の念を抱き始めたのである。もちろん、

「なんで出来ないのぉ?」

という、才能に恵まれし者にお決まりの嫌味のつもりがない自然な憤りの言葉が、何度か僕の心を傷付けそうにもなったのだけれど、いい頃合で自他ともに認める不器用な母が登場して、

「あんまりそういう事言わないの。お母さんだって出来ないもの。」

とフォローし続けてくれたお陰もあって、僕は姉が凄いと感じても、段々偉いとは思わなくなったのである。


姉も、僕や母にひけらかしても無駄だと気付いたのかも知れない、比較的器用で何でも挑戦してみる父が家族で唯一の理解者になった。


姉は積める物なら一通り積んでしまったと思う。ブロックの玩具からトランプタワー、テレビで、一円玉を積み上げる挑戦を見れば彼女もチャレンジした。ただ、彼女は負けず嫌いな性格ではなく、むしろその天命に従って積んでいるようにも見えた。


挑戦はしないけれど、彼女が僕に語りかけながら何気なく身近にあるものを積み始めていたのに、いつしかその作業の為に会話が疎かになってゆく様子は見ていて面白かった。僕はその度に、

〈ああ…。この辺から難しくなるんだなぁ。〉

と「見守りモード」になるのであった。彼女の真剣なまなざしが好きだった。普通の人なら邪魔されてイライラしたり、失敗して怒りを何処かにぶつけたりがあるのだが、彼女にはそういった気配がない。きっと、失敗しようが成功しようが、余り気にしていないからなのだと思う。姉はまさに積み上げる人なのである。


これでもし、姉が建築士にでもなっていたのなら結構面白い話だろうけど、残念ながらそっちの才能の方はあんまり無かったようである。というか姉の才能は、それだけでほぼ完結しているのだろう。生かされる、生かされないに関わらず、確かに何かが出来るという「感触」のようなものが、姉にはある。きっと、それで良いのだ。


〈第一、姉さんが建築士だったら、安全性と同じくらい「高さ」を追及しそうだもんな。そんな建物に人が住めなくても、依頼が無くても、設計してプラスチックか何かのモデルを天井まで積み上げちゃうに決まってるんだ。〉


なんて妄想しながら、僕は姉が積んだかも知れない缶のから鯖を取り出して食べながら一人納得している。

みゃーみゃー猫魂

お猿さんだにゃー。


相変わらず嘘が上手いにゃー、僕って。だけど今日だけは、真面目な話をするにゃー。

実は大変な事件が勃発してしまったんだにゃー。何と、昨日まで上等なキャッとフードだった僕の餌が、突如カラカラに乾いたピーナッツになってしまったんだにゃー。こりゃもう、仰天するしかないにゃー。


そりゃー僕だってご主人の食べ物に興味が無かったわけじゃにゃいけど、お酒のおつまみで養おうとする発想が信じられないのにゃー。


ああ、僕は嫌われてしまったのかにゃー。3日前に壁で爪研ぎした事を根に持っているのかにゃー。それとも、4日前に花が活けてあった玄関の花瓶を倒した事に対する罰なのかにゃー。


だけど、ご主人にも責任があるんだにゃー。ご主人は猫としてどうしたって止められない行為を無理やり押さえ付けて、僕を飼い慣らしたつもりになっているけど、実際のところ僕はご主人が恐怖をちらつかせている間だけ従順になっているだけなのにゃー。


自ら進んで良い子にするのは、経験的に利益があると分かっている時だけなのにゃー。僕は、一旦利益を度外視する事なんか考えられないのにゃー。ご主人は、その辺の理解が無いから、自分の思い通りにならない時の僕をかえって悪い子扱いしてしまうから、おかしな事になるんだにゃー。


大体、僕が登りたい所に花瓶を置いたりする方が悪いんだにゃー。そして僕は、この家に「住んでいる」という感覚がそもそもないのにゃー。どちらかと言えば、ご主人の家に居候しているのと近いんだにゃー。


居候は、家を出て一人で生きて行く力があるとは限らないけど、基本的に他人として接するべきなんだにゃー。僕の身勝手なエゴだと思うかもしれにゃいけど、ご主人が僕を育ててくれたのは、必ずしも僕の為を思ってだけじゃなかった筈なのにゃー。


ご主人は、堪えられなかっただけなのにゃー。人間として生を受け、自分より弱い存在を征服する事でしか生きて行けない自分に。自分に愛情が欠けているのだと知らされる事に。


僕は、人間みたいに死を怖がらないのにゃー。というよりも死が何であるかが分からないと言った方が正しいのにゃー。僕らは、出来る限り、それを回避するように定められているだけだと思うにゃー。


だからこそ僕は、人間が落ち着いていられる場面でも、身の危険を感じればそれに見合った行動を起こすのにゃー。


餌が突然ピーナッツに変わって、僕は本気で焦ったのにゃー。ご主人にとっては何でも無かったのかも知れないけど、育ち盛りの僕にとっては危険信号を灯らすのに十分だったのにゃー。


ああ、ご主人さま。さようなら、僕はもっと素晴らしい世界を求めて旅に出ますにゃー。置き手紙は残せにゃいけど、その代わりに玄関の花瓶を倒しておきましたにゃー。探さにゃいでください。

「おーい。キャットフード買ってきたよ。ピーナッツなんて置いて御免な…って、また花瓶倒したな。こらっ、逃げるなぁ!!」

さんぷる

私は土曜の夕方、仕事終わりに『慣用句』という名の酒場にやって来た。そこは、街で比較的静かな場所に位置し、建物は小さいが木造で、このご時世にあってはなかなか小洒落た雰囲気だという話で、私も一度は訪れてみたいとかねがね思っていた。


しかし私はここでとんでもない目に遭った。


入口の前で少し辺りに目をやりながら、落ち着きのある色をした木製のドアを押し始めた時、私はそれまで膨らんでいた店内のイメージを思い出していた。いろんな酒と、テーブルに、椅子に、主人。


しかし次の瞬間、私の目に留まったのは、このどれにも該当しなかった。私は、帽子を被った眼鏡の少年が、体格に似合わぬ大人用の白衣の袖を垂らしながら、私から一メートルと離れていない所に立っているのを見た。余りに近すぎて、私は心臓が止まりそうな程驚いたし、気付かないまま入店していたら危うく正面衝突するところだった。しかし少年はそのような動揺はお構いなしに、待ってましたと言わんばかりの笑顔で、得体の知れない茶色い紙包みを私に差し出しながら言った。

「これは大変高名な方が開発されたばかりの新薬です。是非サンプリングにご協力頂けませんか?」

私は、呆気に取られながらも、反射的に答えた。

「なっ…いや…。それは君、幾らなんだって怪し過ぎるんじゃないのかい。失礼だけど、君みたいな子供がだよ、事もあろうに『酒場』で出会い頭の客に薬を手渡そうとするとは。」

すると少年は幾らかムッとした様子になり、早口で付け加えた。

「いやならいいんですよ。別に、貴方で無くとも構わないんだから。しかし貴方はこの薬の効果を知ったら、きっと後悔します。この薬は…」

しかし私はこの時、薬どころの話では無かった。人間、予期していない事態に対して、そんなに物分かりが良いわけが無いのである。だから暫く静観する時間が必要なのである。

「あのね、おじさんは今、そういう事は…」

と言いながら、とりあえず視線を店の中に移し、一通り眺めると主人らしき男性が目に留まったので、私はその人に救いを求めた。

「あの、ご主人でいらっしゃいますか?」

男は答えた。

「いえ、経営しておりますのは私の家内です。」

「えっ?あ…そうですか。」

私はここで引き返すか、奥に進むかで大いに悩んだ。実際、店の中の雰囲気は想像よりも良かったし何よりも意外性があったはずなのだが、その意外性もこういう状況では、ドアを開いた瞬間の一件に始まる異常で不気味な印象が支配する物語の舞台として、店が飲み込まれるのを助長したに過ぎなかった。


悩んでいる私を見て少年が勘違いしたのか、再び口を開いた。

「悩むのも無理ありませんよ。なぜって、まだ説明が終わっていないのですから。実を言うとこの薬、その日一日の記憶を全て消し去る事が出来るのです。」

私は、薬の効果を聞かされても、その言葉もそうだが、実際に薬なんかでそんな事が可能になるとは信じなかった。精々、麻薬のようなものの類いで、脳の機能が麻痺する事で記憶の錯乱はあっても、それは物理的な消去ではないし、大体、人間の脳内で物理的にどのように記憶されていて、どういう情報として記憶されているのかも分からないのに、一日という時間だけ狙い済ましてそれをすべて消去するなどという事は、科学の進歩の順番から言っておかしい。たとえ可能だったとしても、それは『説明出来ないやり方』によって偶然可能になっているという、非合理なもの…ほとんど魔術なのである。私は理論も説明されず、そういう効果を実証する為のサンプルにはなりたくないという信念を持って生きている。そこで私は皮肉を言う事にした。


「だったら、私はいますぐにでも飲んで、この変な印象を忘れる事にしたいよ。飲むといっても、薬じゃない。酒だ。」

じんにん

遊歩道を歩いていると、苦しそうにうずくまる30手前くらいの男性がいた。反射的に、

「大丈夫ですか!?」

と傍に寄ってしまった私を批判する者は誰もいないと思う。人道的に。だが男性は必死の形相で『あっちいけ』のジェスチャーをする。

「そんな事いっている場合じゃないでしょ!!今救急車を…」

救急車と言った途端、男性の表情は次第に青ざめてくる。何かマズイことを言ったのだろうか。男性は匍匐前進をするように、その場から逃げようとしている。ここらへんで私も、何らかの事情があるという事を察したので、彼に言うことにした。

「じゃあ、とにかく休めるところまで運びますから。大丈夫です、誰にも言いませんから」

するとようやく彼は私に従った。近くのベンチまで彼を運び、横にして寝かせる。このまま立ち去っても良かったが、私は少し事情が知りたくなった。何故そんなに必死に抵抗したのか?だがこれを訊いたのが拙かった。

「誰にも言わないでくれますか?」

「ええ、もちろん」

「実は、僕テレビに出てるんですよ」

「は?はえ?」

こんな人見たことあるかな?というような表情をしていると彼はガッカリそうに語った。

「やっぱり知らないですよね。テレビと言ってもコマーシャルで、さる栄養食品のチョイ役で」

それでも見たことはない。それで、それが救助を断るのとどう繋がるのだろう?彼は苦々しい語り口で喋った。

「実は今日も、新商品のコマーシャルの撮影があった帰りで、その栄養食品いくらか食べたんですよね」

「はい」

「きっと何でもかんでも栄養のあるものを混ぜたからでしょう、その中に、運悪く私のアレルギーになる食品が、」

「なるほど、含まれていたわけですね」

「そうです。」

で、それがバレるとあんまり良くはないから、断ったと。私は一人納得しかけた。が、彼は意外な事を語り始めた。

「いえ。実はそうじゃないんです。実は私、俳優を隠れ蓑にして、さる国家のスパイとしてここに派遣されているのです?」

「は?スパイ?」

「はい。そうですスパイです」

「それって言っちゃまずくないですか?」

彼は一瞬黙考した後、即座にこう答えた。

「いえ、別にそれ本職じゃないんで。」

「へ?じゃあ何が本職で?」

「実は私、さる惑星からこの星の生態系を調査にやってきた宇宙人なんです。だから身体調べられるのは困るんです」




…まずい。何を信じよう。どこまで信じよう。私は、しばし逡巡し、彼にこう言った。


「わ…分かりました。つまり、何であれ上の人に知られたくないって事なんですよね。分かりますよ、私もそういう経験はしていますから。この件は内密にしておきます。ち、ちなみに」

「何でしょう?」と、すっきりした表情の男性。

「何がアレルギーなんでしょうか?後学のため…」

「人参」


即答だった。

おもめのしょうせつ


かなり重めの小説を読んだ日の夜は、何となく眠れない。考える事が次から次に出てきてしまって、こんな人生を送っていていいのか悩んでしまったり。私は友人にメールを送る事にした。

『件名 眠れない

あのさ、何かね、今日重めの小説読んだら、こんな人生で良いのかどうか分かんなくなってきちゃって相談にのってもらえる?』

すぐに返事が返ってきた。

『件名 Re:眠れない

じゃあ軽め小説で良いんじゃない?文庫本とか。



多分、「重い」の意味をこいつは誤解しているか、敢えて誤解した素振りで適当にあしらおうとしているのだと思ったが、どちらにせよこの適当さに少しいらっときたので、私は以下のようなメールを送信した。


『件名: いやそうじゃなくて

「重い」は物理的な重さじゃないんよ。こう内容的に、精神的にずっしりくる重さっていうの?普通分るでしょ?



今度は少し考えたのかメール音が鳴ったのは数分後だった。


『件名: Re:いやそうじゃなくて

いやそうじゃなくて、じゃなくて、私は「いや」だよ。精神的にずっしりくる重さなんて誰だっていやでしょ?普通分るでしょ?




いやそうじゃなくて…って誰が上手いことを言えと。ってか話をかき回すな。今話しているのは、本の内容の話で、お前の精神を沈没させようとしているわけじゃないんだ。分かってくれ。


『件名: 本の内容だよ


私の読んだ本の「内容」が、重いだけで、あんたがどうなるわけでもない。ちゃんとメール読んでよ。




次の返事は私の想像の斜め45度を行っていた。

『件名: Re:本の内容だよ

凄い本だね。「私の読んだ本の「内容」が、重いだけで、あんたがどうなるわけでもない。ちゃんとメール読んでよ。」っていう文章が書いてあるの?




キャッチボールの成立しないやり取りは深夜まで続き、私は馬鹿馬鹿しくなって途中で寝落ちしてしまった。私はこんな人生を送っている。
プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

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