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徒然ファンタジー18

「うわぁー!!」


ジェシカは感動していた。シェリーこと立華京子の経営する店『SHELLY』の店内に陳列された様々な品物はそういうものをあまり見た事のないジェシカにとっては珍しく、また店自体が新しいという理由もあり床も清潔感がありピカピカしていて、まるで別世界のように見えたのである。その様子と表情を見ているとシェリーも嬉しくなってきた。


「ジェシカに来てもらって良かったわ。結構良い物を置いているでしょ?」


「すごーい!!これって何に使うの?」


と言ってジェシカは見た事も無い商品を指さして説明を求める。店の品はアンティークものと主に食器や雑貨などを扱っているのだが、デザインが良く色合いが豊かなので見ているだけで楽しそうである。シェリーも「ああ、これはね」と一つずつジェシカにも分るように丁寧に説明してゆく。二人の様子をほほえましく見守りつつも、<よく考えてみると、自分もここ初めてなんだけど>と思ったリリアン。とりあえず、しばらく店内を見回ってみる事にした。



雑貨はともかくアンティークものはリリアンにとっても謎な物が結構あった。美術的な価値があるのか無いのかよく分からないオブジェはジェシカでなくとも「何に使うんだろう」と思われてしまう。そんな中、リリアンにはとても気になるものが壁に飾ってあった。どこかの風景を描いたと思われる「絵」である。日本的ではないようにも見える広々とした草原に、小さな木造の家がポツンと存在している光景。物語でよく出てきそうな光景で、実際にこういう光景があるのか想像で描いたのか分らないけれど、妙にリアリティーがあるのが印象的だった。



「京子、この絵って何?」



ぼんやり見ていたせいか、少しとぼけた質問になってしまうリリアン。


「え?絵よ」


ジェシカに説明していたのでおざなりな答え方になってしまうシェリー。


「絵だっていうのは分ってるわよ。これは何処の絵なの?」


「ああ、その事ね。実は私にも分らないのよ」


「本当にこういう場所があるの?」


「それも分らないわ。誰が書いたのかも分らないの」


「え…?」


「そういうアンティークなのよ。面白そうだから飾ってあるの」


「ふーん…そうなんだ」


リリアンは絵の事は良く知らないので、その時は「そんなものなのか」と思ってそのまま絵を眺めていた。リアルだからなのか珍しい光景だったからなのか、自分でもよく分からないがその絵に惹きつけられていた。


「気に入ったの?」


いつの間にかシェリーが隣にいた。


「なんか妙に惹きつけられるのよね」


「あんまり風景画とか興味なかったんじゃなかったっけ?昔あなたが、『私は動物画の方が好きだわ』って言っていたような気がするわ」


「そんな事言ったっけ?」


「ああ、思い出したわ。確か、高校の美術の時間に言ったのよ。その時「猫」の絵を描いてたはずよ」


「あ、そういえば言ったかも…あんた良く覚えてるわね」


「うん。絵心が無いという事も覚えているわ」


「…。悪かったわね下手で」


「ううん、下手ではないの。観察眼と繊細さが足りないの」


「尚悪いわ!!」


「ふふふ…まあ店の中は一旦これくらいにして、店の奥が倉庫で2階が居住スペースになってるから案内するわ」


シェリーは二人を居住スペースに案内した。建物自体が外から見るより面積はあるようで、二階の部屋もそれなりに広い。話では二人が泊まる事になっていたのだが、十分である。シェリーの性格を示すように物があるべきところに収まっているような感じで、綺麗で整頓が行き届いていた。


「あー、ほんと京子の部屋って感じがするわ。ね、ジェシカ」


「あ、すごい…」


ジェシカは再び感動していた。これまでの生活から、どうしても他の人の部屋に入った事がないので新鮮なのである。また猫特有の感覚で部屋の匂いからシェリーの匂いを少し感じ取っていて不思議な気分だった。荷物を置いて、部屋の中を見回しながら言う。


「ねえ、シェリーはここに住んでるの?一人で?」


「そうよ」


と言うとシェリーはジェシカをじっと見つめた。熱視線とでもいうべき見つめ方である。


「どうしたの、シェリー?」


「私はリリアンとは違って広い部屋に一人で住んでいるわ」


「うん」


「ところで、ジェシカ。この家は気に入ったかしら?」


「え、うん。気に入ったよ」


「そう。それは良かったわ」



このやり取りを聞いていたリリアンは、シェリーの言葉に少しばかり不穏なものを感じていた。思わず訊いてしまう。


「ジェシカ、家とどっちがいい?」


「え…家と…?」


「リリアン。それを訊くのはまだ早いわ。ジェシカはまだこの部屋で生活していないのだから比べられない筈よ」


「…あんた…」


「ふふふ…そんな怖い顔しないの。ちょっとジェシカに訊いてみただけよ」


「まったく…油断ならないわね」


「??????」


ジェシカにはちょっと分らない争いである。とはいうもののしばらくしてリリアンもその家の居心地が良く、心が落ち着くような感じがするのであった。
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徒然ファンタジー17

「それにしてもこう言っちゃ失礼かも知れないけど田舎よね…」


「まあね」


「でも町並みは素敵だわ。レトロな趣があるというのか、なんだか懐かしい気持ちになれる。そんなに知らないんだけどね」


車は市の中心である商店街を走っている。道が狭くて所々停車している車を避けたりすることもあり、慣れないジェシカはややドキドキしている。赤々とした色はこの町の色合いからするとやや悪目立ちという感もないわけでもないが、人もそんなに歩いていないのであんまり気にする必要もない。


「まあそういうのを売りにするくらいの気構えがあったら、もうちょっと何とかなると思うんだけどね…あ、これ独り言だから」



「そういえばさ、京子ってどうしてこの町で店を開こうと思ったの?」


「大した理由はないわ。おばあちゃんよ」


「おばあちゃん?」


運転していて目はキリっとしているシェリーだけれど、「おばあちゃん」と口にした時に少しだけ表情が緩んだように見える。ジェシカはシェリーの方を向いて「はてな」を浮かべている。


「ああ、ジェシカにも分るように説明しないとね。そう、私のお母さんのお母さん…名前は洋子って言うんだけど、おばあちゃんがねここに住んでいるのよ」


「ここに?え…って事は京子のお母さんの実家って事だよね」


「そうよ。特におばあちゃん子だった私は、優しくて穏やかでいつもニコニコしているおばあちゃんに昔から可愛がられていて、「シェリー」っていう愛称で呼んでくれているの」



「あ、シェリーそう言ってたよ」



「ああ、そういえば前来たときそれ言ってたわね。わたし京子の友人やってたけど、そんな事一言もいわなかった」


シェリーは「ふっ」と笑った。


「おばあちゃんとの秘密だからね」


「秘密なのに言ってるじゃん!!」


この言いようにリリアンは少し憤慨気味だった。


「ジェシカは良いのよ。こっちも秘密を知っているし、おあいこだわ」


「私はいいの?」


リリアンは一応納得しかけたのだが気になったので質問した。


「そうね…じゃあ何かあなたの秘密を教えなさい」


「どんな秘密よ?」


「まあ、人に言えないような秘密かしら」


「私に秘密なんてないわ!!」


「そうかしら?でもジェシカは何か知ってるかも…主に生活態度とか」


「はぁ~?」


「と言ってる間に着いたわよ。ここよ」



車は商店街から少し外れた場所のこじんまりした店の前でスピードを落とした。外装は白く上の方に『SHELLY』という文字が赤く象ってある。



「ねえ、一つ訊いていいかしら」


「なに?」


「このアルファベットって「シェリー」って読むわよね」


「そうね」


「明らかにこれ、店の名前にしてるよね」


「否定しないわ」


「どこが秘密よ!!!」


そういっているうちに、車は店の横の敷地に駐車した。エンジンを停止させてシェリーは再びニヤリと笑った。


「誰も私の名前だとは思ってないわ」


「う…」


ジェシカは二人のやり取りを聞いていて、なんだかとても安心するのであった。

遠く彼方

建前ほどの立派さはないけれど本音もそんなに酷いものではない。ほんの少しばかりの
恥ずかしさと見栄とか狡さとか、昔は嫌だったけど自分が生きてゆく事とかを考えると
どうしても切り離せない感情である。


ほんの少し。



こんな僅かな情でも無いとあるのとでは様子が違う。そんなしみったれた情の為に合理的に
割り切れないというのも、情の性質から言って仕方のない事である。そんな僅かな濁りなの
か澱みなのか、よく分からないものを上手く説明出来ないまま、それでいて極端に合理的に
考えられるからこそよりはっきり、感じているのである。




近頃僕は見晴らしのいい場所を探している。『遠く彼方まで見渡せそうな』場所である。その
理由を説明しろと言われれば、妙なこじ付けや不確かな合理的内容になって、自分自身でも
本当にそれが理由なのかどうか分からなくなる。多分、深謀ではないだろうし、極端に単純
でもない。それらしい理由は幾らでも思いつくけれど、スパッと言い切ると、それはそれで
違うと感じてしまう。


「一言で言って面倒くさい性格だよね」




誰にともなく言う。『いやまあ恥ずかしいのを堪えながら言うと、歌の歌詞にそういうフレーズが
あったからなんだけど』と、心の中では勿体ぶって言っているのだけれど、その声がどうしても
宙に浮いてしまう。誰に向けて言ったのか何となく分っているのに、実際は分っていないという
のか。




どこかにあると思う見晴らしの良い場所で、僕はそれを誰かに言う。


「ここに来たかったのは、君とこの景色を見たかったから」


その景色を見たという事だけではなく、その景色を見た僕がそれを見たかったのだと知ってもらいた
い。そして、それを言いたい相手が「君」なのだという事を伝えたい。





自分本位にも見えるかも知れない。でも僕は同じように、その「君」が見たかったものを見たいと
思っている。遠く彼方まで見渡せる場所なら、君が見たかったものもそこから見えるかも知れない。




なんて。




「もしそういう理由だったとしたら、なんてロマンチック」




と茶化す事を忘れない。ただ、そういう景色があるような気がするのも正直な気持ちである。

そらまちたび ⑥

仕入れた情報で気になった場所が二つほどあった。一つは図書館に入る時にも目に留まったのだが『歴史資料館』とここから少しばかり離れているようだが「ある伝説」で有名だという観光スポットだ。歴史にはそれほど詳しくない上に、特にこの地域の歴史となれば素直に『分らない』と言った方が誠実なレベルなのだが、ここに来た「ついで」という意味合いが強いが歴史的に価値のあるものを見るのも良いと思い、入館してみることにした。


片山さんの解説で入り口に飾ってある「まあまあ有名な物」について大まかに知る。「武士の戒め」を説いたものを石碑にしているらしく、内容を聞くと当たり前のように思われたのだが時代背景を考えるとそこそこ重要なのかも知れない。殆ど無いに等しい入館料を払って数枚のパンフレットや資料を貰う。結局その資料を読んだ方が知識は得られると思うのだが、「実物をこの目で見るという事に意味がある」との助言から、とりあえず片っ端から見て回る。この町で秋に行われる有名なお祭りの展示もあり、この地域を治めていた大名の名前を知り、分らないなりに付け焼刃の知識は得たような気もする。


「どうだった?」


「ええ、歴史を感じれました」


既に僕達は次の目的地に向かっていた。先程述べた、「ある伝説」に関係した場所だそうで古くは和歌に詠まれている『鬼婆』だそうである。


「鬼婆は知ってますね。昔話か何かで聞いたことがあると思います。この町にあったんですね」


「そうだね。結構悲惨な話だけど、昔は鬼婆の『着ぐるみ』とかあったらしいね」


「『着ぐるみ』ですか?今流行のゆるキャラとかですかね」


「その先駆けかな。ちなみにこの町には実はゆるキャラが結構いる。まあご当地キャラとかマスコットという意味合いも強いけれど、あ、それと」


「それと?」


「ご当地ヒーローも最近出現し始めたとの事だよ」



片山さんはにやりと笑ってこっちを振り向いた。何かあるんだろうなと思ったので一応聞いてみる。


「どういうヒーローですか?」


「なんかね、『二人で待つ』んだって」


「二人で待つ?って?」


「読んで字のごとしなんだけど、知った時に「ああ」ってなるからちょっと考えてみるといいよ」


ちょっとした謎かけなのか意地悪なのか、とりあえずそれを考えていると目的地らしきものが見えてくる。


「ここまで少し距離があった、というか市の中心からは少し離れてるよね」


「ええ、そうですね」


「市町村合併って平成に行われたところも多いけどここも例外ではなくてね、市としてはかなり大きくなったんだよ」


「あ、そうなんですか」


「だから市全体を案内するとなると、統一された印象が無くなるかも知れないね」



車は土産物を売っているというお店の駐車場に止まり、そこから降りて観光施設まで僅かな距離を歩く。平日というのもあってそれほど人はいないと思ったのだが、意外と子連れが目立つ。少し不思議に思ったが入ってみて謎が解けた。


「そうか、子供の遊び場が新設されたばかりなんですね」


「そういうこと。やはりここも春は桜の名所として知られているのだけれど、工事中は別の意味で騒がしかったよ」


「でも随分敷地が広いですよね」


「鬼婆についてはあんまり前面には押し出してないようなのがちょっと勿体ないところかな」



敷地内を周っていると何となくここだけ時間の流れが違うような錯覚に陥りそうだった。和紙で作られたものとか、古い武家屋敷を再現したものとか、その割に中心が広々としているのでちょっとした散歩になる。一通り見回ったと思った時、僕の耳小さな鈴の音が響いた。


「あ…あれ…」


片山さんは丁度誰かと電話していたようでこちらを見ていなかったのだが、僕の目の前には先程お城で見掛けたのと確かに同じ白い猫が優雅に歩いていた。よく見るとその猫は口に何かを咥えていた。猫がこちらに気付いて咥えていたものを落としたが、気のせいか猫の姿がぼんやりしてきた。というより、猫の身体が透け始めたような気がする。迂回路になっていたので慌ててそちらに向かうと、確かにそこに居たはずなのに猫の姿は既になく、その場所には猫が咥えていたと思われる小さな石のようなものが落ちていた。

徒然ファンタジー16

「まあそういう感じになるよね。自然の采配というわけではないけれど、あるべきところには何かがあるという事なのかもね」



男はハードカバーの古ぼけた本を読んで独りごちた。嬉しさと困惑が綯交ぜになったような気持ちなのかなんとも言えない表情をしながら笑っているが、その雰囲気は悪戯心満載の少年のようにも見える。


「今の僕に出来る事は、とにかく事態を見守る事かな」



彼が読んでいるページの隣の挿絵には少年と女性が仲良く歩いている様子が描かれている。



☆☆☆☆☆



その少年と女性とよく似た姿で歩いているジェシカとリリアン。ジェシカはリリアンに教えられた『他所行きの格好』でそれほど中身は入っていないが新品の深緑のリュックを背負っている。対照的にリリアンはパンパンに詰め込んだ手荷物を持っていて、その中には前日仕事帰りに買ってきたシェリーへのお土産があった。彼等は新幹線と電車を乗り継いでシェリーのいる東北地方のある町に到着し、駅から待ち合わせ場所まで歩いているところである。新幹線も電車も都会のようには混雑していなくて快適な旅ができた二人。特にジェシカは新幹線の速さに驚きながらも楽しみ、通り過ぎてゆく美しい景色に目を奪われ、電車に乗り換えても都会にはないのどかな雰囲気に親しみを感じていた。


「ご主人さま、ここって何だか静かだね」


「そうね。なんだかみんなゆっくりしているように見えるわ」



その駅は改札が一部自動で一部手動だった。駅員が改札の隣の部屋の窓からお客の切符を確認している。その前の駅などは無人駅でとても簡素な造りだった。そういう光景を実際に見ると、そこは別の場所なのだと実感させられる。二人は駅員に『みどりの窓口』で買った券を渡して、小規模な構内に入った。



「ここにシェリーがいるの?」


「そうよ。ここから出て、確か近くのコンビニ…オレンジの建物の所で待ち合わせだったはずよ」



外に出ると少し肌寒く感じられた。駅の正面は斜面になっていて、独特の雰囲気のある建物が両サイドに立ち並んでいたが、土曜の10時頃にしてはここで降りる客が少ないというところや歩いている人の少なさもあってやや寂しい感じもある。正面から右の方に若い武士の銅像があるのが印象的である。



リリアンは左右を確認して、左の方にコンビニを見つけるとジェシカを促して歩き始めた。


「あ、あの車…」


ジェシカはコンビニに停まっている一台の赤々とした自動車に見覚えがあった。あまり車を見ないからこそ良く覚えていたのであるが、まさしくそれはシェリーが以前来たときにジェシカを乗せた車であった。


「あ、乗ってるの京子だわ」


リリアンもジェシカに言われて気付いたようで、そちらに向かって開いた手を思いっきり振りはじめた。だがシェリーはなかなか気付かない。


「ほら、ジェシカも大袈裟にやって!!」


「え…こう?」



二人で大きなアクションをしながら車に近づいてゆくと、ようやくシェリーが車から降りた。


「ようこそ、変なお二人さん」


「何が変なのよ?」


「そんなに手を振らなくても気付いているわよ。だって駅から出てきたのあなた達くらいじゃない」


シェリーらしく冷静な指摘だが気付いていて反応をしないのも意地悪である。


「そりゃあそうだけど、こっちはここ初めてなんだからだったら駅で待ってくれれてもいいじゃない」


「今日は寒いしね、車内を暖めておいたのよ」


そう言われてしまうとなかなか言葉が出てこない。


「さあ、乗った乗った。ジェシカ、前に乗って」


ジェシカは言われた通り助手席に乗った。リリアンは何となく「それでいいのだろうか…」と思ったがあんまり考えないようにした。後部座席に乗るリリアン。


「あ、何か買うものあったらそこで買ってきて良いわよ」


「いいわよ。後で買えば良いし」


「そう」



そして赤々とした車は駅を出発した。

徒然ファンタジー15

その日リリアンが帰宅すると猫妖怪が出迎えた。朝も見ているが、図体のデカいキャラクターが待ち構えていると少しばかりドキッとしてしまう。

「おかえり…」


「た、ただいま」


しかも心なしかジェシカの声が小さく、元気がないように聞こえる。リリアンの後をとぼとぼと着いてくるようにして居間に入っても普段座っている場所に座ろうとせず、隅っこの方で所在なく立ち尽くしていた。


「どうしたの?あ、もしかしてその格好で疲れちゃった?」


「う、うん。まあそんな感じ」


歯切れが悪いので「これは何かあったな」と思ったリリアンだが、一先ずジェシカを猫の姿に戻す事にした。あの道具を捻ると見慣れたキジトラの猫がそこに現れた。


「にゃ~…」


それでも元気がないので、とりあえず疲れているのだと思ったリリアンはジェシカを膝元に置いて背中を撫でさすってあげた。徐々に気持ちよさそうな顔になり、しばらくするとジェシカはそこで眠りはじめた。


「まあ、こういうのもいいかもね」




次の日はリリアンが休みの日だった。すっかり調子を取り戻しているジェシカに朝いつものようにごはんをあげて人間の格好に変身させる。さすがにそこに現れたのは猫妖怪ではなく、どちらかといえば控えめの部屋着を着た男の子だった。


「ジェシカ、おはよう」


「おはよう、ご主人さま」


笑顔で返してくれたのでリリアンは安心した。と、やはりここで昨日あった事を訊かないわけにはゆかない。


「ジェシカ、私に何か言うことない?」


「え…。あ…うん。その…」


何か良くない事なのだろうとは思うが、こういう場合はこう言うしかないんだろうと思ったリリアンは、


「怒らないから言ってごらん」


と甘く囁いた。ジェシカは素直なので、


「あ、うん。実はね、」


と昨日あった事をありのままに語った。リリアンは素直に言ってくれたのは嬉しかったのだが、やはり何かを言わなくてはならないと思う。彼女は突然目をカッと開いて気持ち大きめの声で言う。



「ジェシカ、『めっ』!!」


と同時にジェシカの首筋辺りに軽くチョップをお見舞いした。ジェシカは突然の事に吃驚してしまった。


「えっ…怒らないって言ったじゃない!?」


「怒ってないよ。注意したの」


「でも、いたずらをしようとしたわけじゃないんだ。みんなを喜ばせようと…」


「それも分ってる。でも喜ぶからってあんまり大胆な事をすると、騒ぎになっちゃうって分ったでしょ?」


「うん。それに自分が何処に居るか分らなくなって大変だった」


「戻って来れたから良かったけど、ジェシカだけで遠くに行ったらもしかしたら帰ってこれなくなっちゃくかも知れない。怖いでしょ?」


「怖い…」


ジェシカが答えるとそれまで厳しい表情をしていたリリアンは一転して優しい顔つきになり、穏やかに言った。


「だから、何か特別な事をしようと思ったら、必ず私に相談するのよ」


ジェシカもそれを聞いて安心したのか、元気よく答えた。


「うん。分った」


「まあ、と言ってもその姿で暮らす以上、何かあった時にどうすればいいかは練習しておいた方が良いのかもね…どうしたものか」


リリアンが考え始めた時、着信音が鳴った。


「あ、ご主人さま鳴ってるよ」


「あ、ありがとうジェシカ」


ジェシカがスマホを手渡すと、そこに表示されていた名前を見てリリアンは少し驚く。


「もしもし」


『あ、もしもし?私よ』


「それは分るけど、どうしたの何か用?」


『用があるといえばあるけど、無いと言えばないわ。あなた次第よ』


「どういう事よ?」


『あなたとジェシカでこっちに来てみないかなって誘ってるのよ。観光みたいな感じで』


「え、突然?」


『というか、誘うときには突然にならざるを得ないわよね』


「あんたは全く屁理屈ばっかりね。そこはこっちの事情も考えたりしないと駄目なんじゃない?」


『でもあなた達の事だから、予定なんてないんでしょ?』


「う…図星…」


『なら決まりね。今度の土日に来なさいよ。泊まるところは用意してるから』


「そうね…ジェシカの事を考えて遠出なんてしなかったし…それに『丁度いい』かも」


『丁度良い?』


「こっちのことよ。ジェシカ絡みでね」


『ふ~ん。まあ何となく想像がつくわ』


「じゃあ、よろしくね」


『分った』



ジェシカは会話の間に自分の名前が出てきたのでなんだかムズムズしていたのだが、リリアンが話し終えてニヤニヤしながらこちらを見ているので、訊いてみようと思った。


「誰からだったの?」


「立華きょ…じゃなかったわね、シェリーよ。あの変な女」


「あ、シェリーから!?」


ジェシカがシェリーという単語を聴くやいなや目を輝かせ始めるので、多少納得はいかないがそこは堪えて説明する事にする。


「喜びなさい、ジェシカ。シェリーの所に行くことになったわ!」


「え…シェリーの所に…?って何処?」


「それはね…」



こうしてジェシカとリリアンの小旅行が決定した。

徒然ファンタジー14

「ここはどこ?」


ジェシカが立っているのは勿論いままで来たことのない裏路地だった。一般的な道の作りに慣れていればたとえ迷ったとしても大通りに出るように歩いて行けば大抵の場合はなんとかなるし、現代の武器ともいえる地図アプリを使えばそもそも迷うという事がないのだが、そこはジェシカ特有の困難があった。そして、この姿のジェシカだからこそ感覚が人間と同じになってしまっていて、動物的な勘も鈍る。


先ほどの喧騒とは対照的に路地は静まり返っていた。路地に人通りがないというのは目につきやすい格好をしているジェシカにとっては幸運なのだが、誰にも頼れないという意味では不運であった。


「どうしよう」


変に想像が豊かになってしまう分、ジェシカの焦りは時が経つにつれ増していた。こんな時、リリアンが颯爽と駆けつけてくれたらと思うのだが、そういう状況が未知であった事から、とにかくどうすればいいのか分らず途方に暮れてしまう。


「・・・・っ」



思わず大声で叫びだしそうになったときだった。ジェシカの耳に僅かだが何かの音が聞こえた。それはとても馴染み深いというか、ジェシカは特別な意味を持っている音だと感じた。



「にゃ~」



猫である。白に黒いぶちが特徴的な、野良なのか飼い猫なのかよく分からない猫である。実はジェシカは人間の姿で他の猫を見たのは初めてだった。自分は眼の前にいる何かの同類だという本能的な了解と、人間には「にゃ~」としか聞こえないその鳴き声の微妙なニュアンスというのか調子から、その猫が自分に対して友好的だという事を感じ取ったジェシカ。


「あ。おまえ、、、」



言葉にしようと思うが、伝えようとしている事が上手く出てこない。その鳴き声の調子は自分に対して少しばかり甘えてきているものだと分かったのだが、それがジェシカを猫として認識しているのか、人間として認識しているのか、不明瞭であった。



「にゃ~」



猫はジェシカの足に頭を擦りつける。その仕草で人間には良く慣れているという事が分るのだが、それに応えるにはどうするのかの知識はなかった。まるで動物に慣れていない人のようなオロオロとした動きになってしまうのだが、猫の方はマイペースで少しジェシカにまとわりつくとそれで満足したのか戸惑うジェシカをよそにどこかに向かって歩き出してしまった。



「あ、待って!!」



思わず猫に着いて行ってしまうジェシカ。そのまま着いてゆくと、いつしか見慣れた場所に出てきた。そう先ほどの公園である。どうやら猫はこの公園を良く知っているようである。先ほどまでの人だかりは消え、公園はいつものような穏やかさを取り戻していた。猫は日当たりの良いところで眠りはじめる。




「ありがとう…」



猫を見つめてお礼を言うジェシカ。別にその猫が助けてくれたわけではないだろうが、もしかしたらジェシカをここに連れてきたかったのかも知れない。とにもかくにもジェシカは難局を乗り切った。ジェシカとしてはもうこれ以上大変な事になって欲しくないという気持ちから、自然と自宅に向かって歩き出す。




帰路。どうしても人目が気になってしまうのだが、それでも頭に被っているものを取り外さないというのは、ジェシカを意図したわけではないけれど、夢を壊さないという意味では良かったのだろう。

ひとりごと

それで良いって思えないよね。


決して肯定的であるばかりではない。だけど、そう思ってしまう事自体は決して間違いでもない
と思う。現在の自分をそのまま肯定する事が出来るかと言えば、常にそうであるわけではない。
それはネガティブというより、肯定しようとしても一点の曇りもなく肯定する事が出来るという
わけではないというとても自然な気持ちでそう思うのだ。


それで良いって思えないよね。


ちょっとした哀愁や切なさを漂わせてしまいそうな、その言葉は誰に向けられたものだろう。
誰に同意を求めているのだろう。自分も分かっている。そして『あなた』もきっと「そんな事
は無いよ」とも「そうね」とも容易く言えないような、躊躇いを言葉にできずに少し痛々しく
思いつつも、それでいて優しく見守ってくれる、そんな人だろう。



僕が良いと思えない。それを否定はしない。でも、「そうでもいいと私は思う」と言ってくれる
かも知れない。






何でこんなに満たされているのに、切ないのだろう。




それは本当の感情なのかどうかすら自分でも分らない。





僕は、それを嘘だと思う事にした。





多分、僕はどうにもならない事をどうにもならないと思ってしまっている。どうにもならない事を
いつしかそう気付いてしまった。だから既に求めていない。求めていないから不満などなく、そう
なった自分をただ静かに受け入れている。



それで良いって思えないよね。




それは僕の声だろうか?誰が言うのだろうか?そんな事言ったって、どうしようもないじゃないか。




その言葉は前向きじゃなくて、何かを目指すから現状に満足しないのじゃなくって、どうしようもない
事をどうしようもないって思えない諦めの悪さじゃないか。




それで良いって思いたいよ。これでもいいって思いたいよ。





この先に何があるの?これで良いって思えるようになる?それは嬉しい事かも知れないけれど少し
悲しいよ。






そんな事を少しだけ思うのだ。でもそうやって僕は、また前を向くのだ。

かいてかわる

いつも結果的にどうなるか、という事を考えると確かに明日も明後日も
生きている限り日常というかするべき事はその時々で発生してくるだろ
う。未来の事は分らないけれど、生きていくという事において必要とな
る事は時代が変わっても、人間が人間である以上、そして物理法則、
生命現象の事実、生物学的な事実でどうしても『そうでしかない』とい
うような事は分ってくる。


テクノロジーが肉体的な労働を軽減しても、機械を動かすために必要な
比較的複雑なプログラムを作成しなければならない労力は続けてゆく
必要がある。何らかの意味で何かはしなければ生きてゆく事は出来ない。


「生きる」という言葉に、日常生活を続けてゆく、文化的な生活を続けて
ゆくというニュアンスを含めるなら、その「生きる」を実現する為には
やはり何かをしなければならない。したいから、という意味合いもあるが
「それを是非必要としている」という事情を考慮すれば、しなければなら
ないはもっと切実なものとも言える。



もっと何かがしたいがゆえに、しなければならない事は増えてゆく。ハー
ドルを上げすぎ、と言えばそれはそうなのだがそれは単なる物質的な消費
ではなく、出来事の強度として何かを『経験したい』という欲求でもある。
「夢」にしても、「その瞬間」を味わってみたいという気持ちがそれを
求めさせるのだとして、単に生活の必要性の事だけではない、それでいて
物質的な消費だけではない、そういう『現実』を求めるといえばそうかも
知れない。



そういう『現実』が訪れるなら、それを経験した人々、生き物が織り成す
世界はどう変わるのだろうか?その『現実』を生きることによって、何か
を共有し、全く違う目的を持つようになるのではないか?



と言っても同じことは同じだろう。反復するだろうし、させるだろう。
ただ当たり前だが『現実』で何かをすれば、何かが起る可能性がある。
何かが起こった『現実』に対して反応するという、『系列』があり得る
なら相対的かも知れないが、より望んでいるものへと向かって行けるの
ではないだろうか。それが現実なのか、知なのか、物なのかは分からない
けれど、そう悪くはない未来というのも、そういう風にすれば迎えられる
かも知れない。



とここで自分の思考によって気付くことだが、その手段としてなのかそれ
自体が目的なのかは分からないけれど、今続けている創作を続けてみる
というのは、案外良い行動のように思えるのである。




創作をしている者にとってはあるまじき事かも知れないが、創作をしている
『現実』、その創作をブログで発表するという『現実』は実際問題として
ずっと続いていて、それは日々の生活で可能な事なのである。



『可能な事だから』やってみてもいいと思う。そういう発想で書いているの
だが、それまでにない『物語』を読める状態にするというのは、一体どういう
意味を持っているのだろう?それまでにない『物語』が出来あがると同時に、
それがある事によって、或いは書いたことによって少なくとも自分はそうし
なかったのではない方に行っているのは間違いない。



書くことは確かめる事でもある。書いてみて、変わるか変わらないか、それは
書いてみるしか確かめられないし、逆に書けば確かめられる事である。

徒然ファンタジー13

誰かを喜ばせたいとか場を盛り上げたいとかいう感情はとても自然である。それが自分の喜びに繋がるという理由でやるのだからそれでもエゴイスティックだという評価を与える事もできるが結果として誰かが笑顔になるのならば、そして少なくとも一生懸命になろうと思えるようになったのならば、エゴからかどうかは問題ないし、エゴでも、別にいいと割り切れるようなものである。


科学的な考察によると猫は自分がそうしたい事を「ただ」しているとか、少なくとも飼主の表情は区別するとかだけれど、たとえ自分が心地よくなりたいとか遊びたいからそうしているのだとしても、無条件にそれを見守ってしまうような人が猫を溺愛する。そして殆どの飼主はそういう種族の人間なのではないだろうとすら言えるかも知れない。例に漏れずジェシカを溺愛してやまないリリアンも、ジェシカの姿が変わったとて変わらずに愛し続けている。ただ、普通の猫と違って人間の姿になった時に多少思考ができるようになると少しばかり猫としての欲求だけではなく、同じ姿をしている仲間へと供に楽しみたいという発想も出てきたようで、ハロウィーンで人を楽しませる事の喜びを覚えたジェシカにも最初に述べたような、人間からすれば「自然な」感情が芽生えつつあった。



それは些細な変化かも知れない。けれど、その辺りがとても重要な意味を持つという事が
分ってくる。



ジェシカはあの日以来リリアンが道具を使って変身させるといきなり「着ぐるみ」の格好で現れる事が増えた。リリアンは初めそれは単に驚かせたいだけなのだろうと思っていたのだがどうも話を聞くと違うようである。


「ジェシカ、その格好気に入ったの?」


「う…うんと、そうじゃない。リリアン、嬉しい?」


「私はジェシカがいる事が嬉しいけれど、着ぐるみだと顔が隠れてて見えないよ…」


「嬉しくない?」


ちょっと元気が無さそうな声である。


「いや、そうじゃなくって、嬉しいのは嬉しいんだけど」


ちなみに今の着ぐるみはリリアンがどこかの商店街で見た事のある少し奇妙なキャラクター「ケロ子」である。カエルをイメージしたものらしいが、捉えどころがない姿である。リリアンが最初に着ぐるみに挑戦させた時にそれほど完成度がそんなに高くないので再現し易かったという理由でそれを選んだのだが、ジェシカはリリアンが一生懸命絵を描いてくれたのもあって、実はこの姿の方がジェシカは変身し易いのである。反応が芳しくないので少ししょんぼりするジェシカだったが、彼はそこで別の作戦を考えていた。


<そうだ。前みたいに外に出てあのキャラクターになればいいんだ>



ジェシカの中で成功のイメージが駆け巡る。名案であるように思えるこの作戦だが、落とし穴があるという事をジェシカが知る由もなかった。



既に人間の姿での生活や人間社会のルールについては基本的な事は了解していたジェシカだが、リリアンはジェシカの外出については慎重でありつつも、道具をしっかり管理すれば人間の姿のままであり、猫が人間に変身しているということがバレる心配もないので、限定的にだが近くの公園までは一人で外出するのを許可していた。そしてジェシカは日課で一日一回、決まった時間に公園に行っていた。猫らしい理由でその時間を選ぶのは公園で日光浴をする為である。



その日の朝、ジェシカは「猫妖怪」の(着ぐるみを着た)姿で変身を遂げたので、リリアンは「今度はこの格好か!」と思っていた。リリアンもこのキャラクターは好きだったので少し喜んだのだけれど、多少そういう演出には飽きてしまっていて、ジェシカとのコミュニケーションもそこそこに仕事に出掛けてしまった。



ジェシカはリリアンが出て行ったあとその格好のまましばらく待機していた。そしていつもの散歩の時間になったのを見計らって、そのままの姿で外に出た。世の中にはそういう変わった趣味の人もいるかも知れないという事は否定できないけれど、一般的な感覚からすると『普通ではない』筈である。ジェシカの意図は単純だった。


「これでみんな喜んでくれるかな?」


散歩という事には変わりはないのだが、何のためらいもなく道を行く「猫妖怪」を見て、比較的少数ではあったが目撃者は一様に驚いていた。なにせド平日の真昼間である。更に「猫妖怪」の知名度が余りにもあり過ぎて、完成度も高いため、様子からして明らかに何かのイベントだと勘違いしてしまった人もいた。



公園に到着ししばらく中央に突っ立っていると、噂が伝わったのか近所の幼い子連れの母親や暇な人達が群がってきて、少し騒然とし始めた。


「・・・・・・・」


騒々しい観客を前に、ジェシカは無言を貫いたが、ハロウィーンでそうしろと言われた時のように手を振り続けた。



「きゃ~可愛い!!!!」


そう叫んだ一人の熱狂的なファンが、ベタベタ触ってきた。どう対応していいのか本当に分らないのでジェシカは少し怯んだ。


「きゃ~!!可愛い!!!」


どんな仕草でも可愛いのか、迫る女性。勿論こんな事になるとは予想してなかったし本能が危険を知らせていたのでジェシカは後ずさりをはじめ、そのまま一目散に逃げ出した。


「あ、何で逃げるの!?」


逃げ出したと言っても、その格好ではスピードが出ない。熱狂的なファンは尚も追いすがり、走りながら写真を撮りまくっている。そして逃げることにしたのはいいが、ジェシカはいつの間にか知らない道に入り込んでしまっていた。とにかく逃げ切る事が出来たものの、気が付くと知らない場所に立っていたジェシカ。



「あれ…ここ何処だろう…」



それはジェシカが初めて体験した「迷子」であった。
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