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徒然ファンタジー23

自宅のように寛いでいる間に夕方になりつつあった。丁度その頃、リリアンが先日ジェシカの身に起こった事をシェリーに説明していた。ジェシカが『猫妖怪』の姿で迷子になった日の話である。


「朝から変だとは思ってたんだけどね、まあ結果的に何事もなかったから良かったけど」


「それが私が電話した日の前日の事ね。なるほど、そんなことがあったの」


「うん。大変だった…」


ジェシカはその日の事を今でもまだ少し気にしていた。喜んでもらえると思ってやった事だから、それが上手く行かないという事が納得がいかないというわけではないけれど、自信が無くなってしまう。シェリーは一通り話を聞いた後しばらく何かを考えているのか静かにジェシカの方を見ていた。そしておもむろ「つまり…」と口を開いた。


「つまり…ジェシカは自分からそうしたいと思ったのよね。リリアンとは違ってこれは私の意見なのだけど」


ジェシカは自然とシェリーの話す言葉の先を待っていた。


「ジェシカ、偉いわ」


「えらい?」


「偉い?」


ジェシカもリリアンもそれが意外な言葉だったので戸惑っていた。


「京子それって」


言いかけたところでシェリーに手で制されるリリアン。


「まあ待ちなさいリリアン。私の意見と言ったでしょ?私もリリアンが注意した事は正しいと思うけど、大事なのは気持ちの部分よ。あなたはすんなり受け入れているけどジェシカはやっぱり特別な存在よ。というか、唯一の立場かも知れない」


「唯一の立場?」


「そう。人間のようでいて猫のようでもある。ジェシカなりに考えた場合に、私達とは違う結論になるかも知れない。それでもジェシカは自分でやりたい事を始めたのよ。この事は私としては褒めるべきだと思うのよね」


「なるほどね。言われてみれば、ジェシカの成長とも言えるのかも知れないわね」


リリアンの発言に対してシェリーは彼女が混み入った事情を考える時にするような気難しそうな顔をしていた。少し「うーん」と呻ってから、


「ただしそれは人間の視点から考えた場合の成長よ。正しくは発展ね。それが良いか悪いかは私達でも分らない」


と自論を述べるシェリー。彼女としては考えられる事を素直に述べたつもりだが、リリアンは『友人の面倒くさい部分』が出たなと思った。


「そんなに難しく考えなくてもジェシカがやりたいようにやって、ジェシカも私達も嬉しいんだったらそれでいいと思うけど…」


「そう考えるにしても、ジェシカが悪戯とかではなくてやりたいようにやったんだから私達は喜んでいいんじゃない?結果は結果だけど」



「そうね…。ジェシカの気持ちの部分ね…」


とシェリーの言葉に共感するところがあったのか、リリアンにしては珍しく一瞬真面目な表情になってジェシカに向き合って言った。


「ジェシカ」


「何?ご主人さま」


「うん。ジェシカあの時は「メッ」ってしか言わなかったけどそれは心配だったからで、あなたがみんなを喜ばせようと思った事は良い事よ。偉いわね」


そう優しく語りかけて頭を撫でるリリアン。ジェシカが少し感じていたモヤモヤが何となく晴れてきたように感じた。だがまだ何となくスッキリしない事もあった。それが何なのか、ジェシカにはまだ良く分からないでいた。



「ご主人さま」


「なあに、ジェシカ」


「…うん。なんでもない」


「そういえばリリアン、ジェシカ。夕食、そろそろ準備しようと思ってるのだけれど」


「もうそんな時間か。早いわね、折角だから私も手伝うわ」


「そう、ありがとう」



二人は立ちあがって台所に向かう。ジェシカをそれを見届けると窓の方に寄って行ってぼんやりと外を眺めはじめた。いつもと違う場所に来たという事が実感されるような、綺麗な夕焼けが見えた。



☆☆☆☆☆☆



リリアン曰く「数少ない地元の料理」を2品ほど取り入れた夕食。2品とも素朴な味でそういう料理を初めて食べたリリアンとジェシカの反応は悪くはなかったが、それほど感動したというわけでもなさそうだった。シェリーは人知れず<まあそんなもんよね>と諦めて、気持ちを切り替える。その後テレビを見ながら駄弁るように過ごしているうちに、夜も更けてきた。


「あー、私ちょっと疲れてるから先に寝るわ」


と言って先に布団の敷かれている部屋に向かうリリアン。


「おやすみ、ご主人さま」


「おやすみ、ジェシカ、京子」


ジェシカが平然としているので「もしかして」と思ってシェリーは訊いた。


「ねえジェシカ、あなたのご主人さまっていつも大体このくらいになると眠るの?」


「うん、そうだよ。『朝が早いから』って、先に眠っちゃうね」


「ジェシカはどうしてるの?」


「俺は眠くなったら眠る。いつもはこの姿じゃないけど」


「ああ、そうだったわね…」


またしても本来は猫だという事を忘れかけていたシェリー。改めてジェシカと二人きりになると色々訊いてみたいことが出てくるのだが、何を訊けばいいのかまとまらない。するとジェシカが何かを見つけたのか立ちあがって、部屋の隅に置いてある本棚の方に向かった。


「シェリー、これって」


「ああ、前そっちに持ってった『黒猫の置物』の事よね」


以前シェリーがリリアンの家を訪れた時気紛れに持っていった物だったのだが、それ以降目に留まるところに置いておくようにしている。


「そういえばあの時…。」


「何か気になる事でもあったの?ジェシカ?」


「うんとね迷子になった時に、こういう奴に助けてもらったんだよね。白黒だったけど…」


「こういう置物に?」


「そうじゃなくって、本物。迷子になった場所にいた奴なんだけど、公園まで案内してくれたんだよね」


ジェシカらしい説明にシェリーは所々想像で補うのだが、「奴」というのがどうも本物の猫の事を指しているらしいという事に気付いた。


「もしかして、そこに猫がいたのね。白黒の」


「そう!!それでね、何だかその時すごく不思議な気持ちがしたんだよね」


「不思議?」


「うん。何か俺とは違うんだけど、同じ、みたいな。仲間ではないけど、意地悪するわけでもないし…」


「なるほどね…。もしかしてその猫はジェシカの事が猫だって分ったのかも知れないわね」


「でも俺その時、もっとブカブカの格好だったから」


ジェシカの言っているのは「猫妖怪」の着ぐるみの事である。確かに見た目だけでは仲間だと感じるのは難しい筈である。


「それでも分ったのかも知れないわ。何せ、「アレ」は不思議な道具だから」


「でも、それだけじゃないんだよね」


「他にもあるの?」


「難しいんだけど、そいつが何かを教えてくれたように感じたんだ」


「そう…。それはもしかして猫同士にしか分からないような事なのかも知れない」


「でも、なんかよく分からないんだ」


ジェシカの言いたい事はシェリーには何となく分るような気がした。ジェシカはそこで自分がどういう存在なのかを自覚し始めた。でもシェリーでも頭を悩ませるような存在だから、自分がどうあるべきかについて悩み始めているのだろう。一通り考えてみて、


「やっぱりここでもこの『猫』なのね…」


とシェリーは独り言を言う。そして一呼吸置いてジェシカに言う。


「ジェシカ、私にも分らない事はあるわ」


「シェリーにも?」


ジェシカにとっては意外な事だった。シェリーは真面目なトーンで話す。


「そう、私にも分らない。ジェシカをその姿になれるようにした人が何を考えているのかとか、この『置物』は何なのかとか」


ジェシカはシェリーの言うことを真剣に聞いていた。


「でもね、大切なことはすぐに分らないからって考えないようにする事でもなければ、ずっと考え続ける事でもないと思うの」


「どうするの?」


「ふふ。私がちょっと前に言った事と同じなのよ。ジェシカはリリアンとの生活は楽しい?」


「え…楽しいけど?」


「ずっとそうしたいって思う?」


「うん。ずっと一緒」


「…まあそれはそれで羨ましいのだけれど、そうしたいって気持ちに正直であればいいのよ。そこであなたは生きている。分らない事は分った時には「そうだな」って思って、分らないなら「分らない」って、そういう毎日で良いと思うの」



「「分らない」ってこと…」



「まあ難しく考えるか、単純に考えるかは人それぞれだと思うけどね…ってちょっと難しい話よね」



「うんと、なんか…。分らないかも…」



「それでいいのよジェシカは。それに、あなたは一人じゃないわ」



「一人じゃない…」



「私とリリアンがいるわ」



「うん」



「特に、私が居るわ!」



「う…うん」


さりげなく自分の事を強調するシェリーにたじろぐジェシカであった。
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徒然ファンタジー22

シェリーの店「SHELLY」に戻ってきた一行。帰って来る前に少し回り道をして立ち寄ったスーパーで夕食の食材やちょっと飲み食いできそうなものを買っておいたのだが、ジェシカはあまりスーパーなどで並んでいる品物を見た事がなくそれなりに感動していた。リリアンはリリアンで、「何処に行ってもスーパーというのは同じ作りをしているものだ」と再確認し、普段よく口にしているお菓子などを何のためらいもなく買い物かごに放り込んでいた。


時刻はまだ2時半くらいでまだ何処か観光に出掛ける事も出来たのだが、主にジェシカの体力を考慮して相談した結果とりあえずその日はのんびり過ごす事に決めた。


「さて、どうしましょうかね?」


帰ってくるなり再びコタツの中で暖を取りはじめるリリアンとジェシカに、暗に「何かしませんか?」と誘うシェリー。


「あ、そうだ。持ってきてあるわよ」


「何を?」


「3人で出来そうなものよ。先ずは京子も持ってた携帯ゲーム機でしょ、ちなみに2台。そしてベタだけどトランプとか…」


「・・・。携帯ゲーム機というのは悪くないなと思ってしまう自分も自分だけど、私のも含めて3台あるから対戦できるわね」


「決まりね」



そしてベタベタだが三人でプレイできるレーシングゲームで静かな戦いの火ぶたが突如切って落とされた。それは妨害行為が可能なゲームだから、シェリーのちょっとした意地悪が現れるプレイとなった。と言っても狙われたのはジェシカではなく、ひたすら最速を目指していたリリアンであった。


「ちょっと!!何で私を狙うのよ!!」


「いいえ、私が投げた方向にたまたまあなたが寄ってきただけよ」


しれっと言い訳にならない言い訳をするシェリー。彼女に対しては応酬を辞さないリリアンもわざわざ狙う事のない後方のシェリーにトラップを仕掛ける。


「こら!なんてところに置いてるのよ」


「あ、ゴメンついうっかり…」


全然うっかりではないし、ニヤニヤしながら答えた。そんな風にお互いがお互いを狙っているうちにいつの間にかノーマークのジェシカが優勢になり、最終的に勝利の栄光を掴んだ。


「わーい!!やったぁ!!」


「ジェシカ、腕を上げたわね」


「うん。最近この人達の癖が分るようになってきて、強くなった!!」


「『この人達』って、もしかして他のキャラクターの事?」


「そう」


「リリアン…まだ教えてなかったの?」


ジェシカは未だにコンピュータのキャラクターがプログラミング通りに動いているとは思っていない。ただ最近少しづつ彼等が一定の動きをしてくるという事は理解しつつあるようだ。


「まあ説明しても疑われるだろうし、説明してもジェシカにとってはあんまり変わらないのかもね」


「うーん、でも一応説明しておいた方が…」


「そう思うんだけど、どうやって説明したらいいのか言葉が上手く出てこなくって」



「二人ともどうしたの?『この人達』をもうちょっと強くして戦おうよ」


ジェシカが言っているのはキャラクターの強さを変更できるシステムの事である。その口ぶりからするに、『この人達』と言いつつももしかするとそれが物凄く都合の良い存在であるように理解しているようである。


「まあ、これくらいシステムの事を理解していればあんまり変わんないかもね…」


「確かに…」


その後一通り遊び終えたところでシェリーの提案でコーヒーブレイクをする事にした。こだわりで豆のコーヒーを挽いて慣れた手つきでお湯を注いでゆくシェリー。本来ならば猫はコーヒーの匂いを好まないのだが、この姿だと香ばしい匂いの良さが分るジェシカ。


「あー、いい匂い」


「コーヒーは初めてだっけ?」


「こーひーは初めてだよ。ココアは飲んだことあるけど」


「そうだったかもね。ジェシカは甘いのが好きだったもんね」



主人とその猫の猫らしからぬ会話を聞いて、シェリーはふとある事を思ったが、そのある事はよく考えてみると馬鹿馬鹿しい話だった事に気付いて一人堪えきれずに笑ってしまうシェリー。


「どうしたのよ京子、私達何かおかしかった?」


「ううん、そうじゃないの。ふふふ…あなた達を見ていたら、私も猫を飼えばいいのかなって思ったんだけど」


「思ったんだけど?」


「考えてみたら、猫を飼ってもこんな風にはならないのよねって改めて思ってしまっただけよ」


「そりゃまあそうね」


「さて、そう言っているうちに出来上がったわよ。ジェシカは砂糖とミルクを入れた方が良さそうね」


「私はミルクだけ入れるわ」


流石に淹れ方が違うのでお店で飲むようなコーヒーであると感じたリリアン。ジェシカも美味しそうに飲んでいる。基本的にいつもは一人で飲む為に作るコーヒーだが、友人の為、大切な存在の為に作るのは結構楽しい事だと実感したシェリー。ほっと一息ついたのもあって自然と会話が始まる。


「そういえば京子最近なんか面白いことあった?」


「面白い事ね…まあ今が一番面白いけど」


「現在進行形ってやつね。そうじゃなくって、例えば店の関係でよ」


「店についてはまあそんなに悪くないわ。常連もできたし、商売のコツも段々分りはじめてきたとこ」


「気になっていた事なんだけどさ」


「何?リリアン」


「ここに店を構えたのって、やっぱりおばあさんが居るからとかそう言うこと?」


「深い理由はないけど、結構この場所が気に入っているのよね。私は色々判断する時に縁とかを大事にする方なんだけど、そういう縁を辿ってこの場所を紹介された時に、『自分のイメージに合っている』って思ったの」


「へぇ~。縁ね…でもそうね自分のイメージに合っているならやり易いかも」


「ただね…少しばかり悩みと言うのか、なんていうのか…」


打って変わって歯切れの悪そうなシェリー。


「なによ、言いなさいよ!相談になら乗るわよ」


「そうね。その実はこの辺であんまり同年代の人を見ないっていうのか、なかなかプライベートで話を出来る人が少ないというのがちょっとした悩みなのよね…」


「っていうか、それはみんな同じだと思うよ。私だって今でこそジェシカと話すけど、もともと猫として飼ってたからね。あっちに友達はいないわけではないのだけど、忙しい人が多いから」


「それはそうよね。最近になって高校時代に『一人で良い』とか言っていた自分を張り倒したくなるわ」


「でも、多分京子は基本的には一人でも大丈夫だと思うのよね。あんた店なんてやってるけど実はそんなに社交性ないし」


「失礼ね、と言いたいところだけど実際自分から行くのは苦手なのよね。例外もあるけど」


『例外』と言った時にジェシカの方をちらっと見たシェリー。


「例外って?」


何となく自分が訊いた方が良いと思ったジェシカ。


「ふふふ、それはね、自分が興味を持った相手よ」


そしてじーっと熱視線を送り続けるシェリー。長い黒髪でもともと妖しさの漂う目のシェリーは、女性というものがあまり分っていないジェシカにとっては「綺麗な目」であった。もっともシェリーも別にモーションをかけているというわけではなく、別の意図があってなのでリリアンからしたら「妖しい」というより「怪しい」目つきであった。


「あんたがジェシカに興味津々なのはいいけど、ジェシカは一泊して帰るからね」


「う~ん…何とかしてうちの子にできないものか…」


「あ、ついに言いやがったよこの人!!ホンと、興味を持ったら一直線なところは変わってないわね」



「シェリーがきょうみしんしん」


自分が狙われているという事に気付いているのか居ないのかはよく分からないけれど、何となく空気で察しているジェシカ。だが、


「あ、シェリー!!」


「え、何?」


「コーヒー美味しかったよ!!」


と満面の笑みで言われてしまっては、


「そう。良かったわ」


とシェリーもほのぼのとした笑顔にならざるを得ない。

徒然ファンタジー21

そこは人で賑わっていた。車で峠と思われる場所を越えて全体的に山の中にあると言っていい城跡。そこにはひっきりなしにツアーのバスがやって来ていたり駐車場が一杯になっていたりと駅前の様子とは比較にならないほどの賑わいであった。


「凄い人だね」


赤い車から降りるとジェシカが感想を洩らした。何気なく言った一言だが、ジェシカも自分の街でこれくらいの光景は見慣れている筈である。そこまでの道程が比較的静かだからこそその場所が際立っているというニュアンスを含んでいる。


「確かに、一体どこから集まったのか分からないわよね」


リリアンも同じことを感じた。シェリーこと立華京子は一番最後に車を降りて、周りを見渡して一言。


「まあまあかしら」


「何がまあまあなのよ」


「『今年の』よ」


よく分からない物言いだが彼女なりに思う事があったのだと理解する事にして、リリアンは期待を胸に晴天の下を元気よく歩き出した。ジェシカもそれに着いてゆく。


「ご主人さま、何か向こうから声が響いてるよ」


耳の良いジェシカは早速何かを聴き分けたが、それは声と言うより歌であった。懐かしいというのか古めかしいとも時代がかっているとも言える旋律は、菊人形を唄ったものらしい。おそらく何処かに設置されているスピーカーから伝わってくる女性の甲高い声は独特なのだが、城壁がしっかり見えるので何となく全体的にタイムスリップした気分になるかも知れない。年齢的には主におじいちゃんやおばあちゃんと言えるような人々がゆったりとした足取りで傾斜を登ってゆく。


「ここを登っていけば良いのね」


「そうよ、城門があるからそこを潜れば…、ってあ…」


「どうしたのよ」


「ああ、今年はこういう風にしてみたのね」


上の方を城門の手前の方を眺めたまま一人納得しているシェリーだが、ジェシカにも分った。


「あれって人?あの変な格好している2人って…」


「あ…」


一行がそこにたどり着いた時リリアンは少しばかり驚いていたし、ジェシカは混乱しているし、シェリーは感心していた。


「ねぇ、京子。一応説明してくれるかしら」


「これが菊人形よ。綺麗な菊が掛けてあるでしょ。あと足元に菊の花あるでしょ。この人達の名前は説明するととても長くなってしまうからググりなさい」


シェリーが言った通り門の少し手前の所に二体の菊人形が設置されている、というか表情などがかなりリアルに作られたがマネキンより精巧な人形がそこに『立って』いる。両方とも武士の出で立ちである。


「なーんか、何処かでこの顔を見た事があるのよね…」


「多分、みんなそう思ってるはずよ。というよりこの人形って主にその年の大河ドラマの主人公とかに似せて作ってあるものだから」


「まあイケメンで、ジャ〇―ズ的な…?」


立ち止まっていると通り過ぎてゆく人は携帯やデジカメなどでその写真を撮って行く。口々にある芸能人の名前を言っているような気がするが、人形の傍に置いてある名前についてはあまり気にしていないようにも見えた。


「市民だから少しばかり歴史は読み齧っているけど江戸末期の戦争の事で、それほど知られてないかもね」


「そういえば下の方とか、駅前にも武士の銅像があったような気がするわ」


「…説明したいところだけれど、ジェシカにはチンプンカンプンの話よね」


当のジェシカは初めて見る人形を少し不気味がっていた。ただ、作りものだと分ってくると徐々に感動がやってくる。


「うわ~そうか、これが「きくにんぎょう」なのか…凄いなぁ」


純粋な感動である。これくらい喜んでもらえば作った方も喜んでくれるに違いない。と言っても実はまだ会場入りしてすらいないのである。


「会場はこの向こうよ。もっと奥」


「人の流れからしてそうよね、じゃ行くわよジェシカ」


名残惜しむジェシカを引っ張って歩くリリアン。とは言いつつも、彼女はスマホで既に写真を撮っていた。


城門を潜って、敷地内を案内に従って歩いてゆく。途中にはピンクや黄色の色鮮やかな菊が並べてあって、目を楽しませてくれる。開けてきたところで少し登ると、植物の緑色の小さな門が設置してあり、そこから先がメインの会場らしかった。入り口の付近で大人の券を三枚購入し、一緒にパンフレットを貰った。その向かい側はお土産などを売っていたり食事が出来るようだが、食事については先ほど済ませてきたのでとりあえず先に入場する事にした一行。


「どうも今年は「順路」の通りに進まないといけないらしいわね。子供の頃来たときはちょっと違ったような気がするわ」


「ふーん。でも迷路みたいで楽しそう」



リリアンとジェシカがとにかく驚いたのは菊の花の大きさである。よく大輪とは言うけれど、育てるのが大変だったであろうと思われるような大きさでしかも種類が多い。


「結構凄いのね!」


「凄い大きい…」


そして順路に従って歩いてゆくと幾つかの菊人形のエリアがあって、シェリーがパンフレットを見ながら言うには「それぞれのエリアで有名な歴史を再現している」との事である。その中にはかの有名な独眼竜も登場する歴史エリアもあった。


「色々と勢ぞろいしてるわね…」


「史実なんでしょ?」


「そうね。結構歴史がある町だから」


ジェシカにとって幸いだったのは、そういう歴史的な事実を知らなくても純粋に人形として楽しめるという事であった。何しろ色鮮やかであり種類もいっぱいある。ジェシカというファンタジックな存在ですら、不思議な世界にやって来たような感覚になっていた。


「すごい…」



何度目になるか分らないジェシカの「すごい」という言葉はこの後も繰り返された。


☆☆☆☆☆




「あー…なんだか一杯見たからもうお腹いっぱいって感じね…」


一通り見終わった一行。歩いていると案外時間が掛かったが、凝った造りになっているものも多くてリリアンは満足感があったようである。


「…うーん…」


一方でまた難しい事を考えて良そうなシェリー。


「どうしたのよ?」


「門の前の二体にも言える事だけど何だか工夫したようだなって、ちょっと感心半分ね」


「もう半分は?」


「ノーコメント…まあ利用できるものを利用するのは一般的に良い事よね」



その後お土産物を見回る二人とジェシカ。何かカタチの残るものと思って買ったキーホルダーと、何となく食べたかった名物のお菓子。ただジェシカは密かに、


<あの「にんぎょう」ちょっと欲しいなぁ>


と思うのであった。

修正

徒然ファンタジー2の最後の方を少し修正しました。細かい部分なので前後の繋がり上の修正です。4で「ジェシカ」が車に初めて乗ったという事にしたいのでそれ以前に車に乗って出かけているという部分を削除しただけですが、一応。


徒然ファンタジーを書いてそろそろ半年くらいになりますが、以前書いていた「ATJアナザー」でもそうですが結構間に空白があったりして、その後思い出したかのように続きを書く場合があります。気長にお待ちください(笑)

徒然ファンタジー20

ふんわりしたオムライス。ジェシカは今しがた平らげたオムライスと以前ファミレスで食べたオムライスについて何事かを思っていた。


<同じものなのに同じじゃない>


作っている人も材料も同じではないのだから当たり前の事であるが、ファミレスで食べた時には感じなかったような味覚における満足感があったのでジェシカらしい素朴な疑問で「何でなんだろう」という問い掛けが止まらない。


「あ~美味しかったね!!特にスプーンでオムレツを開いた時のトロトロ感と、口に入れた時のフワフワ感が最高だわ」


「量も昼だからこれくらいで丁度良いのよね。喜んでもらえてみたいで良かったわ」


「さすが京子だわ。わたしが見込んだだけの女よ!!」


「ふふ、なによその言い方。ねえ、ジェシカも美味しかったでしょ?」


「う、うん。美味しかった。けど…」


「けど?」


「何で美味しいのかな?」


ジェシカは真剣な目でシェリーを見つめる。普通だったら答えようのない質問なのだが、彼女らしい生真面目さとジェシカに対する配慮から「何で美味しいのか?」今一度冷静に考えてみるシェリー。


<なぜ美味しいか…何か特別な材料を使っている…とか、他には作り方が上手だからとか…>


「馬鹿ね、美味しくなるように作ってるからよ!」


思考に入り込んでいたシェリーとは対照的にそのまま思った事を口にするリリアン。そう言われればそうなのだが、そう言う風に了解しているだけでいいのかどうかは少し疑問である。


「あ、そうか!美味しくなるように作れるのか!!」


猫だから仕方ない部分もあるけれど、同い年の子にしてはあまりにも素直すぎる。納得したジェシカを見てリリアンは胸を張っている。対してシェリーは肩すかしを喰らっている感じである。


<それでいいの…?特にリリアン…>


親友の飼い猫に対しての強引さと、相変わらずの思考を垣間見て、シェリーは少しばかり不安になったがそこはあまり深く考えないようにした。


「さ、さて、これからどうする?」


「これから?京子、店の方は良いの?」


「一応今日は休みにしてるわ。明日は開けるけど」


「そう」


リリアンはリリアンなりに今回の小旅行でしたい事があったのだが、あまり下調べもして来なかったので具体性はなかった。ただ、時期的には訪れた町で有名な「菊人形」という催し物が見頃だという事は知っていたので、とりあえずそこに出向くのも案だなと思っていた。


「えっと、確か菊…人形っていうのが有名なんだよね、ここ」


「ふーん。さすがに調べてきたみたいね。そうよ」


「とりあえずそこは回ってみたいかな。結構珍しいんでしょ?」


「三大菊人形と言われているわね。案外地元の人は行かないかも知れないけど、お年を召した方が好んで足を運ぶという感じね。まあ何はなくとも菊人形かも知れないわ」


「じゃあ行きましょう!」


「そうね、実は私もまだ今年行ってなかったから丁度良いかも」


「決まり。ジェシカ、今度は凄いものが見られるわよ」


「凄いもの?」


「凄いかどうかは見て見ないと分らないと思うわよ。地元に住んでいる者としての率直な意見を述べさせてもらえば…」


「まあ行けば分るわ!」



二人と一匹は洋食店を後にして一路菊人形の会場に向かった。

徒然ファンタジー19

「はぁ~寒くなってきたらやっぱりお茶よね…あったかい…」


「あぁ…気持ちいい…」



シェリーの自宅にはジェシカにとって初めて見るものが幾つかあったが、季節的には少し気が早い器具が部屋の真ん中目立つところに陣取っていた。その上でお茶を飲み、みかんが置かれていればなお良い器具。『コタツ』である。リリアンの部屋では暖房を用いるので猫であるジェシカが喜びそうなこの文明の利器を事前のリサーチによって用意しておいたシェリー。猫の身体でなくてもやはりその魅力にすっかり取りつかれてジェシカは半身を深く潜らせている。


「ふふ…計画通りだわ。ジェシカはすっかりコタツの虜ね」


「ねぇ、このお茶って何か香ばしい匂いがするんだけど、何のお茶?」


「そば茶よ。少し離れているけど山の方に蕎麦が美味しい店があってね、置いてあったそば茶を飲んでみたら美味しくて最近はまってるの」


「ふ~ん。蕎麦なんてあんまり食べてないわ」


「まああの辺には無いでしょうね」


「蕎麦の他にこの辺って美味しいもの食べれるの?」


「食べれない事も無いけど、ラーメンとかちょっと有名な店も最近できたらしくて食べに行こうかと思ってるけど店の事もあるから実際あんまり外で食べないのよね…」


「来て早々なんだけどちょっと小腹が空いているのよ。ジェシカは?」


「う~う~ん」


うめき声のような声を挙げているジェシカ。心地良過ぎて声が漏れてしまっているらしい。


「ちょっとジェシカ、のぼせちゃうわよ、ほら」


と言ってジェシカを揺するリリアン。


「あ、俺もお腹すいてる…ご主人さまごはんはどうするの?」


「ふぅ~」と溜息をついて言う。


「一応ジェシカのごはんは持ってきてあるよ。でも今日はなるべくその姿のままで居させたいから私達と同じものを食べましょう?」



「うん」


ここでシェリーは一つ疑問に思う事があってリリアンに訊いた。


「気になったのだけれど、ジェシカは私と外食した後とか普通の食事はしているの?」


「そうね。あれ以降ジェシカも少し積極的になって買い物とか出掛けた時にはなるべく外食するようにしているわ。ジェシカから聞いたんだけど、京子と外食した時に食べたものってスプーンを使う料理だった?」


「あら、どうして分ったの?確かオムライスだったはずよ」


「そうだと思った。あのね、ジェシカに「箸」を使わせたら案の定と言うか全然使えなくて教えるのに結構苦労したんだけど、京子はそういう事言ってなかったし、スプーンは使わせていたのよね」


「ふーん。流石飼主というところね。ふふ…あの時はジェシカの事ちょっと変わった男の子だとしか思ってなかったのを思い出したわ」


「今は慣れた?」


「うん。まあある人のアドバイスで、どんな状況でも『実際に起こっている事』の中でするべき事をするのは変わらないって思えたの」


「するべき事をする…確かにそうね。私もジェシカの事で迷ったり悩んだりする事もあるけど、何ていうかこうして「この子」はこの子のしたいようにしているから、それを助けてあげたりアドバイスしたりしてるとすべき事っていうのは段々分ってくるような気がするわ」


リリアンの発言にシェリーはほんの少し驚かされながらも、友人の新たな一面を見たような気がして何だか頼もしく思えた。


「なんか大人っていうのか、お母さんぽくなった?」


「ううん、年齢的にお姉さんかな…?」


「姉と弟ね…まあそうとも言えるし、やっぱり…」


「やっぱり?」


一呼吸おいてシェリーは悪戯っぽく言う。


「ご主人さまと「猫」ね!!」


頷きそうになったけれどリリアンは僅かに眉をしかめる。


「一応聞くけどそれってちゃんとした「猫」よね。変な意味じゃないわよね」


「変な意味って?」


してやったとばかりにシェリーはニヤニヤしている。


「え…それはその…」


リリアンが困っていると思わぬ手助けが入った。


「俺とご主人様は『ぴったりくっ付いてる仲間』だよ」


ジェシカであった。と言っても半分ウトウトしていて、話についていっているのかいないのかよく分からない。ただシェリーは思わぬ回答とジェシカらしい表現に感心してしまって、からかおうとした事もどうでもよくなってしまっていた。


「そう。ジェシカにとってはリリアンはそういう存在なのね。何だかちょっと…というか結構羨ましいわ」


「シェリーもだよ。『ぴったりくっ付いてる仲間』」


ジェシカの何気ない一言だったが、シェリーはそれを聞いて目を見張る。やはり同じように気持ちよさそうな顔で横になっているのだが、それはジェシカが時々見せる「迷いなさ」であった。


「うぅーーーーーーーーーーーふぅ…」


「どうしたのよ!」


「な、何でもないわ。私もちょっとお腹が空いただけよ」


「そうかしら?ふふふ…」


「何よ!何『私は分ってますよ』みたいな顔してるのよ!!ああ、仕方ない『ぴったりくっ付いてる仲間』達の為に美味しいものを食べさせてあげなきゃね!」


照れ隠しをしながらも、満更でもないシェリーだった。コタツに未練を残すジェシカを引っ張り出して車で移動をする。市内から移動して数分、バイパス沿いの洋食屋に到着する。そこはオムライスが絶品の店だった。
プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

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