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ナンセンスとそれから

物語を書くつもりです。リンクフリーです。

ニアミス

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10月下旬の日曜。欲しい物があるというというより近況報告のつもりであの「店」を訪れる事にした。時が経つのは早いもので、特に「そら」の著しい成長を見ていると時間の経過というもの如実に感じる事が出来て、それに伴うようにスマホに撮り溜めてある写真も相当量になってきた。

猫の、特に白い毛がより映えるようになってきた「そら」の写真はまるで親ばかのような話であるが誰かに見せたくなる。と言ってもネット上にちらっとアップロードしてみるのが積の山で、誰かに見せているのか見られているのかよく分からない。本音を言えばそういう理由も少しあって「店」の主人の立華さんに近況報告と称して猫の様子を見てもらったりしているのである。


本音を言ってしまうと店に行く理由はそれだけではなくて、比較的近い年頃の女性と気兼ねなく会話できるというのが大きいのかも知れない。実際、店主に惹かれている自分がいて、基本的には人との付き合いはあまり得意ではない自分も話し易い雰囲気で、ついつい色んな事を喋ってしまう。そして一方的に自分が話しているだけかというとそうではなくて、立華さんの方からも主に「店」の事について「ここをこうしたらいい」という意見を求められたりもして見方によっては客と売り手という関係からは少し逸脱するようなところがある。



もっとも、それは最初に私がここに来たときからだった。



その日、昼前に市内に着いたらまず駅前のコンビニに立ち寄った。明確に何かを買うつもりだったというわけではないがここにあると一応入りたくなる。流石にこの時間だから人がいて、年の離れた姉弟のような人達が冷蔵庫の前でじっくり飲み物を選んでいたのが印象的だった。荷物を持っているところからすると旅行客なのかなと漠然と思った。結局私はここでは何も買わず、取り敢えず「店」に向かう事にした。



「店」は商店街の外れなので距離がそこそこあるのだが、そこまで歩いている人は本当に少ない。自分も車で行っても良いのだが、折角来たのだから商店街を歩きたいという気持ちもある。子供の頃、もう少し賑わっていた商店街でゲームショップなどが何気なくあった事を思い出したりしながら歩くのもなかなか良いものである。10月の始めにはこの辺りで「祭り」があってそれもちらっと見に行ったのだが、夜の独特の雰囲気は中学生だった時に友人と掘り出し物を探していた時の自分が感じていたものと同じだったかもしれない。



とそんな事を考えているうちに店もまばらになってきて、いよいよ「店」が見えてくる場所にやって来る。この日は前日が少し寒かったのだが天気が良く比較的暖かい日で、「店」も日の光で鮮やかに見えた。


「ごめん下さい」


扉を開けて店主に分るようにすぐに声を掛ける。立華さんは私を認めると少し驚いた表情をした。


「あら、まさかそうなるとは…」


「どうしたんですか?」


カウンターの方に向かいながら発言の意図を訊いてみる。


「う~ん…また説明に困る展開だわ。こうなると私からも訊いてみたい事があるのよね。じゃあ、こっちで」


と言って、これで何度目かになる奥の部屋に案内される。部屋のテーブルには茶碗が4つほど並んでいて、誰かが先に来た形跡なのかも知れないと私は思った。私の視線から察したように立華さんは言う。


「そう。さっきまで人が来ていたの。友人と、祖母…という組み合わせね」


「え…そうだったんですか。いつ頃ですか?」


「祖母は少し前だけど、ちょっと遠くから来た友人は昨日から来ていて、お昼前にここを発ったの」


「ん…とするなら、もしかすると駅で見ていたかも知れませんね」


「時間的にはそうかもね。私と同い年の女の子と、高校生くらいの男の子よ」


私はその言葉を聞いているうちに、高校生くらいの男の子というところで何かに引っかかる事に気付いた。それが何だろうと思った時に、まさにその条件に合う人をコンビニで見掛けたという事を思い出したのである。

「あ、私駅前のコンビニで高校生くらいの男の子見ていたような気がします。リュックを背負って荷物持ってたから旅行に来ているのかなと」


「ビンゴね。時間的にもあなたが寄った時間と、あの子達がそこに着いたのも同じくらいのはず。あ、それと…」


と言って、立華さんはそこに置いてあったデジカメを取って操作し始める。すぐにそこに表示された写真を見せてくれる。


「実はさっき、店の前で三人で記念写真を撮ったのよ」


そこには朗らかな表情で三人仲良く並んだ写真が表示されていた。女の人の顔はあまり見ていなかったものの真ん中に立っている男の子は服装からして明らかに先程見た少年だと確信できた。


「あ、この人ですよ。真ん中の男の子。弟さんですかね?」


「…弟といえば弟みたいなものだけど、一応彼女の親戚の子という事になっているわ」


「え…なんですかその設定のような言い方は」


「実を言えば、あなたに以前見せた「少年になった猫」と言った筈の写真と同じ子よ」


「そういえば、見せてもらいましたね。そうだったのか、その人が来ていたのか」


「ジェシカって言うんだけどね…」


「ジェシカさん?ジェシカ君?」


「『君』よ」


「あの、申し上げにくいのですが、それって所謂最近のキラキラネームってやつでしょうか?」


立華さんは悩ましい複雑な表情になり、その後困ったように私に言った。


「キラキラネームと言うのはむしろ隣の女の子、私の古くからの友人の方ね」


「え、そんなに凄い名前なんですか…」


「私はあんまり気にしないんだけど、本人は相当気にしているから」


「そ…そうなんですか」


何となくその話題については聞きづらい状況になった。ただとにかく男の子が「ジェシカ君」という事が分ったので、その人の話をもう少し聞いてみる事にした。


「ジェシカはね、前にも言ったけれどとにかく『猫』なのよ…」


「それは比喩とかではなしにですよね」


立華さんはそう言った私の目を見つめ、何かを窺うような間があった。そして少し遠くを見つめるような表情に
なって、


「多分、私の勘なのだけれど、あなたの『猫の置物』と私の『猫の置物』の効果の差が如実に現れているのね。普通の男の子という印象を持ってしまうと…特に段々ジェシカも慣れてきているから特にそうなんだけど、今更『猫』です何て言って信じてもらう方が大変だって思う」


と言った。以前立華さんと話した時には、私は「何であれ今すべきことするのには変わりない」という事でまとめたのだが、同時にそれは私が「彼が猫だ」という事を保留したままでも答えられる事だった。


「確かに信じるのは難しい…というか、立華さんがからかっているわけではないというのが態度で分るんですが、それでも自分で見ない事には信じられないというのが人間の性ではないでしょうか」


言われた通りの事を信じるのは難しい。とはいえ真剣で、しかも私がどう感じるのかまでをしっかり考えている立華さんを疑うこともまた難しい。


「そうね。むしろ私もそう言われてはいはいと信じてしまう方が何か違うように思える。だからこそなのだけれど、もし、仮にそうだったという仮定で考えてみたらどう思う?『ジェシカは猫である』という命題を…」


「仮に…ですよね。それはとんでもないことだと思います。というか、明らかに私が見ても普通の高校生にしか見えないような男の子が、私の飼っているのと変わらない『猫』であるなんて、事実だとしてもあり得ないと思ってしまうような気がします」


「そうだったわね。あなたも実際に『猫』を飼っているのだから、よく分かるはずよね」


「そうですよ。ってこんな時に見せるのはなんですが、私も「そら」の写真を一杯撮ったのでちょっと見てもらいたくて…」


と言って、私は立華さんに当初の予定通り「そら」の成長記録のような写真を見てもらう。


「あら、大分大きくなったわね。確か女の子よね」


「そうです。拾ったのが生後2ヶ月くらいだったから、今は3、4ヶ月というところでしょうか。本当にすくすくと成長して」


「ふふふ。やっぱり猫を飼う人はみんな親ばかになっちゃうのかしら」


「そうですね。やっぱり可愛いですもの」


「そうよね。私も猫を飼いたくて…というかジェシカを…いや…何でもない…」


自分に言い聞かせるようにして首を左右に振る立華さん。真面目そうに見えて少しお茶目なところがある人だなと思ったりした。今もそうだが「ジェシカ君」を本当に猫として自然に語っている立華さんを見て、私はそれとは別に少し思った事があった。


「答えになるか分りませんが…」


「うん?」


「『ジェシカ君』が猫だとしたら、それは凄いことだしどうしてそうなったのか気になってしまうところですが、一方で夢があるなと思います。だって、出来れば誰だって自分の飼っている猫と喋ってみたくなるでしょ?」


「それはそうね」


「騒ぐのは多分、現代の科学でいえば非科学的な事を受け入れられない人達であって、驚きながらも起り得る事は起り得ると受け入れられるのが本来の人間のような気がします。まあ常識が変わってしまうでしょうけどね」


「まあ、確かに私達はジェシカの事ではなく自然の脅威とかある意味で非日常を経験したとも言えるのよね…」


「ええ、あの日から数日で私達の常識は変わってしまった部分がある」


何かを確認し直すようにゆっくり頷きながら立華さんは言った。


「そう。私達は当たり前の生活が大切だと学んだ。そういうものを守るために続けてゆくために…」




なんだが最後は真面目な話になったけれど、家に帰ってから出迎えてくれた「そら」をギュッと抱きしめた私は『ジェシカ君』の事がちょっと頭にあったのか血迷った事を言ったのだった。


「そら、お前も喋ってくれるくらいしてくれてもいいんだぞ」


すると「そら」はそれに応えたのか、ただ抱擁から逃れたかったのか


「にゃにゃにゃー」


と可愛らしい声で鳴くのだった。

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徒然ファンタジー27

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「素敵な人ね…」


洋子が帰った後、シェリーと一緒にカウンターに立っているリリアンが言ったものだ。シェリーは穏やかに頷く。先程まで話していた余韻が一同にはまだ残っていて、リリアンだけでなくジェシカも新たな出会いをゆっくりと思い出しているようだった。それほど長い時間話し込んでいたわけではないが、それでも洋子の人柄はすごく良く分かったし、だからこそ安心して色んな事を話せたのである。ちなみにリリアン達と入れ違いになった和菓子屋で買ったらしいお菓子をみんなで食べていた。その中にリリアンも買った『玉羊羹』があって、楊枝を使って中身を取り出す食べ方を教わったりした。店を出る時に見せた嬉しそうな笑顔が忘れられない。



『リリアンさん、ジェシカ君。またね』


そう言った洋子を見送った一同だった。


「おばあちゃんはね、何といったものかしら…」


シェリーは何かを言おうとしたのだが、彼女にしては珍しく迷っているようだった。それは言い表せない何かがあるという事でもあるのだろう。


「う~ん…」


リリアンもちょっと困ったような笑顔でシェリーに微笑みかける。同じ時間を共有したという事がこれほどまでに多くのものを与えてくれるような事だとは思ってもみなかったという喜びがあった。



しばらくしてお客の来店があり僅かにだが表情が凛々しくなるシェリー。リリアンが気付いたのはシェリーは接客をしていてもどちらかというとフレンドリーに接していて、堅苦しいところが見られないという事であった。


<こういうところはリピーターが増えるかも…>


漠然と分析してみるリリアンだが、自然と堅苦しいところが多い自分の仕事と比較していた。一方ジェシカはシェリーに言われた通りに店の中を見回っていた。『サクラ』とまではいかないけれど、ジェシカの物色の仕方がそれっぽいからか店に人が入っているという感じが出ていた。その時ジェシカはリリアンが初日に気になっていた木造の家の「絵」に見入っていて、<こういう場所が何処かにあるんだろうな>と素朴に考えていた。



そうしているうちに時刻はそろそろお昼に近づいてきた。予定では電車の時間の都合でお昼前にはここを発った方が良かった。


「京子、じゃあ私達そろそろお暇させてもらうよ」


「そうね。手伝ってくれてありがとう。今車出すから」


「うん、それね私達帰りは道分るし歩いてゆこうかなって思ってるんだけど」


「そう?同じ道だけど良いの?」


「まあ何といいますか、趣をもうちょっと味わいたくって」


「『趣』ねぇ…ものは言いようというのか…」


「ジェシカだってもうちょっと歩きたいわよね」


「うん。俺ももうちょっと歩いてみたい」



という事で駅まで歩く事にしたジェシカとリリアン。準備をして外に出る。名残惜しいがシェリーとは店でお別れである。彼女も店の外に出て見送ってくれるようである。


「シェリー、俺ここに来て良かった。おばあちゃんも会えてよかった」


言葉からも分るようにジェシカはとても満足しているようだった。シェリーもそれを聞いて嬉しくなる。


「それを聞けて嬉しいわ。もし良かったらジェシカはここに残って…」


「何ふざけた事言ってるのよ!!!」


怪しげな企みを察知してリリアンが言葉を続けさせない。


「ち…」


冗談半分だとは思うが、本当に悔しそうなのが気になる。


「シェリー、また来ても良い?」


二人の間の不穏な空気を覆すようなジェシカの発言。


「ふふふ…そうね。ジェシカはそういう子だもんね。勿論よ、いつでもいらっしゃい」


「まあジェシカが来たいって言うときには来るからさ、良からぬことを企まない事ね」


「あ、そうだ…」


シェリーが何かを思いだしたようである。


「最後にここで記念写真撮りましょうよ。ベタだけど」


「ベタね。でも悪くないわ」


店をバックにリリアン、ジェシカ、シェリーの順に並んで写真を撮った。


「じゃあ、私達行くから。あっちについたらメールする」


「うん。分った。またね」


「うん、またね」


シェリーに見送られ、店を後にするジェシカとリリアン。まだこの町を知っているというわけではないけれど、道は分かり易くて迷うことはない。ロータリー、老舗の和菓子店、神社と確かめるように歩いて、駅までの坂道を下る。


「あ、そういえば何か喉が渇いちゃった…。ジェシカはどう?」


「うん。何か飲みたい…」



という事で最初にシェリーと待ち合わせした駅前のコンビニに入店する。やはりコンビニは何処に行ってもコンビニで、飲み物だけと思っていたのにちゃっかりお菓子や雑誌なども買いたくなってしまうのは共通である。店内にはお昼時だからなのかお客さんも多く、そういうのも同じなんだなと当たり前の事に感心するリリアンであった。



☆☆☆☆☆



まるでシェリーの店で見た絵に描かれているかのような光景。静かな木造の家の書斎で一人の男性が本のページを捲っている。本の新たなページには二人の女性と一人の少年が立ち並んで微笑んでいる『挿絵』が浮かび上がっていた。男性は何かを納得したかのような表情で文字を辿っていた。

あったこと

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現実に存在しているという事、在るという事。在るから、生きようとしてする事。


「わたしが在る」という事を伝えようとする。伝わった場合、それにどんな意味が
あるのかは言い尽くせるものではない。同じ現実に生きている間に、その人が存在
していると確認した時に、確かに同じ現実でもそれまでとは違ったものとして受け
取るとも言える。それまでに実際に確かめた事よりも、もう少し多くの事を確かめ
られる。勿論見ただけで、姿を確認しただけでは『どういう存在』なのかは分らな
い。


「わたしが在る」が「どんな風にわたしが在る」のかという表現になった場合、或い
はそういう内容が示された場合、その人の生き方そのものが本当だと理解したその
先に、「その人が在る事」の影響が出てくる。



「ただそう在る」という事の自分にとっての意味は、その人が語った事から理解する
内容よりも大きい場合がある。「そう在ること」自体がそもそも特別なのではない
だろうか。「そう在ること」がどういう意図の元にそうなのかを知ればより何かが
分るのかも知れないにせよ、「そう在ること」自体がそれでもこの世界で生きるに
あたって特別であるような時、「ただそう在る」事を確認する事で何かしらの可能性
すら見ているのかも知れない。



勿論、在り方は同一ではない。それでも世界が変わり続ける中で、どういう風に在ろう
とするか実際に在るか、そういう事を見極めるならば、何かしら「同じ」であるよう
な事が見つかるのかも知れない。




その存在がもはや存在しない世界で「存在が在る」と思われるようなとき、それは多分、
存在が在った事によって本当だと思えた事の先に何かを確認し続ける事によって、
「そういう世界」だと思えている自分が居るという事でもある。



そうではなくただその人が言った事が本当だと思い続けられているだけなのかも知れな
い。



それでも「在る」と確認した時に自分が見ていたものが、自分に見えていたものが、ある
時再び同じように見えるような時もある。『在った事』を覚えているという事だし、実を
言えばそれが一番失われ易いものなのではないだろうか。

徒然ファンタジー26

Posted by なんとかさん on   0  0

ゆったりとした足取りでジェシカとリリアンが店に戻って来たとき、扉を開けると話し声がした。お客が来ているようだった。シェリーが居るレジの方を見ると、少し背の低い人が彼女と至近距離で会話していて、声から少し年を召した女性であることが分った。リリアンはその声には聞き覚えがあってその人もどこかで見た事があるような気がするなと感じていたが、咄嗟に先ほど和菓子屋で入れ違いになったおばあさんだという事に気付いた。


「あら、お客さんみたいよ」


おばあさんもリリアン達に気付いたようだが、その様子が親しげで大分シェリーに慣れているようなトーンだった。相対するシェリーの方も普段とはどことなく違った雰囲気で、お客さんと話している風ではなかったように思えた。


「おばあちゃん、あの二人が今話した私の友達よ」


「えー、そうなの!あの二人が」


話から想像するに先ほどまでジェシカとリリアンの事を話していたようである。


「京子、その方は常連さん?」


「常連ではあるけど、普通の常連じゃないわね」


「普通じゃない?」


シェリーの謎かけのような言い方にジェシカも首をひねって不思議そうな顔をしている。紹介されたのでカウンターの方に近づいていくとおばあさんの方から深々と丁寧な一礼があって、ゆっくりと話し始めた。


「京子ちゃん、お友達にいじわるしちゃダメよ。どうも初めまして、わたし京子ちゃんの祖母の洋子と申します」


突然の事にリリアンは吃驚してしまった。ジェシカの方はまだ何の事か十分わかっていないらしく、「ご主人さま、『そぼ』って何?」と小声で聞いていた。


「ジェシカ、前に話した私のおばあちゃんよ」


見かねたシェリーがフォローする。


「おばあちゃん…この人がシェリーのおばあちゃん」


シェリーの祖母である洋子はジェシカの口から『シェリー』という名が発せられるとニコッと笑った。


「京子ちゃん、この人にあの名前で呼んでもらってるのね!初めまして、あなたがジェシカ君?」


自分が話しかけられると思ってなかったジェシカはほんの少し身構える。今のやり取りで優しそうな人だという事は何となく分っているが、『ジェシカ君』と呼ばれたのは初めてなのでどう返事したらいいのか迷った。


「あの…俺…、ジェシカ…」


どうも自分で確認するような喋り方になってしまったが、洋子の方はそれで満足したらしく笑顔で「よろしくね」と言って、今度はリリアンの方を向いて言う。


「あなたが京子ちゃんと同級生だったリリアンさんね。孫と仲良くしてくれてありがとうございます」


そのまま握手を求められたのでリリアンもそれに応えて言う。


「こちらこそ、京子には良くしてもらってます。おばあさんに会えて嬉しいです」


「あら、そう言ってもらえて嬉しいわ。京子ちゃん、とっても良い友達じゃない」


「おばあちゃん嬉しいのは分かるけど、随分はしゃいでるわね」


「そりゃあそうよ京子ちゃん。お友達っていうのはとても大切なのよ」


「ふふふ。前からリリアン達の事少し話してたんだけど、おばあちゃんあなた達に会いたがってたのよ。今日来てくれたから良かった」


「そういうことだったのね。ところで…京子…」


リリアンは急に神妙な顔つきでシェリーの隣に移動して耳打ちをする。


「…おばあさんにジェシカの事、なんて紹介してるの?」


それに応えるようにひそひそ声でリリアンに話すシェリー。


「…訳あって一緒に暮らしている男の子という事にしているわ」


「…それじゃ誤解を招くじゃない」


「…でも間違ってはいないと思うわ」


そうしている間に洋子はジェシカの方に興味を示しているらしく、彼女の方から話しかけ始めた。


「ジェシカ君、あなたこの町は初めて?」


「は、はい。遠くに来たのも初めてです」


「へぇー。歳は幾つ?」


「歳?えっと…2歳です」


「2歳?」


「ああああああ、洋子さん!!!ジェシカは、その、ちょっと時々変な事を言うんですけど、あの、多分15歳くらいです!!!」


訊かれたことの受け答えが危ない内容だったで、すかさず話に割り込むリリアン。


「お、おばあちゃん、折角だから少し奥で話しましょう。お茶を出すわ」


「あら、大丈夫?じゃあ、そうしましょうか」


シェリーも誤魔化すように提案する。洋子は少しだけ不思議そうな表情だったが、時間を取って話が出来るというという事を喜んだようで、いそいそと奥の部屋に入ってゆく。


「あぶないわね…ジェシカがある程度答えられるだけに、かえって誤魔化すのが大変だわ…」


「ジェシカの方は誤魔化すという事を知らないというのか、何を誤魔化したらいいのか分からないのかもね…」


洋子が奥に行った後で胸を撫で下ろした二人。これからどういう事に気を付けるか少し相談し合う。


「おばあちゃんってああいう人だったのか…」


一方でジェシカは洋子に対して興味津々である。


☆☆☆☆


一同は奥の部屋でそば茶を啜る。シェリーは時々席を外して接客に出るが、しばらくゆっくりと話をしていた。


「それでね、京子ちゃんが店を始めるって聞いた時にはとってもビックリしたんだけど、凄く良いなってわたしは思ったの」


洋子は楽しそうにシェリーの店について話す。話によると、週に一回くらいはこの店を訪れているらしい。リリアンは比較的早いうちに二人の祖母とは別離してしまっているのであまり話した記憶はないのだが、自分の事をこんな風に見守ってくれる人がいるとしたらとても心強いし嬉しいだろうなと想像した。ジェシカに至っては肉親というものがあまりピンと来ないのだが、その穏やかで自分が陽だまりにいるような気持ちにさせてくれる洋子にリリアンとはまた違った安心を感じていて、自然と洋子の方に近づいて話を聞いていた。


「シェリーは凄い。一杯色んな事を知ってる」


ジェシカも自分なりに一生懸命シェリーの凄さを語る。その姿を見た洋子はまた嬉しそうに微笑む。


「ジェシカ君も京子ちゃんの事見ていてくれてるのね。ありがとう。そういえばジェシカ君は今学校に行ってるの?」


「あの、そのジェシカは何というか…」


油断していたがまたしても答えに困る質問。洋子が既にジェシカの事が気になっていて無関心ではないから自然に訊いてしまうのだが、ごくごく普通の質問であるだけに誤魔化すのが難しい。


「おばあちゃん、ジェシカはね今ちょっと色々頑張ってるところなのよ」


シェリーも心を許している祖母に対して嘘がつけないのか、どうしてもあやふやな誤魔化し方になってしまう。


「そうなの…。どうやら何か事情があるみたいね」


「えっと…どうすればいいかしら」


さすがに自分でも動揺した「ジェシカが猫である」という事実をそのまま明かすわけにはいかず、運悪くジェシカを猫に戻す道具もリリアンの家に置いて来てあるので実際に見せて証明する事も出来ない。いや、見せてしまったらあまりのショックで、というような想像をしてしまうリリアン。沈黙が訪れそうになった時、口を開いたのは洋子だった。


「素直にで良いのよ」


「「え?」」


「言えない事があっても、それは無理に言うことじゃない。自分が素直に言えるところまで言えばそれで良いと思うの」



洋子の発言には何かしらの重みが感じられた。ジェシカはその言葉を聞いて何か言うべきだと思った。


「俺、本当はこの姿じゃないんです。本当の姿はこの姿じゃなくって、でもご主人さまとは一緒だし、シェリーともぴったり離れないで一緒に居るしそれは変わらないんだけど、俺も時々迷うことがあります。自分がどうしたら良いか」



多分ジェシカにとってはこれが素直な考えだったのだろう。『猫』という言葉は出てこないけれど、本質的には今言った事がジェシカにとっての問題であり、ジェシカにとって大切な事だった。洋子がジェシカの真剣な目を見てそれを聴きながら、じっくり頷いて何かを想っているのが見て取れた。躊躇いがちにだが、ジェシカの言った内容を確かめるように洋子は静かに語り出す。


「もし、本当の姿ではないとしても…あなたが二人を大切に思う気持ちは本物。思うのだけれど、その気持ちからそのまま出てきた事ってあなたがしたい事からそんなに離れていないはず。自分の姿がどうだからってそれは変わらないとわたしは思うわ」


ジェシカと洋子は言葉を交わし見つめ合った。洋子がどういう気持ちで、ジェシカがどういう状況に置かれているのかをどう考えたのかは必ずしも正確ではないかも知れないが、その受け答えは確かに何か大切なことを伝え合っていた。分らない事があるけれど、相手の言っている事を素直に受け取っているからこそ、そういう答え方になると。


「この気持ちから出てくる事…」



洋子の言った事はその前の夜にシェリーが言った事と通じる事だった。だがジェシカの本当の姿を知らない筈の洋子だからこそジェシカの気持ちや目線に立って同じところから、『ジェシカ君』としてアドバイスをしてくれたという事に意味がある。少なくともジェシカは「この姿の自分に言われた事」として、洋子の言葉が理解できた。



「あの、俺、おばあちゃんが好きです」



ジェシカのジェシカらしい言葉である。洋子はそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。



「わたしもよ、ジェシカ君」



姿は違うけれど、『おばあちゃんの膝の上で眠るキジトラの猫』の光景がリリアンとシェリーの脳裏に浮かんでいた。

セット

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「わたし」という「この世界」に自分がいると思っている存在を想像すれば、「わたし」がそこにあると思っている「世界」も想像される。逆にその「世界」を想像する時に、その「世界」にいる存在として「わたし」が思い描けるなら、「わたし」という存在と「世界」はセットである。

ナンセンセンスが「ある世界」を肯定し想像した場合に、「ある世界」に存在する者を含んでいるし、その者は自分が「ある世界」に存在していると思っている。


追記:

「誰か、何かがこの世界にある」という仮定は、「誰か、何かがある『世界』が存在する」という仮定を暗に含んでいます。その『世界』がこの世界なのかどうかという事は置いておくにしても、多世界解釈などで、その『世界』が「存在」というべきなのかどうかは分かりませんが何らかの意味で「ある」のだとすれば…

という発想が出来ます。何故普通の意味での「存在」と言えないかといえば、この世界にある、この世界を構成しているという意味の存在ではないからです。もっとも多世界解釈で仮定されるような『世界』をひっくるめて、世界と呼ぶならその世界にはその『世界』が存在しているという風には言えると思います。


けれどそれらは仮定であって、確かめられているところでは「この世界」の構成要素としてあるかどうかが一番重要です。ただし、「この世界」という場合に自分(の能力)で確かめられる部分と、一部の人しか知りえないような部分があるのは間違いないですし、感覚器官によって確かめられる範囲が人それぞれ異なります。


「この世界」と言うとき、既にそこには自分以外の誰かがいて、自分が確かめられるところよりももっと多くの事が確かめられていて、自分も手段があればそれを確かめられる、という事を前提しています。なので「この世界」と言うもののそれはあくまで像(イメージ)であり、部分から想像されるような全体でしょう。

徒然ファンタジー25

Posted by なんとかさん on   0  0

9時になるとシェリーは店を開けた。リリアンは店の手伝いをする事にしたのだが、ジェシカはシェリーに店の商品を眺めていてと言われたのでその通りにしていた。そのまま30分は過ぎたがお客が現れる様子は無さそうであった。堪らずリリアンは言う。


「ねえ京子、店っていつもこんなもんなの?」


「そうね。まあこういう所だから」


シェリーは特に困った様子を見せていない。むしろ自分のペースで坦々と作業を進めている。しばらくしてリリアンは「店」とはそういうものなのだと理解した。実際、その後人が全く来ないかとそうではなく、時々店の横の駐車場に車が停まって、常連と思われる人が慣れた様子で入ってくる。シェリーが「いらっしゃいませ」と言ったのを真似するリリアン。その後シェリーは常連にリリアンの事を手短に紹介していた。シェリーはリリアンと話している時よりもいくらか穏やかに接客していていたが、無理に作ったところがなく自然な感じでお客と会話をしていた。


「あんた、なかなかやるじゃない」


お客が接客に満足して商品を買って出ていったのを見て感心したリリアン。


「そう?そんなに凄いことでもないと思うけど」


謙遜はしているが、そのトーンには自信が窺われた。


「まあそうじゃなきゃ店なんて持てないのかもね」


リリアンが納得して入る一方でジェシカはさきほどからそわそわし始めていた。一通り店の中の見回ると、だんだん店の外が気になりはじめたのである。基本的に外に人通りはないが店の正面の道路は車が横切るので、そちらに注意が惹きつけられたのもあって、次第に<外を歩いてみたい>という気持ちになったのである。


「ダメなのかなぁ…」


ぼそっと呟いた声と窓の外を見ている姿にリリアンは何か察したようである。


「ジェシカ、もしかして外に出たいの?」


「うん」


「リリアン。ジェシカと行ってきていいわよ」


シェリーが提案する。リリアンの頭の中には昨日シェリーに言われたことが残っていた。


「そうね、ジェシカが歩いてみたいっていう気持ちを叶えてあげるのも大切よね」


果たしてジェシカの希望は叶いリリアンと町歩きをすることになった。ジェシカにとってもリリアンにとっても初めての町なのであまり遠くには行けないのだがシェリーが言うには一度駅の方まで歩いて戻ってくるのが丁度良いコースになるという事だった。駅までは自動車で5分もかからない距離だが、その間に商店街のメインストリートがある。実際に歩いてみると色々と目に留まるものがあった。しばらく道なりに歩いてゆくと、ロータリーになっている場所が見えた。


「こういう古い建物はあっちじゃなかなか見ないわよね」


「ご主人さま、あれって何かな?」


「え、どれ?」


ジェシカが指さしたのは坂になっている道の方にあるスポーツ用具店である。リリアンはあまり気にしていない事だがジェシカはこの姿ならば最初から簡単な文字を認識する事が出来た。看板などは部分的に読めるが、漢字などが出てくるとよく分からなくなるという状態だった。


「あ、あれは『判子』を作ってくれるところよ」


「じゃあその向かい側は?」


「多分パン屋さんね」



こんな調子で歩いてゆくと、リリアンにも気になるものが見つかった。そこは木造の老舗と言う感じが出ている和菓子店であった。道路を挟んで隣と向かい側にも和菓子の店があるが、『何となく凄そう』という理由で店に入ってみる事にした。



「いらっしゃいませ」


元気の良い若い女性の店員の声。店の中はそれほど広くないけれど、所狭しと様々な和菓子が並んでいて、以前何かのテレビで紹介されたという事を示すような紙が貼ってあった。店の人が「どうぞ」と言ってリリアンとジェシカにお茶を出してくれた。『梅こぶ茶』というのもなかなか渋い。


「これ凄いね」


「おいしそう」


折角なので何品か買う事に決めたリリアン。あまり和菓子は食べた事がないのだが、基本的に両者とも甘党だったのでついつい目移りしてしまう。『玉羊羹』と呼ばれる球状の羊羹と最中などを選んだ。会計を済ませた頃、一人のおばあさんが入店してきた。おばあさんはリリアンとジェシカに気付くと軽く会釈する。リリアンは地元の人かなと思ったくらいだがジェシカは漠然と<優しそうな人だな>と思った。



店を後にして少し歩くと神社が見えた。そこから道路を渡って坂を下ると駅なのでこれで大体の所まで来たことになる。まあまあ歩いたのでこの辺で引き返す事にした。

徒然ファンタジー24

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翌日、リリアンはちょっとした物音がするのに気付いて目を覚ました。少し寝ぼけていたので自分が寝ている部屋を見回していつもと様子が違うので不思議に思った。

「あ、そっかここ家じゃないんだっけ」


すぐに思い直して頭を整理する。<ここは京子の家で、ジェシカと来たんだっけ>と確認したところでジェシカが隣の布団にぐっすり眠っているのを見てとりあえず安心する。具体的に何が安心なのかは分からないが、初めての場所でも物怖じせずにいられるという事は今後の事を考えると頼もしくもあった。


「ジェシカが居るけど京子はどうしたんだろ」


とリリアン達の為に新調されたと思われる質の良い布団の上で考えてみる。と、先ほどから聞こえている物音がどうやらリビングの向こうのキッチンから聞こえるという事に気付いた。部屋から出ると案の定既に朝餉の用意をしていたシェリーを見つけた。


「京子、おはよう。早いわね」


リリアンの声に気付いたシェリーはそちらに振り返る。機嫌が良いのかリリアンの顔を見るなりにこやかに微笑んだ。


「おはよう、リリアン。今日は店を開けるつもりだから」


「あ、そういえばそうだったわね。手伝おうか?」


「いいわよ。お客さんなんだし、もう少し寝ててもいいのよ?」


「昨日はぐっすり眠れたし、眠くはないのよね」


「じゃあテレビとか付けててもらえる?」


「うん、分った」


と言って昨日と同じように早速コタツで足を伸ばすリリアン。すっかり家に馴染んでしまっているが、仕事の都合で今日中には帰らなくてはならないのでこれからの予定を考えながらニュースを見る。普段日曜の7時台というと二度寝をしようか迷っている時間だが、多少緩い感じではあるがきっちりとニュースの原稿を読んでいるアナウンサーを見ていると、背筋がピンとするような気持ちになる。折よく地域の放送局による地元のニュースの時間になって見慣れない人が画面上に現れたので、ちょっと<おお!>と思ったリリアン。


「へぇ~やっぱりこういうのってあるんだね」


「こういうのって?」


対象がはっきりしない言葉だったので反射的に訊き返すシェリー。


「あ、この地域のニュースの事よ。当たり前だけど知らないニュースだ」


「まあそうね。こっちの事って全国版じゃあんまり流れないけど、色々あるのよ」


「やっぱり大変なの?」


「どこも大変なところは大変だし、これから何をするかって事が大切だって言い聞かせてるわ」


その地域の事は人並みには知っているリリアン。決して明るい事ばかりではないという事はニュースを見ていて伝わってくるが、それを知って自分がどうすればいいのかというと分らない部分もある。


「ねえ、訊いても良い?」


何気なく訊ねられる相手が居るからなのか、自然と声となって出てきた。


「なあに?」


長く付き合った相手だからなのかこちらも自然なシェリー。


「わたし達がさ、もしこういう場所で出来る事があるとすれば何なんだろう」


シェリーは料理を続けたままだが質問の意図は伝わったらしい。リリアンの言う「わたし達」とは彼女のような別の場所で生きている人達の事である。実際、シェリーもそこに店を構える前には別の場所で同じような事を考えていたから彼女の質問もよく分かったのである。


「そうねぇ、難しいわ。けど」


「けど?」


「来たんだったら楽しむ事かも知れないって、最近では思うのよ」


「楽しむ?」


「そう。何かの縁で来たんだったら、短い時間であれその場所の魅力を感じてもらいたいっていうのかしら。多分、この町に少し足りてない部分があるとすれば、そういう魅力を発見してもらう努力とか工夫なのかもねって」


「…楽しむ、か」


「って、その一助になれと思って店をやっているという気持ちもないわけではないのよ」


いつもは何を考えているのか分からない事もある親友の意図が何となく分ったような気がした。


「うん。なんか分るような気がする」


そのままを言うとシェリーが振り返って、


「そこは『分った』って言うべきでしょう!?っていうか分りなさいよ!まったくあなたらしいわね」


と半ば呆れながら半ば笑いながらリリアンに微笑みかける。かく言うシェリーはそんな親友だから付き合っていて退屈しないし笑顔でいられるのではないだろうか。リリアンもシェリーとのやり取りですっかり本調子になって、コタツから「よっ」と足を出して立ちあがる。


「さて、寝坊助を起こしてきますか!!」


「あ、待って!!」


「何よ」


「わたしもそれやりたい!」


「なんなのよその自己主張は…」


「良いじゃない。わたしだってスキンシップは必要なのよ」



ここで思い出してもらいたいのだが、ジェシカはもともと過剰なスキンシップをあまり喜んでいないのである。流石に二人の人間にベタベタされながら、しかもまだ布団から出てきたくない状態なので



「ねえぇ~…ちょっとぉ~…あのぉ~…う~ん…」



猫らしからぬ苦悶の表情を浮かべるジェシカ。左右に身体を揺さぶっていやがる反応を見て楽しんでいる女性二人が、こういう時にはやたら協調性があるのはジェシカにとってちょっとした不幸だったかも知れない。

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