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そらまちたび ⑦

思わず拾い上げた『石』のようなもの。エメラルド色で軽く自然のものではなく人工のものである。幻覚だと思っていた白い猫が実体があってそれを落としたのか、それとも実際にここに来た誰かが落としたものなのかは今は分らないけれど、少なくとも自然物ではないということは間違いなさそうだった。丁度片山さんがこちらに向かって歩いてきたので報告する。

「片山さん、こんなものが落ちてたんですけど」


「え?石?」


「はい。白い猫が落としていった…ように思いました」


「白い猫が…?」


片山さんは思案顔になる。彼はしばらく黙ってその石を見たり触ったりしていたが、


「本当に猫が居たのかい?」


と僕に確かめる。私有地のはずだし猫が入れるようにはなっていないような気がするし、もし城跡やお寺で目撃したのと同じ白い猫だったとするなら距離が離れ過ぎていて不可解である。というか常識的に考えれば猫が落としたものだと判断する方が間違っているのかも知れない。ただ僕は自分が見たものを疑えそうになかった。


「ええ、同じだったように思います…短い時間だったので確証はありませんが」


「そうかい…。この石は作りもののようだね。良く雑貨店などで売っているような…それ以上の事はちょっと分らないね…」


「そうですよね…」


「とりあえず持っていてもいいんじゃないかな」


片山さんのアドバイスで僕はそれを財布に入れておく事にした。間をおいて片山さんは窺うような口調で僕にこう言った。


「ところで、さっき知り合いに連絡していた事に関係するのだけれど、君は温泉なんか入ったりする人なのかな?」


「温泉ですか?嫌いじゃないですよ。湯船に入るのは好きな方です」


「そうか。実はね、こっち方面とは逆の方だけど山の方に温泉街があるんだよ」


「え、そうだったんですか」


「温泉も良いけれど、もし良ければ旅館なんかに泊まってみないかい?あ、今日は日帰りだったのかな…?」


「いや特に何も考えてなくて駅前のホテルでも泊まろうと思ってたんですけど、旅館に泊まれるんだったら嬉しいですね」


実際この上なく都合が良かった。何も考えずに来たは良いけれど移動手段で少し苦労していたので正直廻れる処はそう多くないと思っていたのである。


「それは良かった」


「いえ、初対面の片山さんに何から何までお世話になってしまって申し訳ないくらいです」


「いや、そんな事はないよ。私の方もこういう機会じゃないと地元の旅館に行かないから丁度良いんだよ」


何だか照れくさそうな片山さん。何でも仕事がら地元の事を調べる事が多い割に地元で宿泊した事はないので前々からこういう機会が欲しかったのだという。


「ところで…」


今度は探るように訊ねる片山さん。


「君はイケる口かね?」


「ええ、結構強いですよ」


「それは重畳。この町自慢の地酒を存分に味わいましょう!!」


僕はこの辺りですっかり片山さんにもこの町にも打ち解けてしまったような気がする。
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徒然ファンタジー29

『まだ大丈夫だろう』、とかくそういう判断をしがちである。そしてそんな風に油断している時に限って予期しない事が起ったりする間が悪い人がいるのかも知れない。もっとも、常に何が起るか分からないというような気持ちで過ごし続ける事は実際問題として大変だし、極論をいえば先の事は何が起るか分からないのだから予め考えておいても無意味だという判断も出来てしまう。


そういう風に分析してみるとその時のリリアンに落ち度があったわけではないのかも知れない。とはいえ起こってしまった事をどうにかしないといけないのもまた彼女自身なわけで、せめて誰かのようにもう少し色々根回しをしていた方が良かったと後悔するのも彼女なのである。


月末になり、リリアンとジェシカは相変わらず何事もなく生活していた。時折シェリーから来る近況を訊ねるメールの返信の文面にも「何事もない」と加えるくらい本当に特筆すべき事は何もなかった。リリアンにとっては最早普通の事となったジェシカとの外出や外食、最近はまっているパワースポット巡りなどのちょっとした遠出も含めてごくごく普通にこなしていた。事態を知っているシェリーからしてみれば『何事もない』事の方が安堵できるのでその返信で問題はないのだが、順調すぎて油断してしまっていたのかも知れない。



土曜。トーストとサラダという組み合わせで軽めの朝食を取っていたリリアン。膝の上には猫の姿のジェシカを乗せている。食べたり、背中を撫でたりしながら<今日は何をしようかな>と軽く計画していた。上機嫌の彼女はその時一通のメール通知があった事に気付かないでいた。そしてたまたま続いて届いた会社の仲間に頼んでおいたちょっとした調べ物の報告のメールの方に気を取られすぎて、一つ前の重要なメッセージを確認しないままになってしまった。


「あ、これこれ。こういう本があったのね、後でチェックしなきゃ」


既に計画は出来つつあった。先程メールで確認した仕事に関係した書籍を探しに少し大きめの書店に行く事に決めたのである。


「そういえばジェシカは本屋さんってあんまり行った事なかったっけ?」


「にゃ~」


猫の姿のジェシカではあるが、人間の姿での生活において学んだことで「ジェシカ」と呼ばれた時には普通の猫よりも反応しやすくなっている。『ごはん』のように簡単な言葉なら猫は覚えるけれど、ジェシカは猫の状態でももう少し言葉を識別しているようだった。といっても、人間で言えば寝ぼけている状態で聞いているような感じで認識するので完全に理解しているわけではない。それでも相槌のように「にゃ~」と返事する事も多い。


「ジェシカなら普通の本じゃなくて絵本とか漫画とかの方が読めるようになるかも…」


リリアンは最近ジェシカに一層色んな経験をさせたいと思うようになっている。それはジェシカの為なのか、ジェシカに自分達の事を知ってもらいたいからなのか、ただ同じ事で楽しめるようになって欲しいからなのかは分からない。ただ、ジェシカなりの見方で色々な事を喋ってもらえるだけでリリアンは嬉しいし楽しいのである。表現を学ぶという意味ではちょっと漫画などを読むだけでも発展がありそうだなとリリアンは思った。あとは単純にジェシカに大きな書店を見せてみたいという気持ちも起こってきた。


「よし、決定!!ジェシカ君、変身の時間よ」


丁度サラダも食べ終わったので皿を持ってキッチンに向かうついでに無造作に箪笥の上に置いてあった『あの道具』を片手でとって慣れた手つきで捻る。いつものように人間の姿になるジェシカ。リリアンが話している事を何となく理解していたのか今日はよそ行き用の服装で登場する。


「さすがジェシカ、分ってるわね」


「おはよう、ご主人さま」


「おはよう」


皿を片付けてジェシカに向き直るリリアン。


「今日は何処に出掛けるの?」


「今日はね、書店に出掛けます」


「しょてん?」


「そう。本が一杯あるところよ」


「本って、字がびっしり書いてある紙でしょ?」


「そうだけど、色んな種類の本があるのよ」


「へぇ~」


実際こういうのは『百聞は一見に如かず』である。そして書店の独特の雰囲気は書店でしか味わえないのかも知れない。人間の事、文化について知るにはやはり本という媒体抜きには考えられないし、その雰囲気を味わえば本を巡って日々色んな人が動いている様子ももしかしたら伝わるかも知れない。そしてそれをどう思うのかはジェシカ次第である。

徒然ファンタジー28

ここしばらく冬のような天気が続いている。11月も半ばとなれば部屋に暖房器具が必要になってくる。シェリーの店、兼自宅に訪れた時にジェシカが気に入っていたコタツをリリアンも改めて欲しくなってしまい、11月の初旬には近くのホームセンターで購入し送り届けてもらっていた。元の姿であろうと人間の姿になろうと本能なのか変わらずコタツに深々と潜ってうたた寝をしているジェシカを見ていると何となくこれが正しい過ごし方なのではないかと錯覚しそうになる。一方、日常らしくテレビを見ながらコタツのテーブルに置いたノートPCでインターネットの情報を漁っていたリリアンはその和式スタイルというべきものの良さをしみじみと感じていた。


ただリリアンはこの『団欒』のイメージと年も暮れかかっている時期という事で何か大切なことがあるような気がし始めていた。それが何なのかが思い出せないが、どこかしら危いような気がしないでもない。参考になるかどうか分らないが、一応ジェシカに訊ねてみる。


「ねえ、ジェシカ。何か忘れているような気がしない?」


対して半分寝ているジェシカは、


「う、うーん。ご飯かな?」


と自分の欲望がだだ漏れである。<さっき食べたばっかりじゃない…>とつっこみたくなるのを堪えてもう一度自分でよく考えてみる。


「年末…。年末、正月…」


ぶつぶつ呟いているうちに突然、


「あ!!!!」


と大きな声を上げるリリアン。それに驚くジェシカ。


「どうしたの!」


思わず寝転んでいたところから身を擡げてリリアンの様子を窺うと、口があんぐりと開いたまま固まってしまったように動かない。


「大丈夫?」


ジェシカが心配そうに声を掛けると、何を思ったかリリアンはジェシカを凝視する。そして、困ったような表情になったかと思うと、一転して「まっ、いっか」と口にしてまた何事も無かったかのようにパソコンの画面を見始めた。


「何があったの?ご主人さま…」


説明が無いのでジェシカは戸惑うのだがリリアンに質問すると彼女はまた困った表情になり、


「うーん…何て説明すればいいのか…」


としばし「うーんと」と繰り返して何かを整理しているようだった。


「えっと、ジェシカの家はここでしょ?」


何故それを聞いたのかよく分からないままジェシカは「うん」と頷いた。


「みんな普通、家っていうのはあるんだけど多くの人には『実家』っていうのがあるのよ」


そう、リリアンはジェシカに『実家』という言葉を教えようとしていたのである。


「じっか。どういうの?」


「簡単に言えば、私のお父さんとお母さんが住んでいる家の事ね」


「ご主人さまのお父さんとお母さんが住んでいる…家」


ジェシカはその説明で一応納得したのだが、実はもっと初歩的な事実に驚いていた。


「ご主人さまってお父さんとお母さんがいたんだ…」


「当たり前でしょ?」


反射的に答えてしまったがよく考えてみればジェシカは両親に会った事がないし、ある意味で別々に暮らしている家族が居るという事はジェシカの中では不思議な事なのかも知れない。


「まあ、お父さんとお母さんがいるんだけど人間の世界ではね、毎年もう少し経った頃に一時的にその『実家』に帰るのが普通というか、半分約束のようなものなの」


ジェシカにも分るように噛み砕いて説明するのだが、どうも説得力に欠ける内容になってしまう。


「じゃあご主人さまも帰るの?」


「…帰らないと思う」


「約束なんでしょ?」


「そうなんだけど、必ずしも帰らなくてはいけないというわけではなくて…何しろジェシカが居るし…」


「どうして俺が居ると帰らなくていいの?」


「…。」


ジェシカにそう言われてしまうと立つ瀬がなくなってしまうのだが、去年、一昨年などはまだジェシカも小さくて心配だったし事情を説明したら両親も納得してくれたのでいつの間にか帰らなくても良いという雰囲気が出来あがっていたのも事実である。ただ今年は大分事情が違う。猫のままでも2、3日は何とかなるだろうしいざとなったら人間の姿で留守番を任せてもいいのかも知れない。ちょっと無茶をすれば実家に連れていける…かもと思ったりしたが両親に説明するのが面倒そうである。先程帰省の事を思い出してリリアンが考えていたのはこの事であった。結局、去年と同じ理由で帰らない事すれば楽なので「ま、いっか」になったわけである。


「一応訊くけど、ジェシカは私のお父さんとお母さんに会ってみたい?」


「え…うん」


「うーん…でもそうなるとジェシカの事、何て説明すればいいのか…」



両親なので『親戚』という手は使えない。ありのままを伝えても信用されないというか頭を疑われそうだし、猫の姿で連れて行くにしてもジェシカは猫の姿になると意思疎通があまり出来ないので移動中心配である。


「どうしてもっていうなら、移動中はそのままで家の前で猫にするか…」


どこかしら不安な作戦だが、これ以上いい方法は思いつかない。ただ、どちらにしてもまだ時間はあるのでとリリアンはあまり焦ってはいなかった。

非存在的に

複素数を使う数式を用いると現実の現象がよく説明できるけれど、複素数自体をどのような
ものとして理解するかで言ったら何らかの『項』として扱わなければならない。現実には虚
数の値は観測されない。が現実に現れたものから数式を想定して複素数の値がどのように動
くかという事を求める事は普通に行われているだろう。というか複素数も意味付けされてい
る。


だからといって複素数が、もしくは複素数的な値を取るものが『存在している』と言う風に主
張するのは『現実に存在するもの』と同じ扱いが出来るかという差異に注目すれば同じであっ
ていいわけではないのが分る。



『非』存在という語で複素数の値を取るものを『項』を非存在というカタチで認めるという事
を行うとやはり便利である。計算上、出てきてしまうしそれを『項』として扱っている過程が
あるのだから、そう呼ばなくても同じなのだが現実の予測をする上でも、実際に測れるものの
向こうに何かを思い描かなければならないのは確かである。



現実的に思考して、在るものを認め、起こった事を認めて行くなかで自分がどうすればいいのか
を考える段になると、処理するにあたって有用なものは認めるというのが普通の態度である。と
すると現実に存在するものではない何かを非存在として扱っているのが普通なのだから、逆に
それを認めないと言う風に生きるのは難しい。
プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

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