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色々やってみて

実際に色々やってみると分る事がありますね。常にベストを尽くすというのは「それが結果だ」と自分で納得できて進めると思うのです。もともと人前では緊張してしまって頭が真っ白になってしまうタイプなのですが、それだけその瞬間に賭ける気持ちが強いのだと思います。


それで、まあ自分でも思いの外図々しいところがあるとすれば、自分が歌った歌を聴いて貰いたいという気持ちがあって、その部分では可能な限りアピールしたいという事でしょうか。流石にリンクは張りませんが「スローペース症候群」というブログの記事にカラオケの音源をアップしていまして、それについても公開する段階でめちゃくちゃ緊張していました(さり気ない宣伝のつもり)。


ただこういう風にして歌って公開するというのも一つの経験なわけで、久々に「生きているな」という実感がありました。



まだ全部分ったような事を言うつもりはありませんが、その時々で自分が出来る精一杯のものを出して結果が出れば、物わかりの悪いというか諦めの悪い自分も納得できますね。仮想の中は決して完了する事のない気持ちだと思います。
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淡く脆い ⑱

書店兼レンタル屋を後にして反対方向に歩き出す。その際芳井さんに「こっちですか?」と訊ねられたので首肯する。それを見た芳井さんは満足そうに頷いた。

「いや~緊張するわ…。女の子呼ぶのなんて初めてだから」


改めて家に向かっているとどうしても本当に良いのか戸惑ってしまう。返事までちょっと間があった。芳井さんは少し考えていたのか、


「そ…そういう事を言っちゃうと、私も緊張してきますよ…」


と僅かにぎこちない笑みを浮かべていた。その反応で、自分の発言も何となくぎこちないものだったのかも知れないと思ってしまう。ぼんやりとだが変に『女の子』と意識しない方がかえっていいのではないかと思った。とはいえ、どんな風に言うのが自然なのか一瞬分らなくなってしまって、「そ、そうだよね」と言ってからちょっとした沈黙が続いた。


「…」


「…あの…片霧さんって、今…誰か…」



「うん?」


芳井さんが小声で話し始めたので聞き取った内容に自信が無く訊き返してしまった。彼女はそれに驚いた様子を見せ、


「ああ、何でもないです!」


と少し慌て気味に言った。丁度道を曲がる所だったので「ここ、曲がるよ」と言うと、すぐ「はい」という返事があった。これで何となく調子を取り戻してきて、


「そういえば俺の住んでる所の近くにさちょっと面白い物があるんだよね」


と自然な流れで言えた。芳井さんは、


「え、何ですか?」


と興味を示してくれた。


「口で説明するより、見てもらった方が早いかな」


実際、それは見ればすぐにそれと分る物だった。芳井さんはアパートからほど近い一軒家の庭に異様な存在感で佇んでいる2メートル程はあるように見えるリアルなロボットの模型を見て絶句していた。


「これって…なんでしたっけガ…ガ」


「そのアニメの敵軍の『モビルスーツ』だね」


「ああ、そうでした。これって有名ですよね。それにしても迫力がありますね」


「っていうか、これ見よがしに庭に飾ってあって目立つからね。多分家の人が自慢したいんだと思うよ」


「真っ赤ですね」


「それも作品を知ってるとコダワリなんだ。男のロマンなのかも知れない」


「流石にこういう作品は見ないですねぇ…」


「まあ、とりあえず家すぐそこだから行こうか」


いくらこれ見よがしに置いてあるとはいえ他人の家の庭を見続けているのも変なので、そこそこにして歩きはじめる。


「俺さ、オタク趣味は無いんだけど地元の友達が大好きで話聞かされてから結構知ってて、昔だけどアニメマラソンしたよ」


「どうでした?」


「本当に疑問だ」という表情で訊ねられた。


「疲れたね」


「えぇ…あはは」


「そんな事を言っている間に着きました。ここです」


ごくごく平均的な新しくも古くもないアパートの前で立ち止まる。芳井さんは「ふんふん」と頷いて周囲を確認していた。


「駅から結構近いでしょ?」


「はい!ここだとあんまり迷わないですね」


「ああ、大丈夫だよ帰り送ってくから」


「あ…そういうつもりで言ったのではないですが、でもよろしくお願いします」


外から階段を登って二階の玄関に移動しドアを開ける。その時、ふと「中は大丈夫かな」という考えが巡ってきた。一応朝に整理はしたものの、トイレなどが少し心配になってきた。


「ちょっと、ここで待ってて!!」


「はい」


察してくれたのか彼女は静かに待ってくれていた。トイレに入り一応気分の問題で水を一度流してみる。清潔を心がけているとはいえ、こういう生活感の漂う場所を見られるとなるとさすがに恥ずかしいものがあるなと思った。とりあえず問題はなさそうなので玄関の方に移動して、芳井さんを招き入れる。


「おじゃましま~す」


「はい、どうぞ!こっちがリビングで、そっちは寝室なので」


これも気分の問題で寝室を見られても構わないのだが、なるべく直接リビングに移動してもらう。整理しただけあって物が殆ど置いていない部屋。多少殺風景にも見えなくない。テレビとテーブルとソファーくらいしかない。だが意外にも芳井さんの反応は良く、


「うわ~素敵なお部屋ですね!」


と絶賛してくれた。


「何にもないでしょ?本は結構あるんだけど寝室で間に合っちゃうし」


「思った通り日当たりが良さそうですね!」


芳井さんは既にベランダの方に移動していた。いつもならベランダに洗濯物が干してあったりするが、今日は既に取り込んである。


「日当たりはいいよ。学生時代さ湿気が酷いアパートを斡旋されちゃったから反省して必ず湿気と日辺りだけは条件に入れたんだ」


「正解ですね。いいなぁ~」


「芳井さんの住んでる所もこんなもんでしょ?」


何気なくした質問だったが、


「いえ…それが狭いんですよねぇ…」


と何だか難しい顔をしている。


「ああ…まあそういう事もよくあるよね。まあとりあえず座ってよ。何か飲む?」


「はい。えっと、わたし紅茶が好きなんです」


「うん。分った。いま淹れてくるから」


電気ポットでお湯を沸かしていたのですぐに二人分の紅茶を淹れられる。ただ、いつも友人が使っているティーカップではまずいと思いお客様用のティーカップを探すのに手こずってしまった。用意ができてリビングに運んでいるときに芳井さんを見ると何故かぼんやと壁に貼ってあるカレンダーを見つめていた。


「どうかしたの?カレンダー?」


「ええ、やっぱりスヌーピー好きなんだなって思って…」


彼女に言われてそういえば家のカレンダーはスヌーピーなのだという事を思い出した。カレンダーというものは自分ではあまり意識しないものだが、今月のスヌーピーのイラストは木の下でキャラクターが座っている美しい絵だった。


「癒しかな…辛辣なところもあるけど、キャラクターが愛らしいから」


芳井さんはその言葉に頷いていた。


「じゃあ、DVD何か見ようか?」


何を見ようか提案しようと思った時だった。芳井さんは「あっ」と何かを思いだした表情になって持っていたポシェットから見覚えのある小さな布を取り出した。


「これ、あの時はありがとうございました」


「あ、そうだったね」


勿論それはハンカチである。実用性だけを意識したような何の飾りもない藍色のハンカチだが、今は何かしら特別な物のように思えてくる。


「実は恥ずかしい話なんですけど、それ最近ちょっとお守りになってました」


「え…?」


意外な告白に戸惑ってしまう。


「頑張らなきゃって思うときに、それを持って、片霧さんの事を思い浮かべてました」


確かに恥ずかしい話だけれど、変な意味で取らなければ十分に理解できる話だった。自分ももしあの状況で渡されたものがあったら、それは何であれ特別な物になると思うし、芳井さんから返された今まさにそんな物になっているからである。


「もし良ければだけど、これ…貰ってくれるかな?」


「え…」


その特別なハンカチを再び芳井さんに渡そうとしている自分。かなり恥ずかしいけれど、頑張って言ってみた。


「これ見てまた俺の事、思いだしてよ」


「…はい」


芳井さんはしっかり頷いた。同時にかなり恥ずかしそうでもあったけれど。

生きる方向に

虚構の世界でも、それを観たり読んだりしてみたいと思うことは「生きる」方向に向かわせてくれているといえばそうなのかも知れません。ほんの少しの勇気を出せば本当に起りそうな事…?とか、なんとなく勇気づけるものを書きたいと思うのですが、逃げ込むような世界よりはその世界でも精一杯動いている姿を描きたいと思ってしまいます。

一方で、世界自体に美や良いものを見つけるような、そういう『瞬間』を描きたいとも思うことがあります。まあそういうものを描くにはまず自分が一生懸命生きなきゃならないわけですが。

切り替わり

信じているほどではないけれど、かと言って無視も出来ないような。けれどよくよく考えてみると多分違うと思うような事。けれど常に「よくよく考えている」状態で居つづけられるわけではないし、ふとそんな風に思ってしまう事もある。それは仕方のない事なのだろう。

(ほとんど)語れないけれど

自分を語るという事に対して若干抵抗があるというのか、過去に他のブログで自分のありのままを語ろうと思ったけれど不特定多数の人に「公開」しているという理由で何となくぼかしてしまうところは仕方ないのか、あまり上手くいったためしがありません。


そもそも自分を語るのは望まれてないようにも感じるんですよね。もちろん『意見』として述べる事は出来ますが、自分がどういう者であるかについては非常に慎重と言いますか、多分書かれたものの物量と内容から感じてもらう他にないような書き方をしています。


それでも『自分という人間がいる事』については伝えたいと思ってしまうのです。『意見』の土台となるような状況、過去、そういう事柄を伝えることなしに、自分の意見が通用するとは思えないのです。逆に言えば抽象的に述べられた『自分のような人間』が居るという事が多少なりとも信用されれば、意見の方も説得力を持つのかなとも思ったりします。


もっとも、誇れる事は少ないですが。



友人も知り合いも見ている場合があるブログなので、『ネットだけの』という条件では書いていません。それくらいでしょうか。

ストレートではなく

自分というものを考える時に、どうしても普段の自分が意識している相手なり、何かを伝えたい人との関係性が常にあるわけですが、相手の事を必ずしもよく知っているわけではないという場合もあるでしょう。


『知らない相手』に対して物怖じしてしまうのも「自分」なわけですから、余所余所しさを感じつつも、それでも自分を知ってもらおうとする時にどう出していったらいいか分らない事があります。


『相手を知らないと思っている自分』


『相手の言った通りをそのまま受け取れない自分』


そもそも自分が「ストレートに言っている」つもりでもその部分を出さないようにして言葉を並べている時があるような気がするのも確かです。自分がそんなんだからこそ「相手がストレートに言っている」と信じられなくなる事があるのです。

永遠なるもの

一瞬ですが、永遠なるものが出て来るように感じることがあります。そもそも現実の存在自体が有限だからこそ「永遠」に現れる事は出来ないのですが、その「永遠なるもの」が一瞬に表現されるというのか。

そういう瞬間を求めていると言えばそうですし、創作についても時代を越えて愛されるものというのはそういうものなのだと思います。汲み尽くされない内容を持っていると、そう言い換えてもいいかも知れません。

淡く脆い ⑰

見慣れていて、もはや何も感じなくなりつつある駅。生活の拠点として欠かせないし、ほぼ毎日ここを通るから見掛ける通行人さえも既視感がある。そんな駅で芳井さんを待っている間、ふと「彼女はここに来た事があるだろうか?」という事を考えた。自分がそうであったように隣の駅だからと言って知っているわけではない。むしろ電車から眺める街並みは知っていても、その場所をよく知らないという事もままあるのではないだろうか。すっかり秋じみてきたどことなく薄い空を斜め上に眺めつつ、雲の流れを目で追っている。


土曜日午前10時としてはそこそこ賑やかな駅。何のDVDを見ようか漠然と考え始めた時、視界に芳井さんらしき人の姿が入ってきた。目を凝らしながら確認し、間違いないと思ったので手を振った。それに気付いた芳井さんも手を挙げて応えてくれた。


「ぴったり到着しました!」


「うん。10時きっかりだね」


電車の時刻が丁度良かったようである。普段通りにしようと思ったが笑顔ではりきっているような芳井さんを見ているとどうしても顔がニヤついてしまう。


「なんかここの駅で会うとまた違った感じがあるね」


「うん。私もそう思いました」


芳井さんは若々しい薄い黄色いパーカーを羽織っていて下は長めのスカートだった。服装でこんなに印象が違うものなのかと思ったりしたが、それも良く似合っていた。


「今日の服装も良いよね。芳井さんに合うと思う」


「え!そうですか!そう言ってもらえて嬉しいです」


はにかむ表情や少し髪を整える仕草を見ていると本当に女の子らしいなと思うのだが、逆に言えば自分はどう見られているか気にするべきなのだろうか?だが、見た目はそれほど自信が無い上に過去に格好つけようとして失敗しているのである程度以上は深く考えない様にしている。最低限、清潔感さえあればいいという割り切り方である。が、そんな格好を見た芳井さんの感想は意外なものだった。


「片霧さんも落ち着いていて、大人っぽくて素敵ですよ」


「え?」


褒められる事を予期していなかったので素のリアクションになってしまった。自分でもキョトンとしてしまったのが分るくらい一瞬何も考えていなかった。


「え?」


おそらくその表情を見て芳井さんも不思議に思ったのだろう。二人で僅かだが沈黙してしまった。


「あ…ごめん。俺服装とか適当だし、褒められると思ってなかったから」


「あ…そうなんですか。と、とにかく移動しましょう!」


芳井さんは気を取り直してとりあえずといった感じで歩き出した。そのままそれに着いてゆく。それから少し深呼吸をして、


「まずDVDを借りに行こう。時間もある事だし、何本か借りてゆっくり観ようよ」


と考えてきた今日の予定を告げた。


「はい!この辺りにレンタル屋さんとかあるんですか?」


「すぐそこ、ほら」


と言いながら指さした方角に小さくだがお馴染みの書店兼レンタル屋が見える。


「あ、見えました!いいなぁ、近くて便利ですね」


「実は住むところ探した時にさ、やっぱり書店は近くにあって欲しいと思ったんだ。仕事帰りとかに寄れるところにあると良いなと思って」


「良い判断ですね!わたし隣なのに、気が付かなかったです」


「そんなもんじゃない?俺も隣の駅で降りた事多分無かったし」



遠くにあるように見えて歩いて5分ほどで建物の所までやって来ていた。


「見たいのあるかな?」


芳井さんはちょっと首を傾げるような格好で店の看板を眺める。


「わりと新作は多いよ。準新作が隅っこの方になってるんだけど、俺が見たいのは大体そこら辺にある」


「そうですよね。私はやっぱり演技が凄く良い作品を探しちゃうんですけど、一般受けしない事もあると思うんです」



幸い映画の好みは合いそうである。入店し、まっすぐレンタルコーナーに移動する。やはり目につくところに話題の新作が大量に並べられているが殆どが借りられている。


「ジャンルとしてはどんなのが好みですか?」


既にパッケージに目を奪われている芳井さんにこんな質問をされた。


「昔からアニメだとラブコメで、映画だと実は地味な洋画が好きで、邦画だとこの頃「青春もの」がウルッと来るようになった」


「あぁ、そっか。アニメでも良いんですもんね。う~ん、どうしよ…」


彼女はかなり悩んでいるようだった。「これもいいし、こっちもいいし…」と呟きながら殆どのジャンルに目を通している。そこでとりあえず一本は自分が決めた方が良いと思い、恐らく外れの少ないだろうと思われる有名な女優の出演しているコメディータッチのパッケージの作品を手に取る。やはり準新作である。


「そうきますか!」


何故かニヤニヤしながら「やるな!」と言わんばかりの視線を送ってくる芳井さん。それに触発されたのか、


「じゃあ、私はこれ!」


と言って芳井さんはすぐに一つを選んだ。既にパッケージからDVDのケースを取り出しているが、パッケージからは全く内容が想像出来ない。同じく準新作のコーナーなのだが、男女が思わせぶりな表情で並んでいるその画像はありきたりだとは思うのだがタイトルが「名無しのコード」となっていてますます意味深である。


「どんな作品なの?」


思わず訊ねてしまうが、


「私も分りません」


と即答された。その表情が完全に「素」と言えるのだが、何処かしらわざと臭さが漂っていて笑いを誘っていた。


「芳井さん、そういう表情はズルいよ!はははは」


間に耐えられず笑い出してしまったのを見ると、


「ふふふふ…」


彼女もおかしくなったのか笑い出した。観る映画は決まったので、あとはバランス的に気楽に見れるアニメでもと思い、少しばかりサブカルにも通じているという同行者の勧めで中二病を題材にしたという結構有名なアニメを借りる事にした。


「ご希望のラブコメですよ」


「この会社のは外れなしだよね」


先ほどとは違う意味でニヤニヤしながらケースを取り出す。

練り

なかなか続きが思い浮かばなくなってきました。ヒロインである「芳井さん」のイメージが膨らんで来ないというか捉え切れてなかった、或いは自分の感情とダブってしまって見えなくなってしまっていたという理由もあります。

ところでこうして一旦立ち止まって考えてみると、また書き方が分ってくるというのも面白いですね。

掌のワインディングロード ⑧

10月の10日。その日は土曜で競馬もあったけれど、それよりも大事と言える事があった。聡子の誕生日である。本人はもう祝われたくない気持ちもあるようだけれど付き合ってから初めて迎える誕生日イベントという事もあって、タラちゃんと一緒に着々と準備をしていた。体調を崩して回復したばかりではあるがタラちゃんに付き合ってもらってプレゼントを探しに行ったり、ちょっとした部屋の飾りつけを手伝ってもらった。それは競馬中継が終わった後、時間を作る為に聡子に少しコンビニまで出かけてもらって、二人で予め作っておいた飾りを取りつける。


こういう事をしようと思うのも三人で暮らしているからなのだが、タラちゃんは遠慮というか気を遣ってくれたのか「このあと二人っきりで出掛けてくると良いですよ」と言ってくれた。飾りつけをぎりぎり終えたあたりで聡子が玄関のドアを開ける音が聞こえてきた。


「なんとか間に合いましたね!あ、ケーキ!!」


「あ、プレゼント」


最後にそれぞれ物を準備して部屋で待ち構えていた。もしかすると珍しく閉まっているリビングに通じるドアで聡子も気付いたかもしれない、ゆっくりとドアが開いた。


「ハッピーバースデイ!!聡子さん!!」


「ハッピーバースデイ!!」


お約束とも言えるクラッカーが盛大に飛んできたので、聡子が目を丸くして驚いている。


「なんか怪しいと思ったけど、やっぱりね!」


すぐサプライズだという事に気付いて聡子の顔に笑顔がはじけた。こういう表情を見るのが楽しみだった。


「ささ、こちらへどうぞ!」


タラちゃんは聡子を座卓に招いた。夕食前にケーキを出すのもちょっとどうかなと思ったけれど、机にはそこそこ大きいホワイトケーキが載っている。タラちゃんはまるで接客でするような具合に丁寧に蝋燭を数本立てて、チャッカマンで火を着けた。


「え~、今から食べるの?夕食前に?」


「タラちゃんが『これから二人で夕食食べに行って来たら』だって。だから三人で祝う為にこの時間にしたんだよ」


「あら…」


この提案に少し戸惑っている様子の聡子だったが笑みを浮かべているタラちゃんの顔を見て、


「じゃあ、タラちゃんの言うとおりにしましょうか。ありがとね、タラちゃん」


「いいえ、やっぱりムードのある所で過ごしてもらいたいですし…」


お礼を言われて少し照れているようである。


「じゃあ、聡子、ちょっと部屋暗くするから」


俺は窓のカーテンを閉めに行った。西日が少し強いけれど部屋はしっかり暗くなった。蝋燭の優しい明かりもしっかり見える。


「雰囲気出てきましたね!!」


「じゃあ、消すわよ…ってかこんな事したのいつ以来かしら…」


そう云いながら息を吹きかける体勢になった聡子。もちろん二人で「ハッピーバースデイ一トゥーユー」を唄う。ちゃんと唄に合わせて唄い終った頃に息を吹きかけた聡子。今日は案外ノリがいい。一瞬暗くなる部屋。「ヒュー」と言いながら拍手をしてカーテンを開けに行ってくれたタラちゃん。そこですかさず、机の下に置いてあったプレゼントを取りだす。


「はい。これプレゼント!こっちのがタラちゃんからの」


ラッピングされたプレゼントは2箱あった。まずタラちゃんの方のプレゼントを開ける聡子。


「あ、靴ね」


一つ目の箱にはなかなか派手な赤い靴が入っていた。


「お仕事柄、靴は一杯あっても困らないかなと思いまして」


「ありがとう。気に入ったわ!」


「俺からのプレゼントも結構悩んだんだけどさ…」


実は俺のプレゼントの箱は一回り小さくて、それだけで殆どどんなものか分ってしまったかも知れない。


「あ…腕時計ね…うわ…高そう…」


聡子の感想の通り少しだけ奮発した腕時計である。


「今着けてるの、店のお客さんから貰ったりしたものだって聞いたから…なんとなくな」


その気持ちは伝えるとなると少し微妙なものなのだが聡子は感じ入っているようで、


「勇次…」


とこちらをじっと見つめていた。だがここでタラちゃんがある事を暴露してしまった。


「本当は指輪とかを勧めたんですけどね。なんか別の機会にとかどうとか…」


タラちゃんはそう言ってニヤニヤしている。


「こら、タラちゃん!!それは…」


『聡い』という字が入っている女性だけあってこれだけで大体どういう事か分ってしまったらしい聡子は、


「勇次…」


と余計に熱い視線をこちらに送っている。俺は慌てて、


「流石にすぐにではないぞ。色々段取りとか準備があって、それからだからな」


と少しぶっきらぼうに言ってしまった。聡子はそれでも嬉しそうである。


「あ、じゃあ折角なんでケーキ食べましょうか。実は僕も久しぶりなんでテンション上がってます」


タラちゃんの提案でケーキをそれぞれの皿に取り分ける事にした。はりきって食べたが俺には甘過ぎて思わず「もういいかな」と呟いてしまった。一方で聡子とタラちゃんは甘党らしく、美味しい美味しい言いながら食べていた。ケーキを食べ終わってしばらくして聡子と夕食に出掛けた。道中、


「今日はありがとうね。こんなに楽しい誕生日、本当に久しぶり!!」


といつもよりはしゃいでいる聡子。


「じゃあ、来月の俺の誕生日も期待していいか?」


「勿論よ。またタラちゃんには手伝ってもらう事になるけど、タラちゃんの時も盛大に祝いましょうね」


「ああ、そうだな。時計いい感じで良かった」


聡子は早速プレゼントの腕時計を腕に巻いていた。するとここで聡子がこんな事を言い始めた。


「あの…もし勇次が、その『結婚』をさ、意識してくれてるならさ…私も仕事を辞めて…」


まだ決まっている事ではないからそこから先は言い難いようだった。


「ああ。そうか。現実的な事を言うと仕事はしてもらった方が助かるのかも知れない。でも…」


「ううん…私も専業主婦じゃなくていいの。というか、これからも続けられる仕事を探そうかなって」


「うん。分った。多分その方が良いよ。う~ん、でもそれだど勿体ないかもな」


「え?」


誤解されるかも知れないと思っていたがちゃんと説明する。


「いや、靴の事だよ。タラちゃんが仕事の事を考えて買ってくれたその靴。使えなくなっちゃうかも…」


すると聡子も一瞬「あっ」という表情になった。だが「ううん」と首を振って、


「むしろ出来るOLとかってああいうヒールを履いてるイメージだけど?」


と言ってきた。俺は「流石にそれは無理あるだろ」と言ったのだが、


「じゃあ、勇次と出掛ける時に履こうかな。今日みたいに」


勿論聡子が今履いている靴もプレゼントの靴である。出掛ける時タラちゃんに「その服装には似合わないですよ」と言われていたように聡子はやはり俺と出掛ける時は地味目の服装だが足元だけはピカピカの赤いヒールでそれが何となくおかしいような嬉しいような気がするのだった。




ちなみに、翌日の日曜日もその靴を履いた聡子とタラちゃんと一緒に府中競馬場に行ったのだが、タラちゃんはGⅠでもない『毎日王冠』というレースでやたらハイテンションだった。もちろん他のお客さんも。
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なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

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