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ステテコ・カウボーイ⑧

厭わしい言葉と砕け散りそうな心。この日々の向こうに心躍る時があったとしても、今は目の前の事で精一杯。見えていた何かも幻のように行方をくらましているのなら、何処に目を向ければいいのだ。そう嘆きつつも、その嘆きに呑み込まれはしないその何かで険しき道を辿っているような気がする。


少し気を緩めればふらつきそうな足取りでその日僕は見知らぬ街を彷徨っていた。八方手を尽くしたところで活路など見出せやしないのは分かり過ぎるくらい分っていて、自分が自分じゃなきゃどうにかなるかも知れないと考え始めた辺りまでは覚えている。その前日に何があったというわけではない。というより何かがあったとすれば、もうずっと前からで生活が音を立てるように軋み始めていたのを騙し騙し何とか何も聞こえないふりをしながら生きてきたのが、ついにその日本当に聴こえなくなってしまっただけなのだと説明したら、誰か理解してくれるだろうか。少なくとも早川さんなら何かを感じ取ってくれるかもしれない。



気持ちが続かなくなったのだと一言で済ませればいいのかも知れない。そもそも大した仕事でもなかったのだ。広告に載っていた「誰でもできる」そんな仕事。そんな仕事ですら自分にとってギリギリになりはじめていた事が、焦りだったのかも知れない。もともと足場のない脆い生活、ちょっとした精神的な拠り所が無くなってしまっただけでも砕け散ってしまうようなものだったのかも知れない。



人によっては「そんな事か」というような事。僕にとっては世界と自分とを繋いでいた何かの消失のように思えた。



回りくどく言わないとすれば、好きだった女優の死である。生前仲の良かった友人の中に「生き急ぎ過ぎた」と述べた人が居た。死因は不明とされているけれど、ストイックで役を演じる為に何もかもを捧げるようなタイプで、遺作となった作品の登場人物のような儚い雰囲気を纏っていたような気がする。もしかしたらモニター越しに恋をしていたのか、彼女の演じるキャラクターのような人に会えるかも知れないという幻想を抱いていたのかも知れない。土曜の夜、週一で放送されていたラジオの15分の番組で生の声を聴いて、活力をもらっていると自覚したのはいつからだろう。




その習慣がなくなって一か月程経った頃、ショックはあるにしても普通なら何とか自分を持ち直している筈の自分が、現実には全くそうなっていない事に気付いた。仕事をしていても上手く頭が動かず、気付くと「もう居ない」という事しか考えていない自分がいる。けれど「もう居ない」という事を受け入れてしまえば、もう自分がここに居る理由も無くなってしまうという感覚があって、そこで僕の時間は止まってしまった。




仕事帰りの道は雨だった。雨に打たれても何にも感覚がない。全てが嘘のような気がした。



<嘘なんだから、こんな事をしていても無意味だな>



そう思った時には僕は無我夢中で走り出していた。今思うと、ありとあらゆる生きている感覚が欲しかったのかも知れない。それくらい現実感のない時間だった。途中で盛大に転んで血が滲んだ膝。それでも立ち止まるところが何も無くて足を引きずりながらふらふらと歩いて、


<いっその事記憶喪失になればいい>


と思った。記憶喪失になった僕はあの人が好きだった事も忘れて、そこから何とかやってゆけるんじゃないだろうか。そう思いながら、うっすら水溜りができた路地で寝転がって何も考えずに目を閉じた。



何時間経ったのかそれさえどうでもよくなった時、



「おや。こんなところに人が居る」



とちょっとわざとらしい女性の声が聞こえた。僕はその時「しくじったな」と思った。どうせなら誰にも見つからないところまで歩いてそのまま発見されない方が何かと面倒な事にならなかったのにと。その女性は尚も僕に興味を示して語りかける。


「こんな風になっている人を放っておいたら人として拙いんだろうね。そんな人間には私はなりたくないよ」



<この人は僕に語りかけているつもりなのだろうか?>と一瞬疑わしくなるほど、現実感がなかった。もしかしたらこれも夢とか幻覚なのかも知れないなと思った時、


「よし、決めた」


という声がすると、僕の腕に何か温かいものが感じられた。感覚がない筈なのにその温度だけはしっかりと感じられて、<ああそう言えば誰かに触れられた事もあんまり無かったな>と場違いな事を考えてしまった。


「ほら、まず目を開けてごらん。君はそこからしか始まらないよ」



教え諭すような声。咄嗟に無理だよと思ったけれど、自分の意志ではなく自然に目を開けている事に気付いた。そこで僕は「早川さん」を初めて見た。優しいそうでもあるし、叱るような顔でもある。


「まるで捨てられた子犬のような表情で見られても困るんだけど…まいったな…」


明らかに困った顔をしているので僕は不思議に思って、


「そんな顔でしたか…?」


と訊ねていた。意外に普段通りで自然なトーンだったのが自分でも驚きだった。


「じゃあまずその顔を鏡で見るところから始めようか。家に案内しよう」


そして僕は早川さんという不思議な人に拾わた。もうすっかり朝で、いつの間にか雨は小降りになっていた。
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その心境でこそ

シリアスに考えているだけでは別な面を忘れてしまいがちですが、少なくともシリアスな見方の方に真実性を感じやすくなっている心境はあるものです。ある捉え方の先に予感される像が思わしくないという事が、そこから何とか踏ん張って回避しようという動機になったりする事もあるでしょう。逆により不鮮明になってしまう希望を描き続けることが中々難しいのも仕方のない事かも知れません。


とはいえその時点において出来ることを探すのはどうあっても必要な事で、「厳格」な程に認識の確かさがあるということがある種の利点になるのではないかと思われるわけです。


まあそれは「普通の心境」ではないのかも知れません。けれどある意味ではそういう心境も致し方ないという状況があるという事ですし、何かしらの理由でそういう心境にとって意味のある事柄があるんじゃないかと求めてみるのも良いのかも知れません。


実際、普段は「過剰」にしか思われないようなメッセージの意図が納得できたりもしますし、その心境でこそ分かる何かを大事にするのも良いのだろうと思うのです。

感覚的な情報で

感覚的な情報、例えば音や絵などは比較的容易にネットで探せる時代です。そういった感覚的な情報に触れている間に感じている事(何か)は感覚に印象として残っている間は持続するんだろうなと思います。

現実にある事物の確かさとはまた違うレベルで何かを感じ、それによって何かの行動に繋がるという事ではある意味では世界を支えているのかもと思うことがあります。


ある範囲で無理なく得られる感覚的な情報を再生する手間、労力も含めた上でなおプラスに働いているようにできればそれによって到達できるところがあるんじゃないか、と思うのです。

範囲

物事というのは、ある範囲の中にどの位の割合で自分にとってプラスになるものがあるかである方向に進め易いか進め難いかが決まっている部分もあります。利用というか、条件が揃っていてそちらの方向に進む気力になるものとなっているかどうかに左右される事もあるだろうと思われます。


範囲を越えようとする努力も含めた上で、当面のある範囲の中で良識的に何かを探して、色んな想いを汲んだ上で続けてゆき続けられる模索と思い描ける最善は妥協するべきではないですが、明確な言葉にならない場合もあります。


無理なく動ける範囲にというのが一つの理想ではあるでしょうね。

失敗

定刻が過ぎるとさっさと退社して細々と続いているジム通い。若い頃とは違って身体を鍛えるというよりは体力を維持する為に定期的に汗を流している感じ。この頃、通りですれ違う私よりも少し齢の行ったと思われるランナーを見掛けると不思議なくらい尊敬の眼差しを送っている自分がいる。同僚からは「若々しいね」とか「相変わらずスリムだね」とかいかにも羨ましそうに言われるけれど、それがモチベーションになっているかというと少し疑問。


昔からどちらかというと完璧主義の気があったので、しばらく付き合ってみてそれを察した相手が『一緒にいて息苦しい』というよう態度を見せるようになって、長く続かない事もあった。それに加えてまだどこか世界に対して何かを期待しているせいか、時々批判がましくなってしまうところが異性から『堅い』と思われる原因なんだろうなと思っている。



そう気付いたところで自分をそんなに簡単に変えられるわけがない。半ば義務のように、もしかしたら機械的にジムまでの慣れた道を歩く。何の気なしに上空を見上げるとお月様が少し濁っているように感じた。


「今日は1時間くらいにしておこう」


そう一人小さく呟いて前を向きなおした時だった。少し距離の離れたところ、歩道の真ん中に誰か男性らしき人が向こう側を向いたまま立ち尽くしているのが見えた。近づいて行っても微動だにしない様子が少しばかり不気味で、気付くと早足になっていた私。その短髪の男性の横をなるべく静かに通り過ぎると、


「ふあぁあああああ!!!」


とその人が盛大に溜息を吐いた。思わず吃驚して後ろを振り向くと、


「あ…すみません…」


「凄く申し訳ない事をした」というような表情で済まなそうに深く頭を下げた。何もそこまでする必要がないと思ったので、


「あ、大丈夫ですよ。何かあったんですか?」


と形式的に訊ねていた私。少し不用意だったかなと思ったけれど男性の表情を観るかぎり変わったところは見受けられないし、格好もスーツで普通だし多分私の性格的に声を掛けてしまうんだろうなと思った。男性、


「えっと…」


と頭を掻いて恥ずかしそうに言う。


「本当に、大丈夫なんですけど…失敗しちゃったんです」


『失敗』という言葉に敏感な私は好奇心を抑えられず「何を?」と訊いてしまう。あとあと考えてみこれが私の『失敗』だったかもしれない。その人はボソッと、


「観測失敗です」


と言った。「観測」という聞きなれないワードにハテナマークを浮かべていたのだろうか、私の顔を窺いながら、


「研究をしていてですね、確率的にここでこの時間にある「現象」を観測できる可能性が非常に高かったんです」


「何か研究機関に勤めていらっしゃるんですか?」


「まあそんなところです。普通の人にとっては本当にどうでもいいような研究なんですけどね」


ここでも「普通の人」と「どうでもいい」というワードが微妙に癪にさわって、


「世の中にどうでもいい研究なんてないですよ」


と余計な一言を言ってしまった。男性はちょっと「おっ」という顔をして、


「失礼かもしれませんが、もしかするとサイエンスとか好きな方なんですか?」


という質問をしてきた。


「好きとか嫌いとかじゃないですね。興味のある事は調べたくなる性質なので」


誤解されないようになるべく正確に伝えると、


「なるほど」


としっかり頷いて納得しているらしい相手。しっかり伝わるとちょっとした快感があるもので私も機嫌が良くなって、


「もしよろしければどういう「現象」なのかご教授いただいてもよろしいですか?」


という風に丁寧に訊ねてみた。すると男性は一瞬で表情を険しくというか真剣なものにして、


「噛み砕いて説明するとですね実験室で非常に特異的な粒子を操作した場合、普通はある程度隔てられている周囲への影響は無視できるという前提があるのですが、その前提がとある条件が揃った時だけに破られるんじゃないかという仮説を立ててですね、それを実証できるかどうかも含めて条件が揃ったこの時間のこの場所で先ずは視認可能な現象として、『小さな火の玉』を観測する事ができるという計算式があったんですよ。まあ予測ですね。もっとも、この現象は『視認できる』という条件で考えた場合に少し怪しげな解として予測されていたもので、『視認できない』というものならば観測器も大掛かりになってしまうので、まあ予算が中々つかなくてですね、言ってしまえば一番リーズナブルに済ませられる実験だったんです。それがダメだったんで溜息をついてしまったんです」


「…」


これを一気にまくし立てられた時には気絶するかと思ったのが本音。途中から私が理解しているかしていないかも放っておいて一方的に話していたような気さえする。


「あ…すみません。これじゃあ全然わからないですよね…」


「とりあえず『小さな火の玉』が観れる予定だったんですね。お話の通りなら」


「あ。そんな感じです。でも僕ももともと観測できるとは思ってなかったんです。あんまりにも上手く条件が揃った場合には理論上現れるというだけで、確率が高いと言っても1%くらいでしたから」


「1%で確率が高いんですか?」



「でも、それ以外の条件だと0.0000000…って続くような確率になってしまうので…」



何だか話を聞いていると頭がくらくらしてきそう。一応話の筋は通っているけれど、それでも現実性があるようなないような良く分からない話だなと思った。そういうニュアンスで感想を伝えると、


「ええ、実にしっかりした判断だと思います。もともとトンデモ理論と隣り合わせのような研究なので、そういう感覚は研究する上で非常に重要な判断だと思います」


と褒められた。そして男性はまた大きな溜め息を吐いた。見かねた私は、


「あの、気持ちを切り替える時には運動が良いですよ」


という切り口でまったく日常的な話をし始める。代謝を良くすれば健康的になる、代謝を良くするためには運動。酸素を取り入れることで脳も活性化アイディアが生まれるかも、なんてことをまるで説教するように男性に教える。どうやら今度は男性が呆然とする番だったようで、


「えっと、でもどこで運動したら…」


と躊躇いがちに訊いた男性にこれから行くジムの事を教える。


「確かにお姉さん、スタイル良いですもんね…俺も運動不足だから丁度良いかもなぁ…」


「じゃあ、私はこれで失礼します。研究頑張ってくださいね」


そんな感じで別れて、その日は普通にジムのランニングマシーンで汗を流した。



後日、私はジムであの男性がエアロバイクを必死に漕いでいる姿を見掛けた。


「観測は『失敗』ですか?」


微笑みながら声を掛けるとちょっと苦しそうになりながら、


「上手くいきませんね。でもまたあなたを「観測」できたのかも知れませんね」


と爽やかに言われて、不覚にもドキッとしてしまった。今ではジムで会うたびに微妙に意識している自分がいる。

ぎりぎりに虹

心持ちというぐらいの少し残念な事があった日にはすぐ気を取り直して目の前の事に集中するか、それともそれなりにテンションを下げて続けるべきか、なんてことはさして重要でもないけれどあんがい大事なんじゃないかと思えてきた昨今。侮れないコンビニのボリューミーな弁当を次々に口の中に詰め込んで、茶葉が厳選されているらしいペットボトルのお茶で流し込む。



完食したら壁に身を持たせかかるようにしゃがみ込んで、俯きがちにテーブルに置いてあった今朝の広告チラシを見つめる。『半額』という赤く太いフォントが目に付くけれど、そこまで気になっているとは思えない。


「『半額』のどこが偉いんだろう。むしろそこまで割り引いとけばもう文句言わないでしょ、とか思ってんじゃないの」



静かな部屋にポツンと現れる誰に言われたわけでもない一言。それがもう気にしていないつもりでも憤っている事の証のような気がして、「いかんいかん」と首を何回も振ってそれ以上考えない事にする。


<たかが休止じゃないか。またすぐ活動が始まるって>



心の中でそう言い聞かせるように今はネット上の嘆きに同調しない事を決意した私。それでも好きなアーティストの突然の活動休止というのは思ってもみないダメージがあるんだなとひしひしと感じている。今日活動休止を発表した『ナナ・レインボウ』というちょっと変な3ピースロックバンド。ネットのニュースで流れてきて不意打ちされるようにそれを知ったファンも結構いるんじゃないかと思う。彼等の曲は「広く」受け入れられているわけではないけれど私のように少数派の人にとっては日々の清涼剤で、いい大人なのに何だかいつまでも中学生のようなノリでちょっとひねくれた曲を本気で届けてくれる彼等の事は、本当に遠くからだけどずっと見守っていたような気がする。



『休止するのはいいけど、ボーカルの【限界を感じました】っていう発言はどうなの?』


『これもう、ずるずると解散のパターンなんじゃない?』


『とにかくすぐ戻ってきてほしい』



ツイッターで少数のファンのコメントを確認してみて、こういう時こそやっぱり私以外にもファンが居るんだなって思えるのはいいけど、状況が状況だけにとにかく私にとっては少し残念な事には違いなかった。そして少し悲しいのは、このニュースを残念に思っている人もそんなに居ないだろうなという事。検索してみると圧倒的に、


『誰それ?』


が多くって、彼等に『こういう人たちをぎゃふんと言わせる気持ちはないの!?』と檄を飛ばしたくなる。まあ私が言ったってあのひねくれた人達の事だから気変わりする事はないだろうなと、勝手に脱力してしまった。でも、今さらながら彼等のそういう「ちょっと脱力している」ところが好きだったのかもなと思った。



「でも、本当に力が入らなくなるのは違うんじゃないのかな…」



考えないようにしてもついつい考えてしまう。こういう時は少し散歩するのが良いと思い立った私は玄関の安っぽいサンダルを引っかけてほとんど部屋着同然で外に出る。夏の匂いも漂いはじめた5月の末、空はすっきり晴れ渡っている。太陽も眩しいくらいで、ちょっと日焼けしそう。



特に行先を考えていたわけではないけれど、近くにある自販機のところまでとりあえず歩いてみた。最近飲んでいなかったメロンソーダが妙に恋しくなって、130円を投入して買ってみる。開けて飲んでみて「こんなに濃かったっけ?」って最初に思ったけれどすぐ慣れた。ここまでだと気晴らしにもならないのでそこから少しだけ歩いて町の小さなCDショップまで。入店すると、


「おお、彩里」


と店主に声を掛けられる。何を隠そう、この店は私の親戚が経営している店なのだ。親戚のお兄さん、からおじさんにチェンジし始めている店主は一人暮らしをしている私にとっては既に近所のお兄さん的な立場になっていて、時々音楽の話もしたりで結構お世話になっていたりする。


「和人さん。ニュース見ました?『ナナ・レインボウ』」


「え、何かあったの?」


「…休止だってさ。活動休止」


「ほぇ~、そうだったのか。知らなかった」


『ナナ・レインボウ』自体は私が和人さんに教えた側だから知らなくても仕方ないけれど、流石に知っているだろうと思っていた。少し気を取り直して半ば愚痴るように事の顛末を説明すると、「うん、うん」と頷きながらしっかり聞いてくれる。話し終ると一言、


「しゃーないよな。どうしても同じことだけやってても行き詰る時が来るもんだから」


「でも、あの人達っていっつも『行き詰ってもそこから何とかしよう』っていう曲を作ってたからさ…」


「確かに、本人たちが挫けてたら話になんないよな。ははは」


朗らかに笑う和人さんを見て、<そうだな>と思う一方で妙に癪に障る。


「それは言い過ぎじゃない?」


知らず知らずフォローしてしまっている私は本当にファンなんだなと実感。その時私は心のどこかで彼等がそういう選択をした事について理解できている部分がある事に驚いていた。その言葉を引き継ぐように和人さんが、


「確かに売り上げとかもギリギリだったってのはあるからな。その中でモチベーションを維持してゆくのは大変だ」


と納得するように語る。


「でも…」



私はそこまで口にして、先に続く言葉が出てこないのに気付く。「でも…」だからなんなんだろう。そこから何が出来るというのだろう。


「うん。あっと電話だ。ちょっと待ってて」


和人さんが受話器を取ってで通話し始めたところで私は習慣で店内のCDを少しづつ物色してゆく。私のお願いもあってか置かれている『ナナ・レインボウ』のCDの場所をちょっと確認しつつ、一通り見回ったところで「彩里ちゃん!」という声がして和人さんが手招きをしているのが分った。慌てた様子だったけれど、何か伝えたい事があるらしい。



「今電話あった件の話なんだけど…なるほどね、考えたね。『ナナ・レインボウ』」


興奮気味に話す和人さんを見ているとどうやら良い話題のようだ。


「どうしたんですか?」


「ほら、うち『インディーズ』扱ってるでしょ?そこに『レイニー・バカンス』っていうアーティストがCD置かせてくれないかって今連絡来たんだよ。でも今連絡してくれた人ってメジャーレーベルの関係者なんだよな。そういう話って珍しいだろ?」


「うん。でもそれが何の関係が?」


「こういう話を聞いたことない?アーティストが活動休止中に、ひっそりと別名義で活動する事があるって。ちなみに連絡くれた人は『ナナ・レインボウ』があるレーベルの人だよ」


「え…?もしかして?」


「名前も関係しているように見えるんだよな。俺は。虹と言えば雨、雨といえば「レイン」。つまり『ナナ・レインボウ』の奴らがその名前でインディーズの曲をひっそりと出してみるんじゃないか?」


「そ…そんな事って。でも確かに…」



その日は半信半疑のままだったけど、後日和人さんから『レイニー・バカンス』のCDが入荷したとの連絡があって行ってみると店内で知っているような知らない曲が流れていた。


「今流れてるやつだよ。ビンゴだったろ!ジャケットでは変な格好してるけど、音は彼等の音だ。」


「うん。間違いない。でもなんか…」


「そう…こりゃ『実験』だな。だいぶはっちゃけてる曲もあって、これはメジャーでは出せんな」


「なるほど…」


『わざわざ何でこんな事を?』という疑問を口にしそうになったけれど、和人さんが説明してくれたことが本当だとするなら疑問なんてない。まさにその通りだったのだ。



「『レイニー・バカンス』。考えられている名前だよ。休止を「バカンス」として、たぶん「雨」の後に虹が架かるって事を信じてやった事なんじゃないかな。少なくとも俺は評価するよ」



私はその時あの3人がまた中学生みたいな「ノリ」でこういう事をちゃっかり始めちゃったんだろうなと思うのであった。

さて

不思議と言えば不思議で当たり前といえば当たり前の事ですが、様々な事情とタイミングで
難しくなってくる事があるんだなと思ったりします。恐らくは自分の抱いている「期待」と
「現実」の関係で、無理なく続けられる事はある程度決まっているような感覚があると言え
ばそうですね。


『あちらを立てればこちらが立たず』というような関係もあるんだなと推論するのですが、
そうは言いつつも結局(結果的には)は落ち着くところに落ち着くんだろうなという、
予感はあります。逆に、そういう事が経験が各々共通しているから共有できる話題とか
関心もあるんだろうなと、ちょっと思ったりします。

にっき

ちょっと書籍が欲しくなってきたなぁと感じる日です。しばらく古典(古文)の書籍を集中的に
読んでいて創作に活かせるかもなという漠然とした期待がありましたが、なんというかはっきり
した成果になるかどうかは今のところ不明です。

気づいた

すごく難しい事を考えていたようです。実際にその方向に進めようとした場合には何らかの条件が必要だったのかも知れません。モチベーションに関わる事が上手く重なった時にのみ続くような状態があって、タイミングも含めてそれが難しい事なんだなと思います。


サステナビリティーという言葉がありますが、活動を続けてゆく上でも何かそれに近い概念なんだと思いますが、現実的に可能な方向というのもあるんじゃないかと一層思うのです。


ここでもやや感覚的ではあるものの「カテゴリー」を作って、そのリズムとか感覚で続けられるところまで続けるという事をやってきました。「ただ一つの」というこの取り組み方が結局は残っていて、思うにそれは「感じ方」そのものなんじゃないかという事ですね。


ここ数日、気合が入った状態で特殊な「感じ方」で過ごしていましたが、それ自体を続ける事が難しいんだろうし、その感じ方が描く「向こう」は続いていないのかも知れないと思いました。



もし「ナンセンスに」の活動が続くとしたら、ここでの感じ方が多分続くんだろうし、何らかの意味で無理が無いんだろうと思います。まあ、「ナンセンスに」自体も難しくなってくる可能性もありますが、それはそれ。取り敢えずは、「ステテコ・カウボーイ」を気長に書いてゆくのかなと思います。

超絶

ある日むかし頻繁にやり取りしていた友人から謎のメッセージが送られてきた。

『今からそっち行くからとにかく準備しておいて』


部屋で一人「へ…?」という声を出して呆然とする私。これでは要件が何だか分からないし、しかも急に来るっていうし色々困っちゃうよと思っていたけれど、考えてみれば大して遊びもせず地味な仕事に明け暮れていた日々に休憩地点のように訪れた連休だし、その友人ともそろそろ近況報告をしなきゃと思っていた頃だし丁度良いかなと割り切ってしまった。その子は今どき珍しく純粋で裏表がなく、一緒に居て気持ちのいい人だからこの位の「無茶」は別に何でもないなと思ったくらいである。


「じゃあ、まず部屋片付けないとな…」


とぼちぼち掃除と整理を始めて半分くらい済んだところで再びメッセージが届く。


『ごめん、もう着いた』


「は…?」


私は目を疑ったけれどその次の瞬間、ピンポーンと呼び鈴が鳴って訳も分からず慌てて玄関の方に向かった。


「やあ…急にごめんよ。ちょいと相談に乗って欲しいの」


確かにそこには友人の姿があった。言葉からも感じられるようにどうやら慌てているらしく、落ち着きのあるイメージだったその人のあまり見た事のない様子に私は少し身構えて、


「ま…まあ落ち着いて…。今部屋整理してて、私は大丈夫だけど」


と少し心を落ち着けて言う。


「あ…うん。ご、ごめんね」


それでどうやら彼女も冷静さを取り戻したように見える。そのまま少し玄関で待ってもらおうと思ったけれど、この場合は誘導した方が良さそうだなと思い、部屋に招く。


「おじゃまします」


とりあえず部屋の一角に座ってもらう事にして、私は最低限の片付けをしてお茶などを用意する。けれど次第に彼女が気ぜわしくなってきたのが感じられて、先ずは会話を優先にと切り替える。腰を降ろした私の顔をじっと見つめて、何か「う~ん、どうしようかな…」とかなり迷っているらしい相手。<こりゃあ、何か大変な事があったな>と最悪の事態を想定してどう対処しようかなと自然にシミュレーションが始まっていた。そして重々しく口を開いて彼女の出てきた言葉は…


「私、付き合う事になった」


彼女の様子に比べると幾分拍子抜けする話で思わずキョトンとしながら、


「え…?そうなの?」


と訊き返してしまう私。普通にめでたい話だと思うので、


「あ、おめでとう。で、相手どんな人?」


とそこから自然な会話が始まる。


「多分…男の人」


「多分…?」


この微妙な「副詞」は何を意味するのだろうか。意図は分からないけれどちょっと慌ててるのかなと思い、


「そうなんだ。歳は?」


と相手から情報を引き出すように質問してゆく事にする。すると友人はその質問にも、


「うんと…人間で言うと40歳位なんだって」


「人間で言うと?」


またしても余計というか、謎な情報が混入する。<もしかすると年齢不詳で怪しい人と付き合う事になったのかもな>と真面目に推理して、


「あのさ、友達として言っておくけど、身元が怪しい人はちょっと考えた方が良いよ…あと結構年上だからその辺もさ…」


と予め自分の憂慮を彼女に伝えておく事にした。すると彼女は一瞬キョトンとしてから、はっと気づいて首を左右に振って、


「あの、その辺りは大丈夫なの。というかはっきりと見せられたから分ってるんだけど、相手がもともとそういう人…っていうかそういうちょっと特別な存在で…それをどう説明したらいいのか、分らなくて…」


という風に落ち着いて答えてくれる。でも私は逆にこの答えでますます分らなくなって、


「え…どういうこと?ん…?」


と非常に困惑してしまった。無理もないと思う。友人も困り果てるように「う~んどうしたらいいんだろう…」と唸っていたけれどその後、凄く意を決した様子で


「一気に説明する方法がないわけじゃないの。というか『百聞は一見に如かず』っていうのが当てはまるような事で…聡美が大丈夫だったら、すぐここに呼べるの」


「あ、なるほど。直接来てもらうって事ね。でもね…」


私は大丈夫だとは思っていても、どこかで尻込みしてしまう。というか仲の良い友達の頼みだからって知らない人を急に家に上げるのも普通なら抵抗があるし、それに相手の人にも悪いような気がする。


「ほら…相手の人も大変でしょ?」


こういう風にやんわりと諭すつもりだったけれど彼女は妙にはきはきと、


「ううん。その辺は全く問題がないの。っていうか、彼の口癖が『いつでも呼んでくれ、すぐ駆けつけるから』だし」


と答えて、しかも何処となく嬉しそうである。まあそんなにこの友人の事を想ってくれている人ならば若しかしたらここに直接来てくれる態度から安心できる面もあるのかなと臨機応変に思い直して、


「じゃあ大変だとは思うけど、呼んでみてよ」


と穏やかに伝えた。すると「うん、じゃあ呼ぶね」と言ったと思ったら突然彼女は両手を天に掲げるようなジェスチャーをしながら、


『いでよ、我が眷属…【カイザーレクイエム】!!!』


とかなり大きめの声で叫んだ。友人ながらこの豹変ぶりに<何だこいつ>と戦慄しかけたところで、私は気付いた!彼女の足元に謎の魔方陣が顕れている事を!!そして、次の瞬間発光し始めたと思いきや目の前には長身でタキシードを着こんだ異様に日本人離れ…というか人間離れした美形の男性がぬっと立ちあがって存在していたのである。



…何を言っているのかよく分からないと思うけれど、文字通りの事が起ったのだ。多分だけど私が思うに、この話は一旦ファンタジーとして素直に受け入れてもらった方が良いと思う。私も気絶しかけたけど、とにかく本当に本当で、本当の本当なんだから。



「…あ…あああああああああ」



絶句から我に返って近所迷惑になりそうなのも堪えきれず、大声で叫んでしまった私。対照的に友人は全く落ち着いて、その突如出現した彼の方を見て微笑みかけながら、


「ごめんね、『悠太』…急に来てもらっちゃって。今大丈夫だった?」


と普通の恋人に話しかけるように話しかけている。対してその『悠太』と呼ばれた男性が、


「舞。流石にこれじゃあ吃驚させちゃうんじゃないかな?もっと穏便なやり方があったと思うんだけど…」


とこちらも自然に受け答えをしているのを観て、私はスッと普通の感覚を取り戻しつつあった。やや微妙な気分にさせられる事に、その後お互いに手で触れ合ったりのスキンシップを見せつけている(?)事である。相手の正体は分からないけど『恋人同士』という事はこの上なく分かる。私は少し深呼吸して、


「お取込み中申し訳ないんですが…。是非補足説明をして下さい。」


「あ…ごめんね」


そして友人から聞いた話はまさに最初に彼女が説明した事を肉付するような情報で、要するにさっきの呪文にもあったように彼…『悠太』は友人の「眷属」なのだそうである。『ちょっと色々あってね』と説明を端折られたけれど、カテゴリー的には「カイザーレクイエム」という正式名称の『魔人』を友人は使役できるようになったそうである。


「その『色々あって』のところは追々説明しますので」


と『悠太』くんが丁寧に付け足してくれる。それで何でその『魔人』が『悠太』と呼ばれ、そして友人と付き合うようになったのかは…


「うんと、よく男女関係であるように「成り行き」かな」


という非常にざっくりした答えだった。妙にスケールのデカい話と等身大の話がごちゃ混ぜになって、私は終始困惑しっぱなしだったけれど、悠太くん(私はもうそう呼ぶことに決めた)が同い年くらいの好青年にしか見えない事と、とにかく人見知りの気があった友人がすっかり心を許して仲睦まじく過ごしているのを見て…見せつけられて、私は余計な事を考えるのを辞めた。で最後、友人にこんな事を言われた。


「今日来たのはね悠太を紹介したかったからなんだけど、聡美が彼氏募集中って話をずっと聞いてたから、こういう感じの人なら紹介できるんだけどって思ったの」



「こういう…感じですか…」



勿論、私は少し男に飢えているところもあるけれど<流石に人間じゃない人はなぁ>という良識がある。ただ、目の前の超絶イケメンを見ていると、


「そういうのも悪くないのかもね…」


と揺らぎ始めているのだった。
プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

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