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徒然ファンタジー12

猫にとって人間社会の風習とはおそらく奇妙なものであろう。同じ人間でも別の地域で当たり前のように行われている事に対して奇妙に感じるのだから、海外だったら余計で、猫にとってのカルチャーショックのようなものは微妙に異なるライフスタイルよりも明らかに普通にはやらないような人間の営みに対して明確に感じられるだろう。


例えば迫りつつある本来的には外国の文化であるカボチャのジャックオーランタンが奇妙にも街中に溢れるその風習などは人間が明らかにいつもと違う格好で街を練り歩くような場面が間違いなく見られる。これなどは商店街を平和にうろついている野良猫からは狂気かつ脅威であり、いい迷惑なのかも知れない。猫はその風習の意味を知らず、ただ実際に起こっている「人間が奇妙な格好をして集団で移動している」という光景を見せつけられる。というか、そういう風習があると知ってなお、この国の中ではやはり異様な光景であるとも言える。



徐々に秋らしくなり始め、着ている服がだんだん厚くなってきた頃のこと。リリアンは例年とは違ってこの年のハロウィーンを楽しみにしていた。彼女はもともとはお祭り好きな性格なのだが、どうしてもまだメジャーになり切れていないイベントで仮装…場合によってはコスプレを披露するのは敷居が高いと感じていた。年を経るごとに浸透してきているとはいえ、サブカル臭がしているのでどうしてもそういうものに詳しい人が身近にいないと勝手が分らないというのもある。



ただ今年は別である。リリアンは同居人にして猫であるジェシカが変身する際にオマケのような能力で服装を自由にできるという事を知ってからというもの、その能力の有効な利用法を徐々に発見し始めていて、例えば何か面白い服装があったらジェシカに絵や写真で服装を説明して実際にそれに着替えさせたり、いまやキャラクターの定番となったゆるキャラのような着ぐるみをイメージさせて簡易版ゆるキャラを誕生させていたのである。猫にゆるキャラを演じさせるというシュールな状況でありながら、


「ジェシカ、ダメよ。『ケロ子』はそんな喋り方をしないわ!!」


「えー、何で?っていうか、前あんまり見えないよ…」


と設定に関しては厳しいリリアン。そういう事を練習していたお陰で、ハロウィーン当日にはかなり凝った衣装でコスプレさせる事が出来そうであった。だがジェシカは素朴な疑問を口にした。



「どうしてこの格好で外を歩かなきゃならないの?」


「だって、そういう日だからよ」


「ご主人さまのその変な格好は何なの?」


「ゾンビね」


「『ぞんび』って何?」


「死んだ人間が生き返った姿よ」


「何だか気持ち悪いね」


「そう?かわいいじゃない」




リリアンの説明はいつも何か不十分である。ただ某有名猫妖怪の着ぐるみを着ているジェシカの格好の方が事情を知っている人にとってはもっと説明を要求すべき事なのである。リリアンはちょっとした思いつきで、


『猫妖怪のコスプレをしている人間に変身している猫』


という複雑な状況を生み出した。多分、彼女にとっては「何となく面白いから」という理由だし、何より流行りものだったという事もある。ただ、考えれば考えるほどアイロニカルに見えてしまう。もしシェリーがこの光景を目撃したら、


「ジェシカは人間の格好で歩いているだけでコスプレみたいなもんでしょ」


と言いそうである。的確だ。


さて、アパートからそれほど遠くない商店街にやってきたリリアンとジェシカ。仮装している人がぼちぼち集まっている。が良くある事だが見物客の方がわりと多い。物珍しそうな視線には、「自分はやりたいと思わないけれど、写真でもとってネットにアップでもしようか」という物欲しそうな様子もある。特に良く出来たブームの猫妖怪が現れてからは異様な熱気になってしまい、ようやく人混みに慣れてきたジェシカも流石に当惑していた。


「ご主人さま…これ、どうしたらいいの?」


「適当に手を振ってればいいわ」


その通り実行すると、それで何とか上手くいった。この国の人々はゆるキャラの扱いには慣れ過ぎている。もはや相手が設定的に困るような事は要求せずに、可能な範囲で動いてもらって満足するのである。ゾンビと化したリリアンは不安そうな様子の猫妖怪と手を繋ぎ、規定のコースを歩き続けた。集団が通り過ぎると沿道から声援が起る。


「どう?ジェシカ、結構おもしろいでしょ」


「なんかみんなに見られてるけど…」


「褒めてくれてるのよ。できが良いからね」


「そうなのか…みんな喜ぶのか…」



この日は何事もなく終わり好評だったのだが、後日この日の事が原因でちょっとした出来事が起ることになった。
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