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徒然ファンタジー13

誰かを喜ばせたいとか場を盛り上げたいとかいう感情はとても自然である。それが自分の喜びに繋がるという理由でやるのだからそれでもエゴイスティックだという評価を与える事もできるが結果として誰かが笑顔になるのならば、そして少なくとも一生懸命になろうと思えるようになったのならば、エゴからかどうかは問題ないし、エゴでも、別にいいと割り切れるようなものである。


科学的な考察によると猫は自分がそうしたい事を「ただ」しているとか、少なくとも飼主の表情は区別するとかだけれど、たとえ自分が心地よくなりたいとか遊びたいからそうしているのだとしても、無条件にそれを見守ってしまうような人が猫を溺愛する。そして殆どの飼主はそういう種族の人間なのではないだろうとすら言えるかも知れない。例に漏れずジェシカを溺愛してやまないリリアンも、ジェシカの姿が変わったとて変わらずに愛し続けている。ただ、普通の猫と違って人間の姿になった時に多少思考ができるようになると少しばかり猫としての欲求だけではなく、同じ姿をしている仲間へと供に楽しみたいという発想も出てきたようで、ハロウィーンで人を楽しませる事の喜びを覚えたジェシカにも最初に述べたような、人間からすれば「自然な」感情が芽生えつつあった。



それは些細な変化かも知れない。けれど、その辺りがとても重要な意味を持つという事が
分ってくる。



ジェシカはあの日以来リリアンが道具を使って変身させるといきなり「着ぐるみ」の格好で現れる事が増えた。リリアンは初めそれは単に驚かせたいだけなのだろうと思っていたのだがどうも話を聞くと違うようである。


「ジェシカ、その格好気に入ったの?」


「う…うんと、そうじゃない。リリアン、嬉しい?」


「私はジェシカがいる事が嬉しいけれど、着ぐるみだと顔が隠れてて見えないよ…」


「嬉しくない?」


ちょっと元気が無さそうな声である。


「いや、そうじゃなくって、嬉しいのは嬉しいんだけど」


ちなみに今の着ぐるみはリリアンがどこかの商店街で見た事のある少し奇妙なキャラクター「ケロ子」である。カエルをイメージしたものらしいが、捉えどころがない姿である。リリアンが最初に着ぐるみに挑戦させた時にそれほど完成度がそんなに高くないので再現し易かったという理由でそれを選んだのだが、ジェシカはリリアンが一生懸命絵を描いてくれたのもあって、実はこの姿の方がジェシカは変身し易いのである。反応が芳しくないので少ししょんぼりするジェシカだったが、彼はそこで別の作戦を考えていた。


<そうだ。前みたいに外に出てあのキャラクターになればいいんだ>



ジェシカの中で成功のイメージが駆け巡る。名案であるように思えるこの作戦だが、落とし穴があるという事をジェシカが知る由もなかった。



既に人間の姿での生活や人間社会のルールについては基本的な事は了解していたジェシカだが、リリアンはジェシカの外出については慎重でありつつも、道具をしっかり管理すれば人間の姿のままであり、猫が人間に変身しているということがバレる心配もないので、限定的にだが近くの公園までは一人で外出するのを許可していた。そしてジェシカは日課で一日一回、決まった時間に公園に行っていた。猫らしい理由でその時間を選ぶのは公園で日光浴をする為である。



その日の朝、ジェシカは「猫妖怪」の(着ぐるみを着た)姿で変身を遂げたので、リリアンは「今度はこの格好か!」と思っていた。リリアンもこのキャラクターは好きだったので少し喜んだのだけれど、多少そういう演出には飽きてしまっていて、ジェシカとのコミュニケーションもそこそこに仕事に出掛けてしまった。



ジェシカはリリアンが出て行ったあとその格好のまましばらく待機していた。そしていつもの散歩の時間になったのを見計らって、そのままの姿で外に出た。世の中にはそういう変わった趣味の人もいるかも知れないという事は否定できないけれど、一般的な感覚からすると『普通ではない』筈である。ジェシカの意図は単純だった。


「これでみんな喜んでくれるかな?」


散歩という事には変わりはないのだが、何のためらいもなく道を行く「猫妖怪」を見て、比較的少数ではあったが目撃者は一様に驚いていた。なにせド平日の真昼間である。更に「猫妖怪」の知名度が余りにもあり過ぎて、完成度も高いため、様子からして明らかに何かのイベントだと勘違いしてしまった人もいた。



公園に到着ししばらく中央に突っ立っていると、噂が伝わったのか近所の幼い子連れの母親や暇な人達が群がってきて、少し騒然とし始めた。


「・・・・・・・」


騒々しい観客を前に、ジェシカは無言を貫いたが、ハロウィーンでそうしろと言われた時のように手を振り続けた。



「きゃ~可愛い!!!!」


そう叫んだ一人の熱狂的なファンが、ベタベタ触ってきた。どう対応していいのか本当に分らないのでジェシカは少し怯んだ。


「きゃ~!!可愛い!!!」


どんな仕草でも可愛いのか、迫る女性。勿論こんな事になるとは予想してなかったし本能が危険を知らせていたのでジェシカは後ずさりをはじめ、そのまま一目散に逃げ出した。


「あ、何で逃げるの!?」


逃げ出したと言っても、その格好ではスピードが出ない。熱狂的なファンは尚も追いすがり、走りながら写真を撮りまくっている。そして逃げることにしたのはいいが、ジェシカはいつの間にか知らない道に入り込んでしまっていた。とにかく逃げ切る事が出来たものの、気が付くと知らない場所に立っていたジェシカ。



「あれ…ここ何処だろう…」



それはジェシカが初めて体験した「迷子」であった。
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