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徒然ファンタジー16

「まあそういう感じになるよね。自然の采配というわけではないけれど、あるべきところには何かがあるという事なのかもね」



男はハードカバーの古ぼけた本を読んで独りごちた。嬉しさと困惑が綯交ぜになったような気持ちなのかなんとも言えない表情をしながら笑っているが、その雰囲気は悪戯心満載の少年のようにも見える。


「今の僕に出来る事は、とにかく事態を見守る事かな」



彼が読んでいるページの隣の挿絵には少年と女性が仲良く歩いている様子が描かれている。



☆☆☆☆☆



その少年と女性とよく似た姿で歩いているジェシカとリリアン。ジェシカはリリアンに教えられた『他所行きの格好』でそれほど中身は入っていないが新品の深緑のリュックを背負っている。対照的にリリアンはパンパンに詰め込んだ手荷物を持っていて、その中には前日仕事帰りに買ってきたシェリーへのお土産があった。彼等は新幹線と電車を乗り継いでシェリーのいる東北地方のある町に到着し、駅から待ち合わせ場所まで歩いているところである。新幹線も電車も都会のようには混雑していなくて快適な旅ができた二人。特にジェシカは新幹線の速さに驚きながらも楽しみ、通り過ぎてゆく美しい景色に目を奪われ、電車に乗り換えても都会にはないのどかな雰囲気に親しみを感じていた。


「ご主人さま、ここって何だか静かだね」


「そうね。なんだかみんなゆっくりしているように見えるわ」



その駅は改札が一部自動で一部手動だった。駅員が改札の隣の部屋の窓からお客の切符を確認している。その前の駅などは無人駅でとても簡素な造りだった。そういう光景を実際に見ると、そこは別の場所なのだと実感させられる。二人は駅員に『みどりの窓口』で買った券を渡して、小規模な構内に入った。



「ここにシェリーがいるの?」


「そうよ。ここから出て、確か近くのコンビニ…オレンジの建物の所で待ち合わせだったはずよ」



外に出ると少し肌寒く感じられた。駅の正面は斜面になっていて、独特の雰囲気のある建物が両サイドに立ち並んでいたが、土曜の10時頃にしてはここで降りる客が少ないというところや歩いている人の少なさもあってやや寂しい感じもある。正面から右の方に若い武士の銅像があるのが印象的である。



リリアンは左右を確認して、左の方にコンビニを見つけるとジェシカを促して歩き始めた。


「あ、あの車…」


ジェシカはコンビニに停まっている一台の赤々とした自動車に見覚えがあった。あまり車を見ないからこそ良く覚えていたのであるが、まさしくそれはシェリーが以前来たときにジェシカを乗せた車であった。


「あ、乗ってるの京子だわ」


リリアンもジェシカに言われて気付いたようで、そちらに向かって開いた手を思いっきり振りはじめた。だがシェリーはなかなか気付かない。


「ほら、ジェシカも大袈裟にやって!!」


「え…こう?」



二人で大きなアクションをしながら車に近づいてゆくと、ようやくシェリーが車から降りた。


「ようこそ、変なお二人さん」


「何が変なのよ?」


「そんなに手を振らなくても気付いているわよ。だって駅から出てきたのあなた達くらいじゃない」


シェリーらしく冷静な指摘だが気付いていて反応をしないのも意地悪である。


「そりゃあそうだけど、こっちはここ初めてなんだからだったら駅で待ってくれれてもいいじゃない」


「今日は寒いしね、車内を暖めておいたのよ」


そう言われてしまうとなかなか言葉が出てこない。


「さあ、乗った乗った。ジェシカ、前に乗って」


ジェシカは言われた通り助手席に乗った。リリアンは何となく「それでいいのだろうか…」と思ったがあんまり考えないようにした。後部座席に乗るリリアン。


「あ、何か買うものあったらそこで買ってきて良いわよ」


「いいわよ。後で買えば良いし」


「そう」



そして赤々とした車は駅を出発した。
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