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徒然ファンタジー21

そこは人で賑わっていた。車で峠と思われる場所を越えて全体的に山の中にあると言っていい城跡。そこにはひっきりなしにツアーのバスがやって来ていたり駐車場が一杯になっていたりと駅前の様子とは比較にならないほどの賑わいであった。


「凄い人だね」


赤い車から降りるとジェシカが感想を洩らした。何気なく言った一言だが、ジェシカも自分の街でこれくらいの光景は見慣れている筈である。そこまでの道程が比較的静かだからこそその場所が際立っているというニュアンスを含んでいる。


「確かに、一体どこから集まったのか分からないわよね」


リリアンも同じことを感じた。シェリーこと立華京子は一番最後に車を降りて、周りを見渡して一言。


「まあまあかしら」


「何がまあまあなのよ」


「『今年の』よ」


よく分からない物言いだが彼女なりに思う事があったのだと理解する事にして、リリアンは期待を胸に晴天の下を元気よく歩き出した。ジェシカもそれに着いてゆく。


「ご主人さま、何か向こうから声が響いてるよ」


耳の良いジェシカは早速何かを聴き分けたが、それは声と言うより歌であった。懐かしいというのか古めかしいとも時代がかっているとも言える旋律は、菊人形を唄ったものらしい。おそらく何処かに設置されているスピーカーから伝わってくる女性の甲高い声は独特なのだが、城壁がしっかり見えるので何となく全体的にタイムスリップした気分になるかも知れない。年齢的には主におじいちゃんやおばあちゃんと言えるような人々がゆったりとした足取りで傾斜を登ってゆく。


「ここを登っていけば良いのね」


「そうよ、城門があるからそこを潜れば…、ってあ…」


「どうしたのよ」


「ああ、今年はこういう風にしてみたのね」


上の方を城門の手前の方を眺めたまま一人納得しているシェリーだが、ジェシカにも分った。


「あれって人?あの変な格好している2人って…」


「あ…」


一行がそこにたどり着いた時リリアンは少しばかり驚いていたし、ジェシカは混乱しているし、シェリーは感心していた。


「ねぇ、京子。一応説明してくれるかしら」


「これが菊人形よ。綺麗な菊が掛けてあるでしょ。あと足元に菊の花あるでしょ。この人達の名前は説明するととても長くなってしまうからググりなさい」


シェリーが言った通り門の少し手前の所に二体の菊人形が設置されている、というか表情などがかなりリアルに作られたがマネキンより精巧な人形がそこに『立って』いる。両方とも武士の出で立ちである。


「なーんか、何処かでこの顔を見た事があるのよね…」


「多分、みんなそう思ってるはずよ。というよりこの人形って主にその年の大河ドラマの主人公とかに似せて作ってあるものだから」


「まあイケメンで、ジャ〇―ズ的な…?」


立ち止まっていると通り過ぎてゆく人は携帯やデジカメなどでその写真を撮って行く。口々にある芸能人の名前を言っているような気がするが、人形の傍に置いてある名前についてはあまり気にしていないようにも見えた。


「市民だから少しばかり歴史は読み齧っているけど江戸末期の戦争の事で、それほど知られてないかもね」


「そういえば下の方とか、駅前にも武士の銅像があったような気がするわ」


「…説明したいところだけれど、ジェシカにはチンプンカンプンの話よね」


当のジェシカは初めて見る人形を少し不気味がっていた。ただ、作りものだと分ってくると徐々に感動がやってくる。


「うわ~そうか、これが「きくにんぎょう」なのか…凄いなぁ」


純粋な感動である。これくらい喜んでもらえば作った方も喜んでくれるに違いない。と言っても実はまだ会場入りしてすらいないのである。


「会場はこの向こうよ。もっと奥」


「人の流れからしてそうよね、じゃ行くわよジェシカ」


名残惜しむジェシカを引っ張って歩くリリアン。とは言いつつも、彼女はスマホで既に写真を撮っていた。


城門を潜って、敷地内を案内に従って歩いてゆく。途中にはピンクや黄色の色鮮やかな菊が並べてあって、目を楽しませてくれる。開けてきたところで少し登ると、植物の緑色の小さな門が設置してあり、そこから先がメインの会場らしかった。入り口の付近で大人の券を三枚購入し、一緒にパンフレットを貰った。その向かい側はお土産などを売っていたり食事が出来るようだが、食事については先ほど済ませてきたのでとりあえず先に入場する事にした一行。


「どうも今年は「順路」の通りに進まないといけないらしいわね。子供の頃来たときはちょっと違ったような気がするわ」


「ふーん。でも迷路みたいで楽しそう」



リリアンとジェシカがとにかく驚いたのは菊の花の大きさである。よく大輪とは言うけれど、育てるのが大変だったであろうと思われるような大きさでしかも種類が多い。


「結構凄いのね!」


「凄い大きい…」


そして順路に従って歩いてゆくと幾つかの菊人形のエリアがあって、シェリーがパンフレットを見ながら言うには「それぞれのエリアで有名な歴史を再現している」との事である。その中にはかの有名な独眼竜も登場する歴史エリアもあった。


「色々と勢ぞろいしてるわね…」


「史実なんでしょ?」


「そうね。結構歴史がある町だから」


ジェシカにとって幸いだったのは、そういう歴史的な事実を知らなくても純粋に人形として楽しめるという事であった。何しろ色鮮やかであり種類もいっぱいある。ジェシカというファンタジックな存在ですら、不思議な世界にやって来たような感覚になっていた。


「すごい…」



何度目になるか分らないジェシカの「すごい」という言葉はこの後も繰り返された。


☆☆☆☆☆




「あー…なんだか一杯見たからもうお腹いっぱいって感じね…」


一通り見終わった一行。歩いていると案外時間が掛かったが、凝った造りになっているものも多くてリリアンは満足感があったようである。


「…うーん…」


一方でまた難しい事を考えて良そうなシェリー。


「どうしたのよ?」


「門の前の二体にも言える事だけど何だか工夫したようだなって、ちょっと感心半分ね」


「もう半分は?」


「ノーコメント…まあ利用できるものを利用するのは一般的に良い事よね」



その後お土産物を見回る二人とジェシカ。何かカタチの残るものと思って買ったキーホルダーと、何となく食べたかった名物のお菓子。ただジェシカは密かに、


<あの「にんぎょう」ちょっと欲しいなぁ>


と思うのであった。
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