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徒然ファンタジー23

自宅のように寛いでいる間に夕方になりつつあった。丁度その頃、リリアンが先日ジェシカの身に起こった事をシェリーに説明していた。ジェシカが『猫妖怪』の姿で迷子になった日の話である。


「朝から変だとは思ってたんだけどね、まあ結果的に何事もなかったから良かったけど」


「それが私が電話した日の前日の事ね。なるほど、そんなことがあったの」


「うん。大変だった…」


ジェシカはその日の事を今でもまだ少し気にしていた。喜んでもらえると思ってやった事だから、それが上手く行かないという事が納得がいかないというわけではないけれど、自信が無くなってしまう。シェリーは一通り話を聞いた後しばらく何かを考えているのか静かにジェシカの方を見ていた。そしておもむろ「つまり…」と口を開いた。


「つまり…ジェシカは自分からそうしたいと思ったのよね。リリアンとは違ってこれは私の意見なのだけど」


ジェシカは自然とシェリーの話す言葉の先を待っていた。


「ジェシカ、偉いわ」


「えらい?」


「偉い?」


ジェシカもリリアンもそれが意外な言葉だったので戸惑っていた。


「京子それって」


言いかけたところでシェリーに手で制されるリリアン。


「まあ待ちなさいリリアン。私の意見と言ったでしょ?私もリリアンが注意した事は正しいと思うけど、大事なのは気持ちの部分よ。あなたはすんなり受け入れているけどジェシカはやっぱり特別な存在よ。というか、唯一の立場かも知れない」


「唯一の立場?」


「そう。人間のようでいて猫のようでもある。ジェシカなりに考えた場合に、私達とは違う結論になるかも知れない。それでもジェシカは自分でやりたい事を始めたのよ。この事は私としては褒めるべきだと思うのよね」


「なるほどね。言われてみれば、ジェシカの成長とも言えるのかも知れないわね」


リリアンの発言に対してシェリーは彼女が混み入った事情を考える時にするような気難しそうな顔をしていた。少し「うーん」と呻ってから、


「ただしそれは人間の視点から考えた場合の成長よ。正しくは発展ね。それが良いか悪いかは私達でも分らない」


と自論を述べるシェリー。彼女としては考えられる事を素直に述べたつもりだが、リリアンは『友人の面倒くさい部分』が出たなと思った。


「そんなに難しく考えなくてもジェシカがやりたいようにやって、ジェシカも私達も嬉しいんだったらそれでいいと思うけど…」


「そう考えるにしても、ジェシカが悪戯とかではなくてやりたいようにやったんだから私達は喜んでいいんじゃない?結果は結果だけど」



「そうね…。ジェシカの気持ちの部分ね…」


とシェリーの言葉に共感するところがあったのか、リリアンにしては珍しく一瞬真面目な表情になってジェシカに向き合って言った。


「ジェシカ」


「何?ご主人さま」


「うん。ジェシカあの時は「メッ」ってしか言わなかったけどそれは心配だったからで、あなたがみんなを喜ばせようと思った事は良い事よ。偉いわね」


そう優しく語りかけて頭を撫でるリリアン。ジェシカが少し感じていたモヤモヤが何となく晴れてきたように感じた。だがまだ何となくスッキリしない事もあった。それが何なのか、ジェシカにはまだ良く分からないでいた。



「ご主人さま」


「なあに、ジェシカ」


「…うん。なんでもない」


「そういえばリリアン、ジェシカ。夕食、そろそろ準備しようと思ってるのだけれど」


「もうそんな時間か。早いわね、折角だから私も手伝うわ」


「そう、ありがとう」



二人は立ちあがって台所に向かう。ジェシカをそれを見届けると窓の方に寄って行ってぼんやりと外を眺めはじめた。いつもと違う場所に来たという事が実感されるような、綺麗な夕焼けが見えた。



☆☆☆☆☆☆



リリアン曰く「数少ない地元の料理」を2品ほど取り入れた夕食。2品とも素朴な味でそういう料理を初めて食べたリリアンとジェシカの反応は悪くはなかったが、それほど感動したというわけでもなさそうだった。シェリーは人知れず<まあそんなもんよね>と諦めて、気持ちを切り替える。その後テレビを見ながら駄弁るように過ごしているうちに、夜も更けてきた。


「あー、私ちょっと疲れてるから先に寝るわ」


と言って先に布団の敷かれている部屋に向かうリリアン。


「おやすみ、ご主人さま」


「おやすみ、ジェシカ、京子」


ジェシカが平然としているので「もしかして」と思ってシェリーは訊いた。


「ねえジェシカ、あなたのご主人さまっていつも大体このくらいになると眠るの?」


「うん、そうだよ。『朝が早いから』って、先に眠っちゃうね」


「ジェシカはどうしてるの?」


「俺は眠くなったら眠る。いつもはこの姿じゃないけど」


「ああ、そうだったわね…」


またしても本来は猫だという事を忘れかけていたシェリー。改めてジェシカと二人きりになると色々訊いてみたいことが出てくるのだが、何を訊けばいいのかまとまらない。するとジェシカが何かを見つけたのか立ちあがって、部屋の隅に置いてある本棚の方に向かった。


「シェリー、これって」


「ああ、前そっちに持ってった『黒猫の置物』の事よね」


以前シェリーがリリアンの家を訪れた時気紛れに持っていった物だったのだが、それ以降目に留まるところに置いておくようにしている。


「そういえばあの時…。」


「何か気になる事でもあったの?ジェシカ?」


「うんとね迷子になった時に、こういう奴に助けてもらったんだよね。白黒だったけど…」


「こういう置物に?」


「そうじゃなくって、本物。迷子になった場所にいた奴なんだけど、公園まで案内してくれたんだよね」


ジェシカらしい説明にシェリーは所々想像で補うのだが、「奴」というのがどうも本物の猫の事を指しているらしいという事に気付いた。


「もしかして、そこに猫がいたのね。白黒の」


「そう!!それでね、何だかその時すごく不思議な気持ちがしたんだよね」


「不思議?」


「うん。何か俺とは違うんだけど、同じ、みたいな。仲間ではないけど、意地悪するわけでもないし…」


「なるほどね…。もしかしてその猫はジェシカの事が猫だって分ったのかも知れないわね」


「でも俺その時、もっとブカブカの格好だったから」


ジェシカの言っているのは「猫妖怪」の着ぐるみの事である。確かに見た目だけでは仲間だと感じるのは難しい筈である。


「それでも分ったのかも知れないわ。何せ、「アレ」は不思議な道具だから」


「でも、それだけじゃないんだよね」


「他にもあるの?」


「難しいんだけど、そいつが何かを教えてくれたように感じたんだ」


「そう…。それはもしかして猫同士にしか分からないような事なのかも知れない」


「でも、なんかよく分からないんだ」


ジェシカの言いたい事はシェリーには何となく分るような気がした。ジェシカはそこで自分がどういう存在なのかを自覚し始めた。でもシェリーでも頭を悩ませるような存在だから、自分がどうあるべきかについて悩み始めているのだろう。一通り考えてみて、


「やっぱりここでもこの『猫』なのね…」


とシェリーは独り言を言う。そして一呼吸置いてジェシカに言う。


「ジェシカ、私にも分らない事はあるわ」


「シェリーにも?」


ジェシカにとっては意外な事だった。シェリーは真面目なトーンで話す。


「そう、私にも分らない。ジェシカをその姿になれるようにした人が何を考えているのかとか、この『置物』は何なのかとか」


ジェシカはシェリーの言うことを真剣に聞いていた。


「でもね、大切なことはすぐに分らないからって考えないようにする事でもなければ、ずっと考え続ける事でもないと思うの」


「どうするの?」


「ふふ。私がちょっと前に言った事と同じなのよ。ジェシカはリリアンとの生活は楽しい?」


「え…楽しいけど?」


「ずっとそうしたいって思う?」


「うん。ずっと一緒」


「…まあそれはそれで羨ましいのだけれど、そうしたいって気持ちに正直であればいいのよ。そこであなたは生きている。分らない事は分った時には「そうだな」って思って、分らないなら「分らない」って、そういう毎日で良いと思うの」



「「分らない」ってこと…」



「まあ難しく考えるか、単純に考えるかは人それぞれだと思うけどね…ってちょっと難しい話よね」



「うんと、なんか…。分らないかも…」



「それでいいのよジェシカは。それに、あなたは一人じゃないわ」



「一人じゃない…」



「私とリリアンがいるわ」



「うん」



「特に、私が居るわ!」



「う…うん」


さりげなく自分の事を強調するシェリーにたじろぐジェシカであった。
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