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徒然ファンタジー26

ゆったりとした足取りでジェシカとリリアンが店に戻って来たとき、扉を開けると話し声がした。お客が来ているようだった。シェリーが居るレジの方を見ると、少し背の低い人が彼女と至近距離で会話していて、声から少し年を召した女性であることが分った。リリアンはその声には聞き覚えがあってその人もどこかで見た事があるような気がするなと感じていたが、咄嗟に先ほど和菓子屋で入れ違いになったおばあさんだという事に気付いた。


「あら、お客さんみたいよ」


おばあさんもリリアン達に気付いたようだが、その様子が親しげで大分シェリーに慣れているようなトーンだった。相対するシェリーの方も普段とはどことなく違った雰囲気で、お客さんと話している風ではなかったように思えた。


「おばあちゃん、あの二人が今話した私の友達よ」


「えー、そうなの!あの二人が」


話から想像するに先ほどまでジェシカとリリアンの事を話していたようである。


「京子、その方は常連さん?」


「常連ではあるけど、普通の常連じゃないわね」


「普通じゃない?」


シェリーの謎かけのような言い方にジェシカも首をひねって不思議そうな顔をしている。紹介されたのでカウンターの方に近づいていくとおばあさんの方から深々と丁寧な一礼があって、ゆっくりと話し始めた。


「京子ちゃん、お友達にいじわるしちゃダメよ。どうも初めまして、わたし京子ちゃんの祖母の洋子と申します」


突然の事にリリアンは吃驚してしまった。ジェシカの方はまだ何の事か十分わかっていないらしく、「ご主人さま、『そぼ』って何?」と小声で聞いていた。


「ジェシカ、前に話した私のおばあちゃんよ」


見かねたシェリーがフォローする。


「おばあちゃん…この人がシェリーのおばあちゃん」


シェリーの祖母である洋子はジェシカの口から『シェリー』という名が発せられるとニコッと笑った。


「京子ちゃん、この人にあの名前で呼んでもらってるのね!初めまして、あなたがジェシカ君?」


自分が話しかけられると思ってなかったジェシカはほんの少し身構える。今のやり取りで優しそうな人だという事は何となく分っているが、『ジェシカ君』と呼ばれたのは初めてなのでどう返事したらいいのか迷った。


「あの…俺…、ジェシカ…」


どうも自分で確認するような喋り方になってしまったが、洋子の方はそれで満足したらしく笑顔で「よろしくね」と言って、今度はリリアンの方を向いて言う。


「あなたが京子ちゃんと同級生だったリリアンさんね。孫と仲良くしてくれてありがとうございます」


そのまま握手を求められたのでリリアンもそれに応えて言う。


「こちらこそ、京子には良くしてもらってます。おばあさんに会えて嬉しいです」


「あら、そう言ってもらえて嬉しいわ。京子ちゃん、とっても良い友達じゃない」


「おばあちゃん嬉しいのは分かるけど、随分はしゃいでるわね」


「そりゃあそうよ京子ちゃん。お友達っていうのはとても大切なのよ」


「ふふふ。前からリリアン達の事少し話してたんだけど、おばあちゃんあなた達に会いたがってたのよ。今日来てくれたから良かった」


「そういうことだったのね。ところで…京子…」


リリアンは急に神妙な顔つきでシェリーの隣に移動して耳打ちをする。


「…おばあさんにジェシカの事、なんて紹介してるの?」


それに応えるようにひそひそ声でリリアンに話すシェリー。


「…訳あって一緒に暮らしている男の子という事にしているわ」


「…それじゃ誤解を招くじゃない」


「…でも間違ってはいないと思うわ」


そうしている間に洋子はジェシカの方に興味を示しているらしく、彼女の方から話しかけ始めた。


「ジェシカ君、あなたこの町は初めて?」


「は、はい。遠くに来たのも初めてです」


「へぇー。歳は幾つ?」


「歳?えっと…2歳です」


「2歳?」


「ああああああ、洋子さん!!!ジェシカは、その、ちょっと時々変な事を言うんですけど、あの、多分15歳くらいです!!!」


訊かれたことの受け答えが危ない内容だったで、すかさず話に割り込むリリアン。


「お、おばあちゃん、折角だから少し奥で話しましょう。お茶を出すわ」


「あら、大丈夫?じゃあ、そうしましょうか」


シェリーも誤魔化すように提案する。洋子は少しだけ不思議そうな表情だったが、時間を取って話が出来るというという事を喜んだようで、いそいそと奥の部屋に入ってゆく。


「あぶないわね…ジェシカがある程度答えられるだけに、かえって誤魔化すのが大変だわ…」


「ジェシカの方は誤魔化すという事を知らないというのか、何を誤魔化したらいいのか分からないのかもね…」


洋子が奥に行った後で胸を撫で下ろした二人。これからどういう事に気を付けるか少し相談し合う。


「おばあちゃんってああいう人だったのか…」


一方でジェシカは洋子に対して興味津々である。


☆☆☆☆


一同は奥の部屋でそば茶を啜る。シェリーは時々席を外して接客に出るが、しばらくゆっくりと話をしていた。


「それでね、京子ちゃんが店を始めるって聞いた時にはとってもビックリしたんだけど、凄く良いなってわたしは思ったの」


洋子は楽しそうにシェリーの店について話す。話によると、週に一回くらいはこの店を訪れているらしい。リリアンは比較的早いうちに二人の祖母とは別離してしまっているのであまり話した記憶はないのだが、自分の事をこんな風に見守ってくれる人がいるとしたらとても心強いし嬉しいだろうなと想像した。ジェシカに至っては肉親というものがあまりピンと来ないのだが、その穏やかで自分が陽だまりにいるような気持ちにさせてくれる洋子にリリアンとはまた違った安心を感じていて、自然と洋子の方に近づいて話を聞いていた。


「シェリーは凄い。一杯色んな事を知ってる」


ジェシカも自分なりに一生懸命シェリーの凄さを語る。その姿を見た洋子はまた嬉しそうに微笑む。


「ジェシカ君も京子ちゃんの事見ていてくれてるのね。ありがとう。そういえばジェシカ君は今学校に行ってるの?」


「あの、そのジェシカは何というか…」


油断していたがまたしても答えに困る質問。洋子が既にジェシカの事が気になっていて無関心ではないから自然に訊いてしまうのだが、ごくごく普通の質問であるだけに誤魔化すのが難しい。


「おばあちゃん、ジェシカはね今ちょっと色々頑張ってるところなのよ」


シェリーも心を許している祖母に対して嘘がつけないのか、どうしてもあやふやな誤魔化し方になってしまう。


「そうなの…。どうやら何か事情があるみたいね」


「えっと…どうすればいいかしら」


さすがに自分でも動揺した「ジェシカが猫である」という事実をそのまま明かすわけにはいかず、運悪くジェシカを猫に戻す道具もリリアンの家に置いて来てあるので実際に見せて証明する事も出来ない。いや、見せてしまったらあまりのショックで、というような想像をしてしまうリリアン。沈黙が訪れそうになった時、口を開いたのは洋子だった。


「素直にで良いのよ」


「「え?」」


「言えない事があっても、それは無理に言うことじゃない。自分が素直に言えるところまで言えばそれで良いと思うの」



洋子の発言には何かしらの重みが感じられた。ジェシカはその言葉を聞いて何か言うべきだと思った。


「俺、本当はこの姿じゃないんです。本当の姿はこの姿じゃなくって、でもご主人さまとは一緒だし、シェリーともぴったり離れないで一緒に居るしそれは変わらないんだけど、俺も時々迷うことがあります。自分がどうしたら良いか」



多分ジェシカにとってはこれが素直な考えだったのだろう。『猫』という言葉は出てこないけれど、本質的には今言った事がジェシカにとっての問題であり、ジェシカにとって大切な事だった。洋子がジェシカの真剣な目を見てそれを聴きながら、じっくり頷いて何かを想っているのが見て取れた。躊躇いがちにだが、ジェシカの言った内容を確かめるように洋子は静かに語り出す。


「もし、本当の姿ではないとしても…あなたが二人を大切に思う気持ちは本物。思うのだけれど、その気持ちからそのまま出てきた事ってあなたがしたい事からそんなに離れていないはず。自分の姿がどうだからってそれは変わらないとわたしは思うわ」


ジェシカと洋子は言葉を交わし見つめ合った。洋子がどういう気持ちで、ジェシカがどういう状況に置かれているのかをどう考えたのかは必ずしも正確ではないかも知れないが、その受け答えは確かに何か大切なことを伝え合っていた。分らない事があるけれど、相手の言っている事を素直に受け取っているからこそ、そういう答え方になると。


「この気持ちから出てくる事…」



洋子の言った事はその前の夜にシェリーが言った事と通じる事だった。だがジェシカの本当の姿を知らない筈の洋子だからこそジェシカの気持ちや目線に立って同じところから、『ジェシカ君』としてアドバイスをしてくれたという事に意味がある。少なくともジェシカは「この姿の自分に言われた事」として、洋子の言葉が理解できた。



「あの、俺、おばあちゃんが好きです」



ジェシカのジェシカらしい言葉である。洋子はそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。



「わたしもよ、ジェシカ君」



姿は違うけれど、『おばあちゃんの膝の上で眠るキジトラの猫』の光景がリリアンとシェリーの脳裏に浮かんでいた。
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