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ニアミス

10月下旬の日曜。欲しい物があるというというより近況報告のつもりであの「店」を訪れる事にした。時が経つのは早いもので、特に「そら」の著しい成長を見ていると時間の経過というもの如実に感じる事が出来て、それに伴うようにスマホに撮り溜めてある写真も相当量になってきた。

猫の、特に白い毛がより映えるようになってきた「そら」の写真はまるで親ばかのような話であるが誰かに見せたくなる。と言ってもネット上にちらっとアップロードしてみるのが積の山で、誰かに見せているのか見られているのかよく分からない。本音を言えばそういう理由も少しあって「店」の主人の立華さんに近況報告と称して猫の様子を見てもらったりしているのである。


本音を言ってしまうと店に行く理由はそれだけではなくて、比較的近い年頃の女性と気兼ねなく会話できるというのが大きいのかも知れない。実際、店主に惹かれている自分がいて、基本的には人との付き合いはあまり得意ではない自分も話し易い雰囲気で、ついつい色んな事を喋ってしまう。そして一方的に自分が話しているだけかというとそうではなくて、立華さんの方からも主に「店」の事について「ここをこうしたらいい」という意見を求められたりもして見方によっては客と売り手という関係からは少し逸脱するようなところがある。



もっとも、それは最初に私がここに来たときからだった。



その日、昼前に市内に着いたらまず駅前のコンビニに立ち寄った。明確に何かを買うつもりだったというわけではないがここにあると一応入りたくなる。流石にこの時間だから人がいて、年の離れた姉弟のような人達が冷蔵庫の前でじっくり飲み物を選んでいたのが印象的だった。荷物を持っているところからすると旅行客なのかなと漠然と思った。結局私はここでは何も買わず、取り敢えず「店」に向かう事にした。



「店」は商店街の外れなので距離がそこそこあるのだが、そこまで歩いている人は本当に少ない。自分も車で行っても良いのだが、折角来たのだから商店街を歩きたいという気持ちもある。子供の頃、もう少し賑わっていた商店街でゲームショップなどが何気なくあった事を思い出したりしながら歩くのもなかなか良いものである。10月の始めにはこの辺りで「祭り」があってそれもちらっと見に行ったのだが、夜の独特の雰囲気は中学生だった時に友人と掘り出し物を探していた時の自分が感じていたものと同じだったかもしれない。



とそんな事を考えているうちに店もまばらになってきて、いよいよ「店」が見えてくる場所にやって来る。この日は前日が少し寒かったのだが天気が良く比較的暖かい日で、「店」も日の光で鮮やかに見えた。


「ごめん下さい」


扉を開けて店主に分るようにすぐに声を掛ける。立華さんは私を認めると少し驚いた表情をした。


「あら、まさかそうなるとは…」


「どうしたんですか?」


カウンターの方に向かいながら発言の意図を訊いてみる。


「う~ん…また説明に困る展開だわ。こうなると私からも訊いてみたい事があるのよね。じゃあ、こっちで」


と言って、これで何度目かになる奥の部屋に案内される。部屋のテーブルには茶碗が4つほど並んでいて、誰かが先に来た形跡なのかも知れないと私は思った。私の視線から察したように立華さんは言う。


「そう。さっきまで人が来ていたの。友人と、祖母…という組み合わせね」


「え…そうだったんですか。いつ頃ですか?」


「祖母は少し前だけど、ちょっと遠くから来た友人は昨日から来ていて、お昼前にここを発ったの」


「ん…とするなら、もしかすると駅で見ていたかも知れませんね」


「時間的にはそうかもね。私と同い年の女の子と、高校生くらいの男の子よ」


私はその言葉を聞いているうちに、高校生くらいの男の子というところで何かに引っかかる事に気付いた。それが何だろうと思った時に、まさにその条件に合う人をコンビニで見掛けたという事を思い出したのである。

「あ、私駅前のコンビニで高校生くらいの男の子見ていたような気がします。リュックを背負って荷物持ってたから旅行に来ているのかなと」


「ビンゴね。時間的にもあなたが寄った時間と、あの子達がそこに着いたのも同じくらいのはず。あ、それと…」


と言って、立華さんはそこに置いてあったデジカメを取って操作し始める。すぐにそこに表示された写真を見せてくれる。


「実はさっき、店の前で三人で記念写真を撮ったのよ」


そこには朗らかな表情で三人仲良く並んだ写真が表示されていた。女の人の顔はあまり見ていなかったものの真ん中に立っている男の子は服装からして明らかに先程見た少年だと確信できた。


「あ、この人ですよ。真ん中の男の子。弟さんですかね?」


「…弟といえば弟みたいなものだけど、一応彼女の親戚の子という事になっているわ」


「え…なんですかその設定のような言い方は」


「実を言えば、あなたに以前見せた「少年になった猫」と言った筈の写真と同じ子よ」


「そういえば、見せてもらいましたね。そうだったのか、その人が来ていたのか」


「ジェシカって言うんだけどね…」


「ジェシカさん?ジェシカ君?」


「『君』よ」


「あの、申し上げにくいのですが、それって所謂最近のキラキラネームってやつでしょうか?」


立華さんは悩ましい複雑な表情になり、その後困ったように私に言った。


「キラキラネームと言うのはむしろ隣の女の子、私の古くからの友人の方ね」


「え、そんなに凄い名前なんですか…」


「私はあんまり気にしないんだけど、本人は相当気にしているから」


「そ…そうなんですか」


何となくその話題については聞きづらい状況になった。ただとにかく男の子が「ジェシカ君」という事が分ったので、その人の話をもう少し聞いてみる事にした。


「ジェシカはね、前にも言ったけれどとにかく『猫』なのよ…」


「それは比喩とかではなしにですよね」


立華さんはそう言った私の目を見つめ、何かを窺うような間があった。そして少し遠くを見つめるような表情に
なって、


「多分、私の勘なのだけれど、あなたの『猫の置物』と私の『猫の置物』の効果の差が如実に現れているのね。普通の男の子という印象を持ってしまうと…特に段々ジェシカも慣れてきているから特にそうなんだけど、今更『猫』です何て言って信じてもらう方が大変だって思う」


と言った。以前立華さんと話した時には、私は「何であれ今すべきことするのには変わりない」という事でまとめたのだが、同時にそれは私が「彼が猫だ」という事を保留したままでも答えられる事だった。


「確かに信じるのは難しい…というか、立華さんがからかっているわけではないというのが態度で分るんですが、それでも自分で見ない事には信じられないというのが人間の性ではないでしょうか」


言われた通りの事を信じるのは難しい。とはいえ真剣で、しかも私がどう感じるのかまでをしっかり考えている立華さんを疑うこともまた難しい。


「そうね。むしろ私もそう言われてはいはいと信じてしまう方が何か違うように思える。だからこそなのだけれど、もし、仮にそうだったという仮定で考えてみたらどう思う?『ジェシカは猫である』という命題を…」


「仮に…ですよね。それはとんでもないことだと思います。というか、明らかに私が見ても普通の高校生にしか見えないような男の子が、私の飼っているのと変わらない『猫』であるなんて、事実だとしてもあり得ないと思ってしまうような気がします」


「そうだったわね。あなたも実際に『猫』を飼っているのだから、よく分かるはずよね」


「そうですよ。ってこんな時に見せるのはなんですが、私も「そら」の写真を一杯撮ったのでちょっと見てもらいたくて…」


と言って、私は立華さんに当初の予定通り「そら」の成長記録のような写真を見てもらう。


「あら、大分大きくなったわね。確か女の子よね」


「そうです。拾ったのが生後2ヶ月くらいだったから、今は3、4ヶ月というところでしょうか。本当にすくすくと成長して」


「ふふふ。やっぱり猫を飼う人はみんな親ばかになっちゃうのかしら」


「そうですね。やっぱり可愛いですもの」


「そうよね。私も猫を飼いたくて…というかジェシカを…いや…何でもない…」


自分に言い聞かせるようにして首を左右に振る立華さん。真面目そうに見えて少しお茶目なところがある人だなと思ったりした。今もそうだが「ジェシカ君」を本当に猫として自然に語っている立華さんを見て、私はそれとは別に少し思った事があった。


「答えになるか分りませんが…」


「うん?」


「『ジェシカ君』が猫だとしたら、それは凄いことだしどうしてそうなったのか気になってしまうところですが、一方で夢があるなと思います。だって、出来れば誰だって自分の飼っている猫と喋ってみたくなるでしょ?」


「それはそうね」


「騒ぐのは多分、現代の科学でいえば非科学的な事を受け入れられない人達であって、驚きながらも起り得る事は起り得ると受け入れられるのが本来の人間のような気がします。まあ常識が変わってしまうでしょうけどね」


「まあ、確かに私達はジェシカの事ではなく自然の脅威とかある意味で非日常を経験したとも言えるのよね…」


「ええ、あの日から数日で私達の常識は変わってしまった部分がある」


何かを確認し直すようにゆっくり頷きながら立華さんは言った。


「そう。私達は当たり前の生活が大切だと学んだ。そういうものを守るために続けてゆくために…」




なんだが最後は真面目な話になったけれど、家に帰ってから出迎えてくれた「そら」をギュッと抱きしめた私は『ジェシカ君』の事がちょっと頭にあったのか血迷った事を言ったのだった。


「そら、お前も喋ってくれるくらいしてくれてもいいんだぞ」


すると「そら」はそれに応えたのか、ただ抱擁から逃れたかったのか


「にゃにゃにゃー」


と可愛らしい声で鳴くのだった。
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