徒然ファンタジー28
ここしばらく冬のような天気が続いている。11月も半ばとなれば部屋に暖房器具が必要になってくる。シェリーの店、兼自宅に訪れた時にジェシカが気に入っていたコタツをリリアンも改めて欲しくなってしまい、11月の初旬には近くのホームセンターで購入し送り届けてもらっていた。元の姿であろうと人間の姿になろうと本能なのか変わらずコタツに深々と潜ってうたた寝をしているジェシカを見ていると何となくこれが正しい過ごし方なのではないかと錯覚しそうになる。一方、日常らしくテレビを見ながらコタツのテーブルに置いたノートPCでインターネットの情報を漁っていたリリアンはその和式スタイルというべきものの良さをしみじみと感じていた。
ただリリアンはこの『団欒』のイメージと年も暮れかかっている時期という事で何か大切なことがあるような気がし始めていた。それが何なのかが思い出せないが、どこかしら危いような気がしないでもない。参考になるかどうか分らないが、一応ジェシカに訊ねてみる。
「ねえ、ジェシカ。何か忘れているような気がしない?」
対して半分寝ているジェシカは、
「う、うーん。ご飯かな?」
と自分の欲望がだだ漏れである。<さっき食べたばっかりじゃない…>とつっこみたくなるのを堪えてもう一度自分でよく考えてみる。
「年末…。年末、正月…」
ぶつぶつ呟いているうちに突然、
「あ!!!!」
と大きな声を上げるリリアン。それに驚くジェシカ。
「どうしたの!」
思わず寝転んでいたところから身を擡げてリリアンの様子を窺うと、口があんぐりと開いたまま固まってしまったように動かない。
「大丈夫?」
ジェシカが心配そうに声を掛けると、何を思ったかリリアンはジェシカを凝視する。そして、困ったような表情になったかと思うと、一転して「まっ、いっか」と口にしてまた何事も無かったかのようにパソコンの画面を見始めた。
「何があったの?ご主人さま…」
説明が無いのでジェシカは戸惑うのだがリリアンに質問すると彼女はまた困った表情になり、
「うーん…何て説明すればいいのか…」
としばし「うーんと」と繰り返して何かを整理しているようだった。
「えっと、ジェシカの家はここでしょ?」
何故それを聞いたのかよく分からないままジェシカは「うん」と頷いた。
「みんな普通、家っていうのはあるんだけど多くの人には『実家』っていうのがあるのよ」
そう、リリアンはジェシカに『実家』という言葉を教えようとしていたのである。
「じっか。どういうの?」
「簡単に言えば、私のお父さんとお母さんが住んでいる家の事ね」
「ご主人さまのお父さんとお母さんが住んでいる…家」
ジェシカはその説明で一応納得したのだが、実はもっと初歩的な事実に驚いていた。
「ご主人さまってお父さんとお母さんがいたんだ…」
「当たり前でしょ?」
反射的に答えてしまったがよく考えてみればジェシカは両親に会った事がないし、ある意味で別々に暮らしている家族が居るという事はジェシカの中では不思議な事なのかも知れない。
「まあ、お父さんとお母さんがいるんだけど人間の世界ではね、毎年もう少し経った頃に一時的にその『実家』に帰るのが普通というか、半分約束のようなものなの」
ジェシカにも分るように噛み砕いて説明するのだが、どうも説得力に欠ける内容になってしまう。
「じゃあご主人さまも帰るの?」
「…帰らないと思う」
「約束なんでしょ?」
「そうなんだけど、必ずしも帰らなくてはいけないというわけではなくて…何しろジェシカが居るし…」
「どうして俺が居ると帰らなくていいの?」
「…。」
ジェシカにそう言われてしまうと立つ瀬がなくなってしまうのだが、去年、一昨年などはまだジェシカも小さくて心配だったし事情を説明したら両親も納得してくれたのでいつの間にか帰らなくても良いという雰囲気が出来あがっていたのも事実である。ただ今年は大分事情が違う。猫のままでも2、3日は何とかなるだろうしいざとなったら人間の姿で留守番を任せてもいいのかも知れない。ちょっと無茶をすれば実家に連れていける…かもと思ったりしたが両親に説明するのが面倒そうである。先程帰省の事を思い出してリリアンが考えていたのはこの事であった。結局、去年と同じ理由で帰らない事すれば楽なので「ま、いっか」になったわけである。
「一応訊くけど、ジェシカは私のお父さんとお母さんに会ってみたい?」
「え…うん」
「うーん…でもそうなるとジェシカの事、何て説明すればいいのか…」
両親なので『親戚』という手は使えない。ありのままを伝えても信用されないというか頭を疑われそうだし、猫の姿で連れて行くにしてもジェシカは猫の姿になると意思疎通があまり出来ないので移動中心配である。
「どうしてもっていうなら、移動中はそのままで家の前で猫にするか…」
どこかしら不安な作戦だが、これ以上いい方法は思いつかない。ただ、どちらにしてもまだ時間はあるのでとリリアンはあまり焦ってはいなかった。
ただリリアンはこの『団欒』のイメージと年も暮れかかっている時期という事で何か大切なことがあるような気がし始めていた。それが何なのかが思い出せないが、どこかしら危いような気がしないでもない。参考になるかどうか分らないが、一応ジェシカに訊ねてみる。
「ねえ、ジェシカ。何か忘れているような気がしない?」
対して半分寝ているジェシカは、
「う、うーん。ご飯かな?」
と自分の欲望がだだ漏れである。<さっき食べたばっかりじゃない…>とつっこみたくなるのを堪えてもう一度自分でよく考えてみる。
「年末…。年末、正月…」
ぶつぶつ呟いているうちに突然、
「あ!!!!」
と大きな声を上げるリリアン。それに驚くジェシカ。
「どうしたの!」
思わず寝転んでいたところから身を擡げてリリアンの様子を窺うと、口があんぐりと開いたまま固まってしまったように動かない。
「大丈夫?」
ジェシカが心配そうに声を掛けると、何を思ったかリリアンはジェシカを凝視する。そして、困ったような表情になったかと思うと、一転して「まっ、いっか」と口にしてまた何事も無かったかのようにパソコンの画面を見始めた。
「何があったの?ご主人さま…」
説明が無いのでジェシカは戸惑うのだがリリアンに質問すると彼女はまた困った表情になり、
「うーん…何て説明すればいいのか…」
としばし「うーんと」と繰り返して何かを整理しているようだった。
「えっと、ジェシカの家はここでしょ?」
何故それを聞いたのかよく分からないままジェシカは「うん」と頷いた。
「みんな普通、家っていうのはあるんだけど多くの人には『実家』っていうのがあるのよ」
そう、リリアンはジェシカに『実家』という言葉を教えようとしていたのである。
「じっか。どういうの?」
「簡単に言えば、私のお父さんとお母さんが住んでいる家の事ね」
「ご主人さまのお父さんとお母さんが住んでいる…家」
ジェシカはその説明で一応納得したのだが、実はもっと初歩的な事実に驚いていた。
「ご主人さまってお父さんとお母さんがいたんだ…」
「当たり前でしょ?」
反射的に答えてしまったがよく考えてみればジェシカは両親に会った事がないし、ある意味で別々に暮らしている家族が居るという事はジェシカの中では不思議な事なのかも知れない。
「まあ、お父さんとお母さんがいるんだけど人間の世界ではね、毎年もう少し経った頃に一時的にその『実家』に帰るのが普通というか、半分約束のようなものなの」
ジェシカにも分るように噛み砕いて説明するのだが、どうも説得力に欠ける内容になってしまう。
「じゃあご主人さまも帰るの?」
「…帰らないと思う」
「約束なんでしょ?」
「そうなんだけど、必ずしも帰らなくてはいけないというわけではなくて…何しろジェシカが居るし…」
「どうして俺が居ると帰らなくていいの?」
「…。」
ジェシカにそう言われてしまうと立つ瀬がなくなってしまうのだが、去年、一昨年などはまだジェシカも小さくて心配だったし事情を説明したら両親も納得してくれたのでいつの間にか帰らなくても良いという雰囲気が出来あがっていたのも事実である。ただ今年は大分事情が違う。猫のままでも2、3日は何とかなるだろうしいざとなったら人間の姿で留守番を任せてもいいのかも知れない。ちょっと無茶をすれば実家に連れていける…かもと思ったりしたが両親に説明するのが面倒そうである。先程帰省の事を思い出してリリアンが考えていたのはこの事であった。結局、去年と同じ理由で帰らない事すれば楽なので「ま、いっか」になったわけである。
「一応訊くけど、ジェシカは私のお父さんとお母さんに会ってみたい?」
「え…うん」
「うーん…でもそうなるとジェシカの事、何て説明すればいいのか…」
両親なので『親戚』という手は使えない。ありのままを伝えても信用されないというか頭を疑われそうだし、猫の姿で連れて行くにしてもジェシカは猫の姿になると意思疎通があまり出来ないので移動中心配である。
「どうしてもっていうなら、移動中はそのままで家の前で猫にするか…」
どこかしら不安な作戦だが、これ以上いい方法は思いつかない。ただ、どちらにしてもまだ時間はあるのでとリリアンはあまり焦ってはいなかった。
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