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徒然ファンタジー29

『まだ大丈夫だろう』、とかくそういう判断をしがちである。そしてそんな風に油断している時に限って予期しない事が起ったりする間が悪い人がいるのかも知れない。もっとも、常に何が起るか分からないというような気持ちで過ごし続ける事は実際問題として大変だし、極論をいえば先の事は何が起るか分からないのだから予め考えておいても無意味だという判断も出来てしまう。


そういう風に分析してみるとその時のリリアンに落ち度があったわけではないのかも知れない。とはいえ起こってしまった事をどうにかしないといけないのもまた彼女自身なわけで、せめて誰かのようにもう少し色々根回しをしていた方が良かったと後悔するのも彼女なのである。


月末になり、リリアンとジェシカは相変わらず何事もなく生活していた。時折シェリーから来る近況を訊ねるメールの返信の文面にも「何事もない」と加えるくらい本当に特筆すべき事は何もなかった。リリアンにとっては最早普通の事となったジェシカとの外出や外食、最近はまっているパワースポット巡りなどのちょっとした遠出も含めてごくごく普通にこなしていた。事態を知っているシェリーからしてみれば『何事もない』事の方が安堵できるのでその返信で問題はないのだが、順調すぎて油断してしまっていたのかも知れない。



土曜。トーストとサラダという組み合わせで軽めの朝食を取っていたリリアン。膝の上には猫の姿のジェシカを乗せている。食べたり、背中を撫でたりしながら<今日は何をしようかな>と軽く計画していた。上機嫌の彼女はその時一通のメール通知があった事に気付かないでいた。そしてたまたま続いて届いた会社の仲間に頼んでおいたちょっとした調べ物の報告のメールの方に気を取られすぎて、一つ前の重要なメッセージを確認しないままになってしまった。


「あ、これこれ。こういう本があったのね、後でチェックしなきゃ」


既に計画は出来つつあった。先程メールで確認した仕事に関係した書籍を探しに少し大きめの書店に行く事に決めたのである。


「そういえばジェシカは本屋さんってあんまり行った事なかったっけ?」


「にゃ~」


猫の姿のジェシカではあるが、人間の姿での生活において学んだことで「ジェシカ」と呼ばれた時には普通の猫よりも反応しやすくなっている。『ごはん』のように簡単な言葉なら猫は覚えるけれど、ジェシカは猫の状態でももう少し言葉を識別しているようだった。といっても、人間で言えば寝ぼけている状態で聞いているような感じで認識するので完全に理解しているわけではない。それでも相槌のように「にゃ~」と返事する事も多い。


「ジェシカなら普通の本じゃなくて絵本とか漫画とかの方が読めるようになるかも…」


リリアンは最近ジェシカに一層色んな経験をさせたいと思うようになっている。それはジェシカの為なのか、ジェシカに自分達の事を知ってもらいたいからなのか、ただ同じ事で楽しめるようになって欲しいからなのかは分からない。ただ、ジェシカなりの見方で色々な事を喋ってもらえるだけでリリアンは嬉しいし楽しいのである。表現を学ぶという意味ではちょっと漫画などを読むだけでも発展がありそうだなとリリアンは思った。あとは単純にジェシカに大きな書店を見せてみたいという気持ちも起こってきた。


「よし、決定!!ジェシカ君、変身の時間よ」


丁度サラダも食べ終わったので皿を持ってキッチンに向かうついでに無造作に箪笥の上に置いてあった『あの道具』を片手でとって慣れた手つきで捻る。いつものように人間の姿になるジェシカ。リリアンが話している事を何となく理解していたのか今日はよそ行き用の服装で登場する。


「さすがジェシカ、分ってるわね」


「おはよう、ご主人さま」


「おはよう」


皿を片付けてジェシカに向き直るリリアン。


「今日は何処に出掛けるの?」


「今日はね、書店に出掛けます」


「しょてん?」


「そう。本が一杯あるところよ」


「本って、字がびっしり書いてある紙でしょ?」


「そうだけど、色んな種類の本があるのよ」


「へぇ~」


実際こういうのは『百聞は一見に如かず』である。そして書店の独特の雰囲気は書店でしか味わえないのかも知れない。人間の事、文化について知るにはやはり本という媒体抜きには考えられないし、その雰囲気を味わえば本を巡って日々色んな人が動いている様子ももしかしたら伝わるかも知れない。そしてそれをどう思うのかはジェシカ次第である。
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