FC2ブログ

徒然ファンタジー30

やや大型といえる書店にやって来たリリアンとジェシカ。入ってすぐジェシカはその独特の雰囲気に気圧されそうになっていた。人が大勢いる割には異様に静かなのである。

「ご主人さま、なんかみんな変だよ」


思わず小声でリリアンに告げる。


「ああ、こういう所では静かにしないといけないのよ」


「どうして?」


「本を選ぶからじゃない?うるさいと集中できないから…かな」


「へぇ~」


実際のところは分からないがうるさい書店には入りたくないはずである。ジェシカは戸惑いながらもすぐに店内にある様々な本に魅入られていた。字は余り読めないけれど、写真や絵が表紙に鮮やかにプリントされている雑誌やハードカバーの本などはそれだけで興味を惹く。平積みになった一冊の本を手にとってみる。リリアンも時々家で本を読んでいるので見よう見まねで中を開いてみるが、やはり漢字がびっしりで何が何だか分らない。


「外は色んな色の絵があるのに、中は文字だけ…」


「あら、なかなかいい本見つけたじゃない」


リリアンはジェシカが選んだ本が最近話題になっていて本屋大賞あたりに選ばれるかも知れないと言われている女性作家による一冊である。リリアンが少しネットで調べたところによると最近ライトノベルなどではとみに目にするようになった『異世界との交流』というテーマを作家自身の独特の冷徹な視点でファンタジー性を感じさせなくした作品であるという。


「まあ私はあんまりこの人の読まないんだけどね」


「そうなんだ」


「何ていうか冷たい感じがするのよね」


「そんなに冷たいかな…?」


冷たいと言われ本を持ちかえて表紙に自分の手の平を当てるジェシカ。


「言っておくけど触った時の温度の事じゃないわよ」


「え…そうなの」



という彼等らしいやり取りがあった後、とりあえずリリアンが探していた本を奥の方で見つけてから今度はジェシカが楽しめそうなものを探す事にした。リリアンが目を着けていたのが絵本である。主に読める字がそんなに多くないジェシカの為を想っての事だが、基本的に悪い影響は与えないという理由もあった。絵本のコーナーでジェシカは絵本を手にとって眺めている。


「あー、これなら読める…けど」


「けど?」


「絵がなんか変だな…」


「え…」


そうジェシカは意外と中高生が好むような絵柄を好んでいたのである。美術性はあるけれど、やや独特のタッチで描かれているものは線がはっきりしていないのも多いので対象として認識しづらい一面もある。


「そうか…ジェシカならこういう絵が好きそうだと思ったんだけど」


「それよりもこっちの方が何だか面白そう」


と言って近くにある漫画の方にリリアンを誘導するジェシカ。少し大きな書店ともなると置いてある漫画の種類も膨大である。リリアンも漫画は嫌いではないしむしろそこそこ嗜んでいる方ではあるが、いざジェシカの為を思って本を選ぶとただ面白いだけのものよりは色んな事が知れる本の方を薦めたい気持であった。


「まあ仕方ないのかもね。なにせこの国のエンターテインメントの代表でもあるし」


最近テレビで見た外国人が日本の文化を紹介する番組でこのような趣旨の発言をしていたのを何となく思い出したリリアン。言ってから、<ジェシカに言う必要があったのだろうか>と思ったのだが、ジェシカの方は既に大量の漫画本に両サイドから挟まれる位置で目まぐるしく視線を移動させている。


「すごーい!!!」


このはしゃぎ様を見てしまったら細かいことはどうでも良くなってしまう。


「ねえ、どういう本がお勧めなの?」


声の弾んだジェシカに訊かれとりあえず同じ年頃の男の子が喜びそうなものは、と考えたとき「ジャ〇プ」とか「サ〇デー」という雑誌が思い浮かんだが、そういうのは前の「続き」から始まるので初めて読む場合だったら完結している物語の第一巻などが最善であるように思われた。


「ドラ〇もんとか…はちょっと難しいか。ラヴコメとかはどうなんだろう…」


一人でうんうん考え込むリリアン。最近リリアンが読む漫画は主に成年が対象なのでジェシカには合わないかも知れない。さらに言うとジャンルがあり過ぎてどういう本を与えたらいいのか迷うのも仕方ない。


「うーん難しいけどジェシカ、あなたの直観で良いと思うものを手に取りなさい」


勿論ジェシカが選んだものの中から相応しいものを実際には買おうと思っていた。


「そうだな…。じゃあこれ」


と言って選んだのは「猫と人間が普通に暮らす日常を描いた4コマ漫画」であった。


「まあ、悪くないわね。というかよくピンポイントでこれを選べたわよね…」


「なんか面白そう」


ジェシカはにっこりしている。それは暗に「今のこの生活が面白い」と訴えているようでもあった。まあ悪い気はしないのでそのシリーズを数冊買う事にした。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR