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徒然ファンタジー32

「朝メール送ったわよね。『今日そっち行くから』って」

「え、そうだったの?見てなかったよ!ちょっと待って、あ、ありました…」


母から届いていたメールを確認したリリアン。先程とりあえず部屋に上がってもらい今はコタツを中心にして母と対面している彼女は自分の不注意を恥じて申し訳なさそうにしていたが内心では後悔もしていた。母が来ると分っていたらジェシカの事についてどうとでも対処できたのに、こういう展開になってしまうとジェシカを何と紹介したらいいのか分らず、そのまま自分の隣に座らせている。


「あんたは時々うっかりさんだからね」


「面目ない。でも突然だったし」


「だってあなた最近連絡よこさなかったから」


「そろそろ連絡しようと思ってたんだけど、色々あって…」


「色々ねぇ~」


そう言いつつジェシカの方をちらっと見る母。言外にジェシカについての説明を求めているようである。母の気まずそうな表情を窺うと色々誤解されかねないのでリリアンは慎重に言葉を探している。その一方でジェシカは初めて会った人に多少緊張しているようだが、母に対して興味津々である。


「その…ジェシカの事についてなんだけど」


「ええ、確か猫の名前だったわよね」


猫の面倒を見なければならないので帰省できないという言い訳をする為にジェシカの事は念入りに説明してあったのが仇になったのか、母にもしっかり記憶されていたので余計にややこしくなる。


「猫なの。基本はね。猫を飼っているのも本当なの」


「何処にも居ないわよね」


事実を述べる程に泥沼にはまってゆく。気のせいか疑いの眼差しが一層強くなったような気がする。


「まさかだと思うけど…」


「そういう事はないから!!!」


家族なので何を疑われたか大体想像できるので必死に否定するリリアン。だが焦るリリアンを見てもジェシカはよく分っていない。


「俺、ご主人さまと一緒に暮らしてます」


なので爆弾発言、のように聞こえる事実を述べてしまうジェシカ。その発言に母は呆気に取られている。特に『ご主人さま』という呼称が衝撃的だったようで、思わず「ご主人さまって…」と洩らしてしまっている。


「あ、誤解しないでね!!これは、その、あの、ね…」


勢いよく訂正しようとしたものの続く言葉が見当たらない。さすがに呆れてしまったのか、母はゆっくりと確認するように言った。


「リリアン、つまりこの子と一緒に暮らしているって事は本当なのよね」


「ええ…そうよ」


「じゃあジェシカ…くん?」


母は意を決してジェシカの方に向きなおして質問する。


「はい」


「あなたは、その、年は幾つ?」


「2歳です」


「うん。2歳ね、って!?」


ジェシカも真面目に受け答えしていたので一瞬納得しかけたが、冗談のような答えだったので唖然としている。


「あなたふざけてるの!?年齢よ、年齢」


相手の言葉に怒気が含まれていたのでやや驚いたジェシカだが、


「えっと、2歳です」


と素直に言うしかない。埒が開かないのを悟ったのか、


「あなたリリアンとは何処で知り合ったの?親御さんは?学校は?」


いよいよ遠慮なしの質問攻めである。ジェシカも困惑を隠せない。助けを求めてリリアンに目線を送る。


「ちょっと!ジェシカが困ってるよ!」


「こっちだって困ってるのよ、どういう事か説明しなさい!」


「説明したって信じてもらえない…」


「大丈夫よ、何年あなたの母親やってると思ってるの?あなたの事を信用してるから連絡が来なくてもちゃんとやってるんだって信じてたのよ」


そこからやや間があってリリアンはぼそっと言った。


「…じゃあ、驚かないでよ」


リリアンは覚悟を決めた。おもむろに立ちあがり、箪笥の上に置かれていた『例の道具』を取ってきた。これ見よがしにある部分を捻る。ジェシカはその瞬間にキジトラの猫になった。


「は…?」


あまりの出来事に一瞬何が起きたのか分らなくなった母。猫であることを誇示するかのようにジェシカは「にゃ~」と鳴いた。


「猫ね…」


「猫よ」


母は漫画のように思わず自分の頬を抓る仕草をする。


「私夢を見てるのかしら…これって手品か何か?ジェシカ君は何処に行ったの?」


「お母さん、しっかりしてよ。今間違いなくジェシカが猫になったところ見たでしょ?」


「ううん、そんな筈はないわ。きっと手品よ。あなた私を驚かせようとして手品の準備をしていたのよ」


「手品じゃないってば…」


その後、再びジェシカを人間の姿にしてみたりしたのだが、母は一向に信じようとしなかった。というより信じたくなくて「手品」という事にしたいらしかった。そして何を血迷ったのか、


「そうか、その男の子はあなたのアシスタントね。手品を見せるために呼んだのね!!納得したわ」


「お母さん…あのね…」


リリアンとしては信じてもらうつもりだったのだが、よくよく考えてみて<まあ、その理解でも別に困らないか…むしろ丁度良いかも>と思い始めた。


「まあいいわ。そういう事にしておくよ」


「それにしてもそんなに凄い手品が出来るなんて、商売できるんじゃないの?」


母は本当にそう思っているというより自分に言い聞かせるために言っている様子にも見えた。


「そ…そうね。でもほら、ちゃんと猫を飼ってたでしょ?」


無理矢理話を合わせるリリアン。しっかりと猫を飼っているという事実を確認させる事も忘れない。


「うん。あなたは嘘をついていないわ。今は隠れてるけどあの猫はこの家の何処かにいるんでしょ!ええそうよ」



リリアンはこの日一つ学んだ。『人によって現象の捉え方は違う』のだと。
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