FC2ブログ

徒然ファンタジー33

「あー焦ったわ。何とかなったみたいだけど」


リリアンはそのまま「ふう」と溜息をつく。あの後、母は慌ただしく家を後にしたのだがジェシカの事については有耶無耶になったままである。とはいえ帰り際に、


「まあとにかくちゃんと連絡を寄越しなさいね」


と釘を挿されたので、母にとってはジェシカの事とこれとは話が別らしい。


「それにしても…」


リリアンは思う。シェリーこと立華京子の時は彼女が理解が良いのか困惑しながらも事実を受け入れてくれたけれど、人が違えばこんなにも反応が違うものだろうか。再び人間の姿になったジェシカの方に目をやると母の事で多少疲れているのか眠たそうである。目が合うとジェシカはゆっくりと言った。


「ご主人さま、俺お母さんとあんまり話せなかった」


「そうね、大変だった」


ジェシカが先程の事や母についてどう思っているのか訊ねてみたいリリアンだったが、考えてみるとバタバタし過ぎてあれでは感じる暇もなかったのかも知れない。でもリリアンとしては伝えるべき事があった。


「お母さんはね別に変わってる人ではないの。だから多分、あれがジェシカが変身した時の自然な反応と言うか、ほとんどの人はあんな感じで『信じられない』って反応をするのかもね」


「俺がこの姿になるのは珍しいのかな?」


「珍しいというか、この世界ではジェシカだけかもしれない」


「俺一人だけ…」


そもそも猫のままなら世界の事など考えるには至らない筈のジェシカも日々生活をしているうちにこの世界の事はぼんやりとだが理解し始めてきたのは確かだった。当初は人間が作りだした道具と同じような要領で自分のように変身できる道具も作る事ができるような世界なのだと漠然と思っていたのだが、多くの事を見聞きする間にどうもそうではないらしいということが分ってくる。自分だけが人間になれるという考えは、ジェシカを複雑な気持ちにさせる。


「じゃあ、どうして俺だけなんだろう」


リリアンとしてもそれには答えようがない。リリアンが知っている事は、あの道具を置いて行ったという『謎の人物』がおそらくジェシカを選んだという事だけである。律儀にも道具に付属してきた説明書に書かれたメモ書きなどを改めて眺めてみても、それ以上の事は分らない。戸惑うジェシカを見て、何かを言う必要があるとは思うが言葉が出てこない。


「…確かに、不思議よね」


リリアン自身、あまり深く考えないようにしてきた事が少なくとも普通はすんなり受け入れられる事ではないのだと徐々に了解されてゆく。だが一方でこうも思うのである。


「って言っても、考えたって分んないんじゃないのかな」


「分らない?」


「そう。ジェシカが会ったっていう『おじさん』の事は知らないわけだし、知ってたとしてもその人の考えまでは訊いてみないと分らない」


ジェシカも頷く。だがジェシカらしい素朴さでこんな事を考えてしまうのである。


「訊けないのかな?」


リリアンは一瞬「はっ」とした表情になったのだが、すぐに首を横に振って


「何処に居るか分ればね」


と冗談を云うような感じで答えた。そう、何処に居るのか分かって話が出来れば不可能ではないのかも知れない。でもその前提条件がそもそも現状不可能なのでどうしようもないのである。ジェシカも自分で考えてみて何となく難しいという事が分った。


「何処に居るのかな?」



今度は何か空想をするような気持ちでリリアンに語りかけるジェシカ。表情や口調から、それほど真剣に考えているというわけではないと分ったのでリリアンも少しふざけつつ空想をしてみる。


「そうね~、最近流行の『異世界』とかなんじゃないかな。あとは未来とか?」


「…何だか眠くなってきちゃう」


「それが健康的な証よ。京子みたいな人はめんどくさい事考えても平気みたいだけど」


「あ…!」


ジェシカが突然声を上げた。


「どうしたの?」


もしかして何か思いついたのだろうかと期待するリリアン。


「まんが」


「ん?」


「今日買って来た『まんが』読んでみたいな」


「ああ、なんだびっくりした。いいわよ」


母の事ですっかり忘れてしまっていたが午前中に書店に行った事もリリアン達にとっては大切なことだった。丁度良いのでリリアンも買ってきた本を読む事にした。




☆☆☆☆


部屋で読書をしている女性と男の子。新しいページに自動的に書き込まれる挿絵はいずれ彼が見る事になる。彼はどういう気持ちでそれを読むのだろう。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR