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徒然ファンタジー35

ジェシカはこの頃人間の姿でいる時に、テレビというものがどんなものか分り始めつつある。最初こそ<これは本当に起ってるのことなの?>という疑問を感じつつ、その様子をぼんやりと眺めていただけだが、やはり繰り返しの効果というのか、動物の出てくる番組(リリアンが好きで見ている)を毎週見ていると、こんな生き物が居るんだと思い始め、そこから次第にこの世界の事が本当にそこに映し出されているのだという気持ちが次第に強くなり始めた。そうなってくると純粋に猫の姿で見ているままにあるというのでもなく、テレビ越しに伝わってくる現実、世界というものを実感し始める。



「ねぇ、ご主人さま。この人ってどういう人なの?」


ジェシカは何気なくリリアンに訊いた。ジェシカが指さしたのは近頃とみに目にするようになった歌手のような、アイドルのような女の子で、丁度自分と同じくらいの年ごろと思われる人である。リリアンは年末の特別番組などで歌番組が多いためにチャンネルをそのままにしておくとそのアイドルのような人が歌っている状況が多いなという事に思い至った。


「そうね…可愛いと思うよ。でも、私には分らない部分もあるかな」


「分らない?」


その発言はジェシカにとっても意外だった。自分よりも色んな事を知っているけれど、分らない事もある。当たり前の事なのだがジェシカにとってリリアンが分らないとなると自分ではどう判断したらいいのか殆ど分らないと言えた。ジェシカはしばらく何と言って良いか分らなくなった。


「なんかね、」


ゆっくりとだがジェシカはたどたどしく喋りはじめる。


「この人、似てるような気がする…」


「ん?似てるって誰に?」


「前に会ったあいつ」


「え…どこかでこの人に会ったの?」


「ううん…違う。人じゃなくて、俺と同じ…にゃ~って鳴く、」


「猫?もしかして…」


「あのね、見える姿は全然違うんだけど、何か似てる」


「猫みたいな人って事かな?」


「何なんだろう。ちょっと自分では言えない」


それはとても微妙な感覚だった。猫として、同じ仲間に感じるものと、人間としてリリアンのような実際の人とはまた違うような、それでいて猫の自分にも何だか分りそうな気がするそんなアイドル的な女の子だった。


「そういえばこの子って、猫が好きとか言ってたかな…」


「そうなの?」


「うん。飼主は猫に似る…って普通は反対よね…うーん」


「猫って、って何か考えにくいんだけど、俺もこの姿じゃない時は」


喋っている間に、彼女の歌の出番となった。元気がある伸びやかな歌声で、聞き惚れてしまう。メロディーが心地よいのもあるけれど、声に合っていて落ち着くようにも感じられる。リリアンは自分がその人の事を自分がどう考えているのかと思ったのだが、<この人って何か…>と何かを思いだした。


「昔、ちょっと憧れたときあったな…歌手」


「『かしゅ』って歌う人の事だよね」


「そうね。最近は格好よくアーティストっていうけど、歌い手とかって自然に言うね」


「ご主人様は歌えるの?」


リリアンは時々鼻歌を歌うときはあるけれど、流石に近所迷惑になるかと思ってメロディーを口ずさむ事は余りしない。それでも高校生の頃はシェリーこと立華京子を強引に誘ってカラオケ店に結構通っていた事がある。社会人になると飲みの二次会などで誘われる事もあったが、ジェシカを飼いはじめるというのか一緒に過ごし始めるとあまり夜遅くまでは出掛けられないなと思ってしまって、最近は行っていない状態だった。

「そりゃあ、もちろん…」


「歌えるよ」と言いかけたところで、今の自分は前みたいに歌えるのだろうかと疑問になってきたリリアン。


「歌えると…思うけど…」


段々尻すぼみになってしまう。


「聴きたいなぁ、ご主人様が歌うところ…」


「え!?聴きたい?」


その時リリアンには名案というのかそれを叶えられる手っ取り早い簡単な方法に思い至った。むしろ今までそう言うことを考えなかった事の方が不思議なくらいだった。


「ジェシカ、良い方法があるわよ!」


「え…何?」


「庶民の味方のカラオケへGOよ!!!」


「からおけ?」


ジェシカにとってまだ何なのかよく分からない「からおけ」。ある意味で人類の英知と文化の結晶かも知れない。
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