FC2ブログ

徒然ファンタジー37

カラオケは何よりも雰囲気だろう。その場でないと感じない事とか、その場だからこそ伝えられる事、雰囲気に合わせてついついいつもとは違う面を出してしまう、そういうことも歌を通して微妙な具合に、そして何となく伝わってくると言うのか。リリアンとジェシカの初めてのカラオケは結局リリアンが殆ど歌い続けていた。


「あれー、あの曲入ってないんだー、がっかり」


「ご主人さま、凄いね。一杯歌える」


最早ジェシカに経験させようというよりはリリアンが昔のように一人ハイテンションで楽しみ始めているようにも見える。それが証拠にリリアンは歌が始まるたびに立ちあがるし、マイクを放そうとしない。流石のジェシカも最初は尊敬の眼差しを送っていたけれど今は段々引き気味に見ていて、疲れが見えてきた。


「あとどのくらい歌うの?」


ジェシカとしても嫌ではないのだが、思わず訊いてしまう。リリアンはその言葉でちょっと冷静になり、<なんかジェシカが猫だってこと忘れてたかも>と自分を振り返った。確かにジェシカが歌った事で普通のカラオケという気分になってしまったのは否めない。だからこそ相手がジェシカという事を忘れて、一緒に盛り上がろうとしていたのである。


「あ…ごめんね。ちょっと私ばっかりだったね…」


「うん。でもなんか良かった」


ジェシカも楽しかったのは間違いない。自分の声が大きく響くのは面白かったし、リリアンが楽しそうなのを見て嬉しかったのも確かだ。それまでそれほど意識していなかった「歌」というものもこういう楽しみ方があるのだという発見はジェシカに人間の事をもっと理解させたかも知れない。


「じゃあ、次で最後」


「うん」


リリアンが入室から2時間程経って最後に選曲したのは「残酷」で「天使」な「テーゼ」だった。これはリリアン世代ならほぼ定番と言える曲で、アニソンではあるがカラオケの王道として盛り上がれるという事でリリアンは一回は歌わないと気が済まないのであった。ちなみに「立華京子」はヱヴァの事になるとやたら薀蓄を語ってきて、「ネルフ」がどうだ「使徒」がどうとか色々説明してくるのだが、それを聞かされる度<私はそこまで詳しく分からないよ>と言いたくなったりしていた。今でこそデキる女性に見える親友のもしかしたら黒歴史にしたい話も微妙に思い出しながらリリアンは熱唱する。ジェシカは歌に合わせて画面に流れるアニメの映像に目を奪われている。


「凄いなぁ…」


色んな意味で凄い空間と化していた12号室。ジェシカにとって忘れられない体験となった。



帰り道、まだ余韻の残っている状態でリリアンはジェシカにちょっとづつ話し始める。


「そういえばね、京子とカラオケ行った帰りはこんな風に喋りながらだったわ」


「シェリーと?」


「そう。まだ若かったというのか、めちゃくちゃ青春してたわね」


「『青春』?」


リリアンはふとジェシカが人間の年齢的にまさに『青春』の時期に当たるという事に気付いた。


「青春って言うのはね、ドキドキしたりワクワクしたり、甘酸っぱい感じかな」


「美味しいもの?」


「ぷっ」


食べものの事だと思ったジェシカに思わず吹き出してしまうリリアン。


「食べもので言えばスポーツドリンクとカロリーメイト?って感じなのかしら」


「???」


余計分らない譬えだった。


「とにかくジェシカくらいの歳になるとね、色んな出会いがあって毎日がキラキラしているものなのよ」


「俺も?」


訊かれて少し困ったような表情になるリリアン。


「どうなんだろうね?」


彼女は普通の高校生のようなジェシカを想像して少しおかしくなる。想像のジェシカは何故かリリアンが卒業した高校の制服を着て、爽やかに「やあリリアン」と自分に微笑みかけていた。あまりにも美化し過ぎである。自分の高校時代は楽しかったけれど、甘酸っぱい恋の話はどちらかというと奥手だったし男友達も結構いたけれど、当時はセミロングの黒髪で目を惹く「立華京子」の友人として、何となく窓口のような役割を受け持っていたような気がしないでもない。当の立華京子はそもそも人間付き合いからして苦手だったような印象である。


「まああれでも十分青春っぽいんだから、ジェシカも青春なんじゃないかしら」


少し無責任な発言であった。よく分からないのもあるが、とりあえず<そうなのかな>と思う事にしたジェシカだが、ふとあるものを見て足を止める。


「どうしたの?何かあった?」


「ここ…」


歩いている道の右の方にジェシカが以前迷子になった時に入り込んだ裏路地があった。リリアンにそれを説明する。


「そうか…ここだったのね。確かにこういう所に入ると分らなくなるね」


「ここで「あいつ」に会った」


「「あいつ」?」


「あいつ」という言葉に若干戸惑いを感じるのだが、リリアンは以前話していた事を思い出してそれがとある「猫」の事であるという事に思い至った。



「確か、白に黒の模様の入った猫よね」


するとその路地からまさにリリアンが言ったような特徴を持つ猫がトコトコと出てきた。


「「あ!」」


思わず二人で叫ぶ。その猫は二人の方を見ると「にゃ~」と鳴いて、ゆっくりとどこかに向かって歩き出した。ジェシカもリリアンも気付けばそれを追いかけはじめていた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR