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徒然ファンタジー38

その猫を追いかけてゆくうちに、いつもの公園に辿り着いた。ジェシカとリリアンがいつも座るベンチの前でその猫はこちらを振り向いて再び「にゃ~」と鳴いた。お昼時でよく晴れているが公園には人がいなかった。

「この子なの?」

リリアンはジェシカに訊ねる。

「うん」

間違いなくその猫は以前ジェシカをここに連れ戻した猫である。ジェシカはそう確信していた。ジェシカにとってその猫は普通の猫とはどこか違うのであった。するとその猫は自分の首輪に付いていた鈴を自分の前足で鳴らし始める。その時、とんでもないことが起こりはじめた。


「え…!!!何!?」


「あっ」


その猫の姿が突然大きくなり始めたかと思うと、それは次第に人間の形をとり、それはある少女の姿を成した。


「あ、あなた…」


その姿を見て絶句してしまうリリアンとジェシカ。それは昨日話題にしていたテレビで歌を歌っていた少女だったのである。彼女は涼しい表情でぺこりと一礼して口を開いた。


「どうも、大宮望です」


「ああ、やっぱりそうなの!!え、芸能人…じゃなくて…」


「こんにちは」


基本的にはアイドルとして売り出しているからかとても可愛らしい少女は自分の名を名乗ると日常的な事と非日常的な事の両方で戸惑っているリリアンに先ず説明し始める。


「驚くのも無理ないですよね。でもちゃんと訳があるんです。全然不思議じゃないんですよ」


「いや…不思議じゃないと言われましても…」


妙に明るくキラキラしているせいか少々押され気味のリリアン。


「あなたも猫なんですか?」


と咄嗟にジェシカは訊いてしまう。ジェシカが猫だという事はまだ相手には分っていない筈なのでこの質問は望にとっては不可解な筈なのに、


「いいえ、私はれっきとした人間ですよ」


と可笑しそうに笑いながら否定する。そして意地悪そうな目でジェシカを見て、


「それじゃあまるであなたが本当は猫みたいな言い方ですね」


と言った。リリアンはギクリとした。芸能人でこちらから知っているとはいえ知らない人にジェシカの事を知られるのはまずいと感じたのである。


「あ、そのこれは…」


思わず誤魔化そうとしたリリアンを制して望は言う。


「大丈夫ですよ。おじさまから聞いているんです。あなた、ジェシカ君が猫だってこと」


「え…?」


リリアンは自分の耳を疑った。ジェシカの名前を知っていた事もそうだけれど、「おじさま」とはいったい誰なのか咄嗟には分らなかったのである。混乱するリリアンを見て何を思ったか、


「とりあえず…ここに座って話しません?」


との提案。リリアンは受け入れた。


「まず何から話したものでしょう。まあ順を追って話す事にします。今から数か月前、夏の終わりの事でした。私の元に一通のファンレターが届きました。ピンクの封筒に「大宮望様へ」と書かれたその不思議な手紙は普通のファンレターではありませんでした。その中にはこの首輪…今は腕輪になっていますが、それが入っていました」


と言って、先程彼女が猫の時に首に付けていた鈴のついた腕輪にも首輪にも見える桃色の飾りを指さした。それは人間の姿に戻った今、彼女の左腕についていた。そういえば昨日歌っていた時にもそれを着けていたような気がする。彼女は続ける。


「中に入っていた手紙はその腕輪の使い方でした。猫の姿を念じながらこれを鳴らすと猫に変身できるという説明がありました。私はそれを冗談だと思ったのですが、猫が好きでほんの少し夢のある話だなと思ったのでちょっと試してみたんです。そしたら…」


「本当に猫になったと…」


「そうです」


望はにっこりほほ笑んだ。


「猫になった私は、「私」だという意識は半分くらい残っていて、元に戻る為には同じように人間に戻ろうと思いながら首輪の鈴を鳴らすという説明を思い出してすぐ戻る事ができたのですが、戻った後もしばらくは直前の事なのに何か夢のような気分でした」


「まあ、そりゃそうよね」


「…」


「翌日、同じ封筒で手紙が届いて…というかそれには住所も消印もなかったのですが、とにかく届いて中を読んでみたらそこに「ジェシカ」君の事、これをくれた人の事が少しだけ書かれてありました。それによるとこれは私へのプレゼントなのだけれど、それを使うにあたって一つだけ条件、というか約束をとありました」


「約束?」


「それは手紙の主…私は「おじさま」と読んでいるのですが、その人がお願いする行動を取って欲しいとの事でした。この公園でジェシカ君を見守る事もそのお願いの中に入っていて、「ジェシカ」君が良く行く場所としてこの公園が指定されていたので仕事が休みの時とかなるべく時間を作って、丁度猫になれば私だってバレないのでここで「ジェシカ」君を見ていました」


「へぇ…そうだったの」


説明されると何も不思議というか疑問が無くなってしまう。強いて言えばどうして大宮望にその役割が任されたのだろうという事である。リリアンがその辺りを訊いてみると、


「おじさまの手紙にあったのでは、一つの条件は猫をとても愛している事。もう一つは社会的影響力のある人。そして想いを伝える力の強い人との事でした。私はその条件を満たしているとの事で、おじさまに選ばれたようです」


その話は少し奇妙と言えば奇妙だった。どうしてそういう条件で選んだのか、何故その条件が必要なのかが見えてこないからである。


「おじさまは、この世界とは違う世界に住んでいるそうです。その人とやり取りできる人、逆におじさまがやり取りできる人は想いを伝える力が強い人に限られるそうです。そして「ジェシカ」君の元に来たときには偶然こちらにやって来られたそうなのですが、狙っては来れないとの話です。社会的な影響力については、おじさまはどうやら私達に『違う世界』の存在の事を身をもって示してほしいという希望があるそうなのです。そして私なりに分ったことがあります」


「なに?」


「おじさまが実在するという事です。ジェシカ君」


「え?なんですか?」


呼びかけられてジェシカは一瞬驚いた。


「ジェシカ君は「おじさま」に直接会ったのですよね?」


「あの人が「おじさま」だったら、多分…」


「つまり、私には手紙でしか存在が分らない「おじさま」が確かに居て、別な世界が確かにある。私はそれを今日確信しました」


「なるほどね…」


リリアンは納得してしまった。歳の割に説明がしっかりしているせいか、ちゃんと繋がっていることが伝わった。ただ納得すればするほどにジェシカが会った、望のいう「おじさま」がどんな人なのかが具体的に想像されるせいか謎が深まる。それほど意識していなかったのもあって急に考える事が増えた感じである。その話の流れでリリアンは思い至ることがあった。


「じゃあ今日あなた会ったのもその「おじさま」が?」


あまり考えすぎると何かに操られているような感じだが、少なくとも「おじさま」はリリアン達の事を知れる状況にあるらしいという事が分ってくる。


「まあ半分くらい「おじさま」の希望ですね。私も丁度仕事の息抜きで猫の姿でゆっくり過ごしたかったし、そろそろ接触して欲しいとの事でしたので」



「なんか不思議な感じ。でも確かに売れっ子の人だったら猫の姿で誰にもバレないで過ごせるって言うのは魅力的かもね」


「そうなんです。もともと猫も好きですし」


と二人で納得し合っていたところで、ジェシカが訊ねる。


「じゃあ、俺はどうすればいいの?」


それは一見すると答えようがない問いであったが、今の事情が分かると重要な意味を持っていた。望は何かを確かめるようにゆっくり頷くと、


「そうですね…。おじさまは違う世界の事を伝えられるのかどうかという事を確かめているようですが、私がテレビで猫の姿になったとしても違う風に受け取られる筈です。手品とか…」


「そうね…信じてくれる人ばかりではないわ」


リリアンはちょうど母の事でそれを経験したばかりだった。仮に伝えられる手段があったとしても、彼の言うとおり伝える必要があるのかという疑問は残る。


「う~ん…難しいですけど」


望は困ったようでもあり何か悪戯っぽい表情でジェシカの方を向いて言った。


「ジェシカ君、私とデートしてみませんか?」


「は?」


リリアンは呆気にとられた。
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