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徒然ファンタジー39

「デート…?」

リリアンは大きな疑問が残るといった様子で大宮望が発した言葉を訊き返した。対して大宮望は別に大したことではないという表情のままで、ジェシカを見つめている。


「はい。いろいろ都合がいいなと思いまして」


「何が都合がいいわけ?」


「例えば…」


と言って望は一呼吸を置いてためをつくる。そこから一気呵成に、


「猫とならデートしても良心が痛みませんし、猫は好きですし、折角のオフは有意義に使いたいですし、ジェシカ君に伝えるにあたっても少し時間があった方がいいですし」


とまくし立てた。その場の思い付きと言うよりは少しばかり考えていないと出てこないような「都合」である。こう言われてしまうとリリアンが拒否する正当性はないように思えてくる。が、それでも「デート」という事柄を考えると素直に了承するわけにもいかないように感じられる。


「でも、ジェシカは慣れてないしそういうの…」


「大丈夫ですよ。飼主さん…確か『リリアン』さんでしたよね、も一緒に行けば怪しまれないで済みますし」


「私も一緒に?」


この提案はリリアンにとって悪くなかった。「デート」とはいうもののそれは言い方だけであり、実質みんなで出掛けるのと同じだからである。


「そうね…あなたの方からももう少し訊いてみたいことがあるし…」


それも本音だった。リリアンは自分の名前を知っていた望がどのくらいその「おじさま」から話を聞いているのかも含め、あとは個人的な「芸能界ってどんなところ?」というような質問をしてみたいと思ったのである。


「じゃあ決まりですね。ジェシカ君、よろしく!」


「でーと?」


「みんなで出かけましょうってことよ、ジェシカ」


2人で話が進んでしまっていたけれど、当然「デート」と言う言葉にピンとくるわけもなかったジェシカ。都合が良いので適当な説明をするリリアン。ここまでは順調だったかも知れない。



違和感を感じ始めたのはいつの間にか望とジェシカが並んで歩き、リリアンが後方から着いてゆくカタチになってきてからである。午前中とは違う場所で望が前から歩きたいと思っていたらしい比較的静かな通りである。望は妙にジェシカに馴れ馴れしいというのか、フレンドリーである。


「ジェシカ君は絵とか好きですか?」


「え?絵って、紙に描かれたやつ?」


「基本的にはそうですね。綺麗な絵を見ていると癒されるというか、頑張りたくなってきちゃいますね」


「絵は、シェリーのところにあったのが良かったかな」


「『シェリー』って人の名前ですか?」


ややこしくなりそうだったからここはリリアンが説明する。


「立華京子っていう私の友達のニックネームみたいなものね。ちなみにその子もジェシカが猫だってことを知ってるの」


「へぇー、結構凄い情報ですね。多分「おじさま」は知ってると思いますけど」


「そういえば訊こうと思ってたんだけど「おじさま」って私達の事どのくらいあなたに教えたのかしら?」


「う~ん」


多少作っている感じがするが、まだ年齢的には女子高生のような可愛らしい人差し指を立てて顎に当てるという仕草で少し考えはじめる望。


「リリアンさんとジェシカ君の名前とか、あの公園の近くに住んでいるとか、基本的な事しか聞いてないと思います」


「なるほど」


「あ、でも」


「なに?」


「ジェシカ君がとても素直な子だってことは「おじさま」が言っていました」


「素直、ね」


それは否定できないとリリアンは思った。実際、親友の立華京子はジェシカのそういうところに惹かれて時々我を忘れている感じになっているし、猫でいる時にもリリアンが困るような事はあまりした事が無いような気がする。性格といっていいのだろうか。


「一応訊いてみるけど、私の事は?」


地味に自分の事が知られているという事はモヤモヤするものである。そもそもがあまりに非常識な存在だけれど、私生活を覗くような非常識な事は御免蒙りたい。


「それが、やっぱり紳士な方だからでしょうかリリアンさんの事は「自分で確かめた方が良い」と手紙には書いてありました。手紙というか、最近はメールになっているんですが…」


通信手段についてはどうも話がややこしくなりそうである。


「メール?まあそれは後で訊くことにするけど、それならばとりあえず良かった」


「ところで、今日は何処に行くの?」


ジェシカからの質問。確かにリリアンとジェシカには目的地を知らされていなかったので当然といえば当然の疑問である。


「話が少し脱線してしまいましたけど、絵に関係があります。そして目の前です」


とそこには絵画展が開かれている大きな美術館があった。絵については素人と言っていいリリアンにとっては無縁とも言えそうな場所だが、リリアンは決して絵が好きではないという事ではない。ただ親友に絵心が無いと言われ、触れ合う事も少なくなっていただけの事である。


「どういう絵が飾ってあるの?」


「ふふふ…実は私達には堪らない展示になっていまして、今日はどうしても来たかったのです」


「え…凄いの?」


「猫です」


「ん?」


その言葉の意味は入館してすぐに分った。渡されたパンフレットには「猫の絵画」というテーマの絵画展だという事が書かれてあった。


「知らなかった!!!!」


リリアンはテンションが急激に上がった。
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