FC2ブログ

徒然ファンタジー40

キジトラ、茶トラ、ぶち、三毛、アメリカン・ショートヘア、ペルシャ、ベンガル、そこは和洋の様々な猫がモデルになっている絵が並んでいた。単純な動物画としての猫から、「猫と〇〇」のように景色や情景に猫が溶け込んでいる様を描いたものもあった。ここに来ることが目的であったらしい大宮望は一つの絵の前に立ち、しばらくそのままうっとりとした表情で眺めつづけて、それが済むとまた次の絵という風に自分のペースで鑑賞を楽しんでいた。一方ジェシカとリリアンはそれとは対照的で気に入った絵には「上手いねぇ~」などと言い合いながら、時には「あ、これジェシカに似てる」というような言葉を交わしながら一応全てに目を通すような感じで見ていた。


「そうか、俺ってこんな感じなんだ」


ジェシカが何気なく呟く。これまでにも元の姿の写真をリリアンから見せられたりしながら、人間の姿の時に鏡で見る自分とは大きく異なっていると感じたり、不思議な気持ちだったのだがこのようにして絵になったものを見ると、『猫』とはこういうものなのかなと思ったりした。人間の姿になると多くの事は人間と同じ物の見方になるようである。それを聞いてリリアンは漠然とジェシカを描ければいいだろうなと思った。絵についてのそれほど知識があるわけではなかったのだが、勿論絵を描けた方が良い事もあるんだろうなという認識はずっと持っていた。そんなリリアンにとって動物画は好きといえるジャンルで、見ていても楽しい。


「ああ、ここに来て良かった」


と思わず声が漏れた。大宮望はそれを近くで聞いていて、


「それは良かったです」


ととても嬉しそうな表情をした。それを見てリリアンは彼女が自分達を純粋にここに連れてきたかったのかも知れないと思った。ただ、彼女が次第にジェシカに密着したり、手を引っ張って案内したりし始めるとどうも意図が読めなくなる。勿論それだけではない。


「ねぇ、これって美術館デートって事なの?」


頃合いを測ってリリアンは望に訊ねた。彼女は丁度猫に変身した時の姿のような白に黒ぶち模様の猫の絵をじっと見ていた。リリアンに気が付くと少しそちらを見て眩いばかりにニコッと笑った。


「ええ、そうですよ!」


否定しないので多分彼女にとっては『デート』なのだろう。ただ一応リリアンとしても若干納得がいかない部分があるので訊ねてみる。


「でも、ジェシカってもともとは猫よ。それで満足いくの?」


すぐさま返答が来た。


「はい、だって私まだジェシカ君が猫になったところ見てませんもの。あ、違いますね猫に戻ったところですね。あと、ジェシカ君には内緒ですが…」


といってリリアンに耳打ちする望。彼女は続けてこう言った。


「ジェシカ君って人間だったら私のタイプなんです、うふふ」


これを聞いて軽くショックを受けるリリアン。確かに自分も午前中ジェシカが歌う姿を見てその位の年頃の男の子のように見た瞬間があったけれど、リリアンにとってはジェシカは猫というのは揺るがず、明らかに男の子として見ている望の思考には戸惑ってしまう。その後小悪魔的と言うのか悪戯っぽく微笑む望。会話した時の第一印象やテレビで見る印象などを合わせて、物腰の柔らかい大人びた出来た人だと思ってはいたが、やはりそこは乙女なのか自分にはない可愛らしい部分を見せつけられたような気がした。


<でもまあ…>


と少し考えてリリアンは自然と思う事があった。


<年頃の女の子が立場上、普通に恋愛も出来ないような話だったら理解できるかも>


多分望もジェシカが猫だという事は分っているし、改めて述べるまでもないのだろう。むしろ、普通の人が見たらジェシカは普通に高校生くらいの人間の男の子だという事を示しているとも言える。リリアンにとってそれは決して嫌な事ではなかった。


「そういえばさ、」


今度はジェシカが望に訊ねる。


「あなたの事は俺、なんて呼べばいいの?望?」


「え…」


ジェシカとしては立華京子を呼びやすい「シェリー」と呼ぶようなもので取りたてて意図はないのだが、急に下の名で呼ばれて先程までは小悪魔的だった望は今とある理由で非常に動揺している。


「そ…そんな、急にそんな呼び方なんて…」


明らかに顔を赤らめて恥じらっているようである。それがどうも素らしいので、リリアンは本人は「デート」と強気に出ているけれど実は慣れていないんじゃないだろうか、と邪推した。実際それは正しかったようで、


「男の子にそんな風に呼ばれるのなんて初めてかも…」


と異様にドキドキしている様子が窺われた。相手をそんな風にさせたジェシカの方はよく分かっておらず、


「望じゃ駄目なの?」


というダメ押しを与える。


「ダメではないですけれど…その…」




リリアン、ラブコメ波動に当惑す。もっとも波動が出ているのは望だけで、ジェシカの方はいつものように「仲間になりたい」オーラが出ているような気がした。その時リリアンが見ていたのは偶然にもジェシカと同じキジトラの猫の絵で、


<あー、やっぱり私も猫の絵の練習しようかな…>


と少しだけクールに考えていた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR