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徒然ファンタジー41

「望、今どこに向かってるの?」

ジェシカが訊いた。一向は美術館を後にして電車で移動し、今車通りの少ない先程よりももっと静かな道を歩いている。望が「どうしてももう一か所行きたいところがある」と言うので着いて行ったリリアンとジェシカだが周辺には目立った建物が無いのでどちらもきょろきょろと見回している。


「探してみるとなかなかないんですよね、こちらも猫好きが集まる場所です」


「そうなんだ。何だろう?猫カフェとか?」


「近いですね!」


と言っているうちに望はカフェのような落ち着いた色の建物の前で立ち止まった。看板には猫のマークが描かれている。そして望は静かに扉を開けた。


「あれ…なんか猫の鳴き声…」


「うわ!」


一見すると普通のカフェのようだが、違うのはすぐに猫が見つかる事だった。しかも一匹ではない。ある猫は首輪にリードがついていてくつろげそうな席に着いた飼主のような人に抱かれている。


「あ、そっか。猫連れてきていいのね、ここ!!」


再びリリアンのテンションが上がった。ジェシカはその光景に驚いているが、その店は猫とその飼主が一緒に過ごすための場所で分類から言えば喫茶店だった。


「いらっしゃいませ」


若い女性の店員に声を掛けられる。「初めてですか?」と訊かれ、その後店についての説明を受けて時間制で飲み物が自由に飲めるという猫カフェのシステムと同じであると知った。


「お客様、本日は『猫ちゃん』と同伴ですか?」


『猫ちゃん』と言うのがいかにも慣れている感じである。確かに店員からすれば人間が三人入店したように見えるし猫は何処にも居ない。すると望は既に考えていたのか、


「あの、一旦外で猫が待ってまして、今連れてきます」


と自然に言った。それを聞いてリリアンは一瞬変な顔をした。望は今日明らかに自分の猫を連れてきているわけではない。そういう事実はないのに何故こんなことを言ったのだろう?不思議に思ってると、望がリリアンとジェシカを手招いて「ちょっとこちらへ」と一度外に誘導した。


「猫って言ってたけど?」


リリアンが訊ねると望はジェシカを指さし意外な事を言った。


「ジェシカ君が居ますよね」


「あ…そういうこと」


つまり望はジェシカに元の姿に戻って猫として再び入店しようと提案しているのである。運がいいのか今日はカラオケの帰りにいつもの公園で少し猫の姿にしてみようと思っていたので変身する用の道具を持ってきていたため実現が可能になった。


「まあ誰も見てないし、ここでも大丈夫そうね。そういえば大宮さんはジェシカが猫になるところ初めてね」


「はい。実はちょっと楽しみです」


「変身する為に必要なのはこれなのよ」


と言ってバッグの中からあのルービックキューブのような道具を取り出す。


「へぇ~。私のとは違うんですね」


「確かにそうね。これはどうも私が使うために置いていったみたい。じゃあジェシカ、準備は良い?」


「うん、いいよ」


そして道具の一部を捻るとたちまちメタモルフォーゼが始まり、ジェシカが居たその場には一匹のキジトラがちょこんと座っていた。


「うわー!!すごいやっぱり同じなんだ。え~やっぱり猫なんですね!!かわいい!!!」


ジェシカの変身ぶりにはしゃぐ望。猫好きなのは有名だが、猫の姿になってむしろ喜んでいるようである。


「ジェシカの話だとこの姿になっても多少は意識が残るらしくて、言葉とかはちょっと分るみたい」


「私が猫になった時もそうですね。ジェシカ君、分る?」


望がジェシカに話しかける。猫ジェシカは目を合わせて「にゃ~」と鳴いた。そもそもリリアンが今日変身の道具を持ってきたのも、猫になってもある程度状況が分っている為にこんな風に落ち着いて脱走する心配がないので時々外で猫の姿にさせていたからであった。


「じゃあ中に入りましょう」


リリアンと望、そして猫のジェシカは再び入店した。すぐさま店員がこちらに気付いて「あら、かわいい『猫ちゃん』ですね!」と言ってくれたが、特に不審がっている様子はない。とりあえず入店時刻が三時だったのでそこから二時間だと丁度良いだろうという話になって受付けを済ませ二人は奥の方の席に座った。最初リリアンがジェシカを抱えるカタチになっていたが、しばらくすると望が抱っこしたそうな様子だったので彼女にジェシカを渡す。


「あぁ…やっぱり良いですね。家に昔からいる和猫は黒猫なので、キジトラも良いなって思いました」


先程までは『ジェシカ君』と人間扱いだったのに今では完全に猫として見ている望。どうやら一瞬忘れそうになっているようである。


「家には他にも猫がいるの?なんか一杯飼ってるって話をネットか何かでみたような…」


「ええ、正しいですよ。何となく立ち寄ったペットショップでケースの中で眠ってた仔猫がどうしても欲しくなってしまって、その仔アメショーだったんですけど連れて帰りました」


「ああ、分るかも…確かにペットショップで窮屈そうにしているのを見ると可哀想って言うか、飼ってあげなきゃって思っちゃうよね」



「その日お給料が出たばっかりで、思いきっちゃいました。えへへ…」



「そうよね、大宮さんもう働いてるみたいなもんなんだもんね。凄いなぁ…」


「実際今とっても忙しくて学業も両立しないといけないし、レッスンも欠かせないし…どうしてもゆっくりと出来る時間が少ないので家の中で猫と触れ合っている時間が癒しと言うのか、無くてはならない時間ですね。ふはぁ~」


言いながらジェシカを顔に近づけてスリスリとしている望。話を聞いていると彼女と自分は猫と「おじさま」という共通点はあるけれど、違うところも多いと思ってしまう。リリアンはちょっと望に同情気味である。一方ジェシカは望に心を許しているのか気持ちよさそうに目を閉じている。


「ところでさ…」


ゆっくりさせてあげたいところだがリリアンとしてもまだ訊きたい事はある。


「さっき、「おじさま」とメールでやり取りをしてるみたいなこと言ってたけど、本当?」


「ええ、見ますか?ケータイのメアドに届くようにしてるんです」


「どれどれ?」


望のスマホには『おじさま』という宛名で何件かのメールが届いていて例えば最近来たメールは、




件名 ごきげんよう 望さん


最近はお元気にしていますか?そちらでも年末という事になるのでしょうか?何か変わった事がありましたら連絡してください。


ところで『ジェシカ』君の事ですが、そろそろ人間の姿で会ってみてはいかがでしょうか。『ジェシカ』君の方も大分人間としての生活にも慣れてきているようなので、今ならば週末あたりに外出する可能性も高いです。こちらから何か補助が必要であれば申し付けてください。出来る限りの事は試してみるつもりです


では



という文面である。丁寧だし偽っている様子もないし積極的に協力しようという心意気も見える。「おじさま」が望に言った事が真実ならば、直接連絡できる人が望のような人に限られるという事でもしかしたらリリアンとも連絡を取りたいのかも知れない。望と知り合った以上、彼女を介してリリアンと間接的にやり取りする事も可能になった今、リリアンは必然的にどうしたらいいのか考え始めるようになる。



「そうか…本当だったのね。例えばこの相手のメールアドレスに私がメールを送ったらどうなるのかな?」


「それが、一応試しにマネージャーにこのメールアドレスに送ってもらったんですが、そもそも正式なメールアドレスではないようで送れませんでした」


それでも念のためにアドレスを聞いて自分のスマホからも「おじさま」宛てにメールを送ってみるが、すぐにサーバーから送信できなかった旨を伝えるメッセージが届いた。


「やっぱり駄目なのか。とすると何かしら不思議な力によってメッセージが送られているようなものなのね」


推論すればそう言うことになる。望の使っているスマホはごく普通に売っているものだしメールも普通のサービスである。ジェシカと望が変身できる道具も、考えてみれば不思議なものなのでそういう事を知っても今更という感じがする。


「「おじさま」の説明によれば私がメールの文面を打ったという事と『送りたいと』という意思があれば送れるそうです」


「じゃあ次の手は私が云う文章を打ってもらって、それを送ってもらうという方法ね」


「そうですね。多分それがいいと思います」


「なんか忙しいのにごめんなさいね」


「いいえ、そのおかげでこうして私はモフモフできているので」


そう言っている間望はずっとジェシカを撫でていた。リリアンはそれを見ながら送る文面を考え始めていたが<この場合は京子に連絡して一緒に考えてもらうのが得策かも…>と思いついた。
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