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徒然ファンタジー42

望に連れられた猫同伴のカフェで軽く食事を摂り、リリアンと望は他愛もない話をしたりお互いに重要だと思える情報を交換しているうちに予定の時間が来たのでそこで『デート』はお開きという事になった。猫のジェシカを手放すときの望の名残惜しそうな表情が印象的だったが、リリアンとしても存外にこの年下の有名人との会話が心地よくこちらも少しばかり名残惜しいという気持ちになった。


会計を済ませ外に出ると人通りのない事を確認してジェシカを変身させる。多少気を遣ったのかおしゃれを意識したジャケットを羽織っていて、リリアンは何となくそれをどこかで見たような気がするのだった。


「あ、そのジャケット確か昨日放送の番組の共演者が着ていましたね」


「うん。なんか格好良かったから」


「なるほど、覚えてたのねジェシカ」


それは望が出演していた歌番組でソロの男性アーティストが着ていたものとほぼ同じものだったのだ。『ほぼ』というのは良く見てみるとタグがついていなかったり、製品として売られているものとは若干違うところがあるのである。おそらくジェシカのイメージに合わせた服装になるのだ。最近リリアンが気づいた事だった。


「そうなのか、ジェシカ君の変身の場合はそういう事も出来るんですね。ちょっと『おじさま』に仕組みを訊いてみたいなぁ」


「ああ、出来たら訊いてみてよ。他にも何か出来る事があるのかとか」


「俺もあの人に訊いてみたいな」


「どんな事ですか?」


望に問われてジェシカは少し考える。勿論自分がどうするべきかを直接聞いてみたいけれど、それよりももっと気になる事があった。


「名前」


「あ!!そういえばそうね」


ジェシカの思いつきにリリアンも同意した。望は「おじさま」と呼んでいるけれど、どういう世界に居ようとも普通に考えれば名前は持っている筈で、逆にいえばやり取りを出来る望にも自分の名を明かさないのは公平とは言えないであろう。


「それは私も気になっている事なので訊いてみた事があるのですが…」


「何かあったの?」


「それが…」


望は少し苦笑いして言い出しにくいのか、少し悩んだ末打ち明けた。


「あっちの世界でも『キラキラネーム』と同じようなものがあるらしくて」


「ん?今」


リリアンも思わず訊き直してしまうような単語である。


「いわゆる『キラキラネーム』ですね。「おじさま」はその…」


「もしかしてだけどさ」


嫌な予感がしてリリアンは咄嗟に浮かんだことを述べる。


「「おじさま」も『キラキラネーム』って事?」


ある意味では自分がそうだからこそそんな気がしてしまったのである。そして、


「ええ。相当恥ずかしい名前だそうで、笑われたくないので「おじさま」と呼んでくれとの事でした」


リリアンは再び呆気に取られてしまった。ジェシカも何となく分ったのか「そうなのか」と頷いていた。少し間があってリリアンは確かめながら口を開いた。


「じゃあ、つまり『キラキラネーム』繋がりって事…よね」


「え…?どういう事ですか?」


素で問い返す望を今までにない視線でジロリと睨むようにするリリアン。


「私に皆まで言わせる気?こう見えても『キラキラネーム』には反感を持っている一人よ!」


それまでにない勢いだったので怯んでしまう望みだったが、リリアンの名前に思い至ったのか小さく「あっ」と声を上げて申し訳なさそうに


「すみません、気付きませんでした」


とリリアンに謝った。今日会ったばかりの人に謝られるのも何となく恐縮してしまい、


「いえ…気付かなかったのなら仕方ないわ」


とリリアンはフォローした。その空気が何となく可笑しかったのでそのあと顔を見合わせてぷっと噴き出して笑い出してしまう二人。ジェシカはその二人の雰囲気がシェリーの時とはまた違った感じで和やかなのを見て思わず笑顔になった。


「望はまたテレビに出るの?」


「ええ、でも今年の予定だと大晦日から元旦の番組ですね」


「じゃあご主人さま、一緒に観ようよ」


「いいわよ。じゃあ望さん、後でメール送るから」


「はい。こちらからも送りたいと思います。今日はありがとうございました!」


「じゃあね」


「じゃあねジェシカ君」


とそこで望と別れた。人の少ない通りを選んでいたのでこの日大宮望に気付いた人は居なかったのだが、最後通りがかった男性が目聡く気付いて「あ、大宮望だ!僕、ファンです!!」と近づいて行ったのを見て、「やっぱり芸能人なんだな」と思ったリリアン。



年末の夕暮れ時で暗くなるのも早い。電車で家に一番近い駅までは20分程かかりそうだけれど、考えてみればジェシカとこの時間に外を歩いたの初めてかも知れない。お互いのペースに合わせてゆっくり歩きながら話し始める。


「今日は色んなことがあったわね」


「うん。色んな事が分った」


「店で望と話している時の事って何となく覚えてる?」


「ちょっとね。難しいこともあったけど、二人がだんだん仲良くなっていった」


「このスマホのね『メール』っていうもので望ちゃんに、言ってしまえば「おじさま」に何か訊けるかも知れない」


「それも何となく分った。多分、今までとは違うんだと思う」


ジェシカは感覚的に違うと感じているのだが、確かに今までと状況が異なっているのは確かだった。だがリリアンにはこれから都合の良い事ばかりではないような気もするのである。母の事で経験したように、この事をすんなり受け入れられる人もいればそうでない人もいる。このまま静かな方がリリアンとしては本望なような気もするのである。とはいえ、


「望ちゃんも良い子だったわよね。今思うと凄いことなのよね」


と言うように新たな出会いはそれはそれとして悦ばしいものだと思っている自分がいる。


「うん。テレビに映っている人って本当に居るんだなって実感した!」


リリアンとは少し見方は違うけれどジェシカも一つの驚きを経験したのは間違いない。


「ふふふ、ジェシカらしいわね」


「ねぇご主人さま」


「なあに?」


「また「からおけ」行こうね」


そう。午前中のジェシカとリリアンだけの時間にも新しいことがあったのである。リリアンは意外な事に気付いたような気持ちになって、


「そうだったね。もし望ちゃんとも一緒に行けたら一緒に行ってみたいよね」


「うん!」


リリアンは思った。確かにこれから何かが変わってくるかも知れないけれど、これまでジェシカと築いてきたものを大切にすればきっと何とかなる。それはある意味で確信になりつつあった。
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