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徒然ファンタジー43

それからいくらか経って大晦日になる間にリリアンはシェリーこと立華京子とメールで何度かやり取りしていた。リリアンはまず歌手である『大宮望』に出会った事、彼女が猫に変身できる事などを伝え、彼女からのアプローチがあったという事も含めて背後にはジェシカが出会ったという「おじさま」が控えているという文面でメールを送信すると年末で店が忙しいらしいシェリーも即座に返信を送ってきた。中身はシェリー自身の驚きと、詳しく聞かせてほしい旨、大丈夫なのかと心配する言葉も添えられていて彼女にとっても重要な事であるらしいことが分った。


リリアンは最初あまり得意ではない長文メールで伝えられるだけの事を伝えようと思ったが、細大漏らさず書こうとすると多少まだ自信のない部分もあったりして、一応は送ったけれど「また何処かで一度会えないか」という提案もそこに添える事にした。シェリーも同じ事を思ったのか、『取り敢えず今すぐにではないけれど年が明けて少し経った辺りでそちらに向かう』という文に始まり、リリアンのメールにあった『望に送るメール』についてはその前にシェリーも考えてみるという手筈になった。


リリアンはこの時親友を頼もしく思ったし、何となく先の事も決まったのでするべき事を終えたような感覚になり、その年の年越しは大分リラックスして過ごしていた。ジェシカはというと、あれ以降テレビの事にも一層興味を持つようになったり「クリスマス」などの季節の風物詩の雰囲気を味わって文化を楽しんでいるようだった。ちなみにクリスマスには望からリリアンにクリスマスを祝うメールが届き、「ジェシカ君にプレゼントを届けたいのですが、休みが取れなくって」とあった。それを読んでリリアンとしてもジェシカにクリスマスの気分を味わって貰いたいと思い、白いケーキとジェシカがこの前選んだ漫画本の続刊や新作のゲームをプレゼント用に包装して与えた。案の定、ジェシカは何故それを貰ったのか分らなかったらしく、さらに意外とコスプレ好きでこう言う機会だからといってサンタのコスチュームに身を纏ったリリアンを変な人を見るような目で見ていた。


「サンタさんはね、良い子にしてたらプレゼントをあげるの」


リリアンはその視線に耐え切れず説明した。


「何で?」


そこで「何で?」と訊かれると思ってなくて苦し紛れに、


「そう云う人だからよ」


と答えた。『幸せな表情を見るのが好き』とか気の利いた事を言えればいいのに、リリアンはあまり自分が悩んだことがないのでざっくりした説明になってしまう。ただ、ジェシカとリリアンの関係ではリリアンが言った事をそのまま受け取るのが習わしになっているので、


「そうなのか。世の中にはいろんな人が居るんだね」


とよく分からない理解がここに成立してしまう。もっともプレゼント自体には相当喜んだようで、丁度漫画の続きが気になっていたところでもあるし、新年の休みに二人で楽しめるゲームがあるのは都合が良かった。ジェシカはまさにそういうものを読んだりプレイしながら大晦日を迎えた。


「あ、大晦日って今日なんだね。だったら望がテレビに出るんだよね」


記憶力は良いのかしっかり望の言った事を覚えていたジェシカ。


「そうね。確か夜にある歌番組だよ。紅白じゃないようなんだけどね…」


テレビの構成の微妙なところであるが、その日の夕方辺りからBSの方でアニメ寄りのアーティストが集まる国営放送ではない曲での歌番組があって、大宮望はアーティストとしては本格的なのだが売り方がアイドルなのかアニソン歌手なのかがはっきりせず今年はそちらの番組に出演となっていた。勿論それも凄いことなのだが、当人はどのように思っているのかリリアンとしても気になるところではあった。流石に訊ねる事は出来ないけれどメールで「今日頑張ってね」と送信する。「はい!見ててくださいね!」と元気の良い返事が返ってきた。


番組が始まり、ジェシカと一緒にテレビに噛り付くリリアン。一時間程経ったところで望が紹介される。場馴れしていて緊張はないのか、はきはきと一年を振り返った感想を述べる。


「今年は色々な出会いがありました。自分がこれからどうしたいのかも考える一年になりましたし、自分が表現したい事も増えました」


そして自分が仕事で挑戦したアニメの主題歌については「私もこのアニメが好きで主人公みたいなカワイイ女の子になりたいです!」と若さあふれるコメントを残した。


「やっぱりプロよね。でも歳に似合わずしっかり考えているというのは分る」


「何だか前あったときと違う人みたいだね」


「そう思う。まあ「おじさま」の事はきっと最初は凄くびっくりしたと思うけど、普通に仕事してたしね」


どうしてもこの前あった事が頭を過り何となく親身になってしまう。同じ秘密を共有しているという仲間意識もあるのだろう。そして望は大音量の演奏の中で歌い始めた。


「あ、そっか。この雰囲気なんとなくフジに似てるのか…」


リリアンはその曲が「フジファブリック」というバンドのある曲の伴奏と似ている部分があることに気付いた。その曲のタイトルは『徒然ファンタジー』と言って、もしかすると少しリスペクトが入っているかも知れない。比較的元気がいい声でアニメソングと言っても十分なのだが、曲の構成や詩がどことなくアーティスティックでロックバンドが歌う曲のようにも響く。




 この世界ってそんなに単純じゃない でも考える事は単純で君の事ばかり
 言い切らないのが君の良さだっていうけど ちゃんと伝えてほしい私は
 あの自転車 追いかけたまま


 徒然って言ってた誰かが 目を覚まして世界をみたら
 案外素敵な マジカルワールド

 巡り合って また輝く そして目の前に
 君が居て  すぐ笑って そしたら私の
 ファンタジーが今日も動き出す
 



何処かしら不思議な歌詞。まるで望本人の気持ちが歌われているようだ。ちょっと気になってリリアンが調べてみるとこの曲はアニメの世界に合わせて別な人が作詞したようだ。今年最後の歌唱になるという事もあるだろうけれど、望は最後までしっかり想いを込めるように歌っていて、ジェシカもリリアンも歌い終わると思わず拍手をしていた。


「凄かったね、望」


「うん。ああこの曲欲しくなっちゃったな…CD買ったらサイン貰えるかしら」


なんとも庶民的な発想のリリアンだが、最近新しい音楽をそれほど聴いていないので先ずは縁のある『大宮望』が歌う曲から聞きはじめれば良いという事に気付く。アパートにはテレビから聞こえる「ありがとうございました!」という望の大きな声が響いていた。
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