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成長

季節は移り、県内で初冠雪が記録されたというニュースを聞いた頃になると「そら」は前よりももっと大きく、白く、より猫らしくなっていた。雌猫だったのであまり大きくならないと云うけれど、結構やんちゃですばしっこいところがあるので家の中を駆け回ったりして遊んでいるところをよく見る。何にでも興味を示す時期なのかこの頃は家の中を冒険しているようにも見える。狭い隙間を見つけて入り込んだり、押入れを開けた時にその中に隠れたり、トイレの中に侵入したり飼主としては少し気を付けなければいけないようである。



こちらが呼ぶと鳴いて返事をしてくれたり、私の元にやって来てくれるようになった。その辺りから鳴き声の使い分けで「遊んで」と要求してくるようになったり、ご飯をねだったりし始めた。大きくなって知恵がついて来た事を実感する。そして「そら」に向かって自然と話しかけている自分がいる。反応してくれるとどうにかすれば意思疎通も可能なのではないかとさえ思われてくる。最近猫語の研究があるとか、いつかは猫と会話できるようになるとか何かの記事で読んだが、長く一緒に居る飼主とだから分かり合えるという事もあるのではないだろうか。



「そら」が今どうしたいのか何となく分るというのも不思議と言えば不思議である。



もっとも「店」の主である立華さんの話は本当の意味で不思議である。というか、彼女自身どこまで本当の事を言っているのか本気なのか、時々判断出来なくなるような時もある。けれど少し変わっている部分はあるものの彼女は非常に常識人で、むしろ性格的にしっかり考えるタイプの人だと思うので何か特別な事があるのかも知れないと間接的な理由で思えたりする。


その立華さんには「店」以外でも一度だけ偶然に出会った。それは年が変わって元旦の朝である。年末に地元の友人と少し飲んだ時に「年齢的にキリが良いから久々に新年に神社で初詣でもしてみようか」という流れになって折角だからというので元旦から初日の出が見れそうな場所と時間に集合して、そのまま地元では結構有名な神社に移動した。神社は既に参拝客が沢山いて、階段の下のちょっとした屋台のようなものも昔のままで何となく安心した。数人で少し急な階段を登って行った時に、上の方から若い女性と少し年を召した女性が並んでゆっくり降りて来たのとすれ違った。若い女性の方をよく見るとまさに「店」の店主で、思わず私は名を呼んで声を掛けた。声を掛けられた立華さんは一瞬戸惑ったのだが私の方を向いて顔を見た時に誰だかが分ったようである。


「あら、奇遇ね!明けましておめでとうございます」


「明けましておめでとうございます。早いですね!」


「そちらの方々は?お友達かしら?」


「ええ、みんな地元ですよ」


二人で話し始めると友人達もこの背が高い黒髪の女性に興味を抱いたのか「誰?」と訊いてくる。私は「店」の事とその店主である事を手短に説明した。地元にできた新しい「店」の事は結構みな知っていたのか、口々に「ああ、あの店か」と言って納得していたようだった。立華さんは軽く自己紹介をしたが、その時隣にいた女性が彼女の祖母であるという事が分った。


「最近はどんな感じですか?」


この頃店を訪れる度、立華さんにこのように訊くのが恒例になっている。この質問は「店」の事もあるけれど主にこれまで二人で話していた事の進展があるのかどうかというニュアンスで訊いている。立華さんは、


「それがね、なんか凄いことに…ってここだと話せないかも。今度店に来たときに話すわ」


と何か色々話したそうにしていた。


「分りました」


私も了承して、新年の「店」の予定について訊ねる。


「もう4日からは通常営業よ。ただし」


「ただし?」


「2週間後くらいに用事があって店を休みにするつもり」


「あ、そうなんですか。じゃあ、その前に一度」


「ええ、出来ればそうしてもらえるとありがたいわ」


そこで立華さんとは別れた。別れ際、立華さんの祖母はにっこりとほほ笑んで上品にお辞儀をしてくれた。こちらもそれに倣う。その後の初詣自体は新鮮な気持ちになれてよかったけれど、友人達から立華さんの事で少し詮索されたので微妙な気分になった。異性との付き合いのあまりない私の事なので珍しがったという事もあるかも知れない。


「気になる事は気になるけど…」


家に戻ってそう呟きながら玄関の扉を開けると、そこにはある意味ではもっと気になる存在がそこでちょこっと座って私をお迎えしてくれていた。


「そら、ただいま」


「にゃ~ん」


この頃はこうして迎えてくれるようになったけれど、それがまた愛おしい。『猫の置物』の効果なのかどうかは分からないけれど、すっかり猫の魅力に憑りつかれている一人の男がここに居る。
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