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進展

正月明けて数日過ぎた頃に挨拶も兼ねて「店」を訪れる。前年の十二月は仕事などでいろいろバタバタしたため行けてなかったので久々と言えば久々の入店。「店」ではいつも通り立華さんが歓迎してくれた。

「こんにちは、来てくれてありがとう。店ではちょっと久しぶりね」


「ええ、先月は休暇があまり取れなくて」


「まあ私も年末の方は大分忙しかったわ」


私は入ってすぐ少し店内を見回してみた時に微妙に物の配置などが変わっている事に気付いた。


「配置替えとかしたみたいですね。あと絵が増えたような…」


「よく分かったわね。絵はインテリアで時々買ってゆく人がいるのと、地元の絵描きさんに「少し店に置いて欲しい」と頼まれたのもあってちょっとスペースを増やしたの」


「そうだったんですね。納得しました」


絵はそれほど詳しいわけではないが、以前からこの「店」に飾ってあった絵はちょっと気になっていたしどこか幻想的で牧歌的でもある画風の作品はこの「店」の雰囲気にあっているような気がしていた。ところで新しく入ったと思われる絵の中には猫が描かれているものもあった。白と黒の猫が一匹づつ中心で線対称になって描かれていてデザインとしても優れているし、何より「白」と「黒」の猫というのが興味をそそられるポイントだった。それを指さして「あれは?」と訊くと、


「ああ、やっぱり気付いた?実はその絵描きさんに頼んで一つ描いて貰ったのがそれなの。本当はキジトラでも良かったんだけど、モデルが見つからなかったとかでそのデザインになったわ」


「へぇ~!凄いですね。うわー、めっちゃ欲しいな」


「その絵描きさん少し変わってる人なんだけど結構リクエストに応えてくれて、もしかしたら描いてくれるかもよ」


「え、それはいいな。うちの猫描いて貰えないかな…」


「今度会ったときちょっと話してみても良いけど?」


「うわー、お願いできるなら是非!!」


「オーケ。ところで話は変わるけど、神社でも言ったけどこちらも少し相談に乗ってもらいたい事があって」


「ええ、そのつもりできました」


「話が早くて助かるわ。じゃあ、こちらへどうぞ」


そう言って奥の倉庫兼事務所のようなところに案内される。こちらも少し整理されたようで以前よりもしっかりした抽斗のあるデスクなどが置かれている。この前のようにコーヒーをご馳走になりながら話を聞いた。


「例の話なんだけど、何処から説明したものか」


立華さんが説明し難そうにしていたのでこちらから知っている事を述べる。


「親友とその飼い猫の…というかその少年に何かあったという事でいいのでしょうか?」


「まさにそうなの。あの言っても信じてもらえるか分らないし私も実際確かめたわけではないんだけど、歌手で「大宮望」ってご存じ?」


それは最近有名になり始めている一人の女性歌手だった。ルックスなどを見ればアイドルと言ってもいいのかも知れないが、若いながらも歌い手としての実力は確かでテレビの歌番組に何度か出演している。私もこの頃は音楽に疎くはなってきているけれど知らないわけではなく、オリコンなどのランキングなどをチェックしたりするくらいの事はしている。もっとも、オリコンだけでは追えなくなってきたので知らないアーティストは全然知らなかったりである。そんな私でも知っているくらいだから「大宮望」という人は結構知名度はあるような気がする。だがその人がどうしたというのだろう?


「親友が会ったそうよ」


「へぇ~それは凄いですね。やっぱり都会にいるとそういう事もあるんですかね?」


「というか、あっちからアプローチされたそうよ」


「はい?」


一瞬立華さんの言った事の意味が解からなくなって変な声が出てしまった。アプローチとは普通の意味のアプローチだろうか?


「やっぱり普通はこれじゃ伝わらないわよね…」


立華さんも自分で言ってて困り顔だったが、気を取り直して云う。


「もっと凄かったのは彼女が猫に変身できたことよ」


「…?」


最早意味不明だった。それは聞いた限りだと作り話として言っているとしか思われないのだが、例によって立華さんは嘘を言っている感じはない。


「あー、これじゃやっぱり私が変な人みたいじゃない!」


私の様子を見て少し憤ってしまったよう。何となくフォローしなければならないような感じだったので、


「それは、本当の話ですか?」


と一応訊いてみる。すると更に困り顔でちょっと泣きたそうにも響く声で、


「そうなのよ!真面目に話してるのよ、多分本当なのよ!」


まるで私に訴えるようにして話す。大分疑わしいけれど、立華さんの事は疑えなかった。


「なるほど。とにかく、それが本当だという前提で話してみてください」


「分ったわ。その「大宮望」の事を説明するには親友とジェシカの事も話さないといけないの」


「それはどういう?」


「つまり、繋がっている事なの。ある人物によってね」


まるで推理小説かミステリーみたいな話である。頭をフル回転させて話を追ってゆく。立華さんも真剣である。


「そもそもジェシカが人間に変身できるようになったのはジェシカの前に突然現れたある男性のお陰なの」


「はい」


「その人がね、どうやら「大宮望」とやり取りできるらしいのだけれど、『異世界の人』らしいの」


「異世界…?」


その単語を聞いてファンタジーのようだとも思えてしまった。最近巷ではブームらしいけれど、現実の話として異世界という言葉が出て来るとは思ってなかった。


「つまり話をまとめるとこうなるわ。異世界の住人である男性が、ある日ジェシカの前に現れて変身させる道具を置いていった。その人物は同じく異世界から「大宮望」に手紙を送って彼女が変身できる道具を渡した。そして…」


「有名人である「大宮望」が立華さんの親友とそのジェシカ君と接触した…という事ですか?」


私が理解した事を確認して立華さんの目は明らかに輝き始めた。


「そうなの!!まさにそういう経緯で、親友の女の子が先月の末に私に連絡してくれたの」


「異世界…謎の男、猫に変身できる…」


思わずキーワードを口で言って確かめる私。言っていて私は正直なところ少し戸惑っていた。話としては分かるのだが、現実の事として理解しようとすると話に聞いただけなのでどうしても信じられない。でもそういう事なら筋は通るし、猫のジェシカ君が人間に変身できるという事も不可能ではないと論理的に説明できる。だがキーワードのような『仮定』が多過ぎて、更には『異世界がある』という大前提を認めることがそもそも大変であった。こういう時はミステリーよろしく『証拠』なのだが、それが無いとなると実際に会ってみるしかない。私は今考えたような事をそのまま立華さんに伝えた。


彼女はじっくりと頷いて、


「そうね。常識的にも理性的にもそう判断するのが当然。実のところ私も『異世界』については半信半疑よ」


それを聞いてある意味で私は安心した。立華さんが決しておかしいというわけではなく、あくまで話が全て真実だとした場合にどうするかということで私たちは話し合っているのである。


「ただね」


と立華さんはその後自分の推論を述べた。


「もし異世界があってその人物が居たとしたら、その人物がどうしようかという事を考えると結構すんなり理解できるところがあるの。そもそも異世界があったとしても接触できるとは限らない。仮にその人物のように異世界を渡る力があるのならば猫を人間にする事くらい容易いとも思えるし、「大宮望」の話だとその人物は私達普通の人にも「異世界」があるということを伝えたいらしいのだけれど、それならば今までの事は一つの線で繋がるような気もするの」


そう説明されると確かに無理なところが無いようにも思われてくる。もし自分が異世界に行けたら、自分の世界の事を知ってもらいたいと思うのは自然ではないだろうか?そして、この世界で出来ない事も異世界の技術ならば…



そこまで考えて私は自分の想像が無限に広がって収集がつかなくなりそうな事に気付いた。確かにこういう事をずっと考えてゆく事も出来る。でも、私が確実に知っていて自信があるところに立脚しなければそれは夢や妄想とあまり変わらない、そんな気がする。それも参考になるかどうかは分からないが、伝えてみる。再び立華さんは頷いて、


「うん。確かにそうね。私も自分が確かめたところを出発点にした方が良い」


「すると、立華さんはジェシカ君が猫になれるという事までは…」


「そうね。そこから先は後は自分で確かめてみるしかないと思ったわ」


私の相談に乗れるのはある意味でここまでかも知れない。ただ私は一つだけ保証したくなった。


「大丈夫だと思います。私も立華さんと同じことを知っていたら同じように考えると思います」


そう言うと立華さんは嬉しそうに笑った。その笑顔があんまりにも眩しかったので照れ隠しで、


「でも、私が当てになるとは限りません」


とニヤニヤしながら言った。立華さんは、


「あら、意地悪しなくっても良いのに」


と言い「ふふふ」と笑った。後日立華さんは親友の所に出向いたそうである。
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