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徒然ファンタジー46

シェリーこと立華京子がやって来るという事だったが、それまで少し間が空くのでリリアンは望とある程度連絡を取っていた方が良いと考えた。「おじさま」の事に直接関係のないちょっとした事はこれまでも時々メールしていたりしたのだが、シェリーの勧めで「とりあえず彼の方はリリアンとやり取りするつもりがあるのか?」という事を確かめみようと思った。

「う~ん、これでいいかな」

文面を考えていたのだがあまり配慮し過ぎると意図が伝わらないのかも知れないと感じストレートに訊いてみる事にした。文末に「これを『おじさま』に伝えてほしい」と加えて望にメールを送信すると、


『分りました。メールの件、伝えてみます』


とすぐに返ってきた。高校生の望は恐らくまだ冬休みで今日はオフなのかも知れない。社会人であるリリアンがこのメールを昼休みに送信したのはお昼ならば相手にもある程度余裕があってメールを見る可能性も高いと踏んだからである。問題はリリアンにとっては謎の人物である「おじさま」の方である。彼と望が通信する場合には『異世界』との通信だから地球上でも時差があるように相手が現在活動中とは限らない。


<というか、活動しているとしても何をしているのだろう?>


相手の状況を想像したり考え始めると分らない事だらけで何から訊ねればいいのか迷ってしまいそうだ。望によれば相手は何らかの手段でリリアン達の事はある程度知れる状況にあるのだから、少し気を遣って欲しいとも思ったりする。


「まあ、気長に待ちますか」


と気を抜きかけた時再びスマホにメールが届いた。望からである。


「え、結構早くない?」


メールを確認すると件名が『おじさまの返信です』となっていた。本文ではまず望が「おじさま」が返事をくれた事、そしてそれを望からリリアンに転送してもらいたいとの希望があった、という事などが手短に説明されていて、その後に「おじさま」が書いたと思われる文章がそこにコピーされていた。それはこういうメッセージだった。



拝啓 リリアン殿

ジェシカ君の事や望さんのことなどで貴女にはご迷惑というか面倒をお掛けして申し訳ありません。もともとは私個人の願望から始まっている事です。まずこういう場合は自己紹介から始めるべきなのですが、その前に『こちらの世界』についてお話しするのが良いのかも知れません。


『こちらの世界』と言っても貴女がたがまだ直接見たわけではないでしょうし、実際のところ『こちらの世界』とそちらの世界には実現可能な事などで大きく違うところもありますが、人間普通に生活を営んでいるという事では共通していて、つまりベースとなる部分は同じなのです。『こちらの世界』の人も仕事をしたり子供を産み育てたりといった日常生活があります。私も一応仕事のような事はしていていますが半隠居とも言えるのかも知れません。


少し注意をしていただきたいのは『こちらの世界』の人で貴女がたの世界を知っている人はごく少数だという事です。こちらにある過去の書物によるとかなり前の事ですがそちらの世界に行き来できる人が居たという記述がありますが今は失われつつある秘術によって可能になる事であり、私が偶然その秘術が記された記された古書を手にして不完全ながら、あの日実現できたのです。あの日とはジェシカ君に会った日の事です。私はそれが貴方の住んでいる所だと知っていたわけではありません。私の知っている秘術ではランダムに場所が選ばれるのです。つまり貴女のアパートの座標が偶然選ばれたという事であり、私がその後の貴方たちの事を知っているのはまた違う秘術による通信によってなのです。




その後も文章は続いているが、これは明らかに短時間で書いたものではなく考えられたものであるという事が分った。つまり「おじさま」はリリアンにどう説明するか予め考えていたらしいのである。ここまで読んでみて、リリアンとしては安心したのが本音である。相手は少なくとも言葉が通じるし、リリアンにきちんと説明する気もあると見える。ただ、この場で全てを理解するのも難しそうなので、とりあえず望には礼を伝え、仕事が終わってからじっくり読んでみる事にした。


その日の仕事はほとんどデスクワークと資料の整理だったがリリアンは仕事をこなしつつもやや複雑な気分だった。自分がとんでもない世界の事に関わっている真っ最中なのに普通に仕事は続いていて、誰もかれもそういう事を知る由もない生活を送っている。もしこの場でリリアンが『異世界』の事を口にしたら「現実逃避しないでちゃんとしろ」と言われるだろう。だが、異世界が現実の事として存在するならば、現実逃避ではなくある意味現実直視なのである。もっとも、「当面すべき事」に集中すべきだというのならば、やはりある種の逃避行為なのかも知れない。


年明け早々でちょっとしたトラブルもあったが速やかに片付け、定刻通りの帰宅。帰りの電車でメールの続きを読むリリアン。




私の知っている別の秘術ではジェシカ君を人間の姿にしたり、逆に望さんを猫にする事は造作もない事で『こちらの世界』の人も貴女がたも驚かれるかも知れませんが、その秘術をカタチにしたものならば世界を越えても使用できるという事も判明しています。いわば違う種類の秘術の応用が私が為した事なのです。私が確認したところそちらの世界にも秘術をカタチにしたようなものが少しばかりあるようで、それが『こちらの世界』から伝わったものなのか、それともそちらの世界に元々あったものなのかは今の処謎です。


さて『こちらの世界』とそちらの世界で大きく違うところは、最近の事ですと『怪獣』が普通に存在するという事でしょうか。そちらの世界では創作の世界の出来事かも知れませんが、こちらの世界では特殊なエネルギーによって突如として出現する巨大な生物で、それが数十年前という比較的新しい出来事なので現在もその問題については世界の人が頭を悩ましているところでもあります。望さんにその話をした時にそちらの世界の創作で『ウルトラマン』という作品があるそうですが、それを教えてもらいこちらではそういう人間離れした超人的な存在を一般的に『超人的ヒーロー』と呼ぶようですが、そういう存在も既に一般的になっている世界です。





その辺りまで読んで一瞬「これは創作なのではないのか?」という気持ちや、もしかすると大宮望がこれを書いて望にからかわれているのかもという疑惑が頭を過ったりしたが、リリアンとしては信じたい気持ちだった。異世界の事だからなのかリリアンとしては「夢がある世界だな」と思ったりしたし、こういう話を聞いて出来るものなら行ってみたいと思ってしまう。文はもう少し続いていた。



さて、私はそんな世界で貴女の世界における日本と同じ名前の「日本」という国のF県のN市という処にに住んでいます。ある方法で知りましたが貴方が以前ジェシカ君と旅行に行ったところもそういう名前だそうですね。とても凄い偶然ですが、ある意味では必然なのではないかと思っています。


というのも、二つの世界は我々が感じる事の出来ない次元で繋がっているような気がするからです。『シンクロニシティー』のように二つの世界はそこに暮らしている者がまるで違うのに何処かでは似ていたり同じだったりこうして言葉も同じです。我々ですらも与り知らない何らかの必然性があるとしか思えないのです。

そういう事を確かめてみたくなったのが私の行動のきっかけだったかも知れません。つまり私が希望しているのは貴女がたの力を借りてこの世界の事を貴女がたの世界に知らせてほしい。もしその影響が大きくなった場合、二つの世界の関係は、類似性はどうなるのだろうか。そういう事を調べていけば、もしかしたら何か隠された秘密が分るかも知れない…と。



これは私の願望だし欲望かも知れません。無理にとは言いません。けれど私が為した事と貴女が普通にしている事だけでも少しづつ何か微妙な変化が起こりつつあるような、そんな気が私にはするのです。長々と語ってしまいました。これからも出来る限りの事はしたいと思っていますし、説明したいと思っています。どうぞ気が向いた時は望さんを介してと言うかたちですが、よろしくお願いします。




「おじさま」ことM・Aより





「あれ?『M・A』ってイニシャルかな?」


リリアンは最後に書かれた二文字がかなり気になった。確かにこの文全体で述べたい事も凄いのだがイニシャルを名乗ったのがこれで初めてだとすると「おじさま」こと「M・A」さんは大分情報を出したように思えるのである。それはキラキラネームで苦しんだリリアンだからこそそう思うのかも知れない。丁度電車を降りたところで念のため望に確認してみる。今度は普通に電話してみる。


『あ、もしもし今大丈夫だった?』


『はい。大丈夫ですよ』


『メールじっくり読んでみたよ。なんか最後の文でイニシャルらしき文字があったけど』

『はい、私も初めて「おじさま」のイニシャルを知りました。これだと普通ですよね。でもこれだと「おじさま」って呼ぶしかないかも。あ、そういえば気になってたんですけどリリアンさんの苗字って何て言うんですか?』


どうやら望も初めて知ったらしい。リリアンは後半の質問に答えた。


『安斎よ』


『安斎リリアンさん、ですか』


『お願いだから、続けて言わないで!!苗字めっちゃ和名だから変な響きになるのよ!!』


『あの、安斎さんって呼んだ方が良いですか?それともリリアンさん?』


『まあ、貴女だから名前の方でいいわよ』


『分りました。そういえばちょっと前から考えてたんですけどもう一度何処かで会えたりしませんか?今日のメールを見ていて少し話し合いたいなと思いまして』


『あ、それなら』


とリリアンはある事を思い出した。


『丁度一週間後なんだけどジェシカの事を知っている友人がね、こっちに来てくれるそうなの。紹介も兼ねてもしそちらがよければその日に会う事にすれば凄く都合がいいかも』


『一週間後だと日曜日が空いてますね。大丈夫だと思います』


『それなら良かった。丁度日曜日に来る予定みたいだから。さっきのメールも転送してその人に伝えておくから』


『はい。では』


『じゃあ』


色々と上手く都合がついたようである。歩きながらシェリーにメールを転送する。彼女もしっかり読んだらしくアパートに着いた頃に返事が来て、


『色々興味深いわね。上手く考えがまとまらないのだけれど、「M・A」さんはどこまで知ってるのかしらね?』


と書いてあった。シェリーらしい鋭い視点だった。こういう事も含めて再びの望と会った時までに考えをまとめる必要があるなとリリアンは思った。
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