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徒然ファンタジー47

翌週の日曜、立華京子がリリアンの家を訪れた。前に来た時ように真っ赤な自動車でやって来た彼女は大分暖かそうな黒いコートを着ていて外見的には顔つきもキリっとしていて気合が入っているように見えた。けれどそれも致し方ない事だろう。彼女はこれから起こる事に対して気合を入れて臨むべきだと思ったのである。


が、その表情も家の中で待っているであろう『猫の少年』にもうすぐ会えると思うといきおい緩んでしまう。玄関の前で誰も見てないのに既にニヤついているシェリーをもし見ている人がいたら少し気持ち悪いと思うだろう。それでも自分を戒めて再び凛々しい表情になって優雅な動作で呼び鈴を押す。


「は~い」


中から聞きなれた声が響く。いざ参らんという気持ちで扉を開ける。


「え…」


だが中で待っていてくれていたリリアンとジェシカを見て一瞬呆然とする。確かに両名とも待っていてくれたのだが、彼女が期待した通りではなかった。


「何でジェシカはその姿なの?」


『キジトラの猫のジェシカ』を見てシェリーは動揺しているのかそのままジェシカに向かって言った。少しはシェリーの言葉が分るのかシェリーをじっと見ながら「にゃ~」と返事をするジェシカ。そこでうっかりしていた事に気付いて改めてリリアンに訊ねる。


「どうして猫のままなの?」


するとリリアンは悪戯っぽく「てへっ」と舌を出し、


「ちょっと期待を裏切ってみました!!」


と白状した。その後一応付け加えるように、


「でも京子、あんまり猫の姿見てないからいいんじゃないの?」


と言いシェリーもこれには複雑な表情をしている。シェリーは小さく溜息をついて言う。


「でも、やっぱり人間の姿で出迎えてもらいたいわ…」


「私は猫の姿でも嬉しいけどね」


「まあ、そう言われてみればこの姿の方が…こうやって」


と言いながらジェシカを抱き上げて頬ずりするシェリー。「う~ん、ジェシカぁ~」とやたら甘ったるい声でスキンシップを取る親友の姿を見て、<京子ってこんな人だったけ?>とちょっと疑問に思うリリアン。とにかくこの後の事もあるのでその辺で家に上がらせて、部屋でジェシカを人間の姿にする。


「ジェシカ、元気にしてた?」


「うん。シェリーも元気だった?」


「元気だったけど、ジェシカに会えなくて淋しかったわ」


「俺も、シェリーに会いたかった」


ここでもまるで感動の再開のシーンが再現されるのでさすがに食傷気味のリリアン。ここは自分が仕切って話を進めなければと思い、やや強引に話を始める。


「京子、メールは読んでみた?」


シェリーの方もここに来た目的を思い出したのか真面目な表情になって答える。


「ああ、そうだったわ。その事でちょっと考えてきたんだけど…」


と前置きをしたシェリーは胸ポケットから小さな手帳を取り出してそれを調べながら言葉を続けた。


「えっとね、ちょっと気になるところをメモして来たんだけど、先ずはね「M・A」さんの住んでいる場所が私の住んでいるF県のN市というところだって話なんだけど、つまり地形とか、もしかして歴史とかも同じって事かしら?」


「あ、そういえばそういう事も気になるよね、同じところは同じだって言ってたけど」


「あとね、秘術と言ってるみたいだけど私の事も彼は知ってるのかしら?」


「それも聞いてみないとわからないよね」


「今までの話だと少なくとも「M・A」さんが「大宮望」さんが有名人でどういう立場にある人なのかを知っていたわけでしょ」


「多分ね」


「という事は、その気になればあちらの世界に居たままでこちらの世界の事を調べられる状態にあるんじゃないかしら?」


「うん、確かに。さすが京子ね、まるで探偵みたい…」


実際シェリーはこの頃探偵以上に複雑な情報を整理しているので強ち間違いでもなかった。ただこれは事件ではない。むしろ与えられた情報から生活を推理する考古学のようなものかも知れない。


「そういう部分を詳しく訊ければ、「M・A」さんがどういう人なのかも見えてくるかも知れない、けれど…」


「けれど?」


シェリーはリリアンの考えを確かめるように言った。


「リリアンやジェシカ、私達のこれからに直接関係あるのかどうかという事を考えると微妙な疑問ね」


「というと?」


「つまり、私達は『異世界の事』が知りたいのかってことよね」


その言葉を聞いてリリアンは「はっ」とした。確かに異世界の事は当然好奇心で気になるけれど、自分達は厳密には異世界の事を調べようとしているわけではないという事に気付いたのである。


「確かに言われてみれば私達は異世界があるとしてもそれを確かめる必要もなければ、「おじさま」の…「M・A」さんの事を知る必要もないのかも知れない。あくまで彼がこの世界の人達に異世界の事を知らせたいと思っているだけで」


そういう風に整理すると自分達のすべきことが見えてきてすっきりする。リリアンがシェリーのメモを見せてもらうと『大事な事』という見出しで、




・「M・A」氏の希望を叶えるのかどうか?

・『異世界』の事をどれだけ調べるか?

・大宮望の意向





と箇条書きされていて、その部分がまとめなのか大きな丸で囲ってあった。勿論リリアンもいろいろ考えたけれど、ジェシカと相談し合っていて『異世界はどんなところだろう』という話ばかりしていたのとは大違いだと思った。親友は頼りになるけれど、逆に自分もしっかりしなければと思い直す。


「そうだ大宮望さんのことだけど、今9時だから一時間後くらいに待ち合わせするんだけど」


「場所は?」


「近所の公園。その方が都合がいいからって」


「へぇ~。なんか緊張するわ」


「京子が緊張するのって珍しいわね」


「望は良い人だよ。なんか「ふわっ」ていう感じ」


ジェシカがこう言ったのだがシェリーは何か気になった事があるようである。


「大宮望が「ふわっ」ていう感じだとすると、私はどんな感じ?」


急に訊かれたのでジェシカは「うん?」と不思議そうな声を出したが、ちょっと考えた様子。少し悩んで、


「うんと、「きらっ」て感じ」


と言うとシェリーはそれで満足だったのか、うんうん頷いている。それならばリリアンも訊いてみたいと思ったのだがこのペースになるとまた本題からそれてゆきそうだったので今は控える事にした。


「そういえば、京子、あと何かある?」


「ああ、一つあったわ」


訊ねられてシェリーは思い出すことがあった。


「リリアン、この間メールでお母さんがアパートに来たって教えてくれたわよね」


「あ、そうだった。それがあった」


「その後どうなの?」


リリアンは少し神妙になってシェリーに伝えた。


「年明けてから一応連絡したんだけど、お母さんからは『寒くなるから、とにかく健康には気を付けなさい』って。ジェシカの事はなんか有耶無耶になってる」


「なるほどね。気持ちは分からなくもないわ。まあその辺は時が解決すると思う」


「うん、そうだといいんだけどね」


それから待ち合わせ時間まで意外と時間があった事もあるけれど結局いつものように対戦ゲームをし始める一同。ジェシカにクリスマスプレゼントとして与えた人生ゲームのようなボードゲームで対戦していると危く時間を過ぎてしまうところだった。
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