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徒然ファンタジー49

一行がリリアンのアパートに到着すると望は何か感動したのか嬉しそうに、

「うわぁ~」

と声を上げた。その際の仕草も可愛らしい女の子に特徴的なものだったので会って間もないシェリーは感心して彼女を見ていた。猫を飼っていいという条件以外はごく普通のアパートなのでリリアンは思わず何に驚いたのか訊いてみた。


「実は私、他の人の家ってあんまり来たことがなくって…」

「え…?そうなの、なんか意外…」


この発言には逆にリリアンの方が驚いてしまった。


「その、プロの歌手になるって決めてからレッスンとオーディション漬けの毎日だったんです。それで、あんまり友達と遊べなかったという理由がありまして…」


少し恥ずかしそうに訳を説明する望。リリアンもシェリーも確かにそう云う事情があるならと思ったのだが、リリアンは特に歌手を夢見ていた時期があるだけに自分がそういう風な生活をしていたら早々にギブアップしそうだなと望に対する尊敬が増した。


「それだったら仕方ないよね。でも最近はオフとかもあるんだよね?」


「ええ。デビューしてからはスケジュールがしっかり決められるし、オンとオフがきっちりしているところもあるので結構一人の時間も増えて…」


するとシェリーが、


「会ったばかりでこういう質問をするのもなんなんだけど…」


と前置きしてからこんな事を訊ねた。


「お友達はいらっしゃるのかしら?」


明らかに望は複雑な表情になって「えーと…」と言って答えにくそうにしている。そして何か悪いことをした時のような自信のない調子の声で、


「あんまり…事務所がLINEとかも気をつけろって云うので…」


「ああ、それはちょっと大変かも…」


シェリーとリリアンは世代的にそこまでSNSに依存しているわけではないけれど、若く中高生の代表であるような望にとってそういうもので密に連絡を取れないというのは会話に混ざり難くなる要因であるという事は十分了解できた。


「だからその、歳は少し離れていますけれど、皆さんとはお友達のような気持ちというか…その…」


年下の子のそういう切なくいじらしい表情を見てしまうと、先輩として、皆まで言わせるわけにはいかない。


「うん。私もお友達になれたらいいなって思ってました!」


元気よく答えるリリアン。彼女の人懐っこい部分と気持ちのいい部分が遺憾なく発揮されたカタチである。シェリーも友人に引っ張られるように続ける。


「貴女のように素敵な人とお友達になれるチャンスを無駄にするわけには行かないわ!!」


彼女らしい少し回りくどい言い回しだが語調ははっきりしていた。そしてトドメとばかりにジェシカが、


「みんな仲間になったんだね!!」


と仲間認定をしてしまったので、場は一気に明るくなった。ぱあっと花弁が開くような表情になった望。


「ありがとうございます!!とっても嬉しいです!!」


その後新しい友人に少しばかりアパートの中を見せてから、再び外に出て続々とシェリーの真っ赤な自動車に乗り込み始めた。助手席に座ったリリアンがシェリーに向かって言う。


「こういう時に車があるって言うのは便利よね。私の同僚で車通勤の人なんて滅多に居ないけど、ちょっと考えてみようかな…」


「まあ、私の住んでる所では車無いと生活できないとも言えるしね」


シェリーが答えると、彼女が住んでいる場所について気になる事があったらしい望が訊ねた。


「京子さんの住んでる所って確かF県でしたよね。数年前は大変でしたし、今でも大変だと聞きます」


望のその心配そうでいかにも気掛かりだという様子をフロントミラー越しに見ていたシェリー。何かを納得した顔になって優しく語りかけた。


「この国には望のように素晴らしい人が沢山いるから大丈夫。ふふふ、逆に将来は安泰かも知れないわ」


「え…?」


一瞬ぽかんとしていた望だが、褒められたらしいことに気付いて少し恐縮して顔を赤らめていた。


「う~ん、『カワイイ』っていうのはこういう娘の事を言うような気がしてきたわ」


「京子はカワイイってあんまり言われないもんね」


リリアンが得意になって茶々を入れる。少しイラッとしたのか、


「あら、あなただって似たようなもんよ」


とやり返した。実際、シェリーはカワイイとは言われないタイプだが皆口をそろえて「キレイ」とか「カッコいい」と云っているのでリリアンの言い方では不十分であるといえるだろう。そしてリリアンについても一部の人からは「結構カワイイ」と言われているタイプなので、シェリーの言い方でも足りない。望とジェシカは二人のやり取りを聞いていて、自然と笑顔になった。そしてこんな時にはこう云うのが定番だろう。


「お二人とも仲が良いんですね!!」


既に車は走り出していたので前を向いてシェリーが答える。


「ふふ…否定はしないけど、肯定をするのは癪だからノーコメントで」


「あんたがそういうねじまがった性格をしてなけりゃ、「カワイイ」って言ってあげるのに!!」


「なんか俺は二人がこういう風に話してるの見ると安心する」


「分りますよ、ジェシカ君。私達も一杯会話しましょう」


「うん」


とさり気なく良い雰囲気になっていたジェシカと望に対してリリアンもシェリーも複雑そうな表情で、


「ある意味末恐ろしいわ…」


「ほんとね、ちょっと注意しなきゃ…」


と言い合っていた。徒歩で15分ほどの道程なので車だと5分程で到着した。そのカラオケ店は時間的に日曜でも10時半頃が空いているのか、スムーズに入室できた。店員が望を見ても特に気にしていた様子もないのがちょっと面白かったリリアンであった。4人だが少し広めの部屋をあてがわれた。望も慣れているようで広い部屋を見て「ラッキー」と呟いていた。ややテンションの上がっている一同の中でもシェリーは少し冷静で、


「さて、歌も唄ってもらって結構なんだけど、みんな本題は忘れてないわよね?」


と確認をした。少し浮かれていた部分があったがこの発言でちょっと顔つきが変わった。


「そうですね。時間も取れましたし、色々確認した方が良いですね」


そして望が最初に切り出した。


「メールをお読みになられたと思いますが、正直言って私も『異世界』の事を詳しく訊いたのは初めてでした」


「そうね、多分望がリリアンに接触した段階で説明しようと思ってたのかも知れない」


シェリーは自らの推論を述べた。


「確かにそうかも知れませんね。『おじさま』には今日の会合についても事前に連絡してあります」


「それだと好都合ね。あの、ちょっと思ったんだけど今少しメール送ってみる事出来るかな?」


それはリリアンの思いつきだったが、シェリーにとっては確認したいことの一つだったので「そうね」と賛成する。


「ではどういう文章を送りましょうか?リリアンさんにこの前説明したように、私が送ろうと思わないと送れないんです」


「一応、私もアドレス確認させてもらっていい?」


「はい。これです」


シェリーは望のスマホの画面を見た。彼女はすぐに分ったが、表示されたアドレスは明らかに最後の方が利用可能な文字列ではない。正確に言えばメールアドレスの体裁を為していないのである。


「これはそもそもメールアドレスとして不正ね。試すまでもなく、これでは送れないわ」


「やっぱりそうだよね」


リリアンも馴染みのない文字列だったのは分っていたが確信に変わる。


「じゃあ、こういう文章は可能?『立華京子さんをご存知ですか?』って」


状況から言ってこれはかなり有効な質問だった。望は頷いてメールを打ち込む。そして目を瞑って送信のところを押す。数秒後望が目を開けて再び画面を見た時に送信が完了した際の「ポン」という音が鳴った。


「見てください。送信完了しています」


シェリーは画面をじっくり見て確認して、周囲に、自分に言い聞かせるように「確かに送れている」と言った。


「返信がどうなるかだよね」


ジェシカも次に何が起るか望のじっと見守っていた。ここ一週間ほどリリアンと異世界の事とか「M・A」氏の事について長い間話していたので、どんな返事が返ってきても殆ど準備できていた。数分後メールの着信音が鳴った。望は素早く確認して、


「着ました!!『おじさま』からです」


と告げた。そこにあった文章は以前見たものとくらべると短いものだったが、


『ええ、以前から名前も存じ上げております。どうやら今そちらにいらっしゃるようですね。立華さんの店の『黒猫』についても興味がありました』


と大体の事を把握している様子が窺える。シェリーは、


「うん。間違いないわ。それは「M・A」氏の書いたものよ」


と確信していた。リリアンは一つ気になる事があった。


「『黒猫』って何だろう?猫飼ってたっけ?」


シェリーは自信をもって答える。


「それは私の部屋の『黒猫の置物』のことよ。どうやらその置物について「M・A」さんとは同じ考えみたいね」


「どういう事?」


「まあ、焦らないで。一つ確かめたし、せっかくカラオケに来たんだからちょっとジェシカに唄ってもらいたいわ」


「そうね。じゃあジェシカ、唄える?」


「うん。前唄わなかった曲も唄えるよ!!あの人たちの曲で、「全力で走れ」ってやつ唄える!」


「ああ、あれもいい曲よね。分った、今入れる」


そして室内にはリズミカルなテンポの伴奏が流れ始める。望は「はっ」とした表情になった。


「あ、これって…」


その特徴的なイントロで曲のタイトルが分ったようである。すぐジェシカは唄い出す、



いつだってこんがらかってる 今だってこんがらかってる僕の~頭のな~か~
そ~れ~は~恐ら~く君と初めて会った時~から~




「今『Sugar!!』って表示されてたわね、誰の曲?」


シェリーは知らないらしかった。リリアンが教えようとしたとき、望は


「フジファブリックです。私も大好きなんです」


と言った。リリアンはその時、望の「徒然ファンタジー」という曲の雰囲気が彼等のものに似ていると感じた事を思い出した。「もしかして」と思い望に訊ねてみる。


「もしかしてだけど望の曲ってちょっと意識してるの、フジの事?」


「やっぱり分かっちゃいますよね。作詞作曲は私ではないんですけど、アレンジのイメージを伝えたんです」


「ああ、そうだったの」


リリアンはそれを聞いて望の事がもっとよく分かったような気がした。一方シェリーはジェシカの歌声にこの前のリリアンと同じように感動しているらしく、彼女には珍しく手拍子などをしていた。


「ジェシカ君。なんか…いえ、、、」


望は何かを言いかけて辞めたようである。ただ、ジェシカの一生懸命唄っている姿を真剣に見つめ、感じ入っているようであった。




全~力で走れ 全~力で走れ 36度5分の体温
上~空で光れ 上~空で光れ 遠くま~で~!! 

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