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徒然ファンタジー53

遊園地を後にして、望の自宅の近辺まで車で送る事になった。さすがに有名人なので住んでいるところまで訊いてしまうのは躊躇われたが、意外にも望の方は「〇〇町です」と教えてくれた。そこはリリアンのアパートからだと電車で15分程で近くもなければ遠くもないような距離にあった。


「今度行ってみようかな…」


リリアンが何気なく言うと、


「じゃあ私案内しますよ!」


と望が嬉しそうに言った。「ジェシカ君を連れて」と付け加えるのを忘れないのはちゃっかりしていると思われた。


「あっ」


その時、望が何かに気付いたようである。


「メールきてます。『おじさま』から」


「ふ~ん、何て?」


「今読んでみますね。えっと、『今日はどうやら楽しく過ごされたようですね。こちらにとある『本』がありまして、ジェシカ君と望さんに関わる出来事が自動的に文章と挿絵になって記録されるようになっています。話は変わりますが、そちらの世界に移動するにあたってそちらに手伝って欲しいことがあります』だそうです」


その文面でも『本』というものについての新たな事実が明らかになったのだが、一同にとっては後半が重要である。


「何だろうね?」


リリアンは少し考えてみたがさすがに想像出来ない部分があった。対して車を運転しているシェリーは、


「今までの事を整理すると何となく浮かんでくるような気がする」


と言った。とにかくその案を聞いてみない事には始まらないので望は『それはなんでしょうか?』というメールを送った。すぐに返信があって、


『移動する時にいわゆる座標、つまり辿り着く場所が完全に狙った通りにはならないという困難があります。もし危険な場所や、「不審者」として身元の証明が必要になるような場所や展開に至ってしまうと騒動になる可能性もあります。実は最初ジェシカ君の所にジャンプした時は本当に偶然なんとかなったという感じで危険も大いにありました。

もし今度そちらに行くときには望さんとジェシカ君が揃っている『なるべく広い場所』を目がけて飛んでゆくのがリスクが少ないと思われます。こうすると誤差が大きくてもその場所に収まるし、両者が揃っていれば狙いも定まり易いのです。そこで皆さんと落ち合いたいと思います』



それを聞いたシェリーは大きく頷いて言った。


「なるほどね、今のでよく分かったわ。つまり私達が協力するのは、一つ目が「M・A」さんも含めてスケジュールを調節してみんなで集まれる日を作る事。二つ目が、」


「広い場所ですね」


継ぐように望が言った。笑顔でシェリーが頷く。リリアンもこれでほとんどの事が分ったのでいつものようにジェシカに説明していた。その際ジェシカに『広い場所』の具体例を問われて、


「そういえば、何処にしたらいいんだろうね」


と皆に相談し始めた。


「ドームとか、大きな会場とかだと都合がいいですよね」


望は自分の仕事の関係でそういう場所に心当たりはあった。そう言われてリリアンはさきほど『遊園地』と言ったのと同じような妙な思い付きをしてしまった。探るように望に訊いてみる。


「望さんさ…ライブとかコンサートとかの予定ってどうなってるの?」


「え…あっ!!」


一瞬関係ない事のように思われて不思議そうな表情だったが、すぐに気付いたようだった。


「そうか!コンサートとかだったらすごく都合がいいんだ!!」


「リリアン、あなた冴えてるわね!」


そう、つまりリリアンは望がコンサートやライブの時にその会場に集まるという提案をしていたのだ。これはシェリーも大胆すぎて考えつかなかったアイディアだが結構現実的な提案でもあった。何故なら、一番多忙かも知れない望のスケジュールに合わせていけばよいからである。


「実はね、これも縁なわけだからジェシカと一緒に望さんのコンサートとか行ってみたいなって思ってて…」


照れくさそうに述べるリリアン。後部座席でジェシカが「こんさーとって?」と言うので、望がしっかり説明する。


「ああ、望が皆の前で唄うんだね。俺も行ってみたいな」


これでほぼ決まりのようなものだった。望はスマホのアプリを起動させてスケジュールを確認する。


「えっと、コンサートの方が時間が取れて良いと思うのですが、すぐではないですけど今年の4月か5月あたりが多くて…えーと、これはちょっと内密にして欲しいんですけど実はF県の方でも唄う予定なんです」


「え…!マジ!?」


意外にも驚いているのはシェリーだった。リリアンは「どうしたの?」と訊いた。


「いや、あんたは知らないでしょうけどF県っていうのはあんまり来ないのよ、アーティスト!もしかしてF市の某体育館かしら?」


「よく分かりましたね!最近あそこで結構大きなイベントとかライブとかあったりして注目されてるんですよ」


「あそこ本当に敷地は広いからね。リリアン達が来れて、チケットが手に入れば丁度良いかもね」


「あ、チケットの方は大丈夫だと思いますよ」


望が言い辛そうに言った。


「私まだ時々チケットが完売しない時があるくらいなので…」


「「…。」」


さすがの二人も何といったらいいか分らない発言だった。だがジェシカは、


「じゃあ、望のコンサートに行けるんだね!やった!!」


と素直に喜んでいた。望は喜ぶジェシカを見てまさに至福だと言わんばかりの笑みを浮かべていた。



その辺りで望を降ろす場所に着いた。一度車を降りてそれぞれ握手を交わしてこの日はお別れとなった。名残惜しさもあったので、望が歩き出して見えなくなるまでそこで見送っていた。


「望さんはどうだった京子?」


リリアンが親友に問いかけた。シェリーは暗くなり始めた空を見上げ、


「姉妹ができたみたいな感じね」


と言った。リリアンもそんな気がした。


「なんか凄いことなんだけど、実感が湧かないね」


「まあ兎に角、あんたか私でチケットを何とかしないと計画の立て直しだからね」


「なんかそれも大変よね…あたしそんなに運がないのよ」


「運がないかどうかは甚だ疑問だけど…」


異世界の住人が辿りつくなど天文学的数字の確率なのではないだろうか。それに比べれば望と仲良くなるのもそんなに難しくないように思われてもいいはずなのに、チケットが当たる方が難しいというイメージを持っていたのである。彼女らが帰宅すると、少し小さめのコタツで鍋の準備が始まった。ある意味でそのまま猫舌のジェシカはこの煮えたぎる食べ物に苦戦していた。そんな表情をシェリーは一々カメラに収めていた。シェリーは予定を長めに見積もっていたらしく2日程滞在して、リリアンが仕事でいない間にジェシカと大分触れ合ったらしい。帰り際にまた名残惜しそうにしているシェリーを見たリリアンは、


「あんたの方が目的を見失ってるわよ!」


と叱って追い払った。シェリーが帰って数日後、全国的にはそれほど話題にはならなかったが望がコンサートでF県を周るというニュースがネットで確認できた。シェリーの話によると地元のあるテレビ局では取り上げられたそうで、何でも望がインタビューが流れ彼女は、


『私も前からここで唄いたいと思ってました。多くの人に歌を届けたいです!』


と元気よく答えていたそうである。そして2月頃一般発売となったチケットはめでたく『SOLD OUT』。リリアンが驚異的(?)とも言える引きを見せ、無事三枚のチケットをゲット。リリアンとジェシカにとって人生初のコンサートが決定した。
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