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起りはじめる事

一月の末、立華さんから友人のところに行った時の話を伺うために再び『店』を訪れた。この地方にも雪が目立つようになっていて、底冷えもする。大分厚着をして出かけたのだが、店の中は暖房が効いていて快適である。


「こんにちは、立華さん。経過を伺いに来ましたよ」

「どうも、いらっしゃい」


既にお互いに慣れているので短く挨拶を済ませていつものように奥に向かって本題に入る。立華さんは先ず向こうであった事を話してくれた。


「友人の家には、ジェシカが…最初猫の姿で居たんだけど人間に変身させて…ってここまで大丈夫?」


いきなりとんでもない話なのだが、そこは認めないと進めないようなので一旦認めて話を聞く。


「それで、近くの公園で大宮望と会ったんだけど、彼女もやっぱり最初猫の姿で…」


それも受け入れるのは大変なのだが立華さんを信用する。


「そしたら、首輪を前足で鳴らして人間の姿になったの。それが『異世界』のある人物が送った道具らしいんだけどね」


「なるほど」


話が具体的なので作り話ではないとは思う。実際にそれを目撃してきたのだろう。それでもにわかには信じがたい。


「そこでもう色々確信したわ。ああ、本当なんだなって」


「そうなりますよね」


「その後、何か流れでカラオケ行って話したり歌ったりしてね、『望』…って私は呼んでるんだけど、彼女にその異世界の「M・A」さんと…『朝河なんちゃら』さんのイニシャルらしいんだけど、もう面倒だから『朝河』さんって呼ぶけれど、その人とメールでやり取りしてもらって色々訊いたわ。確かに普通は遣えない筈のメールアドレスからメールが送られてきたから、そこも不思議な力らしいわね」


「どんな事を訊いたんですか?」


立華さんは少し思い出すように目線をどこかに向けて、


「うんとね、これはその前にメールで転送されてきた内容なんだけどその『朝河』さんは偶然この世界と同じ名前F県のN市というところに住んでいて、じゃあ私の事も知ってるのかなと思って訊いてみたらビンゴで、それだけじゃなくって『黒猫の置物』もご存じだったみたい」


「え…!そんな事ってあるんですか!?」


私は整理しながら話を聞いていたのだが、『猫の置物』については身近なものであるだけに奇妙な繋がりがあるように思われてしまった。


「なんでも彼が言うには、その世界の『秘術』がこの世界に伝わったものがあの置物なのかも知れないって」


「なんか、こういう感想しか言えないのもあれなんですが、『不思議』ですね。でも白い方の置物は「そら」と偶然似ているという事以外だとあんまり効果が無いようにも思えます」


「そうよね。というか、その効果が確かだったら肝心な事は貴方にとって曖昧なままに終わるって話だし…」


「それも実際、置物の効果かどうかは分からない部分もあります」


本心を言えば『白猫の置物』の事は普段それほど意識する事はない。壊さないように厳重に保管しているせいもあるけれど。


「置物の話は『朝河』さんにとっても謎らしいわ。で私はそれについてはちょっと彼と一緒に調べてみるつもり」


私はその時疑問に思った。『朝河』氏は異世界の人物であるだけに『一緒に調べる』のは難しいと思ったからである。


「失礼ですが、どうやって?」


「あ、そう。それがこの後の話に関係しているの。実はその後、彼がジェシカの所に来たときの様にもう一度この世界に来てみるという話になってるの」


「なんと!!それならば直接会えるわけですね」


私は納得した。というかそういう事情ならば原理的には私も直接会って確認することが出来るはずなのである。


「でもね、それには困難があるの」


「え、困難ですか?」


「どうやら、移動する時に完全には狙った場所には行かないみたいなの。ジェシカの前に現れたのも狙ってそうしたのではなくてある程度のところは定めたんだけど誤差があったようで、ある意味では危ないわよね。もし危険な場所に降り立ってしまったら」


「なるほど…。そんな事情が」


「で、ここからが肝よ」


といって立華さんは居住まいを正した。そしてゆっくり話始める。


「彼が言うには、「広い場所」で「ジェシカと望が同時に居ること」が安全に狙った場所に行く確率を高める要素らしいの」


「「広い場所」というのは安全性で、二人がいるというのは…」


「多分、彼等を狙って移動するという事だと思う」


「そう考えるのが合理的ですね」


「そこで、私達はどこで落ち合うか考えてみたの。そしたら友人が」


「宛てはあったんですか?」


「コンサートよ」


「え?」


「望のコンサート会場は広いし、望のスケジュールに合わせられる。そして私達も集まれる」


私は思わずポンと手を叩いた。条件に当てはまり、しかも都合がいいのは明らかである。ただ、


「ただ、コンサートと言っても何処にするかを決めないといけませんよね」


私は思ったままを言った。コンサートは人生で一回くらいしか行った事がないのだが、そもそもこの辺りだと候補地が殆どないのでやはり都会の方になるのだろう。が、立華さんは意外な事を口にする。


「これは内密にね、って望から言われてるんだけど、あなたなら大丈夫だと思うしある意味私が望に会ったという証拠になると思うから教える。なんでも4月か5月にF市の方のあの体育館でコンサートがあるそうよ」


「え…それは本当ですか?」


これは少し信じられないけれどあり得ない話ではなかった。もし本当に開催が決定すれば勿論F県にとっても良い事なのだが個人的にも立華さんの話も確かめられるので凄い話だった。それに…


「じゃあ私がそこに行ければ、それこそ皆さんに会えるかも知れないって事ですね?」


すると立華さんは考えていなかった事に気付いたようで「はっ」とした表情で言った。


「ああ、そうよ!実現するかも知れない…」


「まあ、チケットが当たればの話ですけどね。最悪体育館の外で皆さんと会うというカタチでも可能ですけど」


この辺りで大体の話は終ったようで、とにかく後日どうなるのか少しワクワクしてきた私。2月に入ったばかりのある日地元のニュース番組を見ているとまさに「大宮望」さんがインタビューに答えているシーンが流れた。どうやら、立華さんの言った通りF市の方がコンサートの会場に決まったそうである。俄かに信憑性が増してきた一方でこういうニュースはそれ自体でも悦ばしいし、望さんの方でもF県の為に何か出来る事はないかと考えていたようなので、一層嬉しい事だった。ちなみに割と有名なアーティストがこういう話になると地元のニュースが嬉々として取り上げる事は結構ある。実は私の好きなアーティストも2年前にまさにその場所で突然ライブをしてくれることになり県内ではかなり話題になった。残念ながらその時のチケットには落選…というか瞬殺されたので、モヤモヤしてしまったのだが、今回のコンサートについては狙い目かも知れないと思って私も久々に一般発売になってからネットで申し込みをした結果、見事当選。本当に今度ばかりは運が良かったと言える。



ただし「大宮望」さんの曲はあまり知らないので、私は当選が決まってからCDを集め始めた。個人的に惹かれる曲が何曲かあったがコンサートに当たって新しくアルバムが出るそうである。タイトルがアニメ主題歌となった「徒然ファンタジー」をそのまま使うそうである。前回『店』に行った時に何かあった時のための用にと立華さんとメールアドレスを交換していたので、当選した事を連絡すると、返信があってシェリーさんは外れだったそうだが友人の方で3枚ゲットしたとの事。その事について私は一つ悩んでいる事があった。


『当日、3人に会うかどうか』


である。勿論会ってみたいし確かめてみたいのだが、ちょっと怖い気もする。でも一方で常識的に考えると、そんなに変な事は起りそうにないような気もうするのも確かで、日が近づいてくるにつれむしろコンサートの方が重要になってきてしまった。一応立華さんに「当日会えたらよろしくお願いします」とだけメールしておいた。



ところでその話とは別に最近「そら」の事で少し困った事が起きている。猫は大きくなってくると冒険をしたがるようだけれど、雌猫の「そら」も例外ではないらしく、家の中をかなり動き回るようになっている。家の二階の方に押入れがあって、そこを勝手に開けてその中に入ったまではいいのだけれど、そこから天井の方の開いた隙間から屋根裏に行けるようになっていたらしく、後で分った事だが実は春先までそこで隠れていたりしたようである。見えなくなる時間が多いのでかなり焦った事もあった。そこは塞いでしまう事になったけれど、まだ時々見えなくなることがある。探しているこちらを余所に涼しい顔というのか満足しきった顔で現れるが、家の中の事なのでそんなに焦る必要もないと思っていたりする。
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