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徒然ファンタジー58

四月から望のコンサートの全国ツアーが始まるという事で、三月の末頃にはその準備で彼女は大分多忙らしかった。二日に一回ほどの割合で更新されたブログも週一回くらいになっており、リリアンが私的にメールを送っても返ってくるまで時間が掛かるようになった。返事は必ず返ってくるので逆に忙しそうな事が伝わってくるのである。F県でのコンサートは一日限りだったが5月の最後の週の土曜日に行われる。望によると事務所にその次の日である日曜日にプライベートでF県内を巡りたいという要望を出したところ許可されたので、「是非その日、『おじさま』も含めて皆で集まりたいです」との事だった。


その日まではあと二ヶ月程あるので当日の予定について今から急いで決める必要はないけれど、『異世界の住人』と新しい友達である望の為ならというのでシェリーも大分張り切っているようである。彼女の計画ではコンサート当日に会場に移動することになっている『朝河』氏と会場内で合流して、コンサート終了後彼をシェリーの住むN市に案内し、日曜日に望と合流するというところまで考えている。が、問題はコンサートの間、チケットのない『朝河』氏はどうするのかという事だった。それについて望は「良い方法がある」とメールを送ってよこした。彼女のアイディアでは、望の『関係者』としてコンサートを見てもらうか、それが出来なければ控え室あたりに待機してもらうかすればいいという事だそうである。



そちらの方は望に任せることにしても、具体的な事が徐々に決まりつつあるので『朝河』氏とも確認をしたいところだったのだが、今言った望の『準備』という事情でなかなかそれも難しくなっていた。ということは細かい部分は当日臨機応変にやらねばいけなさそうである。



望のコンサートが始まるとネット上でもその評判を確かめられるようになった。ツイッターなどではコンサートに参加した人が「最高!!」とか「めっちゃカワイイ」とかのつぶやきを残していたりしていて面白いのだが公式のフェイスブックに載せられたコンサート関連の写真はその雰囲気をかなり伝えていた。柔らかい感じのコンサート衣装を纏った望の全身の写真からは望が楽しそうな気持ちが伝わってくる。最近写真に凝り始めたリリアンは、


「やっぱり望は被写体としていいわよね~」


と改めて思うのだった。望はそれほど背が高くないが彼女の人柄や曲の雰囲気と合っていてそれも魅力の一つになっている。それに比べると、女性としてはリリアンは背の高い方だしシェリーこと立華京子は背も高いしスタイルが抜群に良い。


「望はカワイイから何でも似合う…」


自分にはないものを持っている人を少し羨ましがっているリリアンだったが、ジェシカは不思議そうな顔をしてリリアンを見つめている。そして思った事をそのまま口にした。


「ご主人さまも可愛いよ?」


「え…?」


その言葉はリリアンとって意外だったが、ジェシカは人間の感性で普通にリリアンを可愛いと思っていたようである。


「本当?」


「本当だよ」


自信をもって答えるジェシカ。それはそれでこっ恥ずかしい部分もあるのだが、素直なジェシカを良く知っているリリアンは迷いながらもそのまま受け取る事にした。


「まあ確かに、大学時代告白されたことあるけどね…」


高校時代でこそ『クラスの感じの良い女子』として男子と気兼ねなく話せるポジションにあった事の代償としてなのか恋愛対象としてはあまり見られていなかったようだが、大学に入ると同じ大学の別の学部に入ったシェリーとつるんで居るのは変わらなかったが、明らかに自分に興味があってアプローチしてきていると分る男性も数えられるほどだが確かに居た。そのうちの一人と少しの間付き合ってみて、自分がイメージしている恋愛のカタチにならないという事を経験して、以降なんだかんだで疎かになっていた感がある。そして意外な事にあれだけモテるシェリーは実は男性と付き合った事がない。いかにもそういうのに慣れて良そうな雰囲気を出しているけれど、本質は人間付き合いがあまり得意ではない不器用な女性なのだとリリアンは思う。もっとも、最近のシェリーの様子を見ていると気が合う人を見つければすぐにコロッと行きそうにも見えなくない。


一方のリリアンは自分の容姿に自信が無いというわけではないが、かといって自信があるというわけでもなく、微妙にコスプレの趣味があるのもちょっとした変身願望があるからでもあった。


「そういえばジェシカもなかなか写真写りは良いのよね」


目の前の当たり前にいる少年から成年になろうとしてるジェシカに注目してみる。


「俺、カワイイかな?」


「ん?いや…カワイイというより…」


ジェシカは異性にどう見られるかという事をまだ気にしていないし、そもそも猫だからそういった気持ちもないのかも知れない。さらに言えば猫として人間に可愛がられる方が重要なのかも知れない。ただ望がジェシカの事を「タイプ」だと言ったように、この年頃の男性としては幼さを少し残しているものの、


「格好良いと思うよ」


というのがリリアンの正直な感想だった。「格好良い」と言われたけれどやはりジェシカはピンとこないのか頭を捻っている。


「格好良いと何か良い事あるの?」


これまた厄介な質問だった。リリアンは男性ではないので「格好良い」とか「イケメン」とか言われれば漠然と嬉しいのだろうと想像するが、それで得する事はあるのだろうか?


「う~ん、女の子にモテるんじゃないの?」


「ご主人さまは格好良い人の方が好きなの?」


「そうでもないかなぁ…やっぱり一緒に居て心地よい人とかの方が好きだって気がするんだけど」


とそこまで考えてみて、リリアンは自分がジェシカを基準にして考えているような気がしてきた。ジェシカの様に自分の事を素直に見てくれて言いたい事は何でも言い合えて、いつも一緒に居てくれる人。実のところリリアンが恋人に求めるのはこういう事であるのかも知れない。ちょっとした気紛れを起こしてリリアンはこんな事を言った。


「ねぇ、ジェシカ、一度『ご主人さま』じゃなくて私の事、名前で呼んでみてくれない?」


『リリアン』という名前はやっぱり呼ばれると色んな意味で恥ずかしいけれど、この前父に訊かれた時もその名前が良い名前だと言っていたジェシカ。これも素直に受け取れば、少し違って聞こえるかも知れない。


「リリアン…さん」


「ん?「さん」」


呼ばれてみて悪くはないがシェリーや望は呼び捨てにするのに何故か自分の場合は敬称がつく。理由を尋ねてみる。


「うんと、やっぱり命の恩人だし、ご主人さまだから…」


「うがぁぁああああああ!!」


こんな事なら『ご主人さま』と呼ばせるんじゃなかったと思うリリアン。だが次の一言で気分が変わる。


「あと、ちょっと恥ずかしい…」


それはどういう意味なんだろうと思ったが、リリアンとしては悪い気はしないのだった。
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