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徒然ファンタジー60

五月晴れという言葉があるように、この時期は好天が続くのだがまるで早くも夏がやってきたかのように感じてしまう日もそこそこある。夏っ子のジェシカは暑いのは得意で、毎日散歩しているからなのかやや強いと言われる紫外線で微妙に日焼けしていて、何だか逞しい。そこから猫に戻ると当然ながら毛で覆われているので日焼けの痕は見えず、愛くるしい姿になる。一方のリリアンは暑いのは暑いので苦手で、微妙な乙女心で日焼けもしたくないと思ったのもあって外出する際には念のため日焼け止めを塗って、なるべく日陰を意識して歩くような具合だった。実は5月生まれのリリアンはそろそろ誕生日なのだが、この誕生日というのも少しばかり疎ましいと思うようになっていて、『2×歳』の×のところはそろそろ言いたくなくなる数字になるのであった。

「はぁ~」

そんな事情が重なっている為、月末の予定は楽しみなのだけれど少し溜息が多くなるリリアン。父には「ジェシカとの生活が楽しいから」と言っていたけれどもちょっとした出会いが欲しくないとは言えず、雑誌の「モテ」という言葉にはめっぽう弱くなっている。モテる事と良い人が見つかる事は同じではないのかも知れないが、会社の同期の一人が六月に結婚予定だとか、周辺で『婚活パーティー』などを開かれると焦ってしまうのである。


リリアン自身、理想はそんなに高くないと思っている。客観的にも特に条件を付けているというのでもないので、とにかく気が合う人が居ればと思ってアンテナは張っている。でも、微妙なのがジェシカの事である。もしこの状態で恋人が出来たとして、ジェシカの事はどう説明しよう。仮に理解してくれて受け入れてくれたとしても、相手はジェシカを猫として見るばかりではないだろうし、かと言ってジェシカを猫のままにするのは非常に惜しい気がする。自分のエゴにならないようにジェシカの気持ちも考えると、多分しばらくはこのままの方が良いのだろう。


けれど…


そんな思いがちょっとした溜息になってしまう。ジェシカはそんな時、リリアンを心配してくれる。ジェシカには分らない事だけれど分ろうとしてくれる。その優しさが沁みてしまうから、ある意味でジェシカ以上の存在が容易に見つかるとは思えないのも確かである。そうして愛おしさが全開になると猫の姿の時に思わずギュッと衝動的に抱きしめる。

「にゃ~」

やはりスキンシップだけは性格的に苦手なので逃れようとするジェシカ。けれどこういう様子もカワイイと思ってしまうし、ジェシカに若干抗議を受けることもあるがそこは譲れない。ところで最近になってだが、物わかりの良くなったジェシカはその抱擁もある程度受け入れるようになっている。どうしてなのか人間の姿のジェシカに訊いてみると、


「何となくご主人さまの気持ちも分るような気がして…一緒に居る時には近くにいたいんだなって」


だそうである。この表現も不思議だったので詳しく窺うと、


「シェリーがこの前、遊園地のあの廻るおっきな乗り物に乗ってる時に『久しぶりに会うと近づきたくなるわよね』って言ったんだ。『確かに俺もそうだなって思う』って言ったらシェリーが密着してきた。その時は悪くなかった」


「そうなの…なるほどね…」


「なるほどね」と納得する反面、<アイツやりやがったな>と内心はメラメラしていた。いつもクールな癖に、ジェシカの事となるとロマンチックな面を見せる立華京子という女がどこまで本気なのか若干問いつめたくなる。ただ、それでジェシカがスキンシップを嫌がらなくなり始めているのはリリアンにとっても良い事なので、今回は大目に見る事にする。



ところで五月といえばゴールデンウィークだが、今後の事を考えて有休は使わない事にした。なので休みはカレンダー通り。と言っても今年は5連休あったので事前に予定を立てていなかったのでダラダラする休みになった。あまり読書もしていなかったので積読を消化しまくった。一人だとモチベーションが上がらないのだが、ジェシカもこの時に初めて普通の小説にチャレンジしていたので何だが一緒に静かな時間を過ごせていたかも知れない。本を選ぶにあたって中学生くらいが読んで面白いと感じるものを探したのだが、学校に通った事のないジェシカでも分かり易いものとなると「星の王子様」とか最近少し話題になっている様子の「魔女の宅急便」などが面白そうだった。特に後者は作中に主人公と会話できる『黒猫』が出て来るし、日本ではアニメで有名なのでいざとなったら映画を見せれば良い。


小説ではその続きも語られるようだが恋愛も描かれるそうで、女心も含めいろいろ勉強になるんじゃないかと思って購入し読ませてみる事にした。ただ、慣れていないジェシカはゴールデンウィークが明けてもほんの少し進んだだけで、音楽の方は凄い集中力だったが文学になると読んでいるうちにウトウトしてきて夢の中という事も多かった。リリアンも昔はそうだったの<分るわ!ジェシカ!>と心の中で思いながら温かく見守った。



ジェシカが60ページ程読み終わった日、リリアンが「2×歳」の誕生日を迎えた。ジェシカも誕生日というのは分っていたようで、


「はっぴーばーすでい!ご主人さま!」


と祝ってくれた。


「ありがとう!!ジェシカ!!」


他の人ならともかく、ジェシカに祝われてしまうとついつい頬がゆるむ。どうせなので無茶ぶりする事
にして、


「じゃあ、誕生日プレゼントをちょうだい、ジェシカ!」


と元気良く言った。


「え…!?」


勿論ジェシカはプレゼントを上げるのが一般的だという事も知っていたのだが、まさか自分が要求されると思っていないのでたじろいでしまった。


「俺…何にもあげられないよ…」


とても悲しそうに言うジェシカ。その表情があんまりにも切なかったので、


「嘘、冗談よ、冗談!気にしないで!」


と撤回した。でもジェシカはその後も気にしていたようである。翌日、リリアンが仕事場から家に帰ってくるとジェシカが嬉しそうな表情で出迎えてくれた。


「ただいま、どうしたの嬉しそうな顔して?」


するとジェシカは「俺はやったぞ」というような表情で、


「実はご主人さまにプレゼントがあるんだ!」


「え、プレゼントって?」


「誕生日プレゼント」


「どうやって手に入れたの?」


「絵を描いてみた」


どうやらジェシカはプレゼントに絵を描いていたらしかった。アパートには以前ハロウィーンのコスプレをする時にリリアンが絵で説明する為に用意したスケッチブックと色鉛筆とがあって、それを見つけ出してリリアンが帰ってくるまでに描いてくれたらしい。


「どれどれ!!見せて」


リリアン自身、こういう事をしてもらうのは初めての経験だったのでドキドキしてしまう。ジェシカが得意げな表情で見せてくれた絵は…


「あ…これって」


「ご主人さまだよ」


そこには笑顔のリリアンが描かれていた。なかなか上手で、本人が見ても自分だと分るような出来栄えだった。


「ジェシカ、絵描いたの初めてじゃない?」


「うん。でも見てたから。ご主人様のこと」


その言葉を聞いて、不覚にもリリアンはうれし泣きをしてしまった。ジェシカの人間としての成長も嬉しかったし、ジェシカが本当に自分の事を思ってくれているのが分ったからである。案の定ジェシカはオロオロしてしまう。


「ど…どうしたの?絵、下手だった!?」


それに対して、


「ううん。そうじゃないの。人間ってね、本当にうれしいと涙が出るもんなの」


と言って背伸びをしてジェシカの頭を撫でた。喜んでいるのが分ってジェシカも嬉しそうだった。



余談だが、この話を以前抜け駆けをしたシェリーに仕返しの意味も込めて教えてあげると、


『…』


よっぽど悔しかったのか、そんなメールが届いた。
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