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徒然ファンタジー61

いよいよコンサートの前日となった。翌日の土曜日にF県のF市の体育館で行われるコンサートだがリリアンはN市はともかくF市の地理までは流石に分らないし、会場がどういう場所なのかも全くイメージできなかった。一応F市の駅からコンサート会場までシャトルバスが出るようだが、体育館までのアクセスを調べるとダイブ距離があるようだったので当日シェリーこと立華京子の車で移動する事に決める。


『そんなに遠くはないけどね』


とはシェリー談。念のためスマホの地図アプリでN市からF市の会場まで車でどのくらいかかるかを調べると50分をオーバーしていた。


「どういう意味でそんなに遠くないのよ…」


何でもN市に生活している人は大体車を所有していて南のK市やF市までだと普通に通勤する距離らしい。都会の方でもベッドタウンから都心まで電車で長時間移動する人もいるけれど、なるべく会社に近い場所を(そして猫が飼える所を)とアパートを選んだリリアンにとってはちょっと理解しにくい話であった。現地での事は地元で頼れるシェリーに任せることにして、あとは望にも連絡をしておく。翌日にコンサートが控えているので今は移動とかリハーサルなどで忙しいのかもと思ったけれど、万が一の事があるかも知れない。幸いメールをしたのが午前中だったのですぐに返事が返ってきて、


『明日は『おじさま』の事も大切ですが、私のコンサートもしっかり見せないとと思ってます(^o^)』


と気合が入っているらしいことが伝わった。『おじさま』こと『朝河』氏の事について状況次第で臨機応変にしなければならない事が幾つかある。先ずあちらの世界から移動する時刻を予め大まかに決めておいているのだが余裕をもって会場に入場できる18時の4時間前の14時と伝えてある。外が暗くなると探し難いし、その時間ならまだ会場には人が少ないだろうという判断である。異世界とこの世界の時間のズレも時差のようなカタチであるらしいが、瞬時に届く望のメールを利用すればその時間に合図を送れば良い。


その時間には望も体育館内の控え室にいるとの事である。『朝河』氏の話によればジェシカと望がいる会場の半径1キロ圏内には降り立てる筈なのだが、運悪く不都合な場所になってしまった場合を想定して、何かあれば望にメールで『朝河』氏と仲介してもらうという事にする。だがこれから大勢の前で歌うという望に負担になってはいけないし、なるべく仲介は最小限にする。その為、『朝河』氏にも自力で体育館の前の物販などがある広場の所まで移動して欲しい旨を伝えたところ了解してくれた。


落ち合ってからの事も臨機応変にする必要がある。『朝河』氏は可能な限り長くこちらに滞在したいという希望を述べており望とシェリーが協力する事になっているが、もし不審者として身元を確認されるようになった場合身体を拘束される可能性もあるし、移動に必要な道具を没収されるというような危険がないわけではない。そうする元の世界に戻れなくなる可能性もある。そういう心配の他にも道具の『紛失』には注意しなければならない。とにかく何かあればすぐに戻る事にするとの事である。


「結構シビアに聞こえるね…」


様々な事を考え合わせると『異世界への移動』というのは結構リスクがある事のようにリリアンには思われた。それこそちょっとしたギャンブルのようなものである。最初にジェシカに会った日もリリアンの家の中だったという事もあるけれど、色々な理由で長居できなかったのだろう。


「明日大丈夫かな?」


ジェシカも詳しい事を聞かされたので不安な部分があるようである。リリアンはいつものように、


「大丈夫でしょう」


と言う。心強い友人がいるし、リリアンは漠然と何とかなると思っていた。そういえばリリアンにとってもF県はこれが二回目で仕事があったため金曜日に移動する事は出来なかったが午後からは休みをもらっていて、『朝河』氏が必要になりそうなものを少し用意することにした。というわけでジェシカと買い物に出かけている。具体的には…


「うわ~!!凄い、全部100円って本当?」


価値観が崩壊しそうになる100円ショップである。ここならば痒いところに手が届きそうなものが手に入るし、物が多いので探しているうちに何か必要なものが浮かんでくるかも知れないという判断からである。リリアンはジェシカを連れて来た事はなかったが、『猫』ジェシカが好きなマタタビパウダーはここの物を使っていたりする。


「何か欲しいものがあればカゴに入れて良いわよ」


100円なので財布は全く痛まない。お金に困っているというわけではないが、旅費はそこそこ掛かる。ジェシカを猫にして新幹線に乗れば良いのかも知れないと思ったが、何となくその勇気が無かった。その代わりではないが今日もジェシカに荷物持ちをさせて普段の生活でも必要なものはまとめて買ってしまおうという魂胆もなかったわけではない。


「え…これが欲しいの?」


そんなリリアンも当惑するようなチョイスをするジェシカ。てっきりペット用のおもちゃなどに興味を惹かれると思っていたがそっちにはまるで見向きもせず、ガラスでできた幾何学的な小さなオブジェとか、青いメッシュの洗濯バスケット、手帳、瓶、そして数種類の駄菓子を買い物カゴに入れてゆく。一応アパートには物が揃っているし、洗濯バスケットだってそれよりも大きいのがちゃんとあるのだが、ジェシカはどうしてもそれが欲しいという。拒む理由がないし、「自分で持つ」というのでそのままレジに持ってゆく。リリアンが選んだのは細々としたものが多かったが『朝河』氏が男性だという事で例えば『髭剃り』で使う物は早いうちに手に取っていた。ジェシカは人間になると髭が生えない性質のようで気にした事はないのだが、「父親」のイメージで何となくそれが必須のように思えてしまう。そしてあると便利だと思ったメモ用のノート、筆記用具を選んだ。ついでに自分が使う化粧用の便利グッズなども購入。


そして探しているうちに気付いたことだが、もし怪我をした場合には身元不明のままで医者に掛かるのは難しいかも知れないと思ったし、ちょっとした薬やガーゼなどは揃えておくべきかなと思った。それと、100円ショップでよく見かける簡易の雑学が載っている本を見ているうちに、こちらの世界の事が分るような歴史の本などがあれば便利かなという事に気付いた。それらはそこでは売っていないので、少し移動しドラッグストアと書店に立ち寄って必要なものを見繕った。


「こんなもんよね。後は持ってゆくの大変だしあっちで探す方がいいよね」


「うん」


帰宅して品を整理しているとジェシカが突然、


「ちょっと元の姿に戻してもらえる?」


と訊いてきた。なんだろうと思ったのだが言うとおりにするとジェシカはトコトコと駆けて行ってリビングの隅の窓際のあたりに置いてあった買ったばかりのメッシュの洗濯バスケットの前までやって来た。次の瞬間、軽くジャンプしてその中に入って身体を丸めて寛いでいた。


「なるほど、それがやりたかったのか…」


リリアンは感心しながらなんだかほのぼのとした気分になり微笑んでせっせと荷繕いをしていた。



☆☆☆☆☆



所変わってある木造の家。ここでも同じように荷繕いをしている男性が居た。男性は一人だが、まるで誰かに言うように、

「僕が思ってもみなかった展開かな。何だか修学旅行の時を思い出すなぁ…」


と言った。表情は穏やかで嬉しそうだった。
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