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桜咲く

所々に残っていた雪もようやく融けて無くなってきた頃、市内でも各地の小中学校で卒業式が行われたというニュースが流れる。一気に春が近づいてきた感じがする。年度末ということで再び仕事が忙しくなり、何だかんだで「店」には行けていなかった。同時期に「そら」が避妊手術を受けさせなければならないような兆候を示してきたので近くの動物病院に連れて行ったところ、全摘出手術よりもインプラント手術という方法の方が猫にとっては負担が少ないという事だったのでそちらを選択し、あっけないくらい簡単に終了し、経過も問題なかった。


発情のような様子は見られなくなったが、その代わり前よりも活発的になったようで休みの日に「そら」の相手をしているとあっという間に時間が過ぎてしまう。夜は一緒に布団で眠るので、一日中傍にいる感じである。


新年度が始まって、ある程度落ち着いてきたところで市内の各地で桜が満開になり始める。秋は菊で有名なこの町だが春は春で近年やたら観光客が多い。10月頃から菊人形の会場となる城跡には立派な桜が数えきれないほど植えられていて、「さくらウォーキング」なる催しも毎年大盛況である。そもそも今年は鉄道に関連してF県がフィーチャーされる年なのでイベントも多く、地元を盛り上げるのと歴史を大切にするという意味なのか、少し前にN市でもヒーロー戦隊物のような武士が組織され、アクションなどの練習の成果が初披露されたという。報道も結構いたのか県内の新聞やテレビなどでかなり大きく取り上げられた。「さくらウォーキング」にも「隊」が参加したそうで、華やかなイメージである。



私も年齢的に桜の良さが身に染みて分ってくるような歳だし、時間がある時に近場だけでも名所を周り尽くそうと考え、時間を忘れて見入っていた。


「そういえば、立華さんは花見とか行くのかな…」


ふとそんな事を考えて、桜を見た帰りに「店」に寄る事にした。前回からまた間が開いてしまったので立華さんが私を見るなり、


「あら、どちらさまですか?」


と悪戯っぽい表情で言ったのが面白かった。勿論すぐに、


「いらっしゃい。ゆっくりしてってね」


と言ってくれたので、お言葉に甘えるように随分長居してしまった。話したのは友人達との「花見」のお誘いと「異世界とコンサート」についてである。前者の方は「店の宣伝になりますよ」と口説いて来てくれる話になって、後者の方はまたずっと突っ込んだ話になっていたのでいつの間にかそちらがメインになってしまった。


「計画は大体決まってるんだけど、穴がないかちょっと大変だけどチェックしてもらえる?」


立華さんは言ったので、もちろん了承する。立華さんが当日の『計画』を語り始めたので再び頭をフル回転させる。


簡単に言うと、異世界人の『朝河』氏が5月末の大宮望のコンサートの時、会場となる体育館の敷地の何処かに移動してくるが、それが上手く行くか、また上手く行った場合彼の滞在をどのように手伝うかである。立華さんの計画で会場が人で混雑するのを避けて、待ち合わせ場所として若干は早めに体育館の前の広場で待ってもらうというのは以前実際に現地を見てきて考えた事だという。私もそれは問題ないと思ったし、そこまでなら『この世界に移動できる』方法があれば可能な事だと思われる。問題は、上手く行った場合にそれ以後をどうするかである。立華さんは「悩ましい」といった様子で、


「やっぱり私が協力するのが無難かと思うのよ。個人的に話したい事もあるし」


と自分の判断を述べる。前回の会話から少し時間が開いていたので何を話したいのかについてちょっと忘れてしまっていたので確認すると、


「2つの『猫の置物』についてよ」


と言われたので私は思い出した。確かに、この前の話ではそれと「秘術」の関係が立華さんの関心事だと伺っていたのである。


「思い出しました。「秘術」ですよね」


「そうなの前回はコンサートの事もあったから焦点がずれっちゃったんだけど、『朝河』氏とじっくり話せるチャンスだからね」


この時、私は『朝河』氏という言葉であることが急に頭に浮かんだ。考えてみればどうして以前気付かなかったのだろうかと思われたくらいである。


「そういえば、異世界の『朝河』もF県のN市だと言ってましたが、この市の朝河さんというと有名人がいますよね!歴史学者ですよ」



立華さんはきょとんとしている。そういえば立華さんはもともと地元の人ではないんだという事を思い出した。それでも何となく思い出したのか、


「ああ、確かにそんな名前を最近聞いたような気がしたわ。生誕何周年かになるとか…」


「ええ、確か120周年とかだったと思います。去年とか一昨年とかで、ネットで調べると出てきますよ」


「そうか…。奇しくも同じ『朝河』なのね…そんなに多い苗字ではないし、私の見立てだと異世界の『朝河』さんも研究者みたいだし…」


「え、そうなんですか?」


「だって半隠居生活で、失われつつある「秘術」に詳しいときたら研究くらいしかないもん」


「なるほど…」


とすると奇妙な『朝河』氏という関係もますます興味深くなってくる。


「私も会いたくなってきました…。コンサートチケットが当選したというのは報告したんですけど、当日みなさんと一緒にというのはちょっと躊躇われてたんですけど、悩ましいところですね…」



今度は私が悩むばんである。すると立華さんが提案してくれた。


「もし、あなたが良いって言うならだけど、当日は当日で楽しんでもらっていいんだけど、それが終わったら私がこの町に連れてくるつもりなの。その時みんなに紹介して、『朝河』さんを案内するのも手伝って貰えたら…」


「なるほど…それは面白そうな提案ですね」


実際、立華さんの話が本当だとするとこの町にきた異世界の住人を案内するというのはなかなか大役で、色々不都合もあるかも知れない。


「私でもお役にたてるなら喜んで!」


あまり余計な事を考えずにこれは受けてみる事にした。


「ありがとう!」


これで私もある意味「関係者」になるわけである。当日上手く行く事を祈るばかりだ。ところでその日は大体それで話がまとまったのだが「花見」の日も比較的すぐ訪れ、ちょっと頬が緩むのを感じながら城跡に青いシートを広げて友人と立華さんを待っていた。


「お待たせ!」


桜の花も美しかったが、「華」という漢字が入っている名前に相応しく華やかな雰囲気を纏って現れた女性。友人はすっかり見とれている。また冷やかされるかと思ったが、立華さんが凄く良い人だという事が分ったのか、中には積極的にアピールする男も現れ始めた。そんな友人に対して立華さんは、


「あら、ご冗談がお上手だこと!」


と慣れた様子でかわしていた。彼女はそれよりも桜の写真を沢山撮っていて、後で話を聞くと親友に送る為のものだそうである。
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