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徒然ファンタジー62

コンサート当日。午前中の早い時間帯に家を出るジェシカとリリアン。まずシェリーの店に移動する事になっている。久しぶりに乗る新幹線も2時間程の旅でジェシカにとっても快適である。「本を読んでればあっという間」とリリアンに言われていたので「魔女の宅急便」の続きを読む。


「『ジジ』みたいな猫って居るのかな?」


何気なしにジェシカが訊いてきた。しっかり読んでいるという事だが、魔女が連れている黒猫と喋れるという『設定』は面白いと思うが、さすがに現実ではあり得ない…と思うけれどジェシカはそれどころか人間になってこうやって喋っている。ある意味で小説を越えてしまっているし、しかも『朝河』氏の話によると異世界には『怪獣』が普通にいるらしい。猫が喋ってもおかしくない世界なのかも知れないが、色々考えてゆくと「居ない」とは言い切れないという状況に陥る。



「少なくともこの世界ではいないと思うよ…」


「そうだよね」


人間になれるようになってそろそろ一年になる為か、大体この世界で出来る事はジェシカも分ってきはじめている。


「でもそう考えると俺がこの姿になれるのって、本当は凄いんだなって」


分ってきているからこその実感である。リリアンも頷く。ジェシカをどうするのかに迷った事はあるけれど少なくともこうやってジェシカが自分で納得できるのであれば、ジェシカ自身が自然と選択するようになるような気がする。それは『成長』と言って良いと思うのである。だからリリアンは、


「成長したね、ジェシカ」


と素直に言った。


「そうか、こういう風になるのが成長なのか」


ジェシカも何かを確かめているようである。リリアンはその様子を見て安心したのか何だかウトウトしてしまった。「はっ」と気付いた時には既にK市近くまでやってきて、ジェシカも文庫本を抱えたままコックリとしそうな体勢。


「まあ、これもある意味で人間臭くはなっているってことなのかもね」


ジェシカを揺り起こして降りる準備をする。K市で降りてから、在来線に乗り換えそこから20分程でN市に到着。二度目にして既に見慣れている味のある駅は以前来たときよりも人が多いような気がする。手動の改札を出て、入口で待っていてくれたシェリーを見つける。人が多い理由を彼女に訊ねると、


「今日、市内のお祭りが一堂に会するイベントがあるのよ。それで人が多いのね」


と言っていた。なるほどと思っていると、シェリーは説明もそこそこにジェシカに引っ付き始めた。


「ジェシカ!いらっしゃい…いや、お帰りなさい!!」


「た、ただいまシェリー」


ジェシカも気圧されて若干引いている。<このままではまた京子のペースになってしまう>と危惧したリリアンはジェシカの手を取って、さっさと移動してしまう。そのまま駅前のオレンジのコンビニに入店し、スポーツドリンクなどを数本購入する。その様子を不思議そうに見ていたシェリー。


「どうしてそんなに買うの?」


「そりゃあコンサートで必要になるからよ」


「あ、そうか。確かにその方がいいかもね」


どうやら初めてのコンサートに備えて知り合いにいろいろアドバイスを伺ってきたりネットで調べてきた自分とは違ってシェリーはあまり準備してきていないようだった。それを指摘すると、


「まあ、もう一つの方の準備を考えていたらね、ちょっと疎かになってしまったわ」


と理由を述べた。逆にリリアンは『朝河』氏の事について自分でできるところまでは準備をしてみたが不備があるかも知れない。ある意味でこれでバランスが取れていた。


「じゃあ行きましょう」


そしてあの赤い車で移動する。移動中シェリーにこんな事を言われた。


「明日ね、『店』の常連で前から貴方たちの事を話していた人が居るんだけど、実はその人に前から『白猫の置物』を預けてあるの」


「え、そうなの?それで?」


「その人もちょっと今回の事で動いて貰おうと思ってるの。明日紹介する事になると思うわ」


「その人って女の人?」


「ううん。30歳くらいの男の人」


「へぇえ~」


「何よその声は!」


「いや、京子にもそう言う人が居るんだなと思って」


「ん?勘違いしないでよ、本当に店の常連さんよ。ジェシカ、違うからね!」


「なんでジェシカに言うのか…?」



などと話しているうちに店に到着する。「SHELLY」という字がやはり目立つが、店に入ってみると大分この前とは印象が違っていた。なんでも配置替えはしたそうである。物が増えているので、若干移動しづらくはなっているがそれでもシェリーの性格を反映するような整頓の仕方は健在である。


「やっぱり羨ましいわ。『京子の店』って感じだもんね」


「今日は店あるの?」


これはジェシカが訊いた。


「一応今日は午前中だけ開けるから、あと2時間くらいは前みたいに店番よろしく」


というわけで、取り敢えず荷物を二階の部屋に置いて店で話しながら過ごす。前よりもお客が増えているらしく、以前にはあまり見かけなかった層の若い男性の客が来たのが興味深かった。男性はシェリーの方を見てにっこり微笑んでいたり、リリアンに目が留まったと思うと急に「どうも!」と声を掛けてきた。


<微妙にナンパっぽいのは何故なのかしら…>


思ったがさすがに口には出せない。接客をして男性が店を後にしてからシェリーに訊いてみると、


「宣伝の効果はばっちりなんだけど、こういうのもあると思うしかないわね」


「分るような、分らないような…」


そしていい頃合いになってきたので、店を締め、準備に取り掛かる。リリアンが『朝河』氏の為と思って買ってきたグッズや書籍を見たシェリーは、


「なるほど、確かにこういうものは必要よね」


とジェシカも自分で選んだ物を見せる。透明な瓶には一緒に買ってきた駄菓子が詰め込まれ、ノスタルジー漂う仕上がりになっている。買ったばかりの手帳には拙い字でジェシカなりの予定が書きこまれていて勉強の跡が窺がわれた。そういう物を見せられると愛おしくなってくるのが性なのか、


「うぅん、ジェシカ偉いわ!!」


と言ってジェシカを胸に抱き寄せて抱擁するシェリー。それを見たリリアンが一言。


「あんただんだん大胆になってきてるわよね…」
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