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徒然ファンタジー63

車でF市まで移動中、リリアンはN市からまるで高速道路のように続くバイパスでF県の『田舎』性をより感じていた。約20分弱周りにはほとんど何も無いような道路を走り、びゅんびゅんスピードを出してゆく車を大胆に追い抜いてゆくシェリーの赤い車。信号もないのでスピードが出るのは当然だが、あまり車に慣れていないリリアンは遠慮がなさ過ぎるようにも感じた。


「この辺りすごいね」

と呟くと、


「そうね。この道路があるから車があるとF市までは近く感じるのよ」


シェリーは少しばかり得意げに言った。<すっかりこの県の人になってしまっているなぁ>と思いつつ、車内に流れる望の曲に耳を澄ます。アルバムで言うと5曲目の『メモリー』というバラードだったのだが、何となく懐かしい感じがする曲だった。巷では『セトリ』と言われているセットリストを既にコンサートに行った人の書き込みなどから知ることが出来る昨今だが、それによるとこの『メモリー』という曲は勿論は組み込まれていて、コンサートはセカンドアルバムを中心にファーストの代表曲を混ぜて15曲ほど唄ってから、アンコールが数曲という構成になっているようである。


「シェリーはどの曲が好きだった?」


ジェシカが後部座席から訊ねる。少し「う~ん」と悩んでいたが、


「そうね、私はデビュー曲が好きだったかな」


「デビューって、最初の曲って事だよね。なんだったっけ?」


リリアンは即座にこれに答えた。


「確か、『スタンド・アップ』という曲よ。元気が出る歌よ」


「ああ、そうだった」


ジェシカも思い出したようである。二年前、当時高校2年生だった望が夏にデビューしてスマッシュヒットを飛ばした曲である。ジェシカはその夏まだ一歳になったばかりで今よりもリリアンにベッタリだった。そんな夏の日を思い出しさせてくれる青春ソングとでも言うべき『スタンド・アップ』をシェリーが好むのは意外な気がした。思ったまま伝えてみると「ふふ」っと笑いながら、


「なんか「誰かさん」を思い出すのよね。いっつも私をカラオケに連れて一生懸命歌ってた誰かさんを」


「なにそれ、私を思い出すっての?」


「ええ、まだ「若さ」があった時の貴女よ」


そう言われて複雑な気持ちになったので次の言葉は少し捻ってみる。


「言っておくけど、私に若さが無くなったって事は、同い年の誰かさんも若さが無くなってくるって事だからね」


「あら、私はまだピチピチよ、ねぇジェシカ」


微妙に威圧感を感じながらジェシカは「うん」と頷いた。ただリリアンは「ピチピチ」という言葉を使う人に限って感覚の方が古くなり始めているようにも思うのである。言わないでおいたが。


流れている曲が望のアルバムの最後の曲になったあたりで車はF市の体育館の敷地内に入った。時刻は1時で、約束の時間まであと一時間程ある計算だった。駐車場に車を停めると、そこから大分歩いて体育館前にやって来る。シェリーが既に確認済みだったが、体育館入口の前の少し横に出たあたりに広場になっているところがあって、取り敢えずそのあたりに待機する事にした。広場にはさすがに殆ど人が来ていなかった。


シェリーはそこでスマホを取り出しメールを打ち始め、どこかに送信した。


「今、『到着したって』望にメール送ったわ」


「あ、そうか京子もメアド知ってるんだったわよね。そう言えば望とはやり取りしてるの?」


「ええ、計画の細かい事とか私の『店』の事について望が訊いてきたから」


「そうよね、明日は貴女が頼りだからね。というかF県の事とかも教えてあげられるしね」


「まあ、そういう事よ」


「ところで、」


シェリーは何か重要な話があるのかリリアンに耳打ちした。


「ジェシカもそろそろスマホとか持たせたらいいんじゃないの?」


話はこうだった。実はそれはリリアンも前から考えていた事だった。その際ネックになるのが契約者としてジェシカは無理だという事である。もっともこれについてはリリアンが二台を所有するというカタチで可能である。


「でも何があるか分らないから…」


「何があるか分らないからこそ、持たせた方が良いような気もするんだけど」


どちらの言い分も尤もだった。とは言えシェリーについてはジェシカと直接やり取りしたいという安直な気持ちが無くもないのだろう。望にも一度『ジェシカ君はケータイ持ってないんですか?』と訊かれたことがあるが、『どうして?』と訊ねると『ジェシカとやり取りしてみたい』と正直に返ってきた。


「まあ、追々ね…」


ところで初めてのF市で、しかも少し中心から外れにある体育館なのでジェシカとリリアンにはそこが異様に自然が豊かな印象があった。実際、敷地は木々に囲まれているし、そろそろ6月で夏が近づいている頃のお昼過ぎの炎天下だという事も影響していたのか、蝉の鳴き声が聞こえてもおかしくないような雰囲気だった。


「それにしても暑いわね…風がもうちょっとあれば気持ちいいんだけど…」


「梅雨がまだだからね…夏と錯覚しそうな暑さになる事もたびたび…」


「前来たときと全然違うのね」


「そうよ」


シェリーは澄ましているが額には既に汗が浮いている。そんな中でジェシカだけは広々とした敷地に感激していて、


「うわーひろーい!!!」


と元気よく動き回っていた。


「今あんまり体力使っちゃうと後でもたないわよ」


リリアンが忠告した。そのすぐ後、望からシェリーへメールの返事があって、


『ジェシカ君みっけ!!』


と何処かから撮ったらしい写真が添付されていた。写真には確かに小さくだがジェシカとその周辺にリリアンとシェリーが映っていた。


「大丈夫みたいね。『時間になったら朝河さんに連絡宜しく』って送るわ」


「うん。お願い」


さすがに暑いのと日焼けが気になったので日陰に隠れて時間まで待つ事にした。
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