FC2ブログ

徒然ファンタジー65

朝河氏は本にざっと目を通したところでタブレットを使って操作し始めた。訊ねると「望にメールを送信する」という事らしい。それについてシェリーは気になる事があった。

「メールって普通インターネットを使うわよね。そちらのタブレットはこちらの世界でも通信できるようになっているのかしら?」


「いえいえ。望さんからも聞いているかも知れませんが、あくまで僕がメールの文章を作成して送信したという事を『秘術』の応用でメールの送信のようにしているだけです」


「なんか『秘術』ってだけでなんでもできそうね…」


「万能ではないですが、大きなエネルギーを要するものでなければ。通信などは比較的色んな事ができます」


そう言っているうちに望からもメールか返ってきたようである。タブレットを操作してメールを確認する。


「望さんは『今からスタッフがおじさまを迎えに行きますので』というメッセージを送ってくれました」


リリアン達も見せてもらったが確かに望の文章だった。


「望さんは本番前なので、あまり興奮させたくないような気がしますね」


リリアンが朝河氏に言った。


「大丈夫ですよ。むしろ僕が来た事で安心しているんじゃないでしょうか。実はここだけの話ですが、望さんから仕事についても少々相談に乗って欲しいとメールが来た事もあるんです。僕は門外漢なので上手いアドバイスは出来なかったけれど、『自分のやりたい事は精一杯やるのが一番です』という僕の信念みたいなものは伝えました」


「へぇ~望、朝河さんにも相談してたんだ」


「え、「にも」って、もしかしてあんたにも相談してたの?」


「ええ、でも私の場合は『異性に対するアプローチ』みたいな感じかしら」


「…京子に相談してもその辺は…」


「なぁによ!?」


するとこのやり取りを見て朝河氏が小さく笑い出した。


「ふふふ…仲がとてもよろしいようで、羨ましい限りです」


「あ…いつもこんな感じなんです」


恥ずかしいところを見られたような気がして恐縮してしまうリリアン。それからシェリーがコンサートが終わった後の予定について少しばかり説明しているとコンサートのスタッフらしき若い男性がやって来て言った、


「失礼ですが、そちらに居られるのは『朝河さん』ですか?」


「ええ、そうです」


朝河氏が肯定すると彼は安心したように、


「よかった。望さんが関係席でコンサートを見せたいという事でしたので、こちらにご案内します」


と言って、朝河氏とはそこで一度別れることになった。別れ際、


「では後ほど」


と丁寧に礼をしたのでリリアン達もそれに倣った。朝河氏はスタッフに誘導され建物の中に入ってゆく。時刻は2時半頃で、気の早い人たちが徐々に会場にやって来ている。ちょっと経って望からリリアンに連絡があった。


『今、おじさま…朝河マイケルさんに会ったところです!イメージ通りの人でした!!』


望も喜んでいるようであるが、やはりテンションが上がっているのがちょっと気になる。ただ、無理もないと言えるのかも知れない。望にとって朝河氏は実質『ペンフレンド』のようなもので、遠くに居て、自分の事をほとんど知らない人だからこそ何処かで見守ってくれている存在として意識していたのかも知れないのである。


「二人がどういう話をしているのか気になるわね」


リリアンが言った。


「う~ん…あっちの世界の事とか」


ジェシカが自分の意見を言う。恐らく先ほど自分達が見せられたような動画を望も見るのだろう。


「あれ見て私もテンションがわけわからない状態になってるわ。朝河さんが本物だって安心したけどびっくりして、しかも今は別の緊張があるわね」


シェリーはもの思わしげに言う。


「望のコンサートでしょ?私もドキドキして来たところ」


すると緊張気味の二人に対してジェシカが自信たっぷりに言った。


「大丈夫だよ。望は歌の事になると本気だから」


しばらく経ってまるでそれを裏付けるようにメールが届いた。


『朝河さんから色んな話を聞きました。動画も見ましたし、異世界って本当にあるんだなって…。でもおじさまは今日のコンサートを楽しみにしてくれているそうです。私、皆さんに一生懸命歌いたいと思います\(^О^)』


それを見たシェリーとリリアンは、


「大丈夫そうね」


と頷きあった。ただここで一つ問題が生じた。早め早めを意識し過ぎたせいで入場まであと3時間もあるという事だった。「一旦何処かで時間を潰そうか」という提案が出かかった時、彼等にとって意外な事が起った。



「あ、立華さん!!」


誰か男性がシェリーの苗字を呼んだのである。そちらに振り返ると、リリアンの知らない30位の男性がそこに立っていた。


「あら、大城さん!今日は早く来たのね」


様子からしてシェリーは彼の事を知っているようである。


「ええ、何だか興奮してきてしまって。席もスタンドだったので早く来た方が良いのかなって」


「あ、そういえば私達もアリーナよね。リリアン?」


「え…あ、そうよ。最前列の正面の方の取れたの」


「ああ、良いですね。私は右側なんですが、そこでも結構見えるらしいですね」


「大城」と呼ばれた男性と何気なく会話をしているが流石に紹介して欲しかったのでシェリーの腕を軽く小突く。


「ああ、そうだった」


シェリーはようやく気付いたようである。


「こちら店の常連で、明日から朝河さんの事でちょっと手伝ってもらう大城博さん」


「あ、初めまして。大城です。立華さんと同じN市に住んでいます」


「こちらこそ、初めまして!京子の友達…の安斎利莉杏です」


『リリアン』という名前を聞いた時、大城氏は少し意外そうな顔をした。


「リリアンさんって、もしかしてハーフとかなんですか?」


「え…いや、純日本人です」


「あっ…そうですか。失礼しました」


大城氏は何かを察したような表情をした。それを見てリリアンは初対面だが、


「今、何か変な事思いませんでした!?」


「い…いえ…ちょっと変わっているお名前だなと思いまして…」


するとリリアンはその反応に怒るどころか感激し始めた。


「そうですよね!!普通はこの名前、変だと思いますよね!!良かった、最近「良い名前」とか言う人がいるから…」


少し気圧され気味の大城氏。


「なるほど…」


と呟くのが精一杯だった。その時、


「良い名前だよ!」


とジェシカが言った。そこは変わらないらしい。するとジェシカを見た大城氏が、


「あ、君がジェシカ君だよね。その…『猫』だって言う」


「あ…。初めまして、俺、ジェシカです。あれ?名前知ってるんですか?」


ジェシカは不思議に思った。相手が自分の名前を知っていたからである。


「大城さんにはジェシカの事とか、朝河さんの事とか、異世界の事とかを説明してあるの」


「ああ、さっき話していた人が彼なのね」


リリアンはN市の駅から車で移動する時に話していた事を思い出した。今思い出せば確かにシェリーが言った通りの人だった。だが、そうなると気になる事がある。


「あの…ジェシカの事とか、そういう話って信じられましたか?」


リリアンは父や母の事で誰もが受け入れてくれるわけではないという事を身をもって知っている。だからこそ気になるのである。大城氏は複雑そうな表情になって、


「それが…京子さんが嘘を言っているわけではないと思うんですけど、いかんせん証拠がないと中々…」


それは物凄く冷静な判断に思えた。最初から切り捨てるのでもなく、自分の見たものはしっかり受け入れる。


「あ…ジェシカを猫に戻す道具、無くすのが怖くて持ってきてないのよね…」


リリアンは遠出する場合には道具を家の中に置いておくようにしていた。


「そうね…間接的な証拠となると、この教科書かしら」


シェリーは先ほど読んでいた朝河氏から渡された異世界の世界史の教科書を大城氏に渡した。リリアンも日本史の教科書を渡す。説明されずに渡された大城氏は一見普通に見える教科書に戸惑っていた。しかし目を通して見ると徐々にそれが何であるか分って来たのか、明らかに表情が変わっていった。


「え…これって、、、、あ、えっと」


どうも衝撃的すぎて言葉が浮かばないようだった。実際、それは普通に見えるのに明らかにこの世界の事を書いていないし、けれどよく知っている物が多く書かれている。国の名前や地名は殆ど一緒である。だが資料が記憶にある写真と微妙に異なっているし、シェリーが注目してほしいところとして指定した「怪獣が出現した」という記述は最早ファンタジーとしか言いようがなかった。大城氏もそう思ったらしいのだが、


「作り物にしてはディティールが細かすぎるし、こんなに長く違った歴史を書き続ける事は人間業ではない…」


「そうなのよ。この世界の住人だとしたら人間業ではないし、どう考えたって一人では出来ないんだけど、もし異世界があったらこれも普通の教科書なのよ」


念のため、奥付に書いてある出版社、年月日などを確認してみる大城氏。スマホを取り出して文字列を検索し始める。


「ダメだ…絶対にこんな出版社はない。何だか頭がおかしくなってきそうだ…」


先程まで冷静でにこやかな表情だったのに、異世界の事を突きつけられて冷静ではいられなくなったようである。するとシェリーが、


「一度深呼吸をしてみて。そして思い出して、貴方が私に言った事」


とアドバイスした。頷いた彼はその通り実行して、少し様子が変わってきた。


「ああ、そうだ。『取り敢えず今起こっている事に集中する』…だった。そう、今日はコンサートなんだ」


「それと、『確かめたところを出発点にする』という事もね」


「そうか。確かに私は今、こういう物があるという事を確かめた。後は朝河さんという人に会って聞くのが一番」



リリアンは、直感的に<この人は凄い>と思った。立場が違ったら自分がこんな風に受け入れられるだろうか、初めてそんな事を考え始めた。


「っていうか、私にとっては皆さんが大宮望さんと知り合いだって言う方が凄いと思ったりするんですけどね。田舎者だからでしょうか?」


ジェシカがそれに対して答えた。


「望はとっても凄い人だよ!!歌が上手なんだ!」


それはジェシカにとって誇らしい事であった。ある意味で当たり前なのだが、当たり前な事でも素直に喜べるジェシカを見て何を思ったのか、


「そうですよね。皆すごいんですよね」


という謎の発言をした。


「っぷ」


リリアンは真面目に考えていたので不意を突かれて吹き出してしまった。しかしその気持ちが何故かよく分かってしまうリリアン。実は田舎者ではないリリアンも望と知り合いだという事は地味に凄いことだと思っていたのである。リリアンは調子づいて口に出していた。


「違いますよ!あなたが普通だって事ですよ!!」


「え…?それって褒め言葉ですか?」


「う~ん…微妙」


「そ…そんなぁ…初対面なのに…」


そう。確かに初対面だけれど、彼は既にこの一員として馴染み始めているのであった。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

なんとかさん

Author:なんとかさん
ナンセンスな物語を書くつもりです。リンクフリーです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
普通のカウンター
投票
無料アクセス解析
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR