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徒然ファンタジー66

シェリーの知り合いである『大城博』氏にこれまでの経緯を話しているうちに刻一刻とコンサート時間が近づいてくる。大城氏は『店の常連』という紹介だったが、シェリーの店にあった2種類の『猫の置物』が異世界の『秘術』に関わっているとするならその片方を現在保管しているという彼はある意味で関係者とも言えるし、大分前からジェシカの事などでシェリーこと立華京子が彼に相談していたという事情があるので、勿論当人が驚愕する場面もあったが、比較的スムースにこれまでの事を確認できた。大城氏が保管する所有者に幸福を与えるが表面的かも知れないという『白猫の置物』についても話を聞く限り、リリアンも何となく効果がありそうにも思えた。


「なんとも不思議な話ですね。そしてどういうわけか私はまだ完全には確認できていない」


大体の事を聴いた後、彼はシェリーが時々見せるようなのと同じような難しい表情をした。シェリーは興味深げに頷いて、


「それが貴女と私の『差異』であって、『白猫の置物』の効果とも言えるような気がする」


と言った。彼はその言葉に頷くものの、


「でも、ちょっとしたタイミングの問題なんですよね。実際、ジェシカ君が猫の姿になるのは確認しようと思えば確認できますし」


「本当なんですよ」


リリアンは強調した。


「ええ分ってるんですが、もし効果が本当にあるならこのまま何らかの理由で確認できなくなるという事も起こり得るような…」


「ただそれについても、その『白猫の置物』の効果が本当にあったらの話でしょ?」


「そうですね。実際私は『よく分からない』と言った方が正確かも知れません」


リリアンも所有者の気持ちを考えると頭がこんがらかってくる。単純にジェシカでなくても望が猫に変身する瞬間を目撃できる機会はありそうだし、どうしてもというならリリアンのアパートに来てもらえばいい。色々考えていたが、体育館前にはそろそろ人だかりが出来ている頃で、最前列の良い場所をと思った一同は係員の誘導に従って待機場所に移動する。


「じゃあここで一旦お別れね。コンサートが終ったら広場の方で待っててもらえる?」


「ええ、分りました」


『お別れね』と言っても大城氏はリリアン達の見える位置に居る。もっとも次第に混雑してきて辛うじて互いの位置を確認できるような具合になってしまった。リリアンは少し声を潜めてシェリーに言った。


「大城さんって、どういう人なの?」


「前にも話したかもしれないけど、30歳くらいで地元の人よ。飼っている白い猫は大分溺愛しているみたいだけど」


「ふ~ん。なんか良い人そう。猫好きに悪い人はいないと思うのよね」


「強ち間違ってないかもね。律儀なところはあるかも」


「ああ、何となく分る。そうか…」


リリアンは上手く説明は出来ないがもうちょっと色々話してみたい人だなと思った。



外は次第に涼しくなってきた。鮮やかな夕暮れが東の方の空に浮かび、会場からもよく見える。ぼんやり空を見ながら、こういう時、相変わらず待ち時間には持って来いのゲームを三人でプレイしている自分達が何だかおかしく思えたリリアン。ジェシカは赤く色づいた空を見て、


「もしかして『茜色』ってこういう色の事を言うのかな?」


と言った。シェリーは感心して、


「あら、よく分かったわね。夕焼けも結構赤い色になる時があるのよね。家から大きな山が見えて夕焼けも綺麗だけど、ここも広々としてるから空がしっかり見えていいわね」


一方、リリアンは彼女とは違う事を思っていた。


「ジェシカはやっぱりフジが好きなのね」


ジェシカは頷く。


「うん。最近だんだん歌詞が分るようになってきたんだ」


「あら、あのバンドの事に関係してたの?」


『歌詞』という言葉が出てきてシェリーは思い出したようである。


「この空は綺麗だなぁ…」


ジェシカがしみじみ言った。特別な雰囲気もあるけれど、リリアンもシェリーも同じように考えていた。


「まあ、そういう事が分るようになってきたってことよね」


そんなジェシカは今回のコンサートで何を感じるだろう。それも自分の事のように楽しみなリリアンだった。さて、そんなこんなで入場の時間となる。係員に案内され、二列の集団で一緒に体育館内に移動する。リリアンが最初に中に入った時の感想は、


<本当に体育館だ!>


である。F市の体育館はシェリーの説明によるとライブ、コンサート会場としてよりか競技の大会などが開かれるというイメージが強く、近年大物アーティストがそこでライブを行ったりしてから地元的には有名になった場所である。移動中チラッと大城氏の姿が見えたので手を振ると、向こうも嬉しそうに返してくれた。


「人が一杯だね!」


思わず漏れたジェシカの感想である。都会の方で人混みには慣れているつもりだけれど、この規模の大人数が一か所に集まったところを見たり経験するのは初めてなので、流石に驚いているようである。ここでジェシカとはぐれないような工夫とはぐれた場合にどうするかを伝えておいた。シェリーやリリアンも例外ではないが、とにかくみんなの場所が分らなくなったら外に出て、『広場で待っている』という事に決める。その方がこういう場所では確実な方法である。


リリアン達は正面の真ん前に囲ってあるスペースに案内された。そこからは自由に場所を決めて良いとの事で、やはりこういう時には前の方に行きたくなるリリアンと、どこか控えめで目立たないところを好むシェリーで選択が異なった。リリアンは前から2、3列目辺りにジェシカと並んで、シェリーはやや隅っこ、といってもリリアンから見える位置である。会場にはBGMが流れ、集まった望のファンの人達は色とりどりのペンライトや色を自由に変えられるペンライトを持参してきていた。


「しまった!こういうの初めてだから持ってないよ」


流石に初体験のリリアン達と歴戦の猛者たちとは準備が違う。何かあると大変なのでタオルや水分は大目に持ってきていたが、グッズのTシャツなどを着こんで今か今かと待ちわびている様子を見ると、何となく「これでいいのか」不安になってくる。


<どうせなら望さんに訊いておけばよかった…>


後悔しても今更ではあるが、そんな事を考える暇もなくコンサートの準備は着々と進んでゆき、スタッフの人が確認のため楽器を鳴らしたりする光景も見えた。


「さて、いよいよね…」


リリアンがつぶやいた時、会場のスピーカーから「まもなく大宮望コンサート、『ワンダーランド』の開幕です」というアナウンスがあった。リリアンとジェシカはついつい身構えてしまったが、オープニングのCGを使ったムービーがスクリーンに映し出された。それは望らしく「猫」が路地を歩いているところから始まるファンタジーとも表現できるような一幕であった。


『このまま何処かへ歩いてみたいな』


ムービーが終わった瞬間、会場に歌声と演奏が響く。エレキギターの生の迫力ある音と、流れるようなキーボードのメロディー、そして声量のある望の声は会場の雰囲気を一挙に変えてしまった。


「あ、これ『猫になって』だ」


ジェシカが叫んだ。アルバムの二曲目の望作詞の曲である。会場に集まった人がみなそれに気付いたのか歓声が沸く。その時望が正面に姿を顕わしたので更に熱狂的な歓声となる。


『魔法よ解けないで 貴方の住む町へ』


Bメロが終わってサビに入る。


『猫になった私と めぐるめぐる世界 

みんな一緒だってさ 鳴いて走り出す 青空雲が綺麗ね』


一番が終わった間奏の時に、リリアンよりも前にいたファンと思われる男女が話しているのが聞こえた。


「今日は、最初にこの曲なんだね」


「珍しいよね。前の時みたいに『徒然ファンタジー』が一曲目だと思ってた」


意外そうだったのだが、話しぶりからすると既に別のコンサートにも行っていたようである。リリアンはそれを聞いてある事を納得していた。


「そうか…望さんはこの曲を最初に聞かせたかったんだ…」


リリアンは知らなかったものの、ライブなどでは最初にアップテンポで盛り上がれるナンバーを選ぶのが一般的と言うイメージである。それでも望が「敢えて」この曲を最初に持ってきたのには理由があるのだとリリアンは思ったのである。そのまま一曲目を終えて会場は割れんばかりの拍手に包まれた。そしてジェシカは言った。


「望、本当に楽しそう…」


ジェシカは遠目からでもそれが分ったらしい。確かにカラオケの時とはまた違っていて、ライトが当たっているのもあるけれど望は誰よりも輝いているように見えた。
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