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徒然ファンタジー67

息をつかせず二曲目からはアップテンポな曲が始まる。デビュー曲の「スタンド・アップ」である。唄う直前に、


「今日はありがとう!!楽しんでってね!!」


と叫ぶ望。それに応えるように会場から「おー」という声があがる。先程までの穏やかな歌い方とは一変して、若さあふれる元気な声で歌い始めた望にみんなちょっとテンションが上がっているようである。


「ご主人さま、今度これ歌ってみてよ!」


周りに合わせて手拍子したり飛び跳ねたりしていたジェシカからの無茶ぶり。


「え~…難しいよぉ」


実際望の声は高い方だし、最近のアーティストはより高音で歌う人が増えているので曲もキーが高く、しかも昔よりも早いテンポなのでリリアンがこの曲を歌いこなすのは大変そうであった。それだけではなくて、歌詞も『若さ』溢れる曲なので聴く分には爽やかだが自分が歌うとなると恥ずかしさが出てしまう。しかし、最前列にいる周りの人の中には男性でも大声で歌っていたりして、どちらかと言えばテンションの問題のようにも思える。リリアンがちらっと横を見ると、シェリーも楽しそうに手拍子を取って身体を揺すっていた。


「なんかいいな、こういうの」


コンサートというのは一体感がある。集まっているのは知らない人だけれど彼女の歌を聞きたくて集まったのは同じで歓声は決して雑音などではなく、コンサートが盛り上がるために是非とも必要なものなのである。コンサート初めて経験するリリアンとジェシカも場の雰囲気が気に入ったのである。ところでシェリーは回数は多くないがコンサートは初めてではないという。もっとも、地元の小さな会場に来てくれたあまり知らない歌手のコンサートをちらっと聞いただけなので実質こういう大掛かりなものは初めてでその後も時々羽目を外して、

「望ぃ~!!」


と叫ぶシェリーの姿を目撃していた。親友の知らない一面を見たような気がする。3曲目が終わった後に一旦小休止があって、MCが始まった。望は最初に、


「えっとテレビは慣れてるんですけど、MCの方は実はそっちよりも緊張してしまって、話すネタも考えてこないといけないし、大変なんですけど…」


と断ったので会場には笑いが起る。ただ望はその後声のトーンを真面目なものにして、


「でも今回はこの特別な場所で歌わせてもらえるという事で伝えたい事は一杯あります」


と述べた。彼女は続ける。


「今日までに色んな出会いがありました。全国を周るツアーは初めてで行った先々で沢山の人に合って、今まで見た事もないものも見てきました。最近『世界』ってよく考える言葉なんですけど、本当に世界は広くって、まだまだ知らない事も一杯あるんだなって思ってて。でも会場では私の歌を聞いてくれている人が沢山いて、なんかそれが不思議だなってちょっと思ったり」



そこで誰かが「聴いてるぞ!!」と叫んだ。それがとても響いたのでまた会場には笑いが起る。望も思わず笑ってしまい、


「ふふ…ありがとうございます!」


とそれに応えた。更にMCは続く。


「F県の事はずっとニュースを見てました。当時中学生だった私はもうプロを目指していたんですけど、その時から『歌の力』とか『歌で出来る事』とかを考え始めて、同時に『自分が今出来る事』がないかってずっと試行錯誤してました。でも当時は殆どなくて、それで今は無理でもいつか何かが出来るようにって練習を一生懸命したんです。ただ上手くなるだけじゃなくって、聴いている人が元気になるような…」


「そうか」


その時リリアン気付いた。望を歌を聞いていると元気になれるのはそういう理由があったのかも知れない。


「次歌う曲はアニメの主題歌だったんですけど、とても前向きな曲で私はアニソンとか結構好きなんですけど、共通するのは「元気になれる」って事だったんです。私の歌もそんな曲になって欲しいと思っています。


では聴いてください…『徒然ファンタジー』!!」


彼女が歌の紹介をすると会場は一気に盛り上がった。この曲はこれまで望を知らなかった人も一気に惹きつけた曲である。お馴染みの爽やかな流麗なピアノのイントロが会場に流れ、早くも手拍子が始まる。そして、


『この世界ってそんなに単純じゃない でも考える事は単純で君の事ばかり』


と望は唄いだした。既に曲を覚えていたジェシカもそれに合わせて歌い始める。キーが高いのを頑張って唄っていたようだが、流石にサビの前で苦しくなって聞こえなくなった。


「ふふふ…」


それを見ていたリリアンは微笑ましくなった。ところで望の方を見ると、何となくこちらと目が合ったような気がした。ウインクをしたようなようだが、彼女からはこちらが見えているのかちょっと気になった。望がもし今のジェシカの姿を見たら喜ぶだろうなと想像するのだが、後で教えてあげようと思った。コンサートは短い休憩を挟みつつ、望が衣装替えなどをしながら続いてゆく。様々な曲があるので本当にツアーのタイトル『ワンダーランド』にいるような心地になる。2回目のMCでこのネーミングについて教えてくれた。


「こういう事云うとちょっと心配されるんですが私自身結構不思議な事は経験していて、『徒然ファンタジー』の繋がりで『ワンダーランド』がいいんじゃないかって思いまして…。もし私が『ワンダーランド』に迷いこんだら、やっぱりそこでも歌を唄っているような気がします!」


望のユーモアに思わずみんな笑ってしまった。その一方で、リリアンはこうも思うのであった。


<本当にそういう事もあり得そうだし、異世界の人の前でも実際に唄ってるしなぁ…>


その時、朝河氏の事を思い出した。関係者席に居るらしいが、彼はどういう気持ちで望の歌を聴いているのだろうか。そして年代的に、こういう曲を聞いたりするのだろうか、いや…そもそも異世界での音楽はこちらとどう違うのだろうか?など色んな事を考えそうになったが、望が次の曲を歌い始めたのでそっちに集中する。



十数曲をこなした後も望はまだまだ元気一杯だった。予定の曲はそろそろ唄い終るはずでそれを意識してか、


「う~ん、まだまだ歌いたいよ~!!」


と望が叫んだ。観客も、


「「唄ってぇ~!!」」


と叫ぶ。15曲目になった時「では最後に、聴いてください。『メモリー』」という言葉があった。


「これで最後なの?」


多少汗をかいて疲れが見えなくもないジェシカが残念そうにいう。リリアンは、


「大丈夫、『アンコール』ってのがあるのよ」


「え、そんな曲あったっけ?」


「ううん、そうじゃなくってまあ見てれば分るわよ」


バラードの『メモリー』をしっとりと唄い上げる望。唄い終ると惜しみない拍手が送られ、望は一礼をして横の方に行って見えなくなった。そこで、誰からともなく「アンコール」という声が送られ始め、次第にその声が重なって大きくなっていく。2分程経った辺りで衣装を変えた望が再び登場する。


「アンコールはだいたい『もっと唄って』っていう意味なの。それで呼ばれた人がまた登場する。こういうのがお約束なの」


「へぇ~そうだったんだ!知らなかった!!」


ジェシカは感心していた。さり気ないけれど、横の方でシェリーも「アンコール」と言っていた声が聞こえたような気がする。望は照れながら「ありがとうございます!」と言って、更にテンションを上げて歌い始めた。唄ったのはファーストアルバムの曲で、演奏もロック全開という感じがした。そうして数曲歌い上げ、大盛況のうちに望のコンサートが終わった。


「アンコール!!アンコール!!」


ジェシカは知らないので言っているが、気持ちはみんな同じだったようで『ノリの良い人』と見られただけだろう。一応、リリアンが「アンコールは一回までなのよ」と教えると「えーそうなの…」とまた残念そうにしていた。
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