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徒然ファンタジー68

冷めやらぬ熱気の中、リリアン達は体育館から外に出て待ち合わせの場所に移動する。席が入口側だった為先に外に出ていた大城氏が広場で待っていた。外はすっかり暗くなっていたが、周辺はライトでぼんやりと顔を見分けられるくらいの明るさはあった。


「やぁ~凄かったですねぇ!興奮してしまいました!」


大城氏は先程別れた時よりもテンションが上がっているようで、それはリリアン達も同じであった。


「凄かったでしょ、望!」


ジェシカが得意げに言う。


「はい!表現力が素晴らしいですね。なんかチラッと見たら立華さんも叫んでましたね」


「あ、やっぱり聞こえてた?知り合いだとどうも応援してしまいたくなっちゃって」


「いいんじゃないですか。むしろあの場ではそうするのが普通なのかも」


「私はぴょんぴょん飛び跳ねたので、足が疲れちゃって…」


表情にも少し疲れが見えるリリアンに大城氏は同意する。


「私もです。ジェシカ君と立華さんは体力ありますね」


「ジェシカには敵わないわ」


シェリーは謙遜していたが彼女はほとんど汗を掻いていないので、相当体力があると思われる。


「そういえば」


大城氏は思い出したように言った。


「朝河さん、と、大宮望さんとはこれから合流する予定なんですか?」


これにシェリーが答える。


「朝河さんの方は多分もうそろそろくる筈ね。少し望と話してから来るかも知れない。望は明日がオフらしいからN市に来ることになってるわ」


「え、そうだったんですか!N市が騒然としてしまいますね…」


「まあいざとなったら猫に変身できるから」


リリアンが当たり前のように言うと大城氏は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐ「はっ」として神妙な顔つきになる。


「そうか…」


彼は何かを考えているようだが、その時体育館の入口の方からこちらに向かって「あー、いたいた。おーい!」と呼びかける男性の声がした。そちらに目を凝らして見ると、リリアン達は既に見知った顔だった。


「どうも、お待たせしました!」


近づいてきた男性は朝河氏である。彼は続けていった。


「先程、コンサートが終わって望さんに挨拶して来ました。『明日はよろしくお願いします』だそうです。まあ僕もなんですけどね…」


「分りました。私達にお任せください」


「N市の案内もこちらの人にもお手伝い願う事にしました」


リリアンの後をシェリーが引き継ぐ。「こちらの人」と紹介されたのは大城氏だった。


「おや、こちらは?」


流石に朝河氏も大城氏の事は知らないようだ。シェリーが事情を説明して朝河氏に伝えると、


「そういう事情でしたか、「大城博」さんですね。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。お伺いしたい事も一杯あるのですが、とりあえずこの後は皆で立華さんの所に移動するのがいいんじゃないかと」


大城氏は提案する。リリアンは近くの何処か話せる場所とも考えたのだが、その後の事を考えると一旦シェリーの所に行くのが良いと思われた。


「そうですね。私は賛成です」


シェリーも同じ意見だったようで、


「そうね、家はそんなに広くもないけど狭くもないし。問題は朝河さんが泊まるところなのよね…」


「ああ、それなら私の家でも良いですよ。初対面ですが話もしてみたいですし」


大城氏が名乗り出た。確かに同性なのでそれが一番都合がいいかも知れない。


「どこか宿泊施設は無理なの?」


リリアンは素朴な疑問を口にした。確かに普通の場合ならそれでいい。


「多分ね、泊まる場合に身元確認取られるから…ちょっと難しいかも」


「あ…そっか」


彼女は自分がその事情を失念していた事に気付いた。朝河氏は申し訳なさそうな表情で、


「すみません…。こういうのがネックでこちらの世界への移動は短時間なんですよね…」


「なるほど、そういう事があるんですね」


大城氏は朝河氏の話に納得したようだった。


「出来る限り協力させてもらいます。と言っても、仕事があるので案内できない時間もありますが」


「いえいえ、ご協力感謝致します。一応ですね、望さんがこちらの世界のタブレットを貸して下さって、コンサートが始まる前までに即席でメールアカウントを一つ作成しまして、この世界に居る間は最低限それで皆さんとメールのやり取りは出来るようになりました」


「なるほど、考えたわね、望!」


シェリーは感心していた。こうすれば特別な能力ではなしにここに居る全員とメールのやり取りは出来る。早速アドレスを交換しているとジェシカが羨ましそうな声で、


「あ…俺もあれ欲しいなぁ…」


「確かにそうよね…スマホじゃなくてもあれで良いのかも…」


リリアンはタブレットの購入を検討し始める。


「じゃあ、取り敢えず私の店に移動しましょう!」


シェリーの一声で移動し始める一同。駐車場までの道すがら、朝河氏が彼が持ってきた方のタブレットで『怪獣』のニュースの動画を大城氏に見せていたようだが、彼もやはり「うわ…凄い」と驚いていたようである。人数の関係で朝河氏はそのまま大城氏の車に乗り込む事になった。敷地を出たのが9時20分で、近辺が多少混雑していた為店に着いたのは10時を過ぎていた。車から降りると外はもう暗闇である。


「あぁ…やっと着いた…」


体力のあるジェシカだったが、慣れない事をした為か、或いはもともと猫だからなのか既に眠そうである。


「ジェシカは今日は休んでもいいんじゃないかな?」


リリアンが気遣って言った。


「そうね。私達も明日からの事ちょっと話して今日は休むことにしましょう」


シェリーの言葉に一同は同意する。ジェシカはすぐ店の二階に行って休んだ。残りのメンバーは店の奥の部屋で椅子に座りコーヒーを飲みながら話し始める。


「先ず当面の事で、明日はどうするかよね。私はとりあえず明後日月曜日も有休だから明日はこっちに居られるよ」


とリリアンが切り出す。続いて大城氏が言った。


「私は明日は大丈夫です。明後日以降は仕事が終わってからという感じになりますけど、家の方に頂いても構いません」


初対面の人に対しての饗宴としてはかなり大胆な申し出である。車内で朝河氏と話していたからなのか、何か打ち解けた様子もある。


朝河氏は、


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただこうと思います」


と礼を言った。するとシェリーが


「ところで、こちらで過ごすのはいいのですが…」


という風に前置きをして、


「肝心なのは朝河さんがこちらで何をしたいという事ですよね」


と核心に迫る事を朝河氏に問うた。一瞬場に沈黙が訪れる。みな朝河氏の言葉を待っていたのである。彼は先程までの親しみ易さから一変して少し重々しい口調で語りはじめる。


「もし僕が、「異世界から来た」という事を公にするという希望を言ったら…」


すかさずシェリーが答えた。


「私はそこまでの協力は出来ない…私が協力するのは『置物』と『秘術』の関係についての調査よ」


きっぱりと言う様子であった。ただ朝河氏は意外にも落胆はしていないようだった。


「ええ。勿論、これは途方もないという事も分ってます。と言うかこの一年ほど一生懸命やって来た結果として今があるわけですから、ある意味でこれ以上のアクションというのは難しいと思っています。それに…」


「それに?」


リリアンが接ぎ穂を与えた。


「僕はある意味で、リリアンさんとジェシカ君の日常に…触れ過ぎました」


「え…?私とジェシカの?」


他の人にとってもそれは謎の表現だった。朝河氏は何か満足げな穏やかな表情で説明する。


「リリアンさんにとってもジェシカさんにとっても…立華さんや多分大城さんにとってもだと思いますが、僕やあちらの世界の存在は大きな謎だったと思います。そういう事を抱えつつもそのまま続いてゆく『日常』をより良く、答えのない答えに必死に答えようとしてきた一年近い時間があった筈です」


リリアンはこの言葉で朝河氏が自分たちの事を本当に良く見てきたのだと実感する。朝河氏は「そして…」と言って、実感の籠る声で次の言葉を発した。


「僕はそれを見てきたように知っています」


ある意味、自分達の私生活を見られていたという言葉なのだが、リリアンもシェリーも不思議と嫌な気はしなかった。そこには限りない尊重があるように感じられるのだ。


「途中で思いました。僕が見たいもの知りたいものは、大いなる何かではなく、本当に素敵な物語なのではないかと」


何処かロマンチックなその表現は同時に等身大の飾らない言葉であるようにも聞こえる。


「ふふ…要するに」


シェリーが微笑みながら言った。


「今この瞬間が楽しいって事よね」


朝河氏もにこやかな表情で言う。


「ええ。望さんの歌声も素敵でしたしね。それだけだってこちらの世界に来た甲斐がありますよ!逆に…」


「逆に?」


今度は大城氏がその先を知りたそうに訊いた。


「この世界…というか僕の地元のようなこの町を一旅行者として純粋に見て回りたいなって思いました」


「え、私達の住んでいる所は?」


「あ、そっちも行ってみたいですね。出来れば本を沢山読んでみたいなぁと」


「本ですか?」


「実を言うとですね」


朝河氏は照れくさそうに言った。


「先ほどリリアンさんが持ってきてくれた歴史の本を読んでみると面白いなって思ってしまって…」


それに対して大城氏は大きく頷いて言った。


「ああ分ります!!私もそちらの歴史の本は本当に面白いと思いました」


「あ、そういえば貴方に渡したんだったわよね」


シェリーは納得したように言った。


「なんかちょっと拍子抜けのところもあるけど、分るような気がします」


リリアンの一言に、


「そこは『分かる』って言うべきでしょうが!」


シェリーのお馴染みのツッコミ。朝河氏も大城氏も大いに笑った。こういう『日常』こそ、朝河氏の心を動かしたものに違いなかった。
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