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徒然ファンタジー69

四人で一時間程度話して朝河氏がこちらの世界に居る間にする事を大まかに決めた。翌日の日曜日は皆で再び集まってN市の観光。その次の日からシェリーと大城氏の持つ『猫の置物』と『秘術』との関係を調べてみる。そしてもし時間があればリリアンの住んでいる街に移動したついでに何か手土産になるような書籍を探す。順調にいけば一週間程の滞在になるようである。


そして計画が決まると滞在中必要なもの、特に金銭的な面での問題が生じる。朝河氏は財布を所持していたがお金もまた異世界もので迂闊に同じ『円』という単位だから場合によっては『通貨偽造』と誤解されてしまう。少しヒヤヒヤしたのもあったが、シェリーが『置物』の事を調べてくれる報酬としてそれほど多くはないが幾らかお金を渡す事にして、後はリリアンもジェシカが変身できる『道具』のお礼としていくらかカンパする事に決めた。大城氏も念のためお金を下ろしていたそうだが、「宿まで提供してもらう上にお金も頂けない」と朝河氏から申し出があった。申し訳なさそうにしていた朝河氏は、


「頂いたものが現金なので、こんなもので代わりになるかは分かりませんが…」


と大きめのリュックから小さなケースを取り出す。ケースに入っていたものは宝石だった。


「違う世界と言っても宝石の価値はある程度安定していると思いまして。それはそんなに高くないものですが」


「「え…そんな、こちらこそ受け取れませんよ」」


リリアンと大城氏はほぼ同時に言った。


「いえ、本来なら僕が用意しなければならないものを用立てて頂いたわけですし、まあ異世界の記念品だと思ってもらってやって下さい」


リリアンが見たところ、確かにそれはそれほど高くはなくこちらの世界だと数万円で売っているものだった。三人はそれぞれ一つずつもらう事にしたが、彼等としては換金するよりも何かカタチに残るものとして異世界の物を所有できるのが悪くないと思ったのである。


「あ、それなら…」


シェリーが何かを思いだしたかのように言った。そして机の引き出しから何か小さいものを取り出した。


「大城さんにも前にあげたんだけど、記念品としてこの緑の石を贈呈するわ。それ『幸運をもたらすかも知れない石』よ。お土産屋さんとかで普通に売っているようないわゆるパワーストーンの安いものだけど、朝河さんにとっては異世界を旅行した記念になるはずよ」


「おお、これはどうも!大切にしますね」


その辺りで時間も遅くなってきたのでこの日は解散する事にして、朝河氏は再び大城氏の車で宿となる大城氏の家に向かった。


「あぁ…今日は本当に色々あったわね。うん、でも何とかなりそうな感じね」


「ええ。大城さんが協力してくれて助かったわ」


「ほんとね」


リリアンは翌日からの事を楽しみにしていた。ただやはり疲れていたのもあって、シェリーと2階に行ってその日はすぐぐっすり眠ってしまった。次の日の朝、リリアンは誰かの声で目覚めた。


「ご主人さま、朝だよ!」


それは一足先に起床していたジェシカである。嬉しそうにニコニコしたジェシカの顔を見てどうしたのかなと思ったがすぐにその理由が分った。


「望が来てるよ!!」


そうジェシカが言った通り、シェリーの家には望が既に来ていたのである。


「おはようございます、リリアンさん。起こしちゃってすみません」


彼女もにこやかな表情である。少しばかり悪戯っぽい顔にも見える。リリアンは驚いていたのと寝起きだったので、


「どうしたの?何か起こったの!?」


とすっとんきょう気味な声をあげる。ジェシカと望は顔を見合わせて笑った。それからジェシカが説明してくれた。


「俺、今日早く起きたんだ。シェリーももう起きてるんだけど、望が待ち切れなくなって朝一で来たんだって」


「え…?どうやって?」


「電車です。F市から早い電車に乗ったのでN市に着いたのが6時半頃で、京子さんに迎えに来てもらいました」


望の説明で了解したが確認してみると今の時刻は8時ちょっと過ぎで、シェリーは朝食を作っているのかキッチンから音がしている。リリアンは起き上がってキッチンの方に向かった。シェリーの料理は簡単なものだったが、人数分あるのか多めで、そろそろ出来上がりそうだった。


「京子よく起きれたわね!望もそうだけど昨日あんなに動いたのに疲れないわけ?」


呼びかけに気付いたシェリーはリリアンの方をちらっと見て不敵に「ふふふ」と笑い、


「時間が限られてると思うと目が冴えるのよね、私」


と力説した。分るような気がするが、そう言った瞬間一つ大きな欠伸をしたので台無しだった。


「なんかごめんね…ありがとう」


リリアンはいつもはあまり気を遣わない親友に感謝したい気持ちになった。


「良いのよ。私が好きでやってることでもあるし」


リリアンの記憶だとシェリーはあまり大勢で居るのは好まない筈だったが、このメンバーはみな気を許せる人なのだろう。それだけではなくて、自分から進んで何かをしてあげたいとも思っているのだろう。


「じゃあ、私運ぶわ」


と言ってリリアンは出来あがった料理を座卓に運んだ。彼女のアパートと同じように、今はコタツとしての仕事を休んでいる座卓は四人で座るには少し小さいかもしれないが4辺にそれぞれが着席する事でしっかりと役割を果たしているようでもあった。


「うわ~美味しそうですね!」


望は初めて見るらしいN市の郷土料理の汁物に興味津々だった。これは以前リリアンが泊まった時の夕食に出されたものの一つであり、人参や大根なのど野菜やこんにゃくなどを小さく四角に切って汁に入れたもので、素朴な味わいがある。それを静かに啜った望は、


「うん、美味しいです!京子さんは料理も上手いんですね!」


するとシェリーは自信たっぷりに、


「そうよ。いつでもお嫁に行っても、お婿さんを貰っても心配なし!」


とどちらかというとジェシカの方を意識するような素振りで言った。望はその言葉で「はっ」として、


「そ…そうですね…。私はそんなに料理は得意ではないんですけど、後顧の憂いは無い方がいいですしね」


と何故かジェシカの方を目で窺うように言った。ジェシカは意識されているらしいことに気付いたのか、


「ご主人さまも料理は得意だもんね!」


とリリアンに振った。当たり前のように自炊しているリリアンは否定しなかったが残りの二人からの熱視線に耐え切れず、


「まあジェシカは何でも食べるから大丈夫よ。オムライスが一番好きみたいだけどね」


と一緒に生活しているからこその情報を出した。


「へぇ~やっぱり…」


「メモメモ…」


シェリーは何故か嬉しそうで、望は何故かスマホでメモを取っていた。


「あなた達、なんか姉妹みたいよ…」


リリアンの感想ももっともであった。望は微妙にシェリーに心酔している部分があるらしいし、ジェシカもそうだが素直な人には心を開くらしい親友も、望を可愛がりはじめている。


「ところで」


しかしながらリリアンにとっては昨日の事を思い出さずにはいられないのである。


「昨日の望さん、なんか凄かったよ。こういう言い方もちょっとと思うんだけど、何かずっと遠くで輝いている人みたいに感じちゃって…」


そう言われて望は照れていた。


「そんな風に言って頂いて光栄です。ジェシカ君と京子さんからも『良かったよ』って褒められて、嬉しいのと同時に気恥ずかしい部分も…」


「本当の事を言ったまでよ」


「本当だよ!」


シェリーとジェシカが声を揃えて言う。リリアンも少し考えて、


「自信を持って良いと思うよ。っていうか、唄ってる時は凄く自信に満ち溢れてるよね」


と告げた。一緒に居たり、メールを交換しながら思った事は望は謙虚だけれど仕事にはプロ意識があるし、努力に裏打ちされた自信は間違いなくあるという事だった。望もそれについては否定しなかった。


「はい。歌って、本当に自分が出てしまうんです。偽れないからこそ、上手く歌えるようになってきたら自信が出てきたのは確かです。自信があるから堂々と歌えるというのもありますけど」


若いながらもしっかりした言葉に感心する一方でリリアンはこうも思うのであった。


「でも、ジェシカが言うようにいつもは何か『ふわっ』とした感じなのよね。それが魅力でもあるけど」


「えへへへ…」


「う~ん、それは人生経験とかじゃないかしらね」


シェリーは自論を述べた。分りにくかったのでリリアンが「どういう事?」と訊くと、


「私達も社会に揉まれて年をとったって事よ。哀しい事とも言えるし、良い事ともいえるけど」


「あぁ、そういう事かもね。こう何か年をとると、どうでも良くなることがある一方で悲哀がよく分かったり」


汁を啜りながらリリアンが言った。その仕草がまさにそれっぽい。言ってしまえばそれは生活臭が出ているという意味でもある。シェリーもしみじみ同意しつつ目玉焼きを食べながら望に訊いた。


「望の私生活ってどんな感じ?」


するとかなり言いにくそうに望が言う。


「一応、私の仕事もある部分では夢を売る商売なんだと思うんですが、実は結構地味なんです。よそ行きは地味さを出さないようにしているというのか…努めてお洒落にしようというのか」


彼女は割り箸で丁寧にご飯を口に運んでよく噛んでいる。


「そっちも大変なのねぇ」


生活臭がしないのももしかしたらそれを感じさせないようにしているのかも知れなかった。年頃の女性三人の話を聞いていたジェシカはいち早く食事を食べ終わり箸を置いて「ごちそうさま」と言ったあと、


「でも、俺みんな好きだよ!ご主人さまも、シェリーも、望も!」


と言った。人間だったら『天然ジゴロ』とも呼ばれそうだが、ジェシカにとっては何処かしら家族のような響きがある。


「私も好き…です。皆さんの事…」


望はポツッと呟いた。こちらも何かしらの天然のように思えるのだが、この仕草に年長者は同性ながらキュンとしてしまい、


「「くわぁわいいぃ~!!!」」


と同時にテンション高めに叫んでいた。
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