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コンサート終わり

一転してコンサートの間は夢中になり過ぎて、前の列で『大宮望』を思う存分見たという事とやはり生は迫力があるという印象で占められてしまった。コンサートの間少しだけ面白かったのは、中央のスペースに居た立華さんが正面に向かって右側の方に立っていたという事である。私もなるべく正面に近くにと左隅に寄っていたので区画は違うけれど比較的近くに立つ事ができた。コンサートが始まる前に声を掛けてみると立華さんが気付いて手を振ってくれた。身振りでリリアンさんとジェシカ君が真ん中の方に居ると教えてくれた。


コンサート中、時々立華さんが大きな声で「望!」と叫んでいるのが聞こえて、意外だなと思った。私は久しぶりのコンサートだったのと若い女性に大声を出すのも恥ずかしいので、観衆に混じって「わー」とか声を出す程度だった。それでも次第に会場のボルテージが上がってきたので、微妙に跳ねたり手を上げたりして存分に楽しんでしまった。


そして立ちっぱなしなので体力的にやはり後半は足が疲れてしまい少ししゃがもうかとも思ったのだが、隣の立華さんがピンピンしているので、何となく負けたくないような意地をみせたいような気分になり、結局最後まで粘った。鳴り止まない拍手の中、退場してゆくアーティスト「大宮望」を見て、


<本当にこれからこの人に会えるのか?>


と訝しく思った。実感が湧かない。観客は出口に近い方から順々に移動して会場の外に出る。若い人が皆口々に「良かったぁ!」とか「最高だった!」と確認し合っている横を通り過ぎて、待ち合わせの広場に急ぐ。あたり前だが私の方が先に来ていた。数分後に立華さんたちの姿が見える。


「やぁ~凄かったですねぇ!興奮してしまいました!」


コンサートの感想を誰かと共有したいと思っていたので興奮気味に語りかけてしまった。


「凄かったでしょ、望!」


ジェシカ君が応じてくれた。本当に嬉しそうである。立華さんもリリアンさんも同じようにテンションが上がっていて、コンサート中、立華さんが叫んでいた事をリリアンさん達に伝えると、


「あ、やっぱり聞こえてた?知り合いだとどうも応援してしまいたくなっちゃって」


と立華さんがペロッと舌を出していた。


「いいんじゃないですか。むしろあの場ではそうするのが普通なのかも」


「私はぴょんぴょん飛び跳ねたので、足が疲れちゃって…」


リリアンさんもはしゃいだのかも知れない。疲れているというのは同じだったので「うんうん」と同意した。その辺りで思い出したのだが、例の朝河氏や大宮望さんはどうしているのだろうか?


「朝河さん、と、大宮望さんとはこれから合流する予定なんですか?」


訊ねてみると立華さんからこんな答えが返ってきた。


「朝河さんの方は多分もうそろそろくる筈ね。少し望と話してから来るかも知れない。望は明日がオフらしいからN市に来ることになってるわ」


どうやら望さんの方は明日合流という事だ。コンサートの後なので当然と言えば当然かも知れない。ただもしN市に本当に来るとしたらと考えると、


「え、そうだったんですか!N市が騒然としてしまいますね…」


と思ってしまう。するとリリアンさんが当たり前のように、


「まあいざとなったら猫に変身できるから」


と言った。一瞬、何の事を言っているのか分からなくなってしまったが、そういえば望さんは朝河さんの道具によって猫に変身できるということだった。


「そうか…」


話としては分るには分るのだけれど、本当にそんな事が現実に起こり得るとなるとある意味で異世界の事と同等に不思議である。何か言おうとしたのだけれど思い浮かばないでいると体育館の方から誰かの声がするのが聞こえた。「あー、いたいた。おーい!」と呼びかけているその人を見てリリアンさんは「あ、あれが朝河さん」と言ったが、彼が異世界の住人であるという朝河さんらしい。


「どうも、お待たせしました!」


こちらに来るなり朝河さんは言った。朝河さんはコンサートに来た格好ではないけれど、大きなリュックといい何処かを散策するようなスタイルである以外は特に変わったところは見当たらない。気の良さそうな「おじさん」という感じである。


「先程、コンサートが終わって望さんに挨拶して来ました。『明日はよろしくお願いします』だそうです。まあ僕もなんですけどね…」


「分りました。私達にお任せください」


「N市の案内もこちらの人にもお手伝い願う事にしました」


リリアンさんに引き継いで立華さんが私の事を彼に振ってくれる。


「おや、こちらは?」


朝河さんは私に注目している。立華さんが進んで紹介してくれた。朝河さんは納得した様子で、


「そういう事情でしたか、「大城博」さんですね。よろしくお願いします」


と手を差し出してくれた。


「こちらこそよろしくお願いします」


こちらも手を出して握手しながら、


「お伺いしたい事も一杯あるのですが、とりあえずこの後は皆で立華さんの所に移動するのがいいんじゃないかと」


とさっそく提案する。外が暗かったのもあるが、何処か落ち着いて話が出来る場所として『店』という発想が浮かんだのである。


「そうですね。私は賛成です」


リリアンさんは賛同してくれる。立華さんも同意らしいが、


「問題は朝河さんが泊まるところなのよね…」


と言われて確かにそうだなと思った。朝河さんが異世界から来たという事が本当だとすると、色々不都合な事は予想されるという事で私も手伝ってもらいたいと立華さんに請われたわけで、手伝うと言った以上、協力できるかぎりしておきたかった。ここで私は、


「ああ、それなら私の家でも良いですよ。初対面ですが話もしてみたいですし」


と告げた。それは本心だったし、朝河さんがどういう人なのか個人的に調べられると思ったのもある。朝河さんは宿泊などで困るという理由によってこちらへの滞在が短くなってしまうのだと説明した。理屈としてはそうなる。


「なるほど、そういう事があるんですね」


納得したので、


「出来る限り協力させてもらいます。と言っても、仕事があるので案内できない時間もありますが」


と少し積極的になったかも知れない。


「いえいえ、ご協力感謝致します。一応ですね、望さんがこちらの世界のタブレットを貸して下さって、コンサートが始まる前までに即席でメールアカウントを一つ作成しまして、この世界に居る間は最低限それで皆さんとメールのやり取りは出来るようになりました」



朝河さんが言った通り、取り出したタブレットはどこからどう見てもこちらの世界の物だ。皆でアドレスを交換して立華さんが、


「じゃあ、取り敢えず私の店に移動しましょう!」


と言うと『店』に向けて移動が始まった。駐車場に行く間、朝河さんがリュックから今度は別のタブレットを取り出して私に何かを見せてくれようとしていた。それを見て呆然としてしまったのだが、朝河さんが見せてくれたものはあるニュースの動画だった。F県の夕方のローカルニュースのような映像なのだが、何か違和感を感じる。知らないキャスターだが日付はつい最近で、こんな放送は無かったはずである。しかも動画は「N市」のニュースなのだが、テロップが異様である。


「『怪獣』…」


先ほどの歴史の教科書にもあった怪獣の話が実際に動画として見れるとは思っていなかった。概要としては異世界の「N市」に現れた怪獣『ガララ』というらしいが、それを地元の人々の協力によって「N市」から県内の牧場に輸送する運びとなったという事で、そこには『超人的ヒーロー』なる存在も出てきていた。ウルトラマンみたいなもののようにしか見えないが、決して特撮のワンシーンではない。教科書にも『超人的ヒーロー』という記述はあったので大体の事は分るけれど、分るのとは別の何かで頭が混乱してくるのも確かである。



駐車場に停めてあった車に朝河さんを乗せる。京子さん達が三人だったので私が乗せてゆくと名乗り出たのである。車内で朝河さんと話が出来るという考えも当然あった。実際N市までのドライブ中、私がこちらの世界の事を紹介したり、異世界の事を伺ったりしているうちにあっという間に『店』についてしまったという印象である。


「実際、大城さんからすると突拍子もない事に思えるでしょうね」


朝河さんは車に乗っていた時もずっと穏やかな表情だった。


「ええ正直これだけ見たり聞いたりしているのに、信じ切れている自信はありません」


「ふふ…そういうものですよ。僕も初めて書物でこの世界の事を知ったときは、あなたと同じような気持ちでした」


「朝河さんから見て、この世界ってどう思います?」


「難しい質問だ…同じ質問をあなたにも訊いてみたいくらいです。でも…」


「でも…?」


「『第二の故郷』っていうのも間違いじゃないと思いますよ」


「なるほど」


「結局ね、人が居て通じ合えればそこから何かが始まるんだなって、そう実感しましたよ」


「とてもいい言葉ですね!」


車を降りた時、空の星は一段と輝いていて気のせいかも知れないがN市には少し前に終わったばかりの祭りのようなイベントの後の余韻が何となくただよっているようにも感じられた。
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