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徒然ファンタジー70

9時頃、大城、朝河両氏が車で店にやって来た。広さの関係で一階の店に集まる事にした。これで全員が揃ったわけである。望が大城氏と会うのが初めてだったのでシェリー達が紹介したが、流石に有名人で昨日コンサートでスポットライトを浴びていた「大宮望」を間近に見て大城氏はある意味で朝河氏に会った時よりも興奮していた。


「本当に、本当なんですね!!信じられません…こ、こんにちは、大城博です…」


本人を前にして緊張していると同時にどこか恐縮しているようでもあった。


「こうなるのが『普通』よね」


リリアンがフォローしたけれど、望もその様子がおかしかったのか笑い出してしまっている。


「ふふ…大城博さんですね!今日はN市の案内をよろしくお願いしますね」


愛嬌たっぷりのスマイルに大城氏は目に見えて浮ついている。


「は、はい!!」


一方朝河氏は既に望に会っているというのもあるけれど基本的に異世界の人であるしミーハーでもない男性なのだろう、まるで望の親戚のおじさんのように振る舞っていた。


「望さん、昨日はお疲れさま。今日は大城さんと立華さんに任せれば大丈夫だと思いますよ」


「あ、おじさま、昨日眠れました?」


「うん。大城さんの家にね、かわいい白い猫が居て随分懐いてくれましたよ」


「え、大城さんも猫を飼っていらっしゃるんですか?」


「あ、はい。雌でまだ一歳になってないと思うんですけど、人懐っこくて可愛いんですよ」


「もしよろしければ写真を見せて頂けると嬉しいです!!」


「いいですよ!えっと、これです」


大城氏はスマホを取り出して望に猫の写真を見せていた。リリアンとジェシカも一緒に覗き込む。白い毛の美しい見栄えのする可愛い猫だった。


「あっ…可愛い…」


意外にもジェシカが言った言葉である。リリアンは「え」っという表情でジェシカを見つめて言った。


「ジェシカにはこの仔どう見えるの?」


「え…?なんか望を小さくしたような感じ」


「うん…なんか分るような気がするわね。つまり美少女って事よ、大城さん」


シェリーが妙に自信ありげな言葉で言う。


「そうなんですかね?」


対して大城氏は今の説明でも不思議そうである。これを朝河氏が引き継いだ。


「猫になったり、猫が人間になったりする『秘術』はある程度身体的特徴が変身に反映されるようです。あちらの世界の古い書物に書いてあったのですが、一方の『特徴』と他方の『特徴』を対応付けてメタモルフォーゼをさせるという原理ですね」


「うん?」


この説明だとリリアンなどは少しちんぷんかんぷんのようだ。


「要するに」


とシェリーが解説する。


「背が高い人が体長が長い猫に、整っている顔の猫が美男美女という具合になるのよ」


「あ、そういう事ね」


納得したリリアンだが朝河氏は少し苦笑して、


「まあ、ある程度恣意的な部分もあるのですがね…」


と付け加えた。それを聞いて、大城氏は思い出したように言った。


「へぇ、それだと大宮さんはどんな感じに変身するんですかね?」


「あ、そうだ。大城さんはまだ変身したところを見てないという事でしたよね」


望も「はっ」として答えた。実際、大城氏にとっては自分の目で確認する事も大事なことだったし、ジェシカの変身が見れていなかったので望の変身は一層重要だった。


「じゃあ、ちょっと何となく恥ずかしいですが、変身してみますね!」


望は元気よく宣言した。そして彼女が自分の右手の手首辺りを触ろうとした。その時、愕然とした表情を浮かべる望。


「あぁあああああああああああああああ!!!!!」


望は絶叫に近い叫び声をあげた。リリアン達はびっくりして何があったのか彼女に訊いた。すると彼女は泣きそうな声で、


「腕輪…なくしちゃいました…」


「え…!!何処に!?」


「何処でしょうか…あ…もしかすると体育館の控え室に忘れてきたのかも知れません。コンサートの時に衣装の関係で別な腕輪をしなければならなかったので…あぁ、多分そうだ…」


どうやら忘れてきた思い当たる場所があるらしい。幸い、望が即座にマネージャーに電話するとその人が見つけて保管して居るらしい事が分った。


「ああ…良かった…」


「もし紛失したとしても今度別なのを送れますけどね」


朝河氏は落ち着いていた。


「いえ、そんな。それに私あの腕輪が気に入ってるし、愛着があるんです…」


対して望は済まなそうである。忘れてきた事もあるが、大城氏に猫の姿を見せられないのが残念だったのである。


「いえ、また今度の機会でも…。なかなか会えないかも知れませんけど」


大城氏は言った。彼も残念そうで、リリアン達の発言を裏付ける為にも直接的な証拠が見れていないのでまあまあ重要な事なのだが、彼はこう続ける。


「でも状況証拠で、皆さんの話が本当だってことはもう真実だと思います。だってこうして望さんがいるわけですから」


確かにその事だけでも既になかなかありえない事でありリリアン達の話が本当だった以上、彼女たちの信憑性も今は彼にとって高まっている筈である。


「う~ん…」


難しそうな顔をしているのはシェリーである。そして朝河氏も何かに気付いたのか神妙な顔をしている。


「どうしたんですか?」


望が彼等に訊いた。シェリーは何かを確認するように言った。


「ジェシカの変身についても望の変身についても、これだけ関係者が揃っているのに何故か大城さんだけタイミングが悪いのよね…」


「言われてみれば…。でも偶然…?」


リリアンはこれくらいの事なら普通にあり得ると思った。異世界や猫に変身できる事に比べれば特に何でもないように思える。ただ、ここで朝河氏がシェリーに同意した。


「シェリーさんはそれが、『白の猫の置物』の効果だと言いたいのですね」


朝河氏の言葉にシェリーが深く頷く。


「朝河さんはどう思われます?実はここに『黒の猫の置物』があって、あれなんですけど」


と言って今日事前に店に持ってきてカウンターに置いてあった『黒の猫の置物』を指さす。一同はそちらに目を遣る。望はカウンターに近づいて「ああ、これが…」と興味深そうに見ている。朝河氏も同じようにじっくり見定めている。黙ったまま少し経って彼は口を開いた。


「これは…もしかすると『秘術』ではないかも知れません」


それは意外な言葉だった。シェリーの考えでは『秘術』で説明できると思っていた。


「え…どういう事ですか?どうしてそう思われるのですか?」


朝河氏に訊ねるシェリー。彼女にとっては重要な事だった。朝河氏は一つずつ丁寧に説明する。


「先ずは、こういう物を僕も知らないという事です。お話を聞いてから古い書物を当たったのですが残念ながらそれらしい記述はありませんでした。そしてもう一つは例えば物理的にどうこうするのではなく、人の運命に影響を与えるような『秘術』は基本的に不能とされているのです」


「つまり…?」


「例えばですが、もしそのような自分の望むような出来事が起こせるような『秘術』があるとすれば、僕の事をこの世界に知れ渡らせるような『偶然』を連続して引き起こせばいいのです。でも僕はそういうものは『ない』と判断していました。だからこそ、自分の力で何とかするしかなかったし、ランダムなものについてはリスクを冒しました。」


「た…確かにそうね…」


シェリーにはそれで通じたらしい。他のメンバーも完全にではないが大体了解していた。


「じゃあ、この置物は何なの?」


ジェシカは素朴な考えでこう質問する。漠然としているように思えるが、確かにそれは一同が知りたがっている事である。


「これは可能性ですし、大城さんの所で『白い猫の置物』も見た時も同じことを思ったのですが、もしかすると『この世界の物』なのかも知れません」


今度は大城氏が確かめるように、


「という事は、この世界には最初からそういう物があり得たという事ですか?」


と訊ねる。それは核心を突いていた。朝河氏は、


「そうだと思います」


としっかり答えた。一同はそこからそれぞれしばらくの間考えに耽っていた。とシェリーがふと周りを見渡して、


「まあ、これについては結論を急いでもしょうがないわ。もしこの世界の物だとすればそれこそこの世界の事をじっくり調べることにすればいいのだし」


「そうですね。立華さんの言うとおりだと思います。それにもしその効果があるのならば、まだ何か起きるかも知れませんし」


これは朝河氏の言葉だった。空気を察してリリアンが、


「じゃあ、取り敢えずそろそろ出掛けることにしましょうか?」


と言った。


「そうですねN市の事も一杯知りたいですし!」


望は明るい表情で言った。というわけで彼等は前日お祭りのようなイベントがあったという城跡に行く事にした。ちなみに望が大城氏とシェリーのどちらの車に乗りたいかと聞かれた時、


「リリアンさん達の方で」


と言ったので大城氏は微妙にがっかりしていたようにも見えた。
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